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●RDRAMの利点はグラニュラリティフリー
IntelのDDRメモリシフトで、Intelベースのシステムではニッチに押し込まれつつあるRDRAM。しかし、DRAM関係者と話をしていると、結構な割合で「PC向けなら、RDRAMがいちばんいいソリューション」というセリフが出てくる。RDRAMが離陸に失敗したことを嘆く声は、意外と多い。
もちろん、すでにRDRAMに投資してしまったメモリ/モジュールベンダーにとって、RDRAMビジネスを望むのは当然なのだが、それだけが理由ではない。純粋に技術的な見地から、DRAMの将来を見通した場合、RDRAMがいちばん優れた解だと考えている関係者も多いのだ。その第1の理由は、RDRAMがGranularity(グラニュラリティ:粒度=最小構成容量)の壁を突破できる、DRAM技術だからだ。
製造プロセスが微細化するに従って、DRAMの容量はどんどん高まる。そして、DRAM容量の増大に従って、PCに搭載するメモリの最小の容量であるグラニュラリティも増大してしまう。それは、PCのメインメモリは、今のところ4チップ以下にできないからだ。
現状のメモリ技術ではメモリ帯域を確保するために、PCのメモリインターフェイスに最低限64bit幅が欲しい。一方、低コスト(ダイオーバーヘッドが小さい)のDRAMチップは語構成が「x8」や「x16」、つまり8bitや16bit幅のインターフェイスとなっている。これは、インターフェイス幅を増やすとダイサイズ(半導体本体の面積)が大きくなり製造コストが跳ね上がってしまうためだ。x32はコストが高いため、グラフィックス向けなど特定用途に限られている。
そうすると、PCでは64bit÷16bit=4で、最低4個のDRAMチップが必要になる。最低4個というのは、ここから来ている。そして、そうすると、現在主流の128Mbit DRAMチップの場合、128Mbit×4個=64MBがグラニュラリティになる。
●64bit幅インターフェイスが問題をはらむ
現在、PCの必要メモリとグラニュラリティはちょうどマッチするところへ来ている。来年には256Mbitチップ世代へ移行してグラニュラリティは128MBになるが、PCの側もWindows XPへの移行でミニマム(最低我慢できる容量)が128MB、ちょっとリッチな構成で256MBが標準になる。ここまでは問題がない。だが、その先になると話が違ってくる。グラニュラリティが大きな壁としてのしかかって来るのだ。64bit幅メモリインターフェイスの場合、DRAMの容量とグラニュラリティの関係は次のようになる。
DRAM容量 | グラニュラリティ |
128Mbit | 64MB |
256Mbit | 128MB |
512Mbit | 256MB |
1Gbit | 512MB |
この表の右側の容量がグラニュラリティの壁だ。例えば、DRAMチップが512Mbitになると、SDRAMやDDR、DDR IIでは最低256MBを搭載しなければならない。ところが、その時点でも、ローエンドパソコンが128MBで十分だった場合は、128MB分が余計になってしまう。逆に言うと、DRAMチップを2個に抑えて、128MB構成にして、PCのトータルのコストを下げることができない。いつまでたっても、PCのDRAMは4チップのままで、高集積化=コスト削減とならないわけだ。つまり、PCの搭載メモリで、帯域は増やす必要があるが、容量はそれほど急激に増やす必要がない場合、今後はグラニュラリティが壁になってしまうのだ。
それに対して、RDRAMはグラニュラリティフリーを謳う。ワンチップでワンチャネルを構成できるからだ。RDRAMは、インターフェイス幅が狭く、ピン当たりの転送レートが高い。シングルチャンネル(16/18bit幅)で1.6GB/sec(PC800の場合)、デュアルチャンネル(32/36bit幅)で3.2GB/secのメモリ帯域になる。現状を見ると、デュアルチャネルでPentium 4のFSB(フロントサイドバス)に見合う帯域を実現している。RDRAMチップはx16/x18なので、シングルチャネルなら1個、デュアルチャネルなら2個で構成できる。そのため、デュアルチャネル構成の場合のグラニュラリティは次のようになる。
RDRAM容量 | グラニュラリティ |
128Mbit | 32MB |
256Mbit | 64MB |
512Mbit | 128MB |
1Gbit | 256MB |
これなら、当面はグラニュラリティが壁になる心配がない。もっと具体的に、512Mbitチップ世代の時で比較すると、もし、ローエンドパソコンが128MBで十分だった場合、512Mbit世代ではRDRAMが2チップで128MBができるのに、DDR/DDR IIだと4チップで256MB構成になってしまう。そうすると、RDRAMが2倍の価格だったとしても引き合ってしまう。
RDRAMを推進していたDRAMベンダーはいずれも、これがRDRAMの大きな利点で、この先の世代では必要な技術だと説明していた。例えば、あるDRAMベンダーの幹部は今年の頭には「グラニュラリティを考えるとRDRAMは必須。512Mbitや1Gbitになった時、PCに(その容量のDRAMチップ)は使えませんと言われると困る。だからRDRAMをやる」と言っていた。
●グラニュラリティの増大で下がるDRAMチップ大容量化のデマンド
しかし、いくつかの偶然やIntelの戦略ミスなどから、DRAMのメインストリームはグラニュラリティの制約のきついSDRAM/DDR系メモリになってしまった。その結果、DRAMベンダーは重大な危機に直面しつつある。それは、DRAM大容量化へのデマンドの低下だ。
DRAMの容量世代の交代のペースは、段々と緩みつつある。3年で4倍容量への移行が2年で2倍容量への移行になり、この先はさらに緩やかになる可能性まで出てきた。これには、技術的なものもふくめていくつかの要因が重なっている。しかし、もっとも根元的な問題は、グラニュラリティが高まった結果、DRAMチップの大容量化のデマンドが少なくなりつつあることだ。
かつては、グラニュラリティが小さかったため、1モジュールの容量が限られていた。そのため、PCのメインメモリ容量を同じボード面積で増やそうとすると、DRAMチップの容量を増やすしかなかった。だから、メモリの必要量が増えるたびに、DRAMの大容量化がどんどんドライブされた。
しかし、今は1モジュールでも十分な容量を確保できる。例えば、128Mbitチップ16個で256MBが構成できるわけで、2モジュールなら512MBができる。一般的なPCの必要量に十分達しているわけで、そうすると、256Mbitチップへ移行する利点が薄れてしまう。これは、先端を走るDRAMベンダーにとって、ネガティブな要素として働く。つまり、プロセス技術の微細化やDRAMセルの小面積化でリードし、大容量化で先行して高マージンを得ることが難しくなるからだ。
もちろん、サーバー&ワークステーションでは大容量化はまだまだ必要性が高いまま続く。しかし、デスクトップPCでは現状の128Mbitチップで2スロットで十分な構成ができるため、大容量化へのデマンドは明らかに薄くなっている。DRAMベンダーにとって怖いのは、この状態がしばらく続いてしまうことだ。低容量のチップを安く作った方が勝ち(今は誰もが原価割れなので論外の状況だが)となってしまうからだ。
そのため、先端DRAMベンダーにとっては、大容量化か広帯域化のどちらかへデマンドが向いてくれないと困る。苦境にあるDRAMベンダーが、DDR IIやDDR IIIへとどんどん技術をドライブしている理由のひとつはそのあたりにもある。広帯域化によって、大容量化のデマンドも生まれ、DRAM市場が再浮上できるからだ。
メモリ帯域をもっと広くする必要が出ると、DRAMの大容量化のデマンドも発生する。これは単純な話で、メモリのピン当たり転送レートを高めようとすると、タイミングバジェットなどが減るため、モジュールの制約がもっときつくなるからだ。あるDRAM業界関係者は、「DDR III世代あたりになるとワンスロットに制限しなければならなくなるかもしれない」という。その場合には、ワンモジュールでPCのメインメモリを構成することになる。
例えば1モジュールで8チップ(SO-DIMMクラスの場合)が最大となるとしよう。その場合、512Mbitチップで512MB、1Gbitチップで1GBが最大容量となる。2005年頃にそうした状況になるとすると、1Gbit DRAMチップのデマンドが、PCでも確実に生まれるというわけだ。その時には、技術的に先行するDRAMベンダーが、再び優位に立てるだろう。
問題は、そうした時期が来るのは、まだ3~4年先だということだ。それまでは、技術面で優位性を持つDRAMベンダーも、その優位を活かしにくい。
(2001年11月30日)
[Reported by 後藤 弘茂]