NECのAtermIT55シリーズは、すでに発売から2カ月が経過してしまったが、ISDNターミナルアダプタの中では最も注目度の高い製品なので、最新情報を踏まえつつ、あらためてレポートをお送りしよう。
国内トップシェアのAtermがモデルチェンジ昨年、国内で販売されているISDNターミナルアダプタとしては、トップシェアを獲得したNECのAtermシリーズ。今やISDNターミナルアダプタの定番的な存在だ。Atermシリーズは、一昨年に非同期/同期PPP変換をはじめて搭載したAtermIT35、昨年2月に停電モードに対応したAterm IT45、昨年6月にDSUを内蔵し、コストパフォーマンスを高めたAtermIT45DSUと進化してきた。そして、10月に発表されたのがAtermIT55、AtermIT55DSUだ。さて、簡単に機能をスペックをチェックしてみよう。
外見は同じだが、完全新設計
128Kbps同期通信対応は今年の展開を見据えたもので、フラッシュメモリも搭載しているため、BACP(Bandwidth Allocation Control Protocol)などの新しいプロトコルへの対応も検討しているそうだ。もちろん、128Kbps接続時のDTE速度は230.4Kbpsまで自動追従する。 アナログポートを3つにしたのは、電話機やFAXの他に、モデムを接続するユーザーが多いことに対する配慮だ。ISDNターミナルアダプタのアナログポートはアナログ回線のように複数の端末機器を数珠つなぎに接続する(ブランチ接続)ことができない。実際には動作しないこともないが、アナログ端末機器が誤動作を起こす可能性もある。 アナログポート回りの機能は、従来モデルがフレックスホンのコールウェイティング(疑似を含む)のみだったのに対し、通信中着信転送、三者通話にも対応し、着信転送の高機能版とも言えるINSボイスワープにも対応している。もちろん、従来モデル同様、ダイヤルインやグローバル着信識別といった機能にも対応している。 アナログポートの極性反転は留守番電話機やファクシミリをより確実に動作させるための配慮だ。従来モデルでは極性反転をサポートしていなかったため、確実に動作しないアナログ端末機器がいくつかあったようだが、これも解消したというわけだ。 フラッシュメモリの搭載は前述のように、新しいプロトコルやアナログポート回りの機能を手軽にアップグレードできるようにするためだ。今年4月からBIGLOBEで実施が予定されている電子メール到着通知サービスも、AtermIT55シリーズならパソコンからファームウェアのアップグレードができるため、すぐに対応できるというわけだ。ちなみに、NECではパッケージにファームウェアをアップグレードするための専用ユーティリティを添付している。ファームウェアはAtermシリーズのホームページからダウンロードすることもできるが、自分で作業ができない人は全国のNECサービスステーションで同等のサービスが受けられるようだ。 ちなみに、従来製品ではMacintosh用の設定ユーティリティや設定ファイルが同梱されていなかったため、Macintoshユーザーからの不満が多かった。しかし、AtermIT55シリーズではWindows用とMacitosh用のフロッピーディスクが同梱され、RS-232CケーブルもIBM PC/AT互換機、PC-9800シリーズ、Macintoshシリーズのいずれにも対応できるように変換コネクタ類が添付された。
使い勝手の良さも人気の秘密AtermITシリーズの人気の秘密はそのコストパフォーマンスの高さもさることながら、やはり使い勝手の良さにある。AtermIT55シリーズでも従来製品同様、設定ユーティリティ、設定ファイルが添付され、停電モードにも対応するなど、細かい配慮ができている。たとえば、DSUを内蔵したAtermIT55DSUには、ユーザー自身が配線を行なう簡易工事のときのためのINS回線リバーススイッチがついている。これは屋内配線が逆転していたとき、このスイッチを操作するだけで、正常に接続できるというものだ。ちなみに、他の製品ではRJ11のケーブルのストレートタイプとクロスタイプをパッケージに添付して対処しているものが多い。 また、オプションで用意されているS点ユニット(写真右)も便利な機能のひとつだ。DSU内蔵ターミナルアダプタで、外部の他のISDN端末機器などを接続するにはS/T点端子が必要になる。一部のDSU内蔵ターミナルアダプタはコストダウンのため、S/T点を省略している(S/T点のないDSU内蔵ターミナルアダプタは拡張スロットがないパソコンと同意。だから買わない方がベター)が、AtermIT45DSU及び55DSUではS点ユニットをオプションで提供することで対処している。つまり、S/T点が必要になった時点でS点ユニットを購入すれば済むわけだ。また、S点ユニットのディップスイッチを操作すれば、AtermIT55DSUのDSU機能を切り離すことも可能だ。ただ、AtermIT45DSU及び55DSUのS点ユニットは給電がされていないため、停電時にも局側給電で動作する端末機器(たとえば、デジタル電話機S-1000)などは使うことができない。今後の改善を望みたい。 このINS回線リバーススイッチやS点ユニットは従来のAtermIT45シリーズから受け継いだ機能だが、逆に従来製品で不満が多かった点を改良した部分もある。たとえば、前述のMacintoshへの対応をはじめ、アナログポートの極性反転サポートやINSネット64の各サービスへの対応などがそうだ。従来製品の人気におごらず、ユーザーの声を即座に製品に反映させ、さらなる向上を目指しているのはユーザーとしても安心感が大きい。
最新版のVer.2.00では、
Atermのホームページを通じて入手したファームウェアは、ファームウェアアップグレード専用ツールを使ってAtermIT55に書き込む。早速、AtermIT55及び同DSUの双方に書き込んでみたが、専用ツールで書き込むファイルを指定して、あとはOKボタンをクリックするだけ。ダウンロード時間も含め、10分もあれば、ラクに終わる。バージョンアップ後、特に不具合なく動作している。次回は前述の電子メール到着通知サービスを利用するためのバージョンアップが行なわれることになるのだろうか。ユーザーはまめにホームページをチェックしておこう。
接続性やパフォーマンスは○最後に、インターネット接続に関してだが、いつものように複数のプロバイダに接続テストを試みたところ、接続性については問題なしとの印象を得た。NECでもホームページを通じて、接続確認済プロバイダの情報を公開している。また、FTPを使ったファイル転送テストでも十分なパフォーマンスが得られた。実は、従来のAtermIT45シリーズはFTPのPUT時に他の製品よりも10%強ほど転送速度が遅かったのだが、AtermIT55ではかなり改善されており、他の製品との差が5%ほどになっている。実用上はまったく問題ないが、理想を言えば、もう一歩パフォーマンス向上を期待したい。 また、64Kbps接続時と128Kbps接続時の違いが小さなアラーム音しかないため、判別しにい点も気になった。その上、Windows95環境でのダイヤルアップアダプタに表示される速度がDTE速度になっているため、DTE速度が115.2Kbpsのときは音でしか判別できないという状態になってしまう。LEDを点滅させたり、リザルトコードにDCE速度を反映できるように改良してもらいたい。 しかし、トータルで見れば、やはりイチ押しのISDNターミナルアダプタであることには変わりない。とかく最近のISDNターミナルアダプタは「安い、速い」「目先の機能」ばかりが注目されがちだが、そこに留まることなく、電子メール到着通知サービスのようなユーザーの利用環境をよく考えた機能をサポートしようとする姿勢は非常に高く評価できる。細かい不満をいくつか書いたが、裏を返せば、その程度しかアラが見つからないということでもある。春へ向けて、いよいよ引越シーズンの到来だ。今度の引越でISDNにしようと考えている人には最も安心してお勧めできるターミナルアダプタと言えるだろう。
[Text by 法林岳之] |