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667~800MHzを目指すDDR III規格策定のタスクグループが発足


●DDR IIとDDR IIIで帯域の切り分けは明快に

 いよいよDDR IIの先も見え始めた。JEDEC(米国の電子工業会EIAの下部組織で、事実上半導体の標準化機構)では、「DDR III」規格策定のためのタスクグループを10月に発足させた。DDR IIIでは667~800MHzの転送レートをカバー、2005~2006年に立ち上がるメモリ技術となると言われている。

 これにより、JEDECのDRAM規格は、メモリ帯域できっちり切り分けられることになった。次の図ような関係になる。

規格転送レート帯域規格名モジュール
DDR III 800MHz6.4GB/sec??
667MHz5.3GB/sec??
DDR II 533MHz4.3GB/secDDR533PC4300
400MHz3.2GB/secDDR400PC3200
DDR I 333MHz2.7GB/secDDR333PC2700
266MHz2.1GB/secDDR266PC2100
200MHz1.6GB/secDDR200PC1600



 まず、DDR IはPC向けのメモリとしては333MHzの「DDR333」で打ち止めで、400MHzと533MHzはDDR IIになる。今年の前半にはまだDDR I(現行のDDRメモリ)で400MHzの規格化の話もあった。しかし、結局、JEDECの規格としては見送られたという。ちなみに、Intelは当面はDDR I 266MHz(DDR266)までしかサポートしない。DDR I 333MHz(DDR333)をサポートしないのは、CPUのFSB(フロントサイドバス)との同期性がよくないからだと言われている。つまり、DDR I 333MHzのバスのベースクロックは166MHzになってしまうため、FSBベースクロックが100/133MHz(133MHzは来年登場)のPentium 4と合わないという。

 また、今年6月の段階ではDDR IIに含まれていた667MHzはDDR IIIに組み込まれた。DDR IIについては、今年7月のPlatform Conferenceで、規格名称がDDR400とDDR533になること、モジュール規格名称がPC3200、PC4300になることがアナウンスされている。

●DDR IIIではADTの広帯域規格とのマージが図られる?

 DDR IIについては、「Intelの推進する次世代メモリ規格ADTがDDR IIへと統合へ」でレポートした通り、現在、ADT(Advanced DRAM Technology,Intelと大手DRAMベンダー5社で結成したメモリ規格策定団体)の「ADT L(ADTメモリの低帯域規格)」の技術の一部が、拡張規格として提案されている。

 DDR IIIでは、これがさらに発展され、初めからADTの広帯域規格との融合が図られると見られている。「ADTとのマージは決まっているわけではないが、タスクグループの発足前からマージさせようという“雰囲気”はできあがっていた」とある関係者は言う。これは、そもそもADTを言い出したIntelが、業界標準規格のメモリを使いたいと言い出したためらしい。ある関係者は「Intelは、DDR IIのあとにDDR IIプラスをふまえてDDR IIIをサポートするという段階的ストーリーにしたいと、態度が変わってきている」と証言する。

 DDR II/IIIとADTの関係は、そもそも、これまでの方がいびつだったとも言える。ADTに規格策定メンバーとして参加するMicron Technology、Samsung Electronics、Hynix Semiconductor(旧Hyundai Electronics)、エルピーダメモリ(NECと日立製作所の合弁)、Infineon Technologiesは、いずれも業界最大手でDDR規格にも深く関わっているからだ。 「結局、やっている人たちは同じ。2つを分けてやっていたこれまでの方が難しかったんじゃないのか。同じメンツが、JEDECでは一般向けにここまでの技術という話をしながら、ADTではもっと進んだ技術を取り入れようと協議していた。DDR IIIではそれがなくなる」とある関係者は推測する。ADTのストローブレスアーキテクチャは、DDR IIIではおそらく検討されることになるだろう。

●共通ガーバーの開発が進むDDR IIのモジュール

 DDR IIのメモリモジュールは、現在、JEDECのコモンガーバー(Common Gerber,標準となる基板設計データ)開発が進められている。これにはJEDECに参加しているメルコなどが協力していることが、8月のAMDのDDRセミナーで明かされている。DDR IIのDIMMについては、10月には叩き台となるガーバーも出されている。

 DDR IIの伝送路の特性インピーダンスの制御は、DDR Iの場合と同じ60Ωプラスマイマス10%。つまり、基本的なインピーダンス特性は変えないでDDR IからDDR IIに移行するというストーリーだ。このスペックだけ見ると、モジュールレベルでは、DDR IはDDR IIと同じ程度の難度ということになる。これは、インピーダンス制御が格段に難しかったことがつまずきの一因になったRDRAMへの反省から出てきた方向性だという。

 もちろん実際にはそう簡単ではない。「現実的にはそれだとデータ(バス)が苦しいので、そこだけスペックを変えている。通常なら60Ωのインピーダンスで行くところを90Ωに変えて整合性をよくするという案も検討されている。しかし、90Ωになると、パターン幅も変えなければならないため、簡単には行かない。エッチング精度などを考えると成り立つのかどうか。このあたりは、まだ課題」とある関係者は語る。

 大まかに言うと、このあたりのスペックは、どこをきつくするかの問題になる。デバイス(チップ)側のスペックをきつくすると、モジュールやボードはラクになるという。つまり、モジュールやボードの設計や製造が容易になる反面、デバイスの製造は難しくなる。その逆に、モジュールの設計のハードルを高くしてマージンが狭くすると、今度はデバイス側がラクになる。つまり、デバイスを製造しやすくなる。

●デスクトップPCのメモリはSO-DIMMへと移行

 また、メモリモジュールについて、JEDECは基本的な変革を考えているらしい。それはSO-DIMMへの移行だ。ある関係者は7月頃「JEDECは、DDR IIではデスクトップPC向けのUnbufferedメモリモジュールはSO-DIMMへ移行させたいと考えている。SO-DIMMの2スロット限定で規格化したいようだ」と言っていた。

 実際、Platform Conferenceでは、今後の方向性として、次のようなメモリモジュールの棲み分けがJEDECのMemory ParametricsのチェアマンBill Gervasi氏(Transmeta)から提示された。

DIMMサーバー、4Uラックマウントサーバ、ワークステーション64MB~2GB/Slot
SO-DIMMデスクトップPC、ノートPC、1Uサーバ、ルータ、ブレードサーバー64MB~256MB/Slot
MicroDIMMサブノートブック、PDA32-256MB/Slot


 つまり、PCはSO-DIMM、サーバー&ワークステーションがDIMMという基本的な切り分けとなる。ある関係者は「現行のDDRの184ピンDIMMと同サイズの、高容量のDIMMについてはDDR IIからはRegisteredオンリーになる。廉価なUnbufferedはSO-DIMMになって行くというのが基本的なストーリー。DDR IIでは、Unbufferedで208ピンのSO-DIMMの規格を策定している」と言う。そのため、SO-DIMMを垂直に立てて装着できるコネクタも開発されている。  こうした考え方が出てきた背景には2つの要素がある。

(1)は技術的な制約の問題。

 転送レートがより高いDDR IIになると、タイミングやノイズのマージンがタイトになるため、配線長を短くできるSO-DIMMの方が有利になるという。原理的には、転送レートが速くなればなるほど、伝送路を短くする必要が出てくる。DDR IIでは、バッファにいったん信号を蓄えて安定化を図るRegisteredタイプならDIMMでもOKだが、そのままの信号をDRAMチップに入れるUnbufferedだとSO-DIMMでないと難しいという話らしい。

 もちろん、Registeredはコストが高くなるので、低コストが要求されるデスクトップPCには向いていない。そのため必然的にデスクトップがSO-DIMMへ移行して行くというわけだ。「これまではDIMMとSO-DIMMのどちらもUnbufferedがあって、同じ容量のデバイスを使うなら、DIMMの方が容量を2倍にできた。そのため、デスクトップではDIMMだった。しかし、DDR IIからはDIMMの方がRegisteredになる分、絶対的なコストが上がる。そのため、SO-DIMMへの移行がしやすくなると考えている」とある関係者は語る。

(2)はDRAMの容量世代の問題。

 SO-DIMMはx8/x16デバイスなら、4~8チップを搭載できる。256Mbit DRAM世代なら最大256MBをワンモジュールに搭載できる計算になる。2スロットだとしても最大512MBになる。DDR IIの後半で512Mbit品になってくると1GBもねらえることになる。その一方、デスクトップPCのメモリ容量需要は、128~256MBで当面は推移すると見られている。それなら、SO-DIMMで十分にカバーできるというわけだ。

 ただ、これはJEDECの思惑通りに行けばの話。「メモリをやっている側からすると、SO-DIMMへ移行していかないとおかしいと思う。しかし、モジュールのソリューションを選ぶのはPCメーカーなりマザーボードメーカー。だから、本当にそのストーリ通り行くのかどうかはわからない」とある関係者は言う。

 ただし、デスクトップメモリのSO-DIMMへの移行は、まだPCベンダーやマザーボードベンダーには真剣に受け止められていない雰囲気がある。SO-DIMMを使うと、伝送路の面積自体は減らせるが、配線の本数自体は減らないため、配線ピッチが問題になり4層基板で対応できないのではと疑問視する声もある。

 このあたりは、まだ十分な情報が提示されていない状態だが、流れとしてはSO-DIMM化へ向かっていると見ていいだろう。

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(2001年11月22日)

[Reported by 後藤 弘茂]


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