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Intelが省スペースデスクトップ向けにPentium III 1.4GHzと低電圧版Pentium 4を投入


●IntelがSFF向けCPUロードマップを顧客に提示

 Intelは、新たにスモールフォームファクタ(SFF:Small Form Factor)デスクトップ向けのCPUロードマップをOEMメーカーに提示した。日本のスリムタワーのような薄型筺体にも入るCPUを、Pentium系ブランドでも提供する。具体的には、SFF専用に、高クロックの0.13μm版Pentium III(Tualatin:テュアラティン)と低電圧の0.13μm版Pentium 4(Northwood:ノースウッド)を提供するらしい。下の図がロードマップだ。

時期2002Q12002Q22002Q3
Pentium 4(Northwood)
メインストリーム32GHz2.2GHz2.4GHz?
メインストリーム21.8GHz2GHz2.2GHz
メインストリーム11.6GHz1.8GHz2GHz
Pentium III(Tualatin)
メインストリーム11.33GHz1.4GHz-


 これは、通常のデスクトップ用CPUとはかなり構成が異なる。まず、目立つのは、Pentium系ブランドのSFF向けCPUには0.18μm世代がなく、オール0.13μm世代のCPUで構成されること。これは、0.18μmCPUより0.13μmCPUの方が、TDP(Thermal Design Power:熱設計消費電力)が低くなるためだ。TDPが低くなれば、SFFの筺体に入れやすくなる。

 もう1つ目立つのは、Pentium IIIの延命だ。以前レポートした通り、IntelはPentium 4の普及を加速、今年の秋冬デスクトップでは原則としてPentium IIIをPentium 4に置き換えることにした。Pentium IIIは、ごく限られたモデルにしか提供されず、しかも、クロックは1.2GHz止まり、来年からはほぼ一切提供されなくなるはずだった。

 しかし、Intelは、SFFだけは例外としたようだ。見ての通り、SFF向けにだけは、TualatinベースのPentium IIIが来年中盤まで提供され続ける。来年頭にはPentium IIIの1.33GHzを、第2四半期には1.4GHzが登場する。つまり、通常のデスクトップ向けにはない、スペシャルバージョンのPentium IIIが登場するのだ。

 また、IntelはPentium 4でも、特殊なバージョンを提供する。まず、目に付くのはNorthwoodの低クロック版だ。通常のデスクトップ版Northwoodは2GHz以上で提供され、それ以下のクロック帯は0.18μm版Pentium 4(Willamette:ウイラメット)がカバーする計画だ。だが、IntelはSFF向けに、1.6GHzと1.8GHzのNorthwoodを用意した。これは、通常のデスクトップ版に存在しない。

 Northwoodの2GHzは、TDPが低いものの当初かなりの高価格(450ドル前後)で登場するため、10万円台前半の廉価なシステムには載せにくい。一方、廉価なPentium 4 1.6~1.8GHzを載せようとすると、WillametteコアなのでTDPが高くて搭載できない。SFF向けNorthwood 1.6/1.8GHzは、このジレンマを解消できる、廉価で低TDPのPentium 4というわけだ。

 ちなみに、CeleronのロードマップはSFF向けと通常のデスクトップ向けで違いはない。これは、CeleronがTualatinになってしまうので、TDPが下がるからだ。

 だから、日本メーカーも、このTualatin版Celeronを使えば、SFFデザインを実現することができる。ただ、そこにはマーケティング上の問題がある。というのは、日本の場合、SFFはコンシューマ向けの売れ筋で、メインストリームPCの価格帯の製品が多いからだ。だから、廉価で比較的低パフォーマンスのCeleronを載せることは、販売戦略上難しい。それに対して、米国ではSFFは企業向けのバリュー価格クライアントが中心。だからCeleronでも構わない。

 こうした背景を考えると、このSFF版Pentium III/Pentium 4が日本市場を強く意識したロードマップであることがわかる。


●日本市場をにらんで産まれたSFFロードマップ

 Intelは、このSFF向けCPUロードマップを、しばらく前から計画していた。実際、Intelのアナンド・チャンドラシーカ氏(Anand Chandrasekher, Vice president, Intel Architecture Group, director, Intel Architecture Marketing Group)は、6月のCOMPUTEXの際にSFF向けの戦略を示唆している。

 「Pentium 4は、現在は日本市場ではハイパフォーマンス市場をターゲットとしている。しかし、ボリュームを出す時にはさまざまなバージョンのPentium 4を提供し、SFFにもオプティマイズすることを考えている。我々は、富士通やNECといったメジャーな日本のOEMベンダーと、SFF向けデザインについて一緒に作業している。その結果、Pentium 4は、11~13リットル(の容積)の筺体なら問題なくフィットすることがわかった。もっとも、日本では、6~9リットルといった(小さな)筺体があり、ここではPentium IIIをベースにしたデザインが主流だ。そこで、今はPentium 4を9リットルの筺体に入れようとしており、日本のOEMと協議しているところだ。そうしたOEMからのフィードバックを得た上で、Pentium 4をSFFロードマップに持ってくることができると考えている」

 実際、先週のIDFでは、IntelはPentium 4がSFFの筺体に入ることを強調、さまざまな実例を示して見せた。技術セッションでも、9リットル筺体にPentium 4を搭載することをテーマにしたものがあった。11~14リットルクラスは、日本の店頭ではかなり太った筺体だ。薄いなと感じるのは、やはり9リットル以下になる。最近、Intelの幹部やスタッフは、このリットル表現を頻繁に使うようになっており、彼らなりにSFFを研究していることがわかる。

 ただし、SFF向けロードマップについては、IDFでは直接的には触れられなかった。それは、おそらくIDFでのフォーカスがWillametteの2GHzにあったからだろう。Northwoodにあまりフォーカスを当てられなかったということではないだろうか。

 チャンドラシーカ氏は、COMPUTEXの際に、Pentium 4のSFF向けソリューションが0.13μm世代のNorthwoodになると語っている。

 「確かに、短期的には、もっとも小さな筺体はPentium 4でカバーできないという問題がある。しかし、これは長期的な技術上の問題ではない。0.13μmテクノロジになった時には、日本のOEMとSFFエリアのニーズにミートできる製品ラインナップを提供できると考えている。だから、製品ロードマップに大きな穴が開いているわけではない。一時的にロードマップに問題が生じているのはわかっており、それを解決するプランはある。OEMメーカーも、我々がOEMとこの問題について密接にやっているのを知っている」

 この時に言っていた製品ラインナップというのが、今回のNorthwoodとTualatinで構成されたSFFロードマップだったというわけだ。では、もう少し詳しくIntelのSFF CPUについて見てみよう。


●SFF版Pentium IIIは限定的な提供

 まず、TualatinベースPentium IIIだが、これはIntelとしては積極的に推進したいわけではないらしい。OEMからの要請で仕方なく出すという雰囲気が強い。

 例えば、IntelはこのSFF版Pentium IIIを、すでにPentium IIIベースで設計したSFF筺体向けだけに提供すると言っているという。つまり、新しいデザインのモデルは作って欲しくない、既存筺体の延命だけに使って欲しいと言っているわけだ。逆を言えば、来年以降は、新たにSFFモデルをデザインする場合には、Northwoodベースにしてくれと要求していることになる。また、このSFF版Pentium IIIは、クロックも0.13μm版Celeron(Tualatin)とほぼ同じなので、ブランド以外の価値はあまりない。

 それに対して、SFF版Pentium 4の方は、Intelはかなりアグレッシブに推進している。ただ、ここにもやはり『Intelの論理』が見える。例えば、IntelはOEMベンダーに対して、SFF向けPentium 4が45WのTDP枠に収まるCPUであると説明している。ところが、あるPCメーカーの開発者によると、SFF筺体に無理なく納めるためには、35WまでのTDPが望ましいという。実際、AMDはSFF向けAthlon Duronを35W以下のTDPで提供している。つまり、Intelは、自分たちもSFF向けに製品ラインナップをわざわざ作るから、PCメーカーもがんばって10WくらいTDPを上げてくれと言っているわけだ。

 だが、45Wにしても、じつはパワーイーターのPentium 4にとってはかなり厳しいTDPだ。0.18μmのWillametteの場合は、2GHz版のTDPが69W~75W。これだと、0.13μmのNorthwoodになっても、45Wは達成できてぎりぎりだと思われる。しかし、Intelは2GHz以降もSFF版Pentium 4のクロックを引き上げる計画になっている。クロックが上がればTDPも上がる。どうやって実現するのだろう。

 どうやら、IntelはSFF向けPentium 4の一部は、選別した低電圧版を使うようだ。OEMには、そのための価格プレミアがつくと説明しているらしい。おそらく、高クロック版になればなるほど、電圧を落としてTDPを45Wに保つと思われる。電圧は二乗でTDPに効いてくるので、少し落とすだけでも効果はある。じつは、AMDもSFF版Athlonで同じアプローチを取るとOEMに説明しているという。

 もっとも、SFF版Pentium 4の価格プレミアはそれほどではなさそうだ。SFF版Pentium 4の1.8GHzで通常版の1.9GHz程度の価格、SFF版の1.6GHzで通常版の1.8GHz程度の価格になるらしい。それなら、SFFという付加価値を考えれば許容の範囲内ということだろう。

 ついに、SFFに対して取り組む姿勢を見せ始めたIntel。日本市場にとっては、これまでにないグッドニュースだが、45W TDPに象徴されるように、相変わらずPCメーカーに負担を強いる姿勢は変わっていないようだ。


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(2001年9月6日)

[Reported by 後藤 弘茂]


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