大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

第11回:国産勢を尻目に好調を誇る日本IBM


●逆風の中で大規模な採用計画

日本IBM 大歳卓麻社長

 日本IBMの大歳卓麻社長は、今後3年間に渡って、本社、子会社をあわせて、年間3,000人規模での採用を継続していく方針を明らかにした。

 富士通、東芝、NEC、松下電器といった国産大手が相次いで大規模な人員削減を含むリストラ策を発表しているのに比べると、経営体質の違いを見せつける格好になった。

 大歳社長によると、3,000人のうち約400人が中途採用で、これは前年比2倍の規模。さらに、新卒者に関しても、来年4月採用者で、Linux技術者だけで700人を採用するなど、ソフトおよびサービス関連技術者の採用に力を注いでいる。

 「失業率が5%に達したと発表される一方で、IT業界においては、本当に欲しいスキルを持った人材はわずか5%しか集まらない、ともいわれている。人材の確保と人材スキルの向上は大きな課題」(大歳社長)として、今後も積極的な人材面への投資と強化をすすめていく方針を示した。

 人材育成策として、e-ラーニングの手法を活用する方針を掲げ、効率的な教育体制を確立する予定。

 同社内では、すでに活発的なe-ラーニングの活用を開始しており、現在、個人の学習時間の32%がe-ラーニングによるものだという。これを、今年中には42%に拡大、「将来的には、半分以上をe-ラーニングにしたい」(大歳社長)としている。

 国産企業が相次いで大幅なリストラ策を打ち出していることから、ここで輩出される優秀な人材を獲得するという狙いも見え隠れする。

●Linuxと無線LANに注力、s30の3割が無線LANモデル

 一方、大歳社長は、こうした「人材確保、人材スキルの向上」のほかに、「e-ソーシング」、「イマージングビジネス」を加えた、3つの重点方針を、下期の課題とした。

 e-ソーシングは、サービス事業の拡大、アウトソーシングの拡大に続く新たな事業領域で、インターネットを活用したサービス事業の拡大を狙うもの。

 「'90年代初頭から試行錯誤を繰り返しながらサービス事業の拡大に取り組み、これが'95年に1,000億円の規模となった。その後、アウトソーシング事業に乗り出し、昨年1,000億円を突破した。これに加えて、今後は、e-ソーシングに力を注いでいくことになる」とし、「この領域は、2003年には全世界で6兆円の市場規模になる」とした。

 日本IBMでは、7月にウェブホスティング事業部を40人規模で発足したほか、全世界で50ヵ所にiDCを設置するという世界的なビジョンに則って、9月27日には千葉県・幕張に約100億円を投資したデータセンターを開設する。

 イマージングビジネスは、IBMが提案する新たな造語。「日本語に訳すと、適切な言葉がないので、そのまま使用する」というが、大歳社長によると、「何かが出てきそうな気配や、ずっと先に形になるといった分野に対して、ビジネスとして取り組んでいくことを示した言葉」だという。

 具体的な領域として掲げたのが、Linux。今年6月には、大歳社長の直属組織として、200人規模でLinux事業部を設置、新卒採用者でもLinuxの技術知識を有する人材確保を優先している。また、富士通、日立製作所、NECとの協業でLinuxによる基幹業務システムに関するプロジェクトを積極的に進める考え。

 ブロードバンドおよびワイヤレスへの取り組みもイマージングビジネスの一環。とくに、ワイヤレスでは、ThinkPad S30への無線LAN搭載が成功、出荷数の3割が無線LAN対応モデルという。さらに、ワイヤレス環境の整備にも積極的で、JALの成田ラウンジのほか、京王プラザホテルのロビーなどのほか、日本IBMの大和研究所でも実験を開始している。

 「大和研究所は、セキュリティ確保の面などが重要視されることから、実験を行なうには一番厳しい環境にある。あえて、ここを選び、実験を行なっている。現在、研究所内の70%のエリアで使用することが可能で、300人程度がワイヤレスパソコンを利用している」という。

 そのほか、新たな取り組みでは、今年10月にライフサイエンス専門の事業部門を設置する考えを明らかにした。

 ゲノムや遺伝子解析分野におけるIT支援を目的とする部門で、「この分野には3年間で1億ドルの投資を予定している」という。

●“IBM Technology”ロゴで技術力を誇示

 技術的な優位性を広めるために、“IBM Technology”のロゴを貼付する施策も開始した。第1号が任天堂のゲームキューブで、今後、IBMの技術を搭載した製品にはこのロゴを貼していく。

ゲームキューブのパッケージに貼られた“IBM Technology”ロゴ

 日本IBMでは、こうしたイマージングビジネスを展開するために、新組織として「イマージングビジネス推進」を設置、営業の最前線経験者、研究開発部門の人材、人事・労務管理の経験者など10人程度で構成した。

 「サービスの中身が変化していることに対して迅速な対応を図ること、ITがどういう分野においてビジネスとして顕在化するのか、人材とスキルの問題をどう活性化させるか、といったことを焦点にして取り組んでいく」という。

 ところで、日本IBMの大歳社長は、相次ぐIT企業の大規模リストラについて、「一概にIT不況といっても、企業によって状況は大きく異なる。当社も継続的にリストラはすすめており、すべての分野を見直し、仕事のやり方を変えている。第2四半期(4~6月)は、厳しい経費管理、コスト管理を行なった結果、売上高では前年同期比11%増という伸びになった」とコメント、業績の好調ぶりを強調した。国産各社の厳しいリストラ策を尻目に、余裕の表情を見せつけた格好だ。

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【8月24日】IBM、コンシューマ製品に自社ブランドを表すロゴを表記
~第一弾はニンテンドーゲームキューブ
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/20010824/ibm.htm

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(2001年8月31日)

[Reported by 大河原 克行]


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