法林岳之のTelecom Watch
第7回:1997年8月編
「外付けばかりがモデムじゃない」ほか


外付けばかりがモデムじゃない

 ごく一般的なユーザーが購入するモデムと言うと、外付けモデムばかりが思い浮かべられるが、モデムには内蔵用をはじめ、いろいろな形状の製品がある。8月は外付けタイプのモデムの発表はなく、内蔵用やPCカードモデムなどの製品が相次いだ。

●マイクロ総合研究所「MR560XLi」ISAバス用内蔵モデム

 まず、マイクロ総合研究所はISAバス用内蔵モデム「MR560XLi」を発表した。「内蔵用モデムなんて需要がないのでは?」という声もあるだろうが、実はモデムメーカーにとって欠かせない『飯の種』でもある。それは言うまでもなく、本体メーカーへのOEM供給があるからだ。OEM供給はまとまった数が出荷できる上、店頭売り品と違ってサポート体制も最小限で済む。裏を返せば、こうしたOEM供給向け製品があるからこそ、一般店頭向け製品のコストが下げられるわけだ。

 ちょっと余談になるが、56kbpsモデムについては、内蔵用の方がベターという見方もある。現在販売されている一部の56kbpsモデムは、DTE速度(パソコンとモデム間の速度)が最大230.4kbpsまで対応している製品がある。x2規格でもK56flex規格でも同じだが、56kbpsモデムはV.42bisという圧縮プロトコルを併用している。V.42bisは最大4倍の圧縮効率を持っているため、56kbpsモデムがフルスピードで動作する(なんてことは滅多にないのだが)ときは、『56kbps×4=224kbps』もの速度でデータが転送される。このとき、DTE速度が115.2kbpsまでしか対応していないと、通信速度が頭打ちになってしまい、十分なパフォーマンスが得られない。そこで、DTE速度を230.4kbpsまで設定するわけだ。

 ところが、外付けモデムの場合、DTE速度を230.4kbpsに設定するには高速シリアルカードが必要な上、シリアルケーブルもできるだけ短くしなければならないなどの制限がある。これに対し、ISAバス用内蔵モデムはこうした制限を受けることなく、通信ができるというメリットを持ち合せている。ちなみに、マイクロ総合研究所の外付け56kbpsモデム「MR560XL」はDTE速度が230.4kbpsまで対応しているが、DTE速度を115.2kbpsに設定したときに較べ、約2倍近く高いパフォーマンスを示した。もちろん、ダウンロードするファイルによって差があるが、アドバンテージがあることは確かだ。

●日本アイ・ビー・エム、Aptiva用K56flexアップグレードモジュール公開

 内蔵モデムと言えば、日本アイ・ビー・エムは、8月18日にAptiva用のK56flexアップグレードモジュールを公開した。これは今年の夏モデルのAptiva T8B/T8C/T8E/T8F/T9D/T9E/TAE/TAFを対象にしたものだ。これらのモデルに内蔵されたモデルは、33.6kbps対応のまま出荷され、56kbpsへのアップグレードが予告されていた。モデムチップは米Lucent Technology製を採用していたため、Rockwell製チップ搭載製品よりもやや出遅れてしまったが、いわゆるオールインワンパソコンでは一番乗りということになる。

 ただ、IBM自身が運営するプロバイダ「IBMインターネット接続サービス」が設置した56kbps対応アクセスポイントはx2方式なので、Aptivaの内蔵モデムをアップグレードしても最大33.6kbpsでしかつながらない。このあたりの『ねじれ現象』もそろそろ何とかしなければならない時期に来ているのではないだろうか。

●マイクロ総合研究所、PCカードモデム2製品。WinCE用と、K56flex対応

 さて、次に注目したいのは、またもやマイクロ総合研究所の製品だ。マイクロ総合研究所はWindows CEマシンに対応した省電力PCカードモデムとK56flex方式に対応したPCカードモデムを発表した。Windows CEマシン用PCカードモデムは通信速度こそ14.4kbpsまでだが、3.3V駆動にすることにより、消費電力を半分に抑えている(同社製5V駆動の14.4kbpsモデムとの比較)。Windows CEマシンのユーザーにはうれしい製品と言えるだろう。

 また、K56flex対応PCカードモデムは、ノートパソコンが好調という市場を捉えた製品と言えそうだ。内蔵用モデムといい、PCカードモデムといい、56kbpsモデムもいよいよバリエーションが増えてきた。9月にはNIFTY-Serveもアクセスポイントを設置したので、そろそろ本格的な普及が始まりそうな気配だ。

【関連記事】
□アイ・オー・データ、3Dグラフィックアクセラレータなど12製品
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/970804/iodata.htm
□マイクロ総研、ISAバス用K56flexモデム
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/970807/micro.htm
□日本IBM、Aptiva用のK56flexアップグレードモジュールを公開
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/970818/ibm.htm
□マイクロ総合研究所、Windows CE搭載機用の省電力型PCカードモデム
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/970827/pccard.htm


ISDNルータもバリエーションの時代

 前回、ISDNターミナルアダプタは次世代のものが出揃い、ユーザーの選択肢も広がってきたということをお伝えした。市場を見る限り、相変わらずNECが好調のようだが、その一方で、ISDNルータのMN128-SOHOも人気を得ている。

 ISDNルータはISDN回線を介してネットワーク同士を接続するためのものだが、NAT(Network Address Transrator)機能の搭載により、端末型ダイヤルアップ接続のユーザーにも利用できるようになってきた。しかし、セットアップの難しさや不十分なフィルタリングのため、'96年の製品は今ひとつお勧めできなかった。MN128-SOHOはこうした不満を解消した製品だが、別の方法論でISDNルータを実現するものも登場した。

●メルコ、プロキシーサーバーソフトを同梱したターミナルアダプタ

 メルコは同社製ISDNターミナルアダプタに、株式会社ブレーンが開発した『PROXY97』というソフトをバンドルしたパッケージを発売した。PROXY97はWindows 95/NT上で動作するプロキシーサーバーソフトウェアで、端末型ダイヤルアップ接続のまま、ネットワーク上からインターネットに接続することを可能にする。

 たとえば、LAN上のあるパソコンにPROXY97をインストールし、そのパソコンにTAを接続していたとしよう。LAN上の他のパソコンはPROXY97がインストールされたパソコンとそこに接続されたTAを介して、プロバイダに接続できるわけだ。ダイヤルアップも切断もソフトウェアが自動的に処理してくれるため、ISDNルータを利用しているときとほぼ同じ感覚で使うことができる。

 今回バンドルされたパッケージは、クライアントが5台までに制限されているが、台数無制限のエンタープライズ版へのバージョンアップも可能だ。標準価格も37,000円とかなり割安なので、十分検討する価値のある製品と言えるだろう。

●センチュリーシステムズのアクセスサーバー「FutureNet RA-20」

 また、もうひとつはセンチュリーシステムズが開発したアクセスサーバー「FutureNet RA-20」という製品だ。基本的にはアクセスサーバーなのだが、ISDNルータ的に使うこともできる。FutureNet RA-20は10BASE-Tのイーサネットポート、2つのRS-232Cポートを備えており、LANと接続することにより、シリアルポートに接続したISDNターミナルアダプタを介してインターネットに接続できるのだ。もちろん、NAT機能も搭載しており、端末型ダイヤルアップ接続の契約のままでも利用できる。

 さらに、FutureNet RA-20が面白いのは、シリアルポートに接続したモデムやISDNターミナルアダプタをLAN上のパソコンで共有できるという点だ。FAXモデムサーバなど、かなり使い道が広そうだ。しかもシリアルポートは最大230.4kbpsまでの通信に対応しており、ISDN回線の128kbps同期通信、56kbpsモデムによる通信などでも十分なパフォーマンスを引き出せる仕様になっている。個人的にもかなり面白い製品だと見ている。ISDNルータとして見ると標準的な価格設定だが、「ISDNルータ+アクセスサーバ+モデムサーバ」の複合商品として見れば、かなり割安と言えるだろう。ちなみに、秋葉原のショップでは「ぷらっとほーむ」で取り扱っているそうなので、興味のある人は実機を見てみるといいだろう。

●NEC、5万円を切る低価格ISDNルータ

 この他にも、一般向け販売こそしないものの、5万円を切る低価格を実現したISDNルータがNECから発売される。おそらく、今秋から年末にかけてはISDNルータ、もしくはそれに相当する機能を持つ製品が出てくることになるだろう。ただ、ルータはある程度、ネットワークの知識を得た上で使うようにしたい。フィルタリングの設定を失敗し、勝手に電話を掛けられてしまい、電話代の請求書をみてひっくり返るなどという事態になりかねないからだ。最近の初心者向け雑誌では、こうしたリスクの話をせずに、安易にISDNルータを勧めているようだが、個人的には非常に心配している。

 便利なことは認めるが、その裏返しがあることもしっかり把握した上で、製品を選ぶようにしたいものだ。

●ソニー、VCCI二種適合の「STA-128DSU」でターミナルアダプタ市場に参入

 一方、ISDNターミナルアダプタではソニーが「STA-128DSU」をいよいよ市場に投入してきた。ユーティリティや内部構造を見る限り、MN128を開発したビー・ユー・ジーとの共同開発のようだが、DSUとISDNターミナルアダプタを1枚の基板に収めている点が大きく異なる。基板を1枚にすることにより、外部からのノイズを受けにくくなっている。その証しとして、本体にはVCCI第二種適合のシールが貼られている。

 VCCIは情報処理装置等電波障害自主規制協議会が策定した自主規制のことで、電磁波などの妨害許容値により、2つの段階に分かれている。国内で販売されているISDNターミナルアダプタやモデムは第一種情報技術装置の条件しかクリアしていないのだが、STA-128DSUはよりシビアな第二種情報技術装置の条件をクリアしている。テレビやラジオなどがある家庭での利用を考えれば、これは大きな安心感となるだろう。

 余談だが、ノートパソコンなどでVCCIをまったくクリアせず、使っているとコードレスホンが切れてしまうほど、ノイズをまき散らしている製品もある。パソコンではあまり注目されない問題だが、同協議会のホームページ( http://www.vcci.or.jp/vcci/ )にも情報が掲載されているので、興味のある人はぜひご覧いただきたい。

 話を元に戻そう。STA-128DSUはソニーが満を持して発表したISDNターミナルアダプタだそうだが、正直に言ってしまうと、半年遅いという気もする。なぜなら、前回に紹介したように、ISDNターミナルアダプタのトレンドは「液晶ディスプレイ付き」「アナログポートに接続した電話機からの各種設定」に移行しているからだ。2つめのトレンドはクリアしているが、液晶ディスプレイというトレンドを逃したのは惜しい。見た目のインパクトもかなり違うので、製品の魅力も半減してしまいそうだ。今後は、ソニーらしい独創性に満ちた製品の登場を期待したい。

□メルコ、PROXYソフトを同梱したTA ほか
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/970808/melco2.htm
□センチュリー・システムズ、10万円を切るSOHO向けアクセスサーバ
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/970820/century.htm
□NEC、5万円を切るダイヤルアップルータを企業向けに発売
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/970827/nec.htm
□ソニー、同社初のターミナルアダプタ
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/970808/sony.htm

[Text by 法林岳之]


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ウォッチ編集部内PC Watch担当 pc-watch-info@impress.co.jp