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●キーボードの異常から体調にも異変が……
2001年も間もなく終わろうとしている。PC業界全体として様々な出来事があった一年だと思うし、読者の方それぞれにとっても様々な出来事があったことと思う。筆者の個人的な2001年の重大ニュースは、これまで10年以上愛用してきたキーボードが、ついに壊れてしまったことだ。
筆者が愛用してきたのは、初代Quarter Lに添付されていたAXキーボード(写真1)。Quarter Lというのは、VAIOのはるか昔? ソニーが企業向けに販売した386SX CPU搭載のAXパソコンであった。本体はとっくの昔に手放したものの、キーボードだけは手元に残し、愛用し続けてきた。それがついに使えなくなったのである。
写真1 初代Quarter-Lに付属していたAXキーボード。購入したのは'90年前後ではなかったかと思う | 写真2 AXキーボードが内蔵するIntel製のキーボードコントローラ。「ALPS AX KB」の文字が見える |
最初に生じた問題は、電気的なものではなく、機械的なものだった。押し下げたキーが戻らなくなったのである。要するに、キーを叩いたあと、キーが戻ってこず、押し下げられた状態で、底に貼り付いてしまう。数秒間待たないと、元の状態に戻らない有様で、A、K、Iの3つのキーがこのような状態になってしまった。4年前までヘビースモーカーだっただけに、キースイッチの内部に、ニコチンやタールがこびりついてしまったのかもしれない。
愛着があるキーボードだけに、しばらくは無理してこの状態で使っていたのだが、その影響はすぐに体調の変化として表れた。最初は肩の違和感、やがては右腕の痺れまで生じてしまった。筆者は基本的に肩こりなどない人間なので、なぜ肩の調子が悪くなったのか、すぐには理解できなかったくらいだ。ほかのキーボードが接続された実験マシンを使っていると、肩の状態が悪化しないことから、原因がキーボードであることにようやく気づいたのである。
●キーボードを復活させるいくつかの方法を試すも……
どうすれば「戻り」が悪くなったキーボードを元に戻せるのか。いにしえのAXキーボードは、メカニカルキースイッチを用いており、問題が生じていると思われるキースイッチ内部にアクセスし、クリーニングすることは事実上不可能だと思われる。キースイッチは精密なものだけに、薬品などを使うことは極力避けたいが、「使えない」状態に陥ってしまった以上、「ダメモト」で何か方法を考えなければならない。
というわけで、接点洗浄剤と呼ばれるスプレー(写真3)でキースイッチ内部の洗浄を試みた。まず写真4のようなツールでキートップを外し、キートップが取り付けられていた部分に見える小さな穴(写真5)から洗浄剤を吹きつけた。この作業によってキーのメカ的な障害は解消し、押したキーはちゃんと戻ってくるようになった。また、キータッチも吹き付ける前とほとんど変わらず、問題は解消したかに思えた。
だが、作業が終わってPCに接続したところ、今度は電気的に入力できないキーが発生したのである。洗浄作業を繰り返すことで、当初は全く入力できなかったキーも、とりあえず入力不可能ではなくなったのだが、どうしても入力が渋いキーが残ってしまった。何回か叩けば入力できるのだが、1度でちゃんと入力できないようでは、フラストレーションがたまる。
キーボードというのはやっかいなもので、どんなに使用頻度の少ないキーであっても、入力が渋いキーがあると使い物にならない。Xキーなんて、日本語を入力する分にはほとんどなくても構わないのだが、「Windows XP」と入力するのに、Xキーを何回も叩かなければならないようでは仕事にならない。特殊キーなら、なくなって困らないものもあるのだが(Pause/Breakキーなど)、アルファベットキーに問題が出ては、さすがにどうしようもない。10年以上愛用したAXキーボードは、記念に保存することとして、現役から引退してもらうことにした。
●難航した後継キーボード選び
AXキーボードの後継に何を使うか、というのが悩むところ。キートップリムーバーが付属してきたNorthgate ComputerのOmniKeyも2台持っているのだが、古い、キータッチが良い方('88年前後に購入)は、最近の高速なマザーボードとは相性が悪く、認識されなかったり、チャタリングが生じることが多い。新しい方は、キータッチがチャカチャカした感じで、もう1つだ。
残るキーボードで最もキータッチが良いのは、'95年のComdex Springでアトランタに行った際、アトランタのComp USAで買ったIBMが販売していた101キーボード(写真6)。裏のラベル(写真7)によると、'94年12月1日製造の米国製となっている。正確には製造したのはLexmarkだが、IBMがプリンタやキーボードの事業をLexmarkとして分離したのは、この少し前だったように思う。上述したOmniKeyがAXキーボードと同じくATタイプの5ピンコネクタだったのに対し、このキーボードはPS/2タイプの小型DINコネクタになっており、明らかに新しい(ATタイプのコネクタでない、というだけで新しいと呼ぶのだから、筆者の手持ちのキーボードがいかに骨董品ばかりであるかが分かる)。
写真6 '95年にアトランタから担いで? 帰ったキーボード。今回紹介したキーボードの中では群を抜いて重い | 写真7 キーボード裏のラベル。Lexmark製造のキーボードで「MADE IN USA 01-DEC-94」と書かれている |
キータッチは古き良き時代のメカニカルキースイッチのタッチそのもの。とはいえ、オリジナルのPC/ATキーボードほど凶悪にうるさかったり、暴力的に硬くて太いカールケーブルでないあたりは、近代化されている。それでも、日本で市販されている一般的なキーボードに比べれば、スイッチの弾力感は強いと思う。何と言うか、スイッチにコイルバネが入っていることが実感できるタッチだ。
一番素直なのは、この101キーボードを使うことなのだが、このキーボードにも欠点がないわけではない。AXキーボードと比べれば分かる通り、Enterキーが小さい(というより101キーボードとしては普通の大きさ)。これで大きく困ることはない(筆者はノートPCではこのタイプの英語キーボードを使っている)のだが、ほかの可能性を考えてみようという気になったのである。
筆者はアプリケーションやIMEの操作にCtrlキー+英字キーを多用するが、キーレイアウトの違い(Ctrlキー、Escキーなどの位置)については、ソフトウェアでなんとかなるので二義的な問題に過ぎない。それでもキー配列がAXキーボードに近ければ、余分な工夫をしなくても済むし、それに越したことはない。また、将来的なことを考えれば、そろそろUSBキーボードへの移行も(今回は別としても)念頭においておく必要もある。そこで、現在市販されているキーボードがどんなものか、見てみることにした。
●最近のキーボードも試してみる
写真8 ぷらっとホームで購入した101キーボード。キーレイアウトはなかなかツボをついているのだが、PCを床置きしている筆者には、キーボードケーブルが短すぎる |
PS/2タイプのキーボードで目をひいたのは、写真8のキーボードだ。秋葉原のぷらっとホームが販売するSMK-8861というこのキーボードは、大きな逆L字型のEnterキー、1の隣にあるEscキー、Aの隣にあるCtrlキーなど、キー配列が的を得たもの(AXキーボードに極めて近い)。キーもメカニカルキースイッチを用いている点が好みだが、ちょっと軽すぎるきらいがある(前述したOmniKey 101同様、チャカチャカした印象がある)。
ただ、今ではキーボード用のメカニカルキースイッチを作っているメーカーが限られるため、贅沢を言ってはいられない。とりあえず「押さえ」に1台買っておくことにした。IBMブランドの101キーボードも、筆者的には新しくても、すでに7年前の製品なのである。購入して、短い原稿を2本ほど書いてみたが、仕事に使えないこともない。IBM 101キーボードを持っていなければ、あるいはこのキーボードを後継に選んだかもしれない。
USBキーボードとしては、筆者の手元にMicrosoftのNatural Keyboard Elite(PS/2兼用、写真9)と、だいぶ昔にこのコラムで取り上げたことのある、これまたぷらっとホームが販売するFKB8579/USB(写真10)がある。いずれも101キーボードに準拠したメンブレンスイッチ採用のキーボードだが、Natural Keyboard Eliteはいわゆるエルゴニミクスタイプのもの、FKB8579/USBは10キーなどを排除したミニタイプのものだ。Natural Keyboard Eliteが基本的には英語101キーボードにWindowsキーやアプリケーションキーを追加した配列なのに対し、FKB8579/USBはCtrlキーやEscキーが本来あるべき場所? にあるという違いがある(Enterキーの大きさは標準)。
この2台に加えて、今回PFUのHappy Hacking Keyboard Lite2(HHK Lite2)の英語配列USB版を購入してみた(写真11)。フルサイズのキーボードと同じキートップを持ちながら、使用頻度の低い特殊キーや10キーを省略することで小型のキーボードを実現している点ではFKB8579と同じ。また、3種類のUSBキーボードの中で、本製品だけがUSBハブ機能を内蔵している。
HHK Lite2もキースイッチはメンブレンだが、3種類のキーボードごとにキータッチは微妙に異なり、それぞれ人により好みが分かれるだろう。メカニカルキースイッチで育った世代である筆者は、HHK Lite2が最も違和感が少ないが、だからといって他のキーボードでは仕事ができない、というほどではない。ただ、スペースバーのタッチがFKB8579は硬すぎる気がするのと、HHK Lite2ではガシャガシャした感じなのが、ちょっと気になるところだ。Natural Keyboard Eliteは、いかにもメンブレンという感じのキータッチだが、キーによりタッチが変わらない点は良いように思う。ただ、このキーボードは筆者が使っている机にはちょっと大きすぎるようだ。
●古いキーボードのキータッチの良さが決め手に
結局、筆者はAXキーボードの後継に、IBMブランドの101キーボードを用いることにした。キーボードは、PCのコスト削減の矢面にたたされたデバイスだけに、キータッチの点で古いキーボードより良いものはない、というのが筆者の率直な感想だ。だが、これはあくまでも個人的なもの。国内で流通しているキーボードに慣れた人は、弾力が強すぎると感じるかもしれない。最終的には好みがモノを言うデバイスだ。ただ、今回、新しいキーボードを店頭で触ったり、実際にいくつかを購入してみて、探せば仕事に使ってもいいか、と思えるキーボードが見つかったのは、一安心という感じである。
さて、キーボードのインターフェイスという点で、IntelはUSBの採用を推奨している。筆者もいずれはUSBのキーボードを使うことに(使わざるを得ないように)なるのだろうが、あまり好ましいとは思わなかった。非常にシステムの負荷が高くなった状態で、キーが入りにくいと感じることがあったからだ。Intelが推奨していると言うことは、おそらくUSBキーボードの方がシステムに対する負荷が小さいことを意味しているのだが、ユーザからーの入力に対する優先順位が下がったようで、気分はちょっと複雑である。キーボードからの割込みを処理する負荷は、PCのアーキテクチャから考えるとよろしくないのかもしれないが、主人は誰なのさ、と言いたくもなる。
【元麻布】【2000年7月26日】減りつつある良質なキーボード
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/20000726/hot102.htm
(2001年12月19日)
[Text by 元麻布春男]