元麻布春男の週刊PCホットライン

民生用DVDレコーダー「ケンウッドDVF-RW1」を試す


●初めて購入した民生用DVDレコーダー

 前回取り上げたピクセラのPIX-MPTV/P1Wで、筆者はリアルタイムレコーディング機能の必要性について触れた。1時間のTV番組を1時間で(リアルタイムで)メディアに書き込む、最も普及しているVHSのビデオデッキでごく当たり前にできるこのことが、PCと書込み可能なDVDドライブの組合せではできないのである。

 PCで1時間のTV番組をDVD-Videoに書き込もうとすると、MPEG-2ファイルへのキャプチャに1時間、オーサリング、トラスコード、メディアへの書込みに計1時間、人間がメニュー等のデザインを行なう時間まで含めると、3時間かかっても不思議ではない。

ケンウッド「DVF-RW1」

 実は筆者は、わりと最近、民生用のDVDレコーダーを購入した。本当はDVD-RAM互換のDVDプレイヤーを買おうかと思っていたのだが、某カメラ量販店に行ったところ、DVD-RAM互換のDVDプレイヤーの2万円増しでDVDレコーダーが売っていたのでそれにしたのである。購入したのはケンウッドブランドのDVF-RW1( http://www.kenwood.co.jp/j/products/home_audio/dvd/dvf_rw1/index.html )だ。昨年の12月に発売されたモデルで最新の機種ではない。

 パイオニアのDVR-2000のOEMモデルなのだが、シャシーの両脇に豪華? ウッドパネルがつくせいか、標準希望小売価格は本家より1万円高い26万円に設定されている。もちろん、筆者がそんなお金を出せるハズもなく、筆者の購入価格は69%オフの79,800円。これに消費税が加わるが、10%のポイントがつくので実質的な出費は75,000円程度、ということになる(ちなみに筆者はケンウッドが北米輸出用のブランドで、社名がトリオだった時代を知っているクチである)。

【お詫びと訂正】初出時にケンウッドをキット製品のブランドとしておりましたが、キット製品のブランドはケンクラフトでした。お詫びして訂正いたします。


●PCに近い使い勝手のDVDレコーダー

 DVDレコーダーをじっくりと触るのはこれが初めてだったのだが、何と言うか、実にPC的な民生機器である。メディアを入れると、まず初期化が行なわれるところなど、他の民生機ではあまり考えられない。ましてや録画するのに、3種類のメディアと2種類の録画モードがあり、それぞれの録画モードに複数の設定があることなど、おおよそ民生機らしからぬところだ(予約録画した番組を再生すると時報と同時にスタートするのは、さすが民生高級機と感動したが)。

 要するに、DVF-RW1で使えるメディアはDVD-R 2.0、DVD-RW 1.0、DVD-RW 1.1の3種類。DVD-RW 1.0は著作権保護(CPRM)に対応できないことから、ほぼ店頭から姿を消しつつあるが、DVF-RW1に標準添付されているのがこのメディアだった。2種類の録画モードというのは、このコラムでもさんざん取り上げているDVD-Video互換のビデオモード(ISO/UDF 1.02ブリッジ)と、ビデオレコーディングフォーマット互換のVRモード(UDF 2.0)のこと。メディアと録画モードの関係は表1のようになる。

【表1】
 DVD-R 2.0DVD-RW 1.0DVD-RW 1.1
ビデオモード×
VRモード×

 ビデオモードで使える録画設定は1枚のメディアに約1時間の録画ができるV1と2時間の録画が可能なV2の2種類。前者は9.9Mbpsの固定ビットレート、後者は5.1Mbpsの固定ビットレートとなっている。これに対してVRモードは基本的に可変ビットレートで、6時間の録画が可能なレベル1から、1時間の録画が可能なレベル32まで、32段階の設定が用意されている。そして、2時間録画可能なレベル21がSP(標準モード)というプリセットに、6時間録画可能なレベル1がMN(マニュアルモード)というプリセットにそれぞれ設定されている(マニュアルモードはユーザーが変更可能)。

 もちろん画質の点でも両者には違いがあり、同じ2時間の録画が可能なV2とSPでも、可変ビットレートを採用した後者の方が明らかに優れる。V2は輝度の変化でブロックノイズ、動きの変化でジャギーが出易いのに対し、SPの方が自然な絵だ。十分なビットレートが確保されるせいか、V1とレベル32の間には、このような大きな差はないが、1枚のメディアに1時間しか記録できないのでは、実用性の点で辛いように思う。


●PCと変わらない手間がかかるファイナライズ処理

 このメディアと録画モードおよび画質の関係を理解するだけでも大変なのに、DVDレコーダーには「ファイナライズ」まで用意されている。DVDレコーダーで録画したメディアを自己録再する分には何も考えなくて良いのだが、他のプレイヤーで再生しようとすると(たとえそれがDVD-RW対応をうたうプレイヤーであっても)メディアに対してファイナライズ処理を行なわなければならない。悪いことにこのファイナライズ処理、単にリードアウトを書くだけでなく、PC用のオーサリングソフト同様、データ量が少ない場合は1GB程度までダミーデータを書く仕様になっている。

 たとえば、SPモードで30分しか書かなかったメディアをファイナライズすると40分以上の時間がかかった。PCのユーザーであれば、ファイナライズ処理と言われても特に困惑しないかもしれないが、VHSデッキの代わりに使おうというユーザーには理解が難しいのではないかと思う(最新の機種ではもう少し短縮されているらしい)。

DVF-RW1でファイナライズしたメディアをWindows XPで読み出そうとしたところ。アイコンの変化からDVDメディアが挿入されたことは認識しているものの、アクセスしようとするとディスク構造が壊れているというエラーメッセージが出る

 しかも、ファイナライズ(最終処理)という割には、VRモードの場合は追記や編集がなお可能なのである(ビデオモードの場合は不可だが、DVD-RWであれば消去は可能)。こうしたややこしい関係をすべて理解するのは、かなり難しいことに違いない。さらに、ファイナライズ処理をしたにもかかわらず、VRモードのメディア(UDF 2.0)を、UDF 2.01に対応しているハズのWindows XPが認識してくれないことに至っては、PCユーザーであろうとも頭をひねってしまう(残念ながら、DVF-RW1とWindows XPのどちらが悪いのか、あるいは両方が悪いのか、筆者にも判断つきかねる)。救いは、ビデオレコーディング規格対応をうたうソフトウェアDVDプレイヤー(PowerDVD)は、このOSが認識できないメディアをちゃんと再生してくれることだ。

 本機には、i.Link端子が用意されており、DVカメラから直接DVDメディアにデジタルインターフェイス経由で画像を転送することができるのだが、本機を2台用意してもこのi.Link端子を用いて完全なデジタルコピーはできない(もちろん、著作権保護のないコンテンツの場合)。つまりMPEG-2デコードされたデータがDVエンコードされ、i.Link経由で出力され、受け側でDVデコードされたのち、再びMPEG-2エンコードされる、という形となる。

 MPEG-2が非可逆圧縮であることを考えると、完全なデジタルコピーはできないことになる(DVDメディアのコピーができるというのは、民生機に対するPCの数少ないアドバンテージだ)。本機に限らず、民生機器でのi.Linkの使われ方を見ていると、どうも民生機器はIEEE 1394を持て余しているように思えてならない。


●意外に煩雑なDVDレコーダーだが、PCはそれに遠く及ばない……

 というわけで、DVDレコーダーというのは、なかなか一筋縄ではいかない機械だ。PC的な民生機器、というニュアンスが分かってもらえただろうか。

 最も根本的な問題(あるいはPC的だと考えられるゆえん)は、DVDレコーダーが扱う規格に「幅」がある、ということだろう。たとえばビットレートの設定に幅が持たせてある点もそうだが、メーカー間で完全に規格が決められていない点も、そういう印象を強くする。たとえば本機ではビデオモード録画は固定ビットレートのみがサポートされているが、カタログを見る限り、パナソニックのレコーダーではビデオモード、VRモード(DVD-RAM)ともに可変ビットレートでの書込みとなるようだ。このような民生機は、今まであまりなかったのではないかと思う。

 筆者は、民生機だからといって必ずしも使い勝手が良いとは限らない(PCの方が使いやすいことだってある)、という立場をとる人間ではあるのだが、それにしても民生用のDVDレコーダーというのは面倒な機械だと思う。しかし、それにも増して悲しいのは、PCでのDVD環境は、そんな民生用DVDレコーダーにさえ遠く及ばない、ということだ。

 1時間のTV番組をDVDに書き込むのにその数倍の時間を要するのはすでに述べた通りだが、ほかにもビデオの追記が事実上できない(DVD-RAMはかろうじて可能だが、今のところあまりデキは良くない)という致命的な問題がある(民生機にもファイナライズに時間がかかるという問題があるが、追記してメディアを使い切ってしまえば、ファイナライズに要する時間も減る)。

 民生用のレコーダーでは、DVD-Rであってもビデオの追記ができるというのに、PCでは書き換え可能なDVD-RWやDVD+RWでさえもビデオを追記することができない。

 また、PCでは大半のオーサリングソフトがオーディオトラックをリニアPCMで記録するため、オーディオデータの格納効率が悪いのに対し、民生用レコーダーはドルビーデジタルでオーディオデータを記録可能だ(一部のPC用ライティングソフトは、オーディオをMPEGオーディオで処理してしまうが、これはこれで別の問題がある)。

 書込み用のメディアが記録層を一層しか持てないことを考えると、PC用オーサリング/ライティングソフトもドルビーデジタルでオーディオトラックを記録して欲しいと思うのだが、少なくとも安価なソフトでこれをサポートしたものはない。データの追記とドルビーデジタルによるオーディオトラックの処理は、PC用ライティングソフトに早急に求められるべき機能だと思う。


●現状は次世代規格のための予行演習なのか?

 民生機とPC用ドライブの両方を触ってみて思うのは、ひょっとすると現在の(650nmレーザーの)DVDは、次世代の本命規格(それがDVD-Blueなのかどうかは知らないが)に対する予行演習なのだろうか、ということだ。

 書込み可能なDVDの規格そのものが乱立してしまっただけでなく、ビデオモードとVRモードのように、似て非なる規格の並立、ユーザーに理解しがたいファイナライズ処理の仕様など、もう少しうまくやってくれないか、と思うことが多すぎる。もうすでに走り始めたものはどうにもならないというのなら、次こそはCD-R/RWの教訓、DVD-R/-RW/+RW/RAMの教訓を踏まえて、使いやすい統一規格を策定して欲しいものだと思う。

バックナンバー

(2001年12月14日)

[Text by 元麻布春男]


【PC Watchホームページ】


PC Watch編集部 pc-watch-info@impress.co.jp

Copyright (c) 2001 impress corporation All rights reserved.