【法林岳之の非同期通信レポート】

法林岳之の非同期通信レポート 第10回

ALEX-64/HF試用レポート

TEXT:法林岳之


ALEX-64/HF  ISDNの爆発的な普及に伴い、低価格ISDNターミナルアダプタの発表・発売が相次いでいるが、国内のISDN TAメーカーとしては最も老舗となる三双電機からALEX-64/HFが出荷された。製品版を購入したので、早速、試用レポートをお送りしよう。


●実売価格は3万円以下!
 今から1年ほど前、アナログポートを2つ備えたISDNターミナルアダプタは、最も安いものでも6~8万円程度で販売されていた。昨年12月にMN128(NTT-TE東京)がオープンプライスながら39,800円という直販価格を設定したことにより、価格競争が激しくなり、今回紹介するALEX-64/HFではついに32,000円という標準小売価格が設定された。今回購入した製品は秋葉原T-ZONEミナミで26,000円という価格がつけられており、他店でもほぼ同様の価格となっている。

 まずは、簡単に基本スペックを紹介しておこう。

項目 諸元および機能 備考
接続回線 INSネット64 終端抵抗内蔵
交換形態 回線交換、Dチャンネルパケット
使用チャンネル B,Dチャンネル
デジタル
ポート
ポート数 1 D-Sub25ピン
コマンド体系 ATコマンド、V.25bis、ダイレクトコール
非同期通信速度 1.2/2.4/4.8/9.6/19.2/38.4kbps ITU-T V.110準拠
同期通信速度 1.2/2.4/4.8/9.6/19.2/48/56/64kbps 非同期/同期PPP変換機能
サービス機能 通信モード自動選択(同期PPP/非同期V.110)、
端末速度自動識別、短縮ダイヤル、識別着信、
ユーザー間情報通知、自己アドレス、自己サブアドレス
Dチャンネルパケット
通信対応
アナログ
ポート
ポート数 2
対応ダイヤル方式 プッシュホン、ダイヤルパルス 各種設定はプッシュ
ホンのみ対応
供給電圧 48V 極性反転あり
フレックスホン フル対応 2ポートともにフルサポート
ダイヤルイン 対応 グローバルセレクト機能あり
内線 通話/転送ともに対応
その他 短縮ダイヤル及び識別着信先最大40カ所、
サブアドレス、外出先から転送設定変更可能、
フリー転送、通信中着信、アナログコールバック、
INSボイスワープ、電話機からの各種設定
メンテナンス機能 自己診断、リモートメンテナンス、
フラッシュEPROM搭載
ファームウェアの
バージョンアップ対応
電源 AC100V 最大消費電力7W
外形寸法/重量 170(W)×45(H)×142(D)mm/約470g 縦横どちらにも設置可能

●充実のアナログポート機能
 スペック表を見てもわかる通り、アナログポート回りの機能は他のどのTAよりも充実している。三双電機は今やほとんどのTAに搭載されるようになったグローバル着信識別機能などを開発したところでもあり、国内各社から見れば、アナログポート回りのお手本的存在でもあり、その充実ぶりはALEX-64/HFにも着実に受け継がれている。注目の機能をいくつか紹介しよう。

  • オートリダイヤル機能
    アナログポートに接続した電話機の受話器をあげ、***と押すと直前にダイヤルした番号に自動的にリダイヤルする。相手が話し中のときは繰り返しリダイヤルをする。チケット予約のときなどに便利な機能。

  • アナログポート同時呼び出し
    2つのアナログポートに同じ電話番号を設定しているとき、通常はTEL1を優先的に呼び出し、TEL2はTEL1が使用中のときだけ呼び出すようになっている。これを同時に呼び出すように設定する。複数の電話機を利用するオフィスや一戸建てなどで使うときに便利だ。

  • 受話音量調整
    電話のボリュームを6段階に調整することができる。電話機をつないだときだけでなく、モデムなどを接続して信号が強すぎるときなどにも利用できる。

  • フレックスホン
    NTTのINSネット64でサービスされている機能。ALEX-64/HFではコールウェイティング三者通話通信中転送着信転送のすべてをサポートしている。コールウェイティングと着信転送については、NTTと契約しなくても同等のサービスが受けられる機能(疑似コールウェイティングとフリー転送)も搭載している。

  • リモート設定
    外部のISDN電話やISDN公衆電話、サブアドレス機能付PHSから、着信転送の設定や解除、着信転送先の番号の変更ができる。

  • コールバック機能
    相手から掛かってきた発信者番号通知を確認し、一度電話を切って掛け直す機能。通常、コールバック機能が使える相手(コールバックする相手)は発信者番号通知ができる機器(発信者番号通知機能を持つISDN機器、デジタル携帯電話、PHSなど)に限られるが、ALEX-64/HFではあらかじめ登録しておいた電話番号に対してコールバックさせることもできる。

  • 中継機能
    転送機能の一種だが、INSネット64の2本のBチャンネルを使うことにより、PHSと携帯電話間の通話を可能にする。通常の着信転送機能は転送先が固定されているが、中継機能では転送先を任意に設定することができる。

 この他にも、最近のTAとしては標準的なダイヤルイン機能やグローバル着信識別機能、内線通話・転送などにも対応しており、申し分のない仕様となっている。

 また、こうしたアナログポートに対するこだわりは、付属の設定ユーティリティにも表われている。画面を見るとわかるが、ダイヤルインサービスの設定などをするとき、他のTAの設定ツールは機能の組み合わせによって設定しているのに対し、ALEX-64/HFの設定ツールは目的から設定できるように作られている。これならISDNになじみのない初心者でも設定できるはずだ。もちろん、設定ツールを使わなくてもアナログポートに接続した電話機などからも各種設定ができる。

●コンパクトなボディに視認性のいいLED

ALEX-64/HF ALEX-64/HF
 筐体は従来の同社製品よりもかなりコンパクトなもので、NECAtermIT45とほぼ同等となっている。前面のFUNCTIONスイッチは通信モードの切替や回線切断、着信転送切替などができる。LEDの視認性も良く、点灯や点滅、消灯などの組み合わせによって、現在の通信モードなどを把握することができる。

 背面には右の写真のようにコネクタが配置されている。電源部は本体に内蔵している。パッケージにはRS-232Cケーブルや変換コネクタなどもすべて添付されており、PC-9800シリーズやAT互換機、Macintoshなど、幅広い環境で利用することができる。

 底面にはディップスイッチがあり、終端抵抗の設定などができる。写真で足が見えるが、ゴム足がついていないため、設置する場所によってはかなり滑る。別途、ゴム足を購入して貼りつけた方がいいだろう。

●気になるデジタルポートは?
 さて、ISDN回線をインターネット接続に使うユーザーにとって、最も気になるのがデジタルポートの機能とパフォーマンスだ。ALEX-64/HFは同社製品としてはじめて非同期/同期PPP変換機能を搭載し、64Kbps同期通信を可能にしている。非同期通信については、業界標準のV.110/38.4Kbpsに対応している。128Kbps同期通信はサポートしていないが、まだ対応プロバイダが少ない点を考えれば、気にならない。

 接続性を確かめるため、ALEX-64/HFをWindows95が動作するAT互換機に接続し、プロバイダやに接続してみた。パッケージにはWindows95用INFファイルも添付されており、同期通信、非同期通信ともに問題なく接続することができた。ただ、タスクトレイのモデムアイコンに表示される速度がDTE速度(パソコン-TA間の速度)になっているのがちょっと気になった。実用上は問題ないが、モデムなどでの利用状況を考えれば、DCE速度を表示するのがスジのような気もするが……。

 むしろ気になるのはパフォーマンスだ。下のグラフはプロバイダに64Kbps同期通信モードで接続し、FTPツールで1MbytesのLZHファイルとTEXTファイルを5回ずつ転送したときの平均値だ。

製品名GETPUT
N社製TA 129秒 約129秒
ALEX-64HF 約139秒 約256秒

 同等の機能を持つ他社製TAに比べ、GET(サーバー→クライアント)で約10%、PUT(クライアント→サーバー)では約50%も遅いという結果になってしまった。ネットサーフィンをするだけなら、それほど気にならないかもしれないが、せっかくのISDN回線のパフォーマンスが十分引き出せていない点は残念だ。ALEX-64/HFはフラッシュEPROMを搭載しているので、今後、ファームウェアの改善を望みたい。

●全体的に見て
 まず、アナログポート回りの機能の充実ぶりについては、もう文句のつけようがない。この機能だけでもALEX-64/HFを購入する価値は十分あるだろう。ただ、欲を言えば、Macintosh用のアナログポート設定ツールも提供して欲しい。

 一方、デジタルポートについては機能的な不満こそないが、パフォーマンスに問題が残されている。当面はこのまま使っておき、今後の三双電機の対応に期待するしかないだろう。

 ここのところ、TAは価格ばかりが注目されがちだが、ALEX-64/HFは価格だけでなく、機能性や使いやすさもよく考えて設計されている。はじめてISDN TAを購入するユーザーはもちろん、すでにISDNを使っているユーザーの買い換え用にも適した1台だ。

[Text by 法林岳之]

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ウォッチ編集部内PC Watch担当 pc-watch-info@impress.co.jp