大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

第14回:HP、Compaq合併
「世界を代表する巨大IT企業」の大きな課題


●買収報道時、偶然居合わせた両日本法人社長

 米Hewlett-Packardによる米Compaq Computer買収の報道が、日本で広がり始めた9月4日正午過ぎ。日本ヒューレット・パッカードの寺澤正雄社長と、コンパックコンピュータ株式会社の高柳肇社長は、偶然にも同じ場所にいた。

 この日、東京・日比谷の帝国ホテルで、大手コンピュータディーラーである大塚商会の「感謝の集い」が開かれており、500人を超える業界関係者トップが集まっていたからだ。

 本来ならば、この日、NECでは社長を中心とした一大ミーティングが予定されていたが、それを延期してまで、NEC幹部が駆けつけるほどの大規模なパーティー。取引先である日本HP、コンパックの2人の社長も駆けつけたのは当然のこと。まだ、その時点では、それほど合併/買収に関する情報が公になっていなかったこともあって、会場でこれを話題にする人はそれほど多くはなかったようだが、もし、この会の開始が、あと1時間でも遅かったら、会場内はこの話題で持ちきりだっただろう。それほど微妙なタイミングで、2人の社長は、同じ場所に居合わせたのだ。そして、この会合のあと、寺澤社長はすぐに米国に飛ぶ準備に取りかかったという。

 一部報道にもあるように、日本法人の合併については、現段階ではまだ白紙だ。依然として両社では、米国での発表リリース以上のことには触れていない。関係者などの発言をまとめると、日本法人の体制について明らかになるのは少なくても来週以降、いや、もう少し先のこととなりそうである。

 ところで、今回の買収/合併について、米国では、多くの報道が行なわれたが、そのほとんどが、IBMと肩を並べる規模のIT企業が誕生した、といった論調になっている。日本での論調もほぼ同じだといえよう。

 パソコン、サーバー分野では、DellやIBMを抜き、トップシェアベンダーになるという表記は、同社が発表したリリースにも大きく唱われており、この合併が極めて大規模であることを示している。

 だが、この規模が、果たしてどれだけの意味をもつのか、という点に触れている報道が少ないのが残念だ。


●疑問視される買収の意義

 周知のように、パソコンやサーバーの単体ビジネスは、収益性という点では極めて低い。Gatewayが日本から撤退した背景には、日本において箱売りからの脱皮ができなかったことが理由としてあげられるし、Dell Computerが高い収益性をあげているのもソリューションビジネスへの転換が成功したからだ。

 国産IT企業各社が、相次いで大幅なリストラ策を発表しているが、それを尻目に、日本IBMが、最新四半期となる4~6月に前年同期比11%増という高い成長率を誇り、今後3年間に渡り3,000人規模の人材獲得を図っていくとしたのも、ソリューションビジネスへの転換が成功し、今後、この分野の増員は不可欠だと考えているからにほかならない。

 つまり、極論すれば、いくらボリュームを追求しても、箱売り事業からの脱皮が進ま ない限り、収益拡大には限界があるのだ。

 HPの業績が悪化している原因は、ソリューション事業の拡大が進展しなかったこと、そして代理店事業戦略がつまずいたからだといわれる。

 一方、Compaqは、'97年から'98年にかけてDEC、Tandem Computerという2つの企業を買収、とくに、DECのソリューション技術を生かすことで、「パソコン」メーカーから「コンピュータ」メーカーへの脱皮を図ろうと、ソリューションビジネスへの転換を模索した。だが、結果として、人材流失などの影響もあって、DECやTandemのノウハウを社内に蓄積できなかったという大きな失敗がある。

 Compaqが、DEC買収後も収益の改善ができずに、営業利益率がパソコンメーカーの域を出なかったのも、そこに理由があるといえよう。

 当時、ライバルのSun Microsystemsが、旧DECの本社があったボストンに、人材採用のための拠点を作り、旧DEC社員を採用していったという逸話は業界内では有名な話。そのSun Microsystemsは、最新四半期こそ赤字に転落したものの、実際には保有株式の評価損や企業買収に伴う特別損失を計上したためで、これを除けば黒字という状況。過去5年間に渡って、年平均成長率20%増の増収という高い成長率を確保しているほか、2000年は営業利益率も7%と好業績を収めているのだ。Compaqが、HPとともに、最新四半期では大幅な赤字を計上しているというのは、なんとも皮肉な話である。

 こうした業績悪化を背景に、HP・フィオリーナCEO、Compaq・カペラスCEOの進退問題も囁かれていただけに、その点でも、今回の合併発表はまさにウルトラCといえる。


●合併の波紋はMS、Intelにも及ぶ?

 もうひとつ、注目されているのが、MicrosoftおよびIntelとの関係がどうなるかである。

 Intelに関しては、両社ともに大変近しい関係にあることから、実は、あまり問題がない。むしろ、今後のIA64の発展に、今回の合併が大きく寄与する可能性の方が強い。

 問題は、Microsoftとの関係である。Windowsを強力に推進してきたCompaqに対して、これまでの経緯からHP-UXによるUNIX戦略を主軸にするHPとは、まさに戦略が異なる。とくに、今後のビジネスの上で主役となるIA64戦略では両者の立場は大きく分かれることになる。

 米国では、今回の合併をMicrosoftはあまり歓迎していないようだという報道も流れているようだが、この戦略の行方にも注目したいところだ。

 また、低価格パソコンへの加速も米国では話題となっているようだ。日本でも、元祖低価格パソコン競争に火をつけたコンパックと、昨年来、低価格パソコンの雄となっている日本HPの合併は、低価格パソコンの進展を期待させる。これは、サーバー分野にも飛び火することは間違いなく、競合メーカーが警戒するのは当然といえよう。だが、合併後の新会社が、この路線ばかりを追求するようでは、合併の意味はないだろう。

 話は戻るが、今回の合併により、サーバー、パソコンのボリュームが増えただけでは、その効率化による収益拡大には限界があるのは明白である。収益性という点では、到底、IBMには追いつかないだろう。問題は、このボリュームをベースとしながら、いかにソリューションビジネスを立ち上げることができるかである。

 だが、残念ながら、この分野のノウハウに関しては、両社は蓄積不足といわざるを得ない。日本では、日本HPが、昨年度実績で、エンタープライズ分野で20%増、コンサルティング分野で50%増という高い成長率を遂げているが、まだ改善の余地は大きい。また、コンパックでも、旧Tandemの事業で、通信、金融分野などに優良顧客を獲得、同時に定評のあった旧DECのソフト/コンサルティング部門も存続しているが、それでも、コンパッ ク・高柳社長の古巣・日本IBMの体制と比べれば、その差は歴然だ。

 サーバー、パソコン分野でトップシェアであることや、両社で874億ドルに達する売上規模だけを見れば、世界を代表する巨大IT企業が誕生したといえるが、収益を伴わなければ、それは「巨大な張りぼて」状態となりかねない。合併後の大きな課題は、ソリューションビジネスの拡大にあるといえる。


□関連記事
【9月4日】HP、Compaqを吸収合併と正式発表
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/20010904/hp_comp.htm

バックナンバー

(2001年9月6日)

[Reported by 大河原 克行]


【PC Watchホームページ】


ウォッチ編集部内PC Watch担当 pc-watch-info@impress.co.jp

Copyright (c) 2001 impress corporation All rights reserved.