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新世代バリューPC向けCPU対決
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●Tualatin-256Kコアを採用したCeleron 1.2GHz
今回IntelがリリースしたCeleron 1.2GHzは、これまでPentium IIIだけに利用されてきたTualatin-256Kコアを採用している。Tualatin-256Kコアは、製造プロセスルールが0.13μmに微細化されたCPUコアで、L2キャッシュの容量が従来のCeleronに利用されていたCoppermine-128Kに比べて倍の256KBに増やされている。それぞれ、Celeron、Duronの違いを表にすると、次のようになる(ただし、Covington、Mendocinoコアはすでに現役ではないので除外)。
【表1:CeleronとDuronの比較】
Celeronプロセッサ | Duronプロセッサ | |||
---|---|---|---|---|
コア | Coppermineー128K | Tualatin-256K | Spitfire | Morgan |
CPUソケット | PGA370 | PGA370 | Socket A | Socket A |
パッケージ | FC-PGA | FC-PGA2 | CPGA | CPGA |
クロック | 533AMHz~1.1GHz | 1.2GHz | 600MHz~950MHz | 1GHz~1.1GHz |
システムバスクロック | 66/100MHz | 100MHz | 200MHz | 200MHz |
L1キャッシュ容量 | 32KB | 32KB | 128KB | 128KB |
L2キャッシュ容量 | 128KB | 256KB | 64KB | 64KB |
L1+L2合計 | 160KB | 288KB | 192KB | 192KB |
拡張命令セット | ||||
MMX | ○ | ○ | ○ | ○ |
SSE | ○ | ○ | - | ○ |
3DNow! | - | - | ○ | ○ |
エンハンスト3DNow! | - | - | ○ | ○ |
今回L2キャッシュ容量が256KBに増量されたことにより、L1+L2キャッシュの合計が288KB(=32KB+256KB)となり、Duronの192KB(=128KB+64KB)に比べて容量が大きくなったのが特徴といえる。これにより、CPUの処理能力は単にクロックが上がった以上の向上を期待することができるだろう。また、製造プロセスルールが0.13μmに微細化されているため、これに併せて駆動電圧も下げられている。Celeron 1.2GHzの駆動電圧は1.475Vで、Celeron 1.1GHzの1.75Vに比べて下げられており、消費電力の指標の1つであるProcessorPowerは1.1GHzが33Wであるの対して、クロックがあがっているのにもかかわらず1.2GHzは29Wとなっている。
なお、システムバスは100MHzにとどまっているが、電気仕様が変更されているため、Tualatinコアをサポートしていないマザーボードでは利用することができない。ちなみに、Pentium III 1.2GHzのシステムバスは133MHzとなっており、この点が唯一Pentium III 1.2GHzとの違いになっている。
パッケージも従来のCeleron 1.1GHzに比べて変更されている。Celeron 1.2GHzでは、Pentium III 1.2GHzなどと同じように、FC-PGAにヒートスプレッダを取り付けたFC-PGA2に変更されている。ヒートスプレッダを取り付けることにより、CPUコアはむき出しではなくなるため、CPUコアを破壊するというトラブルを避けることができるほか、CPUが外部に放熱する面積が大きくなるため、CPUクーラーの取り付けにFC-PGAほどは注意する必要がなくなるというメリットがある。今回筆者が購入したCeleron 1.2GHzはリテールパッケージだったが、CPUクーラーはFC-PGA2用のものに変更されていた。
従来型Celeron 1.1GHz(右)との比較。左のCeleron 1.2GHzにはヒートスプレッダという放熱版が追加されていることがわかる | 裏側。左がCeleron 1.2GHz、右側がCeleron 1.1GHz | 付属するCPUクーラー。右側がCeleron 1.1GHz付属のもの、左側がCeleron 1.2GHz付属のもの。Celeron 1.2GHzの方が小さくなっている |
●従来型Celeronと比べて大幅パフォーマンスアップ
Celeron 1.2GHzの比較には、Coppermine-128KコアのCeleron 1.1GHzと1GHz、MorganコアのDuron 1.1GHz、1GHz、さらにSpitfireコアのDuron 950MHzの5製品を用意した。Celeronのプラットフォームとして用意したのはIntel純正のIntel D815EEA2(ユニバーサルバージョン)だ。チップセットにはIntel 815(Bステップ)が採用されており、TualatinコアのCPUをサポートしている。初期状態では、BIOSレベルで「Pentium III 1.2GHz」と認識されてしまったが、最新のP15バージョンにBIOSをバージョンアップしたところ、「Celeron 1.2GHz」と表示されるようになった。
Duronの環境にはAMDのリファレンスマザーボードといってもよい、GIGA-BYTE TechnologyのGA-7DXRを利用した。チップセットはAMD-760で、やはりBIOSは最新版のF7にバージョンアップしており、ちゃんとDuron 1.1GHz、1GHzを認識し、SSE互換機能も有効になっている。メモリにはPC1600(DDR SDRAM)を利用した。これに対して、Intel 815EではPC100 SDRAMを利用した。これは、Intel側の純正チップセットではSDRAMのみしかサポートしていないためであり、どちらもできるだけ最高環境で測ろうとした結果だ。
確かに、Apollo Pro266などDDR SDRAMをサポートしたチップセットは存在しているが、結局のところシステムバスが100MHzということがボトルネックになってしまうので、あまり効果は期待できない。このため、こうした環境で行なうこととした。環境は表2で、結果は以下の通りだ。
【動作環境】
CPU | Celeron | Duron |
---|---|---|
マザーボード | Intel D815EEA2 | GIGA-BYTE GA-7DXR |
チップセット | Intel 815 | AMD-760 |
メモリ | PC100 SDRAM(CL=3) | PC1600(CL=2) |
メモリ容量 | 256MB | |
ビデオチップ | GeForce3(64MB、DDR SDRAM) | |
ハードディスク | IBM DTLA-307030(30GB) | |
OS | Windows 2000+ServicePack2 |
【SYSmark2001】
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Celeron 1.2GHz Celeron 1.1GHz Celeron 1GHz Duron 1.1GHz Duron 1GHz Duron 950MHz |
【Winstone 2001】
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Celeron 1.2GHz Celeron 1.1GHz Celeron 1GHz Duron 1.1GHz Duron 1GHz Duron 950MHz |
【3DMark2001】
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Celeron 1.2GHz Celeron 1.1GHz Celeron 1GHz Duron 1.1GHz Duron 1GHz Duron 950MHz |
【Quake III Arena】
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Celeron 1.2GHz Celeron 1.1GHz Celeron 1GHz Duron 1.1GHz Duron 1GHz Duron 950MHz |
【Pentium 4 Application Launcher】
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Celeron 1.2GHz Celeron 1.1GHz Celeron 1GHz Duron 1.1GHz Duron 1GHz Duron 950MHz |
Duron 1.1GHz vs Celeron 1.1GHz対決では、ほぼすべてのベンチマークでDuronが勝利したが、今回のDuron 1.1GHz vs Celeron 1.2GHzでは、だいぶ状況が変化している。グラフ1はDuron 1.1GHzのCeleron 1.2GHzに対する性能向上率、または低下率を示したグラフだ。右側にグラフが伸びている場合は、Duron 1.1GHzが勝っていることを示し、左に伸びている場合はCeleron 1.2GHzが勝っていることを意味している。
【グラフ1】
なお、システムバス、メモリの帯域幅が性能に大きな影響を与える3D系のベンチマーク、3DMark2001、Quake III Arenaなどは、システムバス、メモリの帯域が1.6GB/秒とCeleronの0.8GB/秒の倍となっているDuronが大きく上回った。この点は、システムバスが200MHzとCeleronの倍のクロックとなっているDuronのアドバンテージといえるだろう。
●アップグレード性を考えると自作PCではDuronがお奨め
以上のような結果から、正直なところCeleron 1.2GHzとDuron 1.1GHzの差はあまりない。Celeronの大きなアドバンテージとなっているSYSmark2001/Internet Contents Creationの性能が高い理由は、Windows Media Encoder 7のAMDのSSE命令未サポートが原因だし、逆にDuronが3Dアプリケーション(3DMark2001やQuake III Arena)において高い処理能力を発揮しているのは、システムバス、メモリが1.6GB/秒と広帯域であるためであり、仮にメモリをSDRAMにした場合、メモリがボトルネックになるので、差はもっと縮まるだろう。
特にバリューPCでは、ほぼ例外なくSDRAMを採用するので、実際にメーカー製PCに搭載されている場合には、どちらを選んでもユーザーの使用感にはほとんど差がないと考えていいだろう。そうなると、0.13μmのプロセスで、消費電力も少なく、価格も安価なCeleron 1.2GHzは、バリュー向けの省スペースを計画しているPCメーカーにはよい選択肢となるかもしれない。
これに対して自作PCユーザーでは、Celeron 1.2GHzはあまりよいチョイスではない。なぜかと言えば、1つには従来のCeleronからのアップグレードに利用するのが難しいからだ。今回のCeleron 1.2GHzでは、すでに説明したようにシステムバスの電気信号の仕様が変更されているため、これをサポートしたユニバーサルマザーボードが必要になる。
しかし、すでにCeleronを持っているユーザーの多くはユニバーサル未対応のマザーボードだろう。このため、Celeron 1.2GHzに交換するためにはマザーボードを交換する必要がある。だったら、他のインフラ(例えばPentium 4やAthlon)に変えた方が、今後のアップグレードも期待できる訳で、あまり賢い選択とはいえないだろう。すでに後藤弘茂氏の記事「Intelが来年第3四半期にPentium 4ベースのCeleronを投入」( http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/20011009/kaigai01.htm )でも明らかになっているように、Intelは来年の第3四半期に、CeleronのCPUコアを、現在Pentium 4に利用されているWillametteベースに変更する。こうしたことを考えれば、今後P6バスのインフラに対して投資することは賢い選択とは言いにくく、コストパフォーマンスの高い自作PCを作りたい場合には、今後のアップグレードも望めるDuron、そしてAthlon XPがでたことですでに値段が下がっているAthlon、そして予算に余裕があるのであればPentium 4を検討した方がいいだろう。
□関連記事
【10月3日】Intel、0.13μmプロセスのCeleron 1.2GHz
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/20011003/intel.htm
(2001年10月12日)
[Reported by 笠原一輝@ユービック・コンピューティング]