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電気街からPC街へと変貌した秋葉原は、さらに新しい時代を迎えようとしています。全5回の予定で、秋葉原の“今”をレポートします。毎週月曜日に掲載予定。(編集部)
◆期待の再開発計画だったが……
秋葉原の大手家電量販店のある幹部は、声を荒げて、こう言い放った。
怒りの矛先は、ヨドバシカメラの秋葉原進出に伴う、再開発計画の行方である。
「このまま東京都の計画に賛同して、活動していたら、横からおいしいところをごっそりとヨドバシにもって行かれるだけだ。これじゃあ、納得するわけにはいかない」
もちろん、最初から再開発計画にヨドバシ進出が明記されていたわけではない。いきなり、再開発地域の土地所有者にヨドバシカメラの名前が出てきたのだ。秋葉原電気街が集客増の切り札として期待していた再開発計画が、一転して、競合との争いの舞台へと変わってしまったのだ。
ここ数年、秋葉原電気街では、旧神田青果市場跡地および旧国鉄所有地を巡る再開発計画が大きな課題となっているのは周知の通りである。
具体的な構想として、第2東京タワーと呼ばれる秋葉原ITタワーの建設案などが浮上しており、秋葉原電気街を新たな情報発信基地として、あるいは最先端IT技術集積地区に再構築するべく、それにふさわしい施設やイベントスペース、企業などを誘致する計画があがっている。
秋葉原電気街が明らかにしているITタワー構想では、デジタル放送通信アンテナとしての役割を果たすとともに、世界一の高さとなる展望台やアトラクション施設をもった「空中楽園都市」、iDC(インターネットデータセンター)や各種オフィスが入居する「IT対応型最先端オフィス」、オープンスクールやインキュペーションセンター、デジタルイベントスペースなどの設置が予定されている。確かに、秋葉原が最先端の情報発信基地として、生まれ変わるには、十分といえるものだろう。
青果市場跡にあった駐車場も開発が進む |
構想では、3階までを駐車スペースとして500台を収容、さらに付帯地域で1,000台が加えられる。
現在の青果市場跡を利用した平地で500台を収容しているにも関わらず、3階までを使用しても500台というのは少ない気がするが、その背景には、消防署やマンションなど、すでに建設が決定している建設物へのスペースが割かれること、さらにITセンター内に含まれる一部施設スペースを省くと、どうしても、500台という数に限定されてしまうようだ。
いずれにしろ、秋葉原電気街を訪れた利用者が使用できる駐車場を確保できるということは、電気街の各店舗にとっても、極めて重要なことなのである。
◆突如明らかにされたヨドバシカメラ進出
ヨドバシカメラ建設予定の敷地(Photo by AKIBA PC Hotline) |
秋葉原関係者によると、「ヨドバシカメラがどんな建物を建設する予定なのかはしらないが、ここに数100台規模の駐車施設ができるのは間違いないだろう」と予測する。
現時点では、ヨドバシカメラ側は、土地を取得したことに関しては明らかにしているが、建設計画などについては、一切コメントを控えている。
国鉄清算事業団に提出された資料などによると、ヨドバシカメラが取得したのは、秋葉原電気街の中心地となる中央通りとは、JR山手線、京浜東北線を挟んで、反対側の場所。電気街とは逆となる昭和通りに近い位置である。
もともとは日本鉄道建設公団が所有していた場所で、ここに、地下1階、地上10階、延べ床面積3万平方メートルのビルを2005年にも建設、上層階に駐車場を設置するという。そして、乗り入れが予定されている常磐新線の乗り場にも近いとされている。
秋葉原電気街という意味でみれば、決して、恵まれた立地ではないが、ここにヨドバシカメラというブランド力と、これだけの売り場面積、そして駐車場があれば話は別だ。秋葉原電気街の連動性とは別に、ここだけで集客、販売が完結するという仕組みが成り立つからである。
◆アキバは活性化? それとも……?
秋葉原電気街の関係者の間では、ヨドバシカメラの秋葉原進出の報道を聞いて、意見が大きく2つに割れた。
前向きな捉え方は、陳腐化が叫ばれる秋葉原の集客が増え、街自体が活性化するというものだ。
秋葉原は、これまでにも多くの参入組を吸収して拡大してきた。いまは、秋葉原の一員となっているソフマップでさえも、秋葉原電気街振興会に加入するにはかなりの時間を要したアウトロー組だった。だが、そのソフマップによって、秋葉原へのパソコンユーザーの来客数が増え、シナジー効果を生み出したのは明白だ。同様に、最近、秋葉原に急増しているフィギュアショップやアニメ関連ショップも、パソコンユーザー層と一部重なるという点から顧客の来店数を拡大させた背景がある。
こうした経験から、古参の秋葉原関係者ほど、ヨドバシ進出のシナジー効果を期待しているのである。
だが、若手経営者や現場担当者からは、今回のヨドバシカメラ進出は、これまでの例とは異なる、といった危機感をもった声が聞かれている。
先にも触れたように、秋葉原電気街の中心部から離れていることで、電気街との連動性が薄いこと、さらに、秋葉原で最大規模となる駐車スペースを擁することで、ヨドバシカメラが完結型のビジネスを行えること、などがその理由だ。
もちろん、東京都の計画では、ヨドバシカメラが建設した駐車場スペースも、中央通り側の販売店が利用できるようになる、という。
「たとえ、我々が利用できるとしても、ヨドバシの駐車場に止めて、うちの店に来てくださいなんていえるものじゃない。それに、ヨドバシカメラのあの場所に、スポンスポンと車を入れられたら、わざわざ中央通りの店までこなくても、すべてが完結してしまう」(大手量販店幹部)というわけだ。
別の量販店幹部は、「ヨドバシカメラの店の前に、無料シャトルバスを通して、こっちに集客するしかない」と冗談ともとれるアイデアを本気で話す。それほどの危機感が漂っているのだ。
◆駐車場を制するものはアキバを制す
一方、ヨドバシカメラにとってみれば、秋葉原に進出することは、自らが築いた新宿や錦糸町の顧客を分散させる結果になりかねないとして、これまでは、これを敬遠していたはずだった。
だが、今回の秋葉原進出の背景には、秋葉原電気街との連動性が薄いことで、秋葉原の活性化による新宿、錦糸町市場の分散よりも、秋葉原電気街を活性化させずにヨドバシの店舗に集客が図れるという読みがあるに違いない。また、3駅隣の有楽町に進出したビックカメラへの対抗として、駐車場設備がある点で競合優位性を発揮しようという狙いもあるだろう。
秋葉原の量販店のある幹部は、こうつぶやく。
「ヨドバシカメラは、秋葉原の弱いところを本当によく知っている。駐車場を押さえたら勝ちということを熟知している。進出予定の2005年までの間に、ヨドバシ対策を真剣に考えなくては、電気街のお客を全部とられてしまう」
駐車場を巡る争いが、そのまま勢力図の変化につながるというわけだ。
秋葉原の人の流れが変われば、それは量販店にとって致命傷になりかねない。2005年の秋葉原の姿は、いまの姿とはまったく違うものになっているはずだ。
(2001年11月2日)
[Reported by 大河原 克行]