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Intelが2003年の「Springdale」でDDR IIをサポート


●2003年にはメモリ帯域は3.2~4.3GB/secへ

Intelメモリサポート推定ロードマップ

 Intelは2003年のチップセット「Springdale(スプリングデール)」でDDR II系メモリをサポートする。つまり、IntelのデスクトップPCは、2003年中盤にはDDR IIへと移り始めることになる。Intelは現在、266Mbit/sec転送のDDR266(PC2100)プラットフォームを立ち上げようとしているが、DDR266時代はわずか1年半で終わることになる。

 Springdaleでは、サポートされるメモリのデータ転送レートは400Mbit/secあるいは533Mbit/secへと引き上げられる見込みだ。シングルチャネルのメモリ帯域は、400Mbit/secで3.2GB/sec、533Mbit/secで4.3GB/secに達する。つまり、Pentium 4のシステムバス帯域と一致するレベルに到達する(SpringdaleのターゲットCPUはPentium 4ではないが)。また、Intelは、2004年のチップセットでは、さらに高い転送レートをサポートする可能性がある。CPUの高クロック化に合わせて、メモリも一気に高パフォーマンス化し始めた。

 ちょっと前まで、DRAM業界関係者は、デスクトップ/モバイルPCではSDRAMからDDRメモリへ移行したあとDDRの時代がしばらく続き、DDR IIはニッチに留まる可能性があると言っていた。そう言われていた最大の理由は、IntelチップセットでのDDR IIサポートの計画がなかったからだ。Intelは、トップDRAMベンダー5社と結成したメモリ業界団体「ADT(Advanced DRAM Technology)」で2003年以降のDRAM規格を策定しており、IntelはADT規格のメモリを自社プラットフォームでは推進すると見られていた。実際、もともとSpringdaleのメモリは、ADTを採用することが検討されていたという。

 DRAM業界としては、現行のDDRメモリ(DDR I)と互換性の高いDDR IIを次世代標準として推進したい。しかし、IntelはADTを推進しているため、そちらの様子をうかがいながらDDR IIの開発を進めるという状態だった。CPUでまだ最大シェアを持つIntelがADTを推進するなら、市場の流れはADTへ向かう可能性がある。だが、ADTもRDRAMのように立ち上げに失敗する可能性もあるので、DRAMベンダーはDDR II開発も続けるというスタンスだったわけだ。

 もっとも、ADTのメンバーはDDR IIの推進メンバーとだぶっており、実際には大手DRAMベンダーはADTを策定しながらもDDR IIを開発するという2段構えの戦略を採っていた。ちなみに、ADTの設立時(2000年1月)のメンバーは、Intel、Micron Technology、Samsung Electronics、Hyundai Electronics(現在の名前はHynix Semiconductor)、NEC(現在は日立製作所とエルピーダメモリを設立)、Infineon Technologiesの6社。現在も、規格の策定はこのメンバーで行なっているようだ。

●IntelがDDR IIに本格的に転じたのは2~3カ月前

 ところが、数カ月前にIntelがDRAMベンダーに対して、DDR IIサポート計画を打診したことで、流れは一気に変わり始めた。業界はDDR IIを、2003年のメインストリームメモリ規格にしようと動き始めたのだ。Intelがこうした方向へと本格的に動き始めたのは8~9月頃だったようで、9月には、複数の情報筋から一斉にこの話が漏れ伝わって来ていた。

 例えば、9月に会ったある米国のメモリ業界関係者は次のように言っていた。「IntelはADTの方針を変更した。シリアルメモリのプランを過去8カ月の間に完全に捨てた。その結果、ADTは実質的にDDR IIにかなりよく似た規格になる。違いはほとんど転送レートと電圧くらいで、10月にJEDEC(半導体業界団体EIAの下部組織のメモリ規格化団体)に提案してDDR II規格との融合を図るらしい。ADT参加DRAMベンダーは、高額なADTの参加費を払って、結局得られるのがJEDECの標準規格とさして変わらないものになるため、非常に怒っている。先行者利益がそれほど期待できないからだ」

 このADTと融合の部分はあとで説明するが、この時点でADTがかなり揺れており、DDR IIへのシフトが明確になっていたことがわかる。ADT関連の話が漏れだしたのは、ADTの混乱の結果のようだ。

 その後、IntelはJEDECでもDDR IIサポートの方向を明確にして行く。JEDECに近いある関係者は「IntelがやっとDDR Iを採用するところまできて、ポストDDR Iに何を使うかという話になった。最終結論はまだ(先週時点)だが、DDR IIかADTかの選択で、今のところDDR IIを採用すると言っている。今はもう、DDR IIは安心といえる。レールは確実に引かれつつある」と語っている。

 DRAM業界は、Intelのこの決定をおおむね歓迎している。それは、Intel抜きで始めたDDRメモリの立ち上げが、やっぱり難航したからだ。「力があるIntelが右向けというと皆右を向くのでやりやすい。IntelがサポートしなかったDDRは、結局市場がこの1年動かなかった。IntelがDDRをやるとなって、ようやく本格的に立ち上がる気配になった。DDR IIは、Intelが最初からサポートするのでうまく行くだろう」とある関係者は期待を寄せる。

 業界には、DDR IIへの移行が2003年という比較的早いフェイズで起きることで、現在のDRAM地獄を抜け出すきっかけになると期待する人もいる。「ここでDDR IIへ移行させないといけない。DRAM価格を戻すには、そうした材料が必要だ。DRAMはここのところ先が見えないどん底だったが、この数カ月で明るい方に行ったと思う」とある関係者は説明する。

●2003年のチップセットはDDR IとDDR IIの両対応へ

「IntelはDDR I(現行規格のDDRメモリ)とDDR IIの移行期まで真剣に考えている」という。そのために、SpringdaleではDDR IとDDR IIに両対応できるようにするとIntelはDRAMベンダーに伝えているようだ。SDRAMからDDRへの移行を、両対応チップセット「Brookdale(ブルックデール)」で対応するように、SpringdaleをDDR IIへの架け橋にしてスムーズにDDR IIへアップデートさせようという戦略だ。「DDR IとDDR IIは信号レベルの違いなどはあるが、ロジック的には基本的にほとんど差がない。チップセット側での両対応は非常に簡単に出来るはず」とある関係者は語る。

 DDR IとDDR IIの両対応は、Intelだけでなく他のチップセット&CPUベンダーにも広がってゆく可能性が高い。それは、DDR IIへメモリ市場全体がシフトをするからだ。業界関係者によると、実際に、ある大手DRAMベンダーがIntel以外のチップセットベンダーに対しても、将来のチップセットではDDR IとDDR IIの両方をサポートするように働きかけ始めたという。「2003年のカギはDDR IとDDR IIの両対応。流れとしては、これは当たり前のことになりつつある」そうだ。チップセットベンダー側にとっても、比較的簡単な対応でより高速なメモリがサポートできるため、DDR IIへ向かうと見られる。

 ただし、SDRAM→DDR Iの時ように、DRAMチップ自体を両対応にするという流れはないようだ。「DDR IIは4bitプリフェッチなのでオーバーヘッドが大きい。どうしてもチップ(のデザイン)はDDR Iと分けなければならない。また、DDR IIの主力が1.8Vインターフェイスとなると、2.5VのDDR Iとはやはり別チップにする必要が出てくる」とある関係者は説明する。

 こうした両対応の流れを受けて、DDR IIモジュールの規格も変わりつつある。DDR IIメモリモジュールの規格は、6月のJEDECで232ピン(133.35mm×28.5mm, ピンピッチ1mm, Zo仕様60Ω±10%)の仕様が発表されていた。ところが、11月頭になって、このDDR IIモジュールは240ピンへと急きょ変更になっている。

 モジュールが変更になった1つの理由は、DDR IとDDR IIでのコントローラ側での互換性を取りやすくするためだと言われる。しかし、もう1つの理由がある。それは、DDR II規格にADT規格の技術の一部を入れ込むためだ。じつは、現在、DDR II規格とDRAM業界は、このDDR IIへのADTの融合問題で大きく揺れている。このあたりは次回レポートしたい。



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(2001年11月15日)

[Reported by 後藤 弘茂]


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