■56kbpsモデムの行方
World PC Expo 97のレポートでもお伝えしたが、56kbpsモデムは外付け、内蔵に続いて、PCカードのラインナップが充実し始めてきた。ノートパソコンの売り上げが好調であることを考え合わせれば、56kbpsモデムの普及はノートユーザーから始まることになるのかもしれない。とはいえ、大半はWorld PC Expo 97での参考出品で、製品発表があったのは2社のみ。またもやチップの供給が悪いのだろうかと危惧してしまいそうだ。
まず、Supraブランドでモデムを販売するダイアモンド・マルチメディア・システムズは、K56flex方式を採用した『Supra PC Card』を9月11日に発表した。翌日には松下電器産業(開発:松下電子応用機器)が10BASE-Tのイーサネットカードと合体したマルチファンクションPCカード『CF-VML201』を発表。いずれもITU-T国際標準規格が勧告されたときのバージョンアップを予定している。価格もそれぞれ29,800円、38,800円とV.34/33.6kbpsクラスの製品と大差ないので、これからPCカードを購入するのであれば、狙い目だろう。もちろん、自分の契約するプロバイダがK56flex方式を採用していればの話だが……。
ところで、ITU-T国際標準規格の勧告についてだが、あまりうれしくないニュースも伝えられている。9月に開かれたITU-T SG16の会合で、56kbpsモデムの勧告草案が完成に至らなかったため、どうやら'98年1月の勧告は見送られることになりそうだ。この草案は以前にも紹介したとおり、『56kbpsモデム』ではなく、『V.pcm』という仮勧告名が与えられ、『PCMモデム』と呼ばれている。これは56kbpsモデムで信号の符号化をする際にPCM方式でサンプリングしているためだ。草案完成に至らなかった原因は、x2とK56flex両陣営の特許にあると言われており、一連の訴訟合戦なども絡み合い、かなり複雑な状況になっているそうだ。現在のところ、12月に米国EIA/TIAの北米規格完成、'98年1月のITU-T SG16の会合で草案完成、'98年9月に正式勧告というスケジュールが予定されている。
私見だが、こういった企業間の利益確保の争いで標準化が遅れてしまうと、国内では市場が冷えてしまうのではないかと危惧している。というのも、ここ数カ月の通信関連機器の売れ行きを見ていると、ISDNとPHSが好調で、56kbpsモデムは今ひとつ奮っていない。アナログ回線の利用料金の定額制が当たり前のアメリカでは既存のアナログ回線を有効活用する56kbpsモデムが大事だが、国内はNECのAtermシリーズやビー・ユー・ジー/NTT-TE東京のMN128シリーズの頑張りで、急速にISDN化が進んでいる。このまま行くと、パソコン本体を買えば、56kbpsモデムが内蔵されているが、「実際に使うのはFAXだけ」「インターネットはISDN」ということになり、アフターマーケットの56kbpsモデムは一気に冷え込んでしまうかもしれないわけだ。
さらに、話は脱線するが、日本のパソコン市場はアメリカの後を追う形で進歩してきた。その結果、NECはPC-9800シリーズからPC98-NXシリーズへ移行し、独自アーキテクチャのマシンはごく一部のものだけとなってしまった。ところが、通信関連に関してだけは、ここに来てアメリカと日本の通信インフラストラクチャの違いがはっきりしてきた。ひとつはISDN、もうひとつはPHSだ。世界標準に適合させることはコスト面などから考えても重要なことだが、通信というジャンルに関してはそのルールが当てはまらなくなりつつあるのかもしれない。今後は、日本の土壌にあった製品やサービスが求められることになるだろう。もちろん、我々消費者自身がそれをしっかり見極める目を持たなくてはならないのだが……。
【関連記事】
□ダイアモンド・マルチメディア、56kbps対応PCカード型モデム
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/970911/modem.htm
□松下、56kbpsモデムと10BASE-Tの複合PCカード
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/970912/pana.htm
□第20回:「World PC Expo 97」 Telecomレポート
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/970925/pcexpo97.htm
■RT80iはMN128-SOHOのライバルになるか
MN128-SOHOが高い人気を得ているISDNダイヤルアップルータだが、ヤマハからほぼ同価格帯の『RT80i』が発表された。
ヤマハのRTシリーズと言えば、低価格ISDNルータの先駆け(と言っても特別価格で198,000円だったが)となった製品で、'96年あたりまではRT100iがSOHO向けISDNルータの定番とまで言われていた。しかし、セットアップがコマンドラインに限られていることなどが、WindowsやMac OSのGUI環境に慣れたパソコンユーザーには不評だった。また、マニュアルなども専門用語が多く、今ひとつ難解だった。その後、よりコンパクトになったRT102iで多少の改善は図られたが、セットアップの難しさなどは相変わらずであった。
今回発表されたRT80iは従来のRT100/102iをベースに、DSUの内蔵、アナログポート2基装備、PIAFS対応(V.42bis未対応)などの拡張を図っている。セットアップ面についてはHTTPサーバを搭載することにより、Webブラウザ経由でできるようにしている。もちろん、従来製品同様、端末型ダイヤルアップ接続でも利用できるNATやIPマスカレードなどの機能も搭載されている。価格的にも66,800円とかなり手頃なため、MN128-SOHOの強力なライバルとなりそうな気配だ。
また、RT80iに期待されるのは動作の安定性だ。使いやすさから人気を得ているMN128-SOHOだが、残念ながら本体からの発熱があり、環境によっては熱暴走らしき症状を起こすという報告もある(設置方法にも問題があるのかもしれないが)。その点、RT80iは従来製品が安定性で高い評価を得ていたため、かなり期待が持てそうだ。ただ、World PC Expo 97でデモ機を触った限りではセットアップのしやすさで、MN128-SOHOに譲る部分があるのが気になるところだ。
【関連記事】
□ヤマハ、個人向けと企業向けのDSU内蔵ダイヤルアップルータ2製品
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/970918/yamaha.htm
□第20回:「World PC Expo 97」 Telecomレポート
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/970925/pcexpo97.htm
■その他のニュース
さて、その他の通信関連ニュースにも手短に触れておこう。
まず、松下電器がPHS内蔵PDAのピノキオのニューモデルを発売した。従来製品は通信速度が2,400bpsだったり、PDAの電源を切ると、PHSの待ち受けができなくなるなどの問題が指摘されていたが、ニューモデルでは改善されており、本格的に利用できる環境が整っている。ちなみに、こうしたPHS内蔵PDAは思ったほど種類がなく、現時点での最大のライバルは東芝のGENIOということになりそうだ。せっかく、これだけPHSが盛り上がっているのだから、他のメーカーもオプション販売などのケチなことを言わずに、PHS機能を上手に取り込んでもらいたいものだ。
次に、アップルだが、9月はMac OS 8が発売されたこともあり、久しぶりに各方面で話題となった。ただ、9月30日に発表した「GeoPort テレコムアダプタキット II」には少々驚かされた。Geo Portアダプタは元々、フランスのSagemという会社が開発したものだが、ようやくV.34/33.6kbpsに対応したというのがこのニュース。今の時期の発表なら、誰もが56kbps対応を期待してしまうのだが、そうはいかないのが今のアップルの厳しいところ。パソコンの技術革新が速いのは今更言うまでもないが、通信関連はそれ以上に進歩が速いので、アップルには乗り遅れないように頑張ってもらいたいものだ。
【関連記事】
□松下電器、PHS付きPDA「ピノキオ」にPIAFS対応の新モデル
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/970919/pana.htm
□アップル、新しいファインダを採用したMac OS 8
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/970901/macos8.htm
□アップル、33.6kbps対応の「GeoPort テレコムアダプタキット II」
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/970930/apple.htm
[Text by 法林岳之]