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Intelの推進する次世代メモリ規格ADTがDDR IIへと統合へ


●2つ存在するADT規格

DRAM技術と帯域

 Intelは、大手DRAMベンダー5社と2000年1月に、2003年のメモリ規格を策定する業界団体「ADT(Advanced DRAM Technology)」を結成した。ADTは、6.4GB/secのメモリ帯域をゴールとして規格策定を始めた。これは、McKinleyのシステムバスの帯域にマッチする帯域で、64bit幅のバスで構成するならピン当たり転送レートは800Mbit/secとなる。Intelは、もともとはこの帯域を4チャネルのRDRAMで実現する予定だった。

 DDR IIと融合の話が出る前、ADTは最終的に2つのプランに収束しつつあったようだ。そのうち、最終ゴールの800Mbit/secをサポートするスペックは「ADT H」と呼ばれていたらしい。もう1つは、PC向けCPUクラスをカバーする533~667Mbit/secクラスのスペックで、こちらは「ADT L」と呼ばれているという。現状では、この2スペックに、技術面でも大きな違いが含まれるのかどうかわからない。しかし、ADT Lの技術の一部あるいは多くがDDR IIへ拡張仕様として持ち込まれつつあるのは確かだ。

 ADTがJEDEC(米国の電子工業会EIAの下部組織で、半導体の標準化団体として機能している)に規格を提案して、DDR IIとマージするという話は、8月末頃からメモリ業界を駆けめぐっていた。この時期、「AMD Developer's conference Summer '01」と「Intel Developer Forum(IDF)」、「VIA Technology Forum(VTF)」と立て続けにカンファレンスがあったが、その度毎に次々に進展情報が入ってくるという状況だった。また、ウワサのレベルでは、7月頃からADTが揺れていて、DDR IIとの関係を調整しようとしているという話が伝わってきていた。9月には、かなり広範に知られ始めていた。

 現在提案されているDDR IIの仕様拡張は、あるソースによると「DDR II+」と呼ばれているという。ADTは10月のJEDECで正式に提案したようだ。DDR IIは、6月のJEDECで、予備(Preliminary)スペックが完了していた。しかし、DDR II+が提案されたことで、やや複雑な状況になりつつある。「IntelはもともとDDR IIのスペックに含めたかったが、動きが遅くて間に合わなかったため拡張仕様という話になった」とある関係者は語る。Intelの2003年のSpringdaleチップセットがターゲットにするのは、実際にはこのDDR II+になりそうだ。

●アクティブターミネーションを拡張仕様として提案

 まず、拡張仕様として、今の段階でJEDECで議論されているのはアクティブターミネータ(active terminator)の搭載。ADT Lの技術の一部だったアクティブターミネーション機能を、DDR IIチップに取り込むことで伝送特性の劣化を抑えようという話が持ち上がっている。目的はもちろん、より高い転送レートを安全に実現することだ。

 あるメモリ業界関係者は「現行のDDR IIだと、2003年の主流は400MHzチップになってしまうが、アクティブターミネータを入れるなら533MHzチップも間違いなく行ける」と説明する。また、別な関係者は「Intel自身も、DDR IIでは400MHzは大丈夫だが、533MHzには疑問があるという態度を取っている。そのため、Springdaleは400MHzまでしかサポートしないことになっていた」と言う。つまり、DDR IIだと2003年は400MHz止まりで533MHzまで時間がかかるが、アクティブターミネータ入りのDDR II+なら533MHzまで製品化できるし、高い安定性でサポートできるというストーリーなのだ。そのため、特にIntelがアクティブターミネータを入れることに熱心だという。この、アクティブターミネータは、ほぼ決まりそうな雰囲気だという。

 こうした動きを受けて、Intelのチップセット計画も変わりつつあるようだ。これは、PC業界側からの情報でも裏付けられている。あるPC業界関係者によると、2003年のSpringdaleはDDR II 400MHzサポートの予定だったのが、533MHzもサポートするかもしれないとIntelが言い始めているという。

 この他にも多少の変更がある。DDR IIは、もともとバースト長は4だけだったのが、バースト8がオプションになり、ページサイズは1Kと2Kになったようだ。また、アクティブターミネーションを入れることに合わせた、キャリブレーション回路による信号補正の案も出ているという。12月のJEDECで、アクティブターミネーションとこのあたりまでを規格化するらしい。

 こうしたDDR IIチップの仕様拡張を受けて、DDR IIモジュールも仕様が変更になっている。もともとDDR IIモジュールは6月の時点で、232ピンの133.35mm幅のDIMM仕様が決まっていた。だが、現在はDDR II+仕様のためとDDR Iとのコントローラ側の互換性のために、ピン配列を変えリザーブピンを増やすことになり、11月に入って240ピンに変更になっている。おそらく、アクティブターミネイト用の制御を行なうためのピンが増えていると思われる。

 この新モジュール規格で、DDR IIとDDR II+の両方に対応、共通のガーバーで、DDR IIチップとDDR II+チップに貼り替えれば対応できるようにすると見られている。そうなると、モジュールレベルでは共通になるため、チップセット側がDDR IIとDDR II+の両方に対応していれば、マザーボードレベルでどちらも利用できるようになる可能性はある。

●まだ不鮮明な今後の展開

 ではこれでDDR II+の議論が終わって、業界がDDR II+で並んでスタートするのかというと、そうすっきりしたストーリーではない。DDR IIはもう開発はスタートしてしまっているわけで、DDR IIとDDR II+の関係をどうするかがまず問題になる。

 また、DDR IIとADT Lの融合自体、現状でもまだ不確定要素が多く、どう展開するのか見えにくい。そもそも、ADT LはDDR IIと似ていると言っても、かなり違う技術要素も多いらしい。アクティブターミネーションは、ADT Lの一部に過ぎず、ADT L自体もまだ規格化&製品化される可能性が残されている。そのため、DDR II、DDR II+、ADT Lがどういう関係になって行くのかが、まだわからない。

 そもそも、Intelは「DDR II→ADT L」というマイグレーションプランを提示していたという。ある業界関係者は「Intelは2003年のSpringdaleではADT Lを載せることも検討した。しかし、RDRAMの失敗を繰り返したくなかったため2003年は標準のDRAMで行きたいと言い始めた。それでSpringdaleはDDR IIとなった。しかし、SpringdaleにはADTのテストチップ的なファンクションも入れるとしていた。つまり、ADT Lも将来サポートすることをほぼコミットしていた」という。この時のプランでは、とりあえずDDR IIで行き、その後ADT Lを持ってくるというすっきりした話だったらしい。

 ところが、ADTのファンクションをJEDECにDDR IIの拡張仕様として提案するという段になって、再び話がややこしくなってしまった。

 ポイントは2つある。1つはDDR IIを製品化するのか、それともDDR IIは飛ばしてDDR II+でスタートするのかという点。2規格が並存するとしたらどう調整するのか。つまり、完全に並立するのか、400MHzはDDR IIで533MHzはDDR II+が主流になるのか、色々なパターンが考えられる。市場で棲み分ける可能性もある。

 もう1つは、DDR II+にADT Lの技術のほとんどを入れ込んでしまうのかどうか。アクティブターミネーションでストップせずに、さらにADT Lの技術をJEDECに提案して行くという可能性もある。あるいは、DDR IIに入れ込むのは一部の技術に止めて12月でスペックを確定、別個にADT Lを規格化するのか。

 じつは、このあたりの状況は、話を聞く相手によって全くストーリーが違ってくる。あるDRAMベンダー関係者に聞くと、ADT LはなくなりDDR IIの拡張仕様で完全に一本化すると言う。別のベンダーに聞くと、いやDDR IIはマイナー拡張だけで標準化して、ADT Lは別個に持ってきたいという。DRAM業界内でも、かなり意見が割れているらしい。次回はそのあたりをレポートしたい。



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(2001年11月16日)

[Reported by 後藤 弘茂]


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