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●NECのパソコン事業が赤字に
NECが2001年3月期決算予想で、パソコン事業がマイナス20億円になる見通しを発表した。
パソコン分野において国内最大シェアを誇るNECが、赤字決算になるということは、パソコン業界が、儲けを度外視した薄利多売の状況にあるといってもいい。日本経済はデフレのなかにあるといわれるが、パソコン業界の置かれた状況は最もひどい部類に入るかもしれない。つまり、「売っても売っても儲からない」という図式に、秒進分歩とさえいわれる技術革新が加わり、すぐに製品が陳腐化していまうというのがパソコン業界の姿というわけだ。
業界団体である社団法人電子情報技術産業協会(JEITA)は、2000年(1~12月)の国内のパソコン出荷実績を発表したが、出荷台数では、初めて年間1,000万台を突破した1,154万台(前年比25%増)、金額ベースで見ても、初めて2兆円を突破し、2兆1,052億円(同11%増)と、いずれも過去最高の実績となった。
だが、その一方でパソコンの価格下落は急速な勢いで進展している。
同じく同協会の発表によると、パソコンの平均単価は、2000年10~12月の実績で、デスクトップパソコンで16万2,000円、ノートパソコンで18万8,000円となった。なかでも、ノートパソコンの下落が著しく、ちょうど1年前の1999年10~12月の調査では22万6,000円だったことに比べると、わずか1年で3万8,000円も下落しているのである。
こうした価格下落の影響によって、パソコンの収益は減少傾向を辿っているのである。
●不振のコンシューマ市場に対し企業向けは好調
ところで、2001年3月期の業績を下方修正したのは、NECだけではない。富士通、ソーテックも相次いで下方修正を発表している。
富士通は、パソコン事業だけを取り出した数値は明らかにしていないが、同事業を含む情報処理部門で1,100億円の売上高の下方修正を行ない、ソーテックは、売上予想を1,330億円から910億円へ下方修正、当期利益も51億円から19億円に引き下げた。
これらのメーカーに共通しているのは、いずれもコンシューマ向けパソコンの販売比率が高いという点だ。
この3社のほかにも、コンシューマでの販売比率が高いアップルコンピュータは、日本法人の具体的な売上高を明らかにしていないが、米国の最新四半期(10-12月)の決算内容を見る限り大幅な赤字に転落、日本における出荷台数が大幅に落ち込んでいることを明らかにしている。
コンシューマ領域で高いシェアを持つメーカーとして唯一、下方修正を行なっていないのがソニーだが、1月25日に発表した最新四半期(10~12月)決算報告書のなかでは、「パソコンの収益低下が見込まれる」という点に言及している。同社においては、全売上に占めるパソコンの売上比重が少ないため、全社の決算修正にまでは影響しないというのが実態だろう。
これに対して、企業向けパソコンを主力においているメーカーは、軒並み好決算を記録している。
日本IBMは、2000年(1~12月)決算で、パソコン事業が黒字であることを示し、「パソコンだけで捉えれば、前年比10%台中盤の伸び」(大歳卓麻社長)という実績だ。
また、企業売りが85%を占めるデルコンピュータでは、2001年1月期決算で、売上高は前年比45%以上の伸びを見せている。しかも、「売上げの伸びと比例して、収益も伸びている。営業利益の実績も前年を上回っている」(浜田宏社長)と、前年以上に好決算であったことを明らかにしている。
日本IBMの大歳社長は、黒字の要因として、冗談まじりに「企業向けの出荷と、IBMの特徴を発揮できるThinkPadしか売れていないから」と笑う。もちろん、コンシューマをターゲットとしたAptivaなども売上げには貢献しているが、全パソコン出荷量に占めるコンシューマ向けの比重は、NECや富士通に比べても少ない。
企業向け事業展開が、パソコン事業における黒字化のポイントともいえそうである。
●SCMシステムの稼働状況が業績を大きく左右する
では、なぜ、コンシューマパソコンは、赤字化や全社売上の下方修正の元凶になるのだろうか。
それは、NEC 松本滋夫取締役専務の、「急激な市場変化に対して、部品調達などの機能が十分に効果を発揮できなかった」というコメント、そして、デルコンピュータ 浜田宏社長の、「サプライチェーンの効果と販管費の削減効果が大きい」との、対照的なコメントに表れている。
つまり、サプライチェーンマネジメント(SCM)システムがうまく稼働したか、しなかったかということが明暗をわけたといえる。
いまや需要予測から部品調達、生産、出荷までを管理するSCMは、メーカーの生命線ともいえる。これがうまく稼働しなければ、大量の在庫負担を強いられたり、逆に品不足を起こしたりと、メーカーの収益率は極端に悪化する。ここ数年、各社がSCMの投資に力を注いでいたのも、SCMの重要性に気がついていたからである。
デルコンピュータは、米国本社のSCMを踏襲したシステムを構築、一方、NECも販売店を巻き込んだ需要予測から、部品会社と連携した調達および在庫管理システムを構築し、国産メーカーとしては先進的な取り組みをみせた。
だが、なぜ、これだけの差が出たのだろうか。
その大きな理由は、企業向けパソコンがほとんど受注生産体制であるのに対して、コンシューマ向けパソコンが見込み生産体制であるという点が見逃せない。
企業向けの商談というのは、ディーラーが見積もりを提示、企業ユーザーは稟議を通過させ、ディーラーに発注するという仕組みが一般的。納期に数日かかっても、それほど問題がないため、受注生産方式で十分対応できる。現在では、注文から3営業日で納品ができるという体制も一般化しており、受注生産での対応は、さらに十分な状況だといえるだろう。
これに対して、コンシューマパソコンの場合は、量販店やパソコンショップに在庫として確保する必要があるため、見込み生産という方式を取らざるを得ない。さらに、国内には3,000~4,000のパソコン販売店があるとされるが、その全店に展示品と在庫を置こうとすれば(実際にはこんなことはないが)、それだけで5,000台から1万台規模のパソコンが必要になる。日本IBMが大都市圏のパソコンショップなどに限定して製品を供給、その他の地域は、ネット直販のShopIBMでカバーする体制をとっているのも、在庫負担の軽減という点で理にかなったやり方といえる。
もちろん、NECのSCMが決してうまく稼働していないというわけではない。問題は、見込み生産を最も左右する需要予測の精度を高めるのには限界があるという点である。
●NECの復活はSCMと企業向けPCのブランド力にかかっている?
NECソリューションズ 富田克一執行役員常務は、同社のSCMについて「なかなか需要予測が当たらない。これが当たれば苦労はしない」と苦笑する。
販売店からの需要予測を2週間単位とし、予測のブレを少なくするように仕組みを変えたり、在庫内容の詳細を把握しながら予測を行なう体制に変更するなどにも取り組んできたが、需要予測に関しては満足のいくところまで精度はあがっていないのが現状だ。
NECは、年間350万台程度のパソコンを国内に出荷している。「分母が大きいだけに、予測の少しのブレが、大きな過剰在庫、あるいは品不足につながる」というトップメーカーとしての苦しさもある。
致命的なのは、このトップメーカーであるNECのパソコン事業のほとんどが、見込み生産による製品で占められていることだろう。
NECは、個人/SOHO向けのデスクトップパソコンとしてVALUESTAR、ノートパソコンとしてLaVieを用意しているが、企業向けデスクトップパソコンとしてMateと、企業向けノートパソコンVersaProもラインアップしている。前者は、見込み生産で行なわれ、後者はBTOによる受注生産体制である。
NECのパソコン事業は、約45%が個人向けとされるが、同社の発表などによると個人向けブランドの製品の出荷量の方が多い。つまり、本来、企業向けパソコンが導入されるべきところに、個人向けパソコンが導入されているのである。
同社の試算によると、企業ユーザーの3分の2に、VALUESTARやLaVieといった個人向けパソコンが導入されているともいう。本来、受注生産で対応できる分野まで、見込み生産で対応してしまっているというわけだ。これでは、効率的な事業展開は不可能だ。
実は、NECもようやく、こうした点の見直しに着手しようとしている。内部の情報によれば、この4月の組織改革でパソコン部門の大幅な刷新が見込まれ、そのなかで、企業向けパソコンのブランド向上も図られるという。場合によっては、MateおよびVersaProの認知度向上のためのテレビCMなども行なわれるかもしれない。
NECにとって、VALUESTAR、LaVie依存体質からの脱皮が、黒字化への道といえる。
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【2月20日】NEC、パソコン事業の不振で業績予想を下方修正
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/20010220/nec.htm
(2001年3月7日)
[Reported by 大河原 克行]