【法林岳之の非同期通信レポート】

法林岳之の非同期通信レポート 第13回

AtermIT55シリーズ試用レポート

TEXT:法林岳之


AtermIT55 AtermIT55DSU
 NECAtermIT55シリーズは、すでに発売から2カ月が経過してしまったが、ISDNターミナルアダプタの中では最も注目度の高い製品なので、最新情報を踏まえつつ、あらためてレポートをお送りしよう。


国内トップシェアのAtermがモデルチェンジ

 昨年、国内で販売されているISDNターミナルアダプタとしては、トップシェアを獲得したNECAtermシリーズ。今やISDNターミナルアダプタの定番的な存在だ。Atermシリーズは、一昨年に非同期/同期PPP変換をはじめて搭載したAtermIT35、昨年2月に停電モードに対応したAterm IT45、昨年6月にDSUを内蔵し、コストパフォーマンスを高めたAtermIT45DSUと進化してきた。そして、10月に発表されたのがAtermIT55AtermIT55DSUだ。

 さて、簡単に機能をスペックをチェックしてみよう。

項目 諸元および機能 備考
機種名 AtermIT55 AtermIT55DSU
接続回線 INSネット64、専用線 終端抵抗内蔵
交換形態 回線交換
使用チャンネル Bチャンネル
DSU
DSU なし 内蔵 屋内配線逆転時のINS回線
リバーススイッチ装備
S/T点   オプション S点ユニットは4800円
切り離し   可能 S点ユニットが必要
デジタル
ポート
ポート数 1 D-Sub25ピン
コマンド体系 ATコマンド
非同期通信速度 1200~57.6.4kbps(ITU-T V.110)
同期通信速度 1200~128kbps(非同期/同期PPP変換) 128kbpsはMP対応
サービス機能 端末速度自動識別、
無通信監視タイマ、
スティルスコールバック、応答平均化、
ユーザー間情報通知、
自己アドレス及びサブアドレス、
回線状態・通信料金表示、
短縮ダイヤル及び識別着信先最大10ヶ所
アナログ
ポート
ポート数 3
対応ダイヤル方式 プッシュホン
供給電圧 48V(無負荷時) 極性反転あり
フレックスホン コールウェイティング(疑似を含む)、
着信転送、三者通話
三者通話はVer2.00以降
ダイヤルイン 対応 グローバル着信識別機能あり
内線 通話、転送対応
その他 短縮ダイヤル、識別着信先

自己アドレス及びサブアドレス、
INSボイスワープ、ポート優先着信、
ダイヤル桁間タイマ
短縮ダイヤル及び
識別着信の登録は
デジタルポートと共用
メンテナンス機能 自己診断、フラッシュEPROM搭載 ファームウェアの
バージョンアップ対応
電源 AC100V(電源部内蔵) 単三乾電池6本で
停電時にも動作
外形寸法/重量 182(W)×43(H)×130(D)mm/約700g 71.5(W)×182(H)×130(D)mm/約800g


外見は同じだが、完全新設計

AtermIT55&45DSU Frontside AtermIT55&45DSU Backside
 AtermIT55シリーズは外見が従来のAtermIT45シリーズとそっくりで、見た目だけではその違いがあまりわからない。しかし、NECによれば、従来のAtermIT45シリーズは基本的にAtermIT35シリーズをベースに機能強化を図ったものであるのに対し、AtermIT55シリーズは'97年以降の展開を考え、メインコントローラーにRISCを採用するなど、完全な新設計となっているそうだ。AtermIT45シリーズとの主な機能の違いは、
  • 128Kbps同期通信(MP)に対応
  • アナログポートを3つに増設
  • アナログポート回りの機能を強化
  • アナログポートの極性反転に対応
  • フラッシュメモリを搭載
の4つが挙げられる。

 128Kbps同期通信対応は今年の展開を見据えたもので、フラッシュメモリも搭載しているため、BACP(Bandwidth Allocation Control Protocol)などの新しいプロトコルへの対応も検討しているそうだ。もちろん、128Kbps接続時のDTE速度は230.4Kbpsまで自動追従する。

 アナログポートを3つにしたのは、電話機やFAXの他に、モデムを接続するユーザーが多いことに対する配慮だ。ISDNターミナルアダプタのアナログポートはアナログ回線のように複数の端末機器を数珠つなぎに接続する(ブランチ接続)ことができない。実際には動作しないこともないが、アナログ端末機器が誤動作を起こす可能性もある。

 アナログポート回りの機能は、従来モデルがフレックスホンのコールウェイティング(疑似を含む)のみだったのに対し、通信中着信転送、三者通話にも対応し、着信転送の高機能版とも言えるINSボイスワープにも対応している。もちろん、従来モデル同様、ダイヤルインやグローバル着信識別といった機能にも対応している。

 アナログポートの極性反転は留守番電話機やファクシミリをより確実に動作させるための配慮だ。従来モデルでは極性反転をサポートしていなかったため、確実に動作しないアナログ端末機器がいくつかあったようだが、これも解消したというわけだ。

 フラッシュメモリの搭載は前述のように、新しいプロトコルやアナログポート回りの機能を手軽にアップグレードできるようにするためだ。今年4月からBIGLOBEで実施が予定されている電子メール到着通知サービスも、AtermIT55シリーズならパソコンからファームウェアのアップグレードができるため、すぐに対応できるというわけだ。ちなみに、NECではパッケージにファームウェアをアップグレードするための専用ユーティリティを添付している。ファームウェアはAtermシリーズのホームページからダウンロードすることもできるが、自分で作業ができない人は全国のNECサービスステーションで同等のサービスが受けられるようだ。

Aterm設定ユーティリティ  ちなみに、従来製品ではMacintosh用の設定ユーティリティや設定ファイルが同梱されていなかったため、Macintoshユーザーからの不満が多かった。しかし、AtermIT55シリーズではWindows用とMacitosh用のフロッピーディスクが同梱され、RS-232CケーブルもIBM PC/AT互換機、PC-9800シリーズ、Macintoshシリーズのいずれにも対応できるように変換コネクタ類が添付された。



使い勝手の良さも人気の秘密

 AtermITシリーズの人気の秘密はそのコストパフォーマンスの高さもさることながら、やはり使い勝手の良さにある。AtermIT55シリーズでも従来製品同様、設定ユーティリティ、設定ファイルが添付され、停電モードにも対応するなど、細かい配慮ができている。

S点ユニット  たとえば、DSUを内蔵したAtermIT55DSUには、ユーザー自身が配線を行なう簡易工事のときのためのINS回線リバーススイッチがついている。これは屋内配線が逆転していたとき、このスイッチを操作するだけで、正常に接続できるというものだ。ちなみに、他の製品ではRJ11のケーブルのストレートタイプとクロスタイプをパッケージに添付して対処しているものが多い。

 また、オプションで用意されているS点ユニット(写真右)も便利な機能のひとつだ。DSU内蔵ターミナルアダプタで、外部の他のISDN端末機器などを接続するにはS/T点端子が必要になる。一部のDSU内蔵ターミナルアダプタはコストダウンのため、S/T点を省略している(S/T点のないDSU内蔵ターミナルアダプタは拡張スロットがないパソコンと同意。だから買わない方がベター)が、AtermIT45DSU及び55DSUではS点ユニットをオプションで提供することで対処している。つまり、S/T点が必要になった時点でS点ユニットを購入すれば済むわけだ。また、S点ユニットのディップスイッチを操作すれば、AtermIT55DSUのDSU機能を切り離すことも可能だ。ただ、AtermIT45DSU及び55DSUのS点ユニットは給電がされていないため、停電時にも局側給電で動作する端末機器(たとえば、デジタル電話機S-1000)などは使うことができない。今後の改善を望みたい。

 このINS回線リバーススイッチやS点ユニットは従来のAtermIT45シリーズから受け継いだ機能だが、逆に従来製品で不満が多かった点を改良した部分もある。たとえば、前述のMacintoshへの対応をはじめ、アナログポートの極性反転サポートやINSネット64の各サービスへの対応などがそうだ。従来製品の人気におごらず、ユーザーの声を即座に製品に反映させ、さらなる向上を目指しているのはユーザーとしても安心感が大きい。


 さて、冒頭でも触れたように、AtermIT55シリーズは出荷開始からすでに2カ月が経過している。その間にファームウェアのバージョンアップが行なわれた。

 最新版のVer.2.00では、

  • 非同期通信と非同期/同期PPP変換通信を交互に行なったときの動作改良
  • 三者通話のサポート
  • 通信中転送のサポート
  • INSボイスワープの対応
  • オンフック検出感度の変更
などが改善されている。出荷直後に指摘された不具合も早速改善されており、NECの対応の早さには好感が持てる。また、バージョンアップでの機能追加に伴い、付属のらくらくユーティリティもVer.3.10へバージョンアップした。

AtermIT55らくらくバージョンアップ  Atermのホームページを通じて入手したファームウェアは、ファームウェアアップグレード専用ツールを使ってAtermIT55に書き込む。早速、AtermIT55及び同DSUの双方に書き込んでみたが、専用ツールで書き込むファイルを指定して、あとはOKボタンをクリックするだけ。ダウンロード時間も含め、10分もあれば、ラクに終わる。バージョンアップ後、特に不具合なく動作している。次回は前述の電子メール到着通知サービスを利用するためのバージョンアップが行なわれることになるのだろうか。ユーザーはまめにホームページをチェックしておこう。



接続性やパフォーマンスは○

 最後に、インターネット接続に関してだが、いつものように複数のプロバイダに接続テストを試みたところ、接続性については問題なしとの印象を得た。NECでもホームページを通じて、接続確認済プロバイダの情報を公開している。

 また、FTPを使ったファイル転送テストでも十分なパフォーマンスが得られた。実は、従来のAtermIT45シリーズはFTPのPUT時に他の製品よりも10%強ほど転送速度が遅かったのだが、AtermIT55ではかなり改善されており、他の製品との差が5%ほどになっている。実用上はまったく問題ないが、理想を言えば、もう一歩パフォーマンス向上を期待したい。

 また、64Kbps接続時と128Kbps接続時の違いが小さなアラーム音しかないため、判別しにい点も気になった。その上、Windows95環境でのダイヤルアップアダプタに表示される速度がDTE速度になっているため、DTE速度が115.2Kbpsのときは音でしか判別できないという状態になってしまう。LEDを点滅させたり、リザルトコードにDCE速度を反映できるように改良してもらいたい。

 しかし、トータルで見れば、やはりイチ押しのISDNターミナルアダプタであることには変わりない。とかく最近のISDNターミナルアダプタは「安い、速い」「目先の機能」ばかりが注目されがちだが、そこに留まることなく、電子メール到着通知サービスのようなユーザーの利用環境をよく考えた機能をサポートしようとする姿勢は非常に高く評価できる。細かい不満をいくつか書いたが、裏を返せば、その程度しかアラが見つからないということでもある。春へ向けて、いよいよ引越シーズンの到来だ。今度の引越でISDNにしようと考えている人には最も安心してお勧めできるターミナルアダプタと言えるだろう。

[Text by 法林岳之]


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ウォッチ編集部内PC Watch担当 pc-watch-info@impress.co.jp