【法林岳之の非同期通信レポート】

法林岳之の非同期通信レポート 第12回

BitSURFR Pro試用レポート

TEXT:法林岳之


BitSURFR Pro
 今年7月、ネクストコム日本モトローラが米Motorola製ISDN TAの販売提携を結んだことをレポートしたが、いよいよその第一弾となる製品が出荷される。アメリカで圧倒的なシェアを誇るBitSURFR Proがついに日本に上陸するのだ。いち早く製品を入手することができたので、その試用レポートをお伝えしよう。


アメリカNo.1のシェアを持つBitSURFR Pro

 国内のISDNはインターネット接続により、急速に普及が進んだが、やはり昨年12月に発売されたMN128(NTT-TE東京)や今年2月に発売されたAterm IT45(NEC)のようにキーになる製品が登場したことも大きな要因である。

 海の向こうアメリカでも徐々にISDNの普及が進んでいるが、その牽引役となったのがMotorola BitSURFR Proだ。BitSURFR Proはアメリカで50%を超えるシェアを持つと言われており、各方面で高い評価を得ている。アメリカに住む知人の話によれば、現地ではかなり大きなショップに出向いても置いてあるTAはBitSURFR Proだけ、ごく希にU.S.RoboticsのSportster ISDN 128(ISAバス用ISDNカード)を見かけるくらいだと言う。インターネット通販でもBitSURFR Proがお勧めに挙げられることが多いようだ。

 今回、国内に出荷された製品は、ネクストコムが日本の回線仕様に合わせてローカライズしたもので、販売も同社が担当する。価格はオープンプライスとなっているが、当面は実売で3万円台前半が中心になりそうだ。外付けDSUやケーブルキットをセットにしたパッケージも用意されており、こちらは5万円前後で販売されると予想している。サン電子TS128GA2などよりはやや高めだが、MN128などに比べると確実に安い価格で販売されることになりそうだ。

 さて、簡単に基本スペックを紹介しておこう。

項目 諸元および機能 備考
接続回線 INSネット64 終端抵抗内蔵
交換形態 回線交換
使用チャンネル Bチャンネル
デジタル
ポート
ポート数 1 D-Sub25ピン
コマンド体系 ATコマンド、V.25bis
非同期通信速度 300~38.4kbps(ITU-T V.110)
300~64kbps(ITU-T V.120)
アップグレードあり
同期通信速度 1200~128kbps(非同期/同期PPP変換) 128kbpsはMP対応
サービス機能 短縮ダイヤル、端末速度自動識別、
帯域制御(発信/着信ともに可)、
自己アドレス、自己サブアドレス、オンラインヘルプ、
PAP/CHAP認証対応
アップグレードあり
アナログ
ポート
ポート数 2
対応ダイヤル方式 プッシュホン
供給電圧 48V 極性反転あり
フレックスホン コールウェイティングのみ アップグレードあり
ダイヤルイン 対応 グローバル着信識別機能あり
内線 未対応 アップグレードあり
その他 自己アドレス、自己サブアドレス
メンテナンス機能 自己診断、フラッシュEPROM搭載 ファームウェアの
バージョンアップ対応
電源 AC100V(ACアダプタを採用) 最大消費電力6.66W
外形寸法/重量 162(W)×40(H)×134(D)mm/約300g


いち早く128kbps接続時の帯域制御を実現

 スペック表を見ると、とりあえず最低限の機能は網羅されている。しかし、注目すべきはいち早く128kbps接続時の帯域制御を実現した点だ。帯域制御機能とはISDN回線のBチャンネル2本を束ね、128kbpsで接続しているとき、外部からの着信やアナログポートに接続した電話機の受話器を上げると、自動的に64kbpsに減速し、通話が終われば、128kbpsに復帰するというものだ。BitSURFR Proに搭載されている帯域制御機能は、Ascend Communicationsのルータに搭載されているMP+の機能の一部を取り込んだものだ。128kbps接続時の業界標準規格であるMPが注目を集めているが、ISDN回線を有効に活用するには帯域制御がトレンドになることは間違いない。ファームウェアのアップグレードについては後述するが、いち早く帯域制御機能に着手した点は高く評価できる。

 また、インターネット接続に関係ある点としては、認証方式としてPAP/CHAPの両方に対応していることが挙げられる。実際にはほとんどのプロバイダがPAP認証を採用しているが、一部にCHAP認証しかできないところもある。ところが、CHAP認証では動作しないTAもあり、ISDN回線に移行したが、接続できないトラブルもあるという。

 一方、アナログポートについてはダイヤルイングローバル着信識別といった基本的な機能しかサポートされていない。しかし、これもファームウェアのアップグレードにより、数多くの機能が追加されることになると言う。


おや? 電源スイッチがない

BitSURFR Pro Frontside BitSURFR Pro Backside
 筐体はMotorola製のモデムなどに採用されていた薄型のもので、かなりコンパクトだ。おそらく現在販売されているこのタイプのTAでは最もコンパクトな部類に入るだろう。

 筐体を眺めていて驚かされたのは、電源スイッチがないことだ。電源のON/OFFをしたいときは、本体背面の電源ケーブルか、ACアダプタを抜き差しするしかないのだ。何となく違和感を覚えるが、通常、TAの電源を切ることは滅多にない(というより、簡単に切れない方がいい)ので、実用上はそれほど大きな問題ではないだろう。筐体上面にはLEDが6つ並んでいるが、いたってシンプル。必要にして十分ではあるが、アメリカらしい合理的な判断だろうか。


設定ユーティリティからファームウェアのアップグレードが可能

 パッケージには、Windows95/NT用INFファイルや設定ユーティリティ、RS-232Cケーブル、変換コネクタ(PC-9800シリーズ及びMacintosh用)などが添付されている。ただし、設定ユーティリティは当面Windows用のみが添付され、Macintosh用については年内にネクストコムのホームページやNIFTY-Serveのネクストコムステーション(SNEXTCOM)を通じて配布される予定となっている。

BitSURFR Pro Utility BitSURFR Pro Online Help
 設定ユーティリティ(画面上左)は英語版をベースにしているが、日本向けにカスタマイズしており、ダイヤルインの設定などもわかりやすい。接続ポートもCOM1~COM9(!)まで対応しているため、かなり幅広い環境で使うことができる。余談だが、右側のサーフィンの絵が常にアニメーションしており、今までのPC関連製品になかった遊び心が感じられる(実際に使う上では何の意味もないんだけどね)。また、Terminalモードを内蔵しているため、ユーティリティで設定した内容を確認したり、ATコマンドを使ったテストなどもできる。BitSURFR Proにはメニュー形式のオンラインヘルプ(画面上右)が提供されているが、Terminalモードからも呼び出すことができる。さらに、ファームウェアのアップグレードは設定ユーティリティからも実行できるようになっており、初心者でも簡単にアップグレードすることが可能だ。

ファームウェアのアップグレード内容とスケジュール

 BitSURFR Proのスペック表やカタログを見ていると、ファームウェアのアップグレードで対応可能と書かれている項目が多い。実際にはどんな機能がどのくらいのスケジュールで追加されるのだろうか。

 アメリカで販売されている米国版のBitSURFR Proは、昨年9月に発売されて以来、機能追加のある度にアップグレードを実施し、ファームウェアはRev.Jまで進んでいる。モデムのように「フラッシュROMは搭載したけど、実際にはほとんど使わない」ということはなく、1~2カ月に1度は何らかの機能追加が行なわれている。BitSURFR Proがアメリカをはじめ、世界中で支持を得た秘密はこの頻繁に行なわれるアップグレードサービスにもあるのだ。

 日本版のアップグレードに関してネクストコムに取材したところ、米国版に負けない頻度でアップグレードを計画しているという。現在、予定されているアップグレード内容は以下の通りだ。

◆アナログポート系

  • グローバル着信時のアナログポート同時呼び出し
  • フレックスホンの着信転送
  • 三者通話機能(ミキシングモード)
  • 疑似コールウェイティング
  • 疑似着信転送機能
  • 内線通話/転送機能
  • アナログポートに接続した電話機から各種設定(プッシュホンのみ)
  • 識別着信対応
  • INSボイスワープ対応
  • 受話音量及びベル周波数変更
  • フッキング有効時間変更
  • コールバック対応
◆データポート系
  • V.110/57.6kbps非同期通信モード
  • MP+、BACP、CCP(PPP接続時圧縮)
  • V.110、V.120、PPP着信自動判別
  • V.110着信時のDTE速度自動追従機能
  • リモートメンテナンス
  • コールバック
  • Windows95 PnP正式対応
  • DTEポート230400bps対応(オートBAUD対応)

 アップグレード内容を見て驚かされるのはアナログポート回りの機能だろう。もし、これらがすべて実現されれば、前々回のレポートで紹介した三双電機ALEX-64/HFに迫る機能を搭載することになる。ちなみに、スケジュールについてだが、ネクストコムでは12月にDSU内蔵版の出荷を予定しており、遅くともこの時期までには上の機能を実現したいとしている。

 また、デジタルポート系でV.110/57.6kbps非同期通信への対応、128kbps接続時のMP+やBACPへの対応に注目したい。V.110/57.6kbps接続はNECAtermIT45などで採用されているもので、非同期通信を必要とするパソコン通信やプライベートBBSでの利用が見込まれる。一方、BACPはBチャンネルの動的な帯域制御を実現するプロトコルで、128kbps接続プロトコルの本命と目されている。現在はサポートするプロバイダがないが、回線を有効に活用できるため、おそらく正式公開後は業界標準規格になり、多くのプロバイダでサービスされることにるはずだ。

 アップグレードはネクストコムのホームページやNIFTY-Serveのネクストコムステーション(SNEXTCOM)を通じて行なわれる。ただし、一度にこれらの機能を実現するのではなく、いくつかの機能がまとまった段階で公開する予定だそうだ。


デジタルポートのパフォーマンスは? 帯域制御は?

 さて、気になるパフォーマンスだが、他のTA同様、プロバイダに接続し、FTPツールでファイル転送速度を計測してみた。

 まず、64kbps同期通信については、put/getともに他のトップクラスのTAと同じパフォーマンスが得られた。性能的には申し分ないと言えるだろう。MPを使った128kbps接続についてはDTE速度が115.2kbpsまでしか対応していないため、今ひとつ十分なパフォーマンスが得られなかった。DTE速度についてはファームウェアのアップグレードが予定されているので、実施された時点について追試するつもりだ。

 また、注目の帯域制御についてもテストを行なってみた。IBM PC/AT互換機のCOM1にBitSURFR Pro、COM2にモデムを接続し、モデムはBitSURFR Proのアナログポートに接続する。BitSURFR Proを使ってプロバイダに128kbpsで接続し、FTPツールでファイル転送を始める。ファイルが転送中であることを確認し、通信ソフトを使ってCOM2のモデムで発信をしてみたところ、問題なく発信することができた。もちろん、FTPでのファイル転送は継続したままだ。逆に、128kbpsで接続中にアナログポートに接続したFAXを呼び出したところ、こちらも問題なく着信した。さらに、同じバス配線上の他のTAのアナログポートにモデムを接続したときも同じように発信することができた。もちろん、モデムだけでなく、電話機、TAなどについてもまったく同じ結果が得られた。

 実際に使っている感覚としては、非常に不思議としか言いようがないが、128kbps接続時に、回線の占有を気にしなくても済むのは大きなメリットだ。ただ、これだけ便利になってくると、128kbps接続時のパフォーマンスを向上して欲しくなる。


全体的に見て

 アメリカNo.1のISDN TAということで、発表当時から個人的にもかなり期待していたが、64kbps接続時のパフォーマンスもきっちり出しており、なかなか順調に仕上っているようだ。また、帯域制御のような新しい機能への取組みも積極的で、設定ユーティリティなどの使い勝手もしっかりツボを押さえている。12月までに予定されているアップグレードについては、ネクストコムでもできるだけ多くの機能を盛り込みたいとしており、かなり期待できそうだ。現状でも必要十分条件は満たしているが、将来性を含めれば、最もお勧めできる製品と言えそうだ。もちろん、個人的に、ぜひ購入したい製品でもある。


参考ページ

ネクストコムのニュースリリースへ

米MotorolaのBitSURFRシリーズのページへ

※PC Watchで公開している外付けTAベストセレクションは、今回のBitSURFR ProやTS128GA2ALEX-64/HFのレポートなどを反映した上で、近くリニューアルします。ご期待ください。

[Text by 法林岳之]


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ウォッチ編集部内PC Watch担当 pc-watch-info@impress.co.jp