Core i7が発売されて1カ月がたった。発売日には、秋葉原で深夜販売が行なわれたりとちょっとしたイベントもあり、自作ユーザーにとっては久々の祭りとなっていた。そうした喧噪もやや落ち着いてきたが、欧米ではまもなくクリスマス休暇に入るため、すでに来年への準備が着々と進んでいる。 Core i7は、もちろん性能面で従来のCore 2シリーズを凌駕しているのは本誌のベンチマーク記事などからもわかっていただけると思うが、そういったことに留まらず、PC業界全体に激震を引き起こす可能性もあるのだ。今回は、Core i7のメインストリーム版が登場することになる来年以降、自作PC業界がどうなっていくのか、そのあたりを予想していきたい。 ●65Wのクアッドコアがレギュラーラインナップに追加される Core i7の話をする前に、現行プラットフォームであるLGA775に関する、ちょっとよいニュースをお伝えしておきたい。 まず、来年(2009年)1月半ばに、熱設計消費電力(TDP)が65Wの新しいCore2 Quadが追加される。Q9550s(2.83GHz/1,333MHz/12MBキャッシュ)、Q9400s(2.66GHz/1,333MHz/6MBキャッシュ)、Q8200s(2.33GHz/1,333MHz/6MBキャッシュ)の3製品がそれだ。実は、これらの製品はすでに市場には出回っているのだが、出荷先は一部のOEMベンダやホワイトボックスベンダに限定されており、いわゆるボックスと呼ばれるCPU単体売り分としては出回っていないのだ。 しかし、正式にロードマップにも掲載されたことで、今後は単体で出回る可能性がでてきたと言える。日本の自作PCのユーザーは、消費電力に敏感なので、これはよいニュースと言えるのではないだろうか。ただ、価格は95W版のクアッドコアに比べて50ドル程度の上乗せがされることになりそうだ。 もう1つ、LGA775関連のニュースといえば、来年のどこかのタイミングでIntel 4シリーズ・チップセットのリフレッシュが入る。と言っても、新しいチップがでるという訳ではなく、G4xシリーズのスペックが若干強化されることと、G45の動画再生支援機能の機能として、HD動画のインタレース解除機能やポストプロセッシング機能などが追加されるほか、G43ではメモリスロットが4 DIMMに拡大、G41ではHDMIサポートの追加とICH7Rとの組み合わせが追加されるなどの拡張が行なわれる。 また、2009年向けIntel 4シリーズ・チップセット搭載マザーボードには、メモリソケットにDDR3用を実装した仕様が奨励される。DDR3の値段はだんだんとDDR2に近づいてきており、来年のどこかのタイミングで逆転する可能性が高くなっている。それに併せてマザーボードベンダに対して、DDR3搭載モデルをメインストリーム向けとするように奨励されているのだという。例年、6月に台北で行なわれるCOMPUTEX TAIPEIにおいて各社の最新マザーボードが発表されることになるが、そこでそうした新製品が投入されることになると思われる。 ●6層基板の採用などがコストを押し上げているCore i7用マザーボード
さて、11月に発売されたCore i7だが、CPUには3つのSKUが用意されている。3万円程度のCore i7-920(2.66GHz)、6万円弱のCore i7-940(2.93GHz)、10万円超のCore i7-965 Extreme Edition(3.2GHz)が、それだ。10万円のExtremeはともかくとして、ショップによっては3万円を切る価格設定になっているCore i7-920は、多くの自作PCユーザーにとって有力な選択肢になるだろう。 ただ、気になるのはむしろマザーボードの価格ではないだろうか。安価なIntel純正の「DX58SO」でも3万円弱だし、NVIDIAのSLIをサポートするASUSTeK Computer、GIGABYTE Technology、MSI Computerの各製品は3万円~5万円の価格設定になっており、マザーボードとしては高めに感じる。 これには仕方のない面がある。1つにはIntel X58 Express Chipset(以下X58)のデザインガイドが、6層基板を前提とした設計になっているからだ。一般論として、基板の層数が増えれば増えるほど、製造にかかるコストは上昇することになる。できればデスクトップPC用マザーボードの標準である4層基板を利用したいのだが、マザーボードベンダはIntelから提供されるデザインガイドのデータを元に設計するので、マザーボードベンダの独自の努力で減らしたりするのはほぼ不可能に近い。 では、なぜX58では6層基板なのだろうか? それは、X58がサーバー/ワークステーション向けとして開発されたからだ。コストよりも信頼性が何よりも優先されるサーバー/ワークステーション向けマザーボードでは、6層以上の多層基板が利用されるのが一般的だ。層を増やせば増やすほど信号の品質を向上させることができるからだ。 マザーボードベンダの中には8層基板を利用して製造しているベンダもある。その代表は、ASUSTeK Computerで、同社マザーボード部門 マーケティングディレクターのRichard Liu氏は「我々のX58マザーボードは8層基板を採用している。3チャネルのメモリなどを安定して動作させるために信号のクオリティを上げることができるし、追加の層を放熱に利用して放熱効率も上げている」と説明している。 ●SLI対応ライセンスもコストアップ要因に さらに、X58マザーボードには別のコストアップ要因もある。それがNVIDIAのSLI対応だ。以前の記事でも触れたが、NVIDIAはLGA1366向けのチップセットをリリースする予定がない。代わりに、X58を搭載するマザーボードをNVIDIAのラボで認証テストを通過させ、マザーボードベンダがライセンス料を払うと、sBIOSにNVIDIAのコードを組み込むことでSLIを有効にすることができる。 マザーボードベンダに近い関係者によれば、そのライセンス料はどこのベンダも同じで、1パッケージあたり5ドルという製品ごとの契約になっているのだという。さらに認証テストを通すコストもかかるので、そのコストに関しても製品にのせる必要があるのだという。 Intel DX58SOが他社製品より低価格なのは、そのあたりの事情も関連していると考えることができる。ただ、Intel以外のマザーボードベンダは、X58を購入するユーザーにとってはSLIに対応しているかどうかは重要なチェックポイントになっており、一部の低価格製品を除き、それを外すことはできないという見解が大勢を占めている。 なお、マザーボードベンダにはNVIDIAのnForce 200と呼ばれる追加のPCI Expressスイッチを利用して電気的にx16×4のPCI Express 2.0スロットを実装するソリューションも提供されているが、予想通り一部の超ハイエンド製品に採用されるのに留まっている。1つにはやはりコストアップになるということと、1チップにつき10WのTDP増が実装の妨げになっているほか、現時点ではSLIは3Wayまでの対応となっているので、x16×4の構成がそもそも必要かという疑問があるからだ。 ただ、これについてあるマザーボードベンダの担当者は「現在、NVIDIAと4Wayについての問題は話し合っている。彼らも前向きだ」と話しているので、今後何らかの形でサポートされる可能性はある。 ●来年にはX68が投入され、引き続きハイエンドの座に留まるLGA1366 当初、メインストリーム向けのNehalemとなる「Clarksfiled」(クラークスフィールド)、「Havendale」(ヘイブンデイル)が来年の半ばに投入されることで、わずか1年の命と見られてきたLGA1366だが、ここにきてHavendaleが事実上2010年の第1四半期に延期されるなど、若干状況にも変化がでてきている。 実際、IntelはLGA1366プラットフォームをもう少し延命させることに決めたようだ。というのも、複数のマザーボードベンダ関係者、Intelに近い情報筋などが来年にもX68というX58の改良版が投入される見通しであると述べており、Intel 955Xの改良版のIntel 975X、X38の改良版のX48のように機能強化がされたものという位置づけになるようだ。 ようだと述べたのは、現時点ではこのX68はIntelがOEMベンダに配布している公式なロードマップには掲載されていないからだ。しかし、口頭ベースで関係者に伝えられているようで、マザーボードベンダの関係者は口をそろえてLGA1366の寿命は当初よりも延びることが確定的だと説明している。 どのような拡張が行なわれるかだが、考えられることはサウスブリッジがICH10から「IbexPeak」(アイベックスピーク)ことIntel P55 Express Chipset(以下P55)へ変更されること。また、チップセットの機能ではないが、デザインガイドを見直し、CPUのメモリコントローラの公式サポートメモリを、DDR3-1066からDDR3-1333やDDR3-1600などに引き上げるなどの強化が考えられるだろう。 こうした将来が見えてきたことで、PGA423化(初代Pentium 4のプラットフォーム)が心配されていたLGA1366が、少なくとも今後2年程度は続投となりそうだ。 ●進むリテール向けマザーボードビジネスの再編 すでに本連載でも何度か触れてきたように、来年の第3四半期には、Nehalemの第2世代プラットフォームとなるLGA1156(当初はLGA1160と伝えられてきたが、結局4ピン減って1156に落ち着いた)という、いわゆるSocket Hプラットフォームが登場する。
このLGA1156ではノースブリッジ相当の機能がCPU側に入ることになる。このため、従来サウスブリッジといわれていたチップはPCH(Platform Control Hub)と呼ばれ、CPUと2チップでPCが構成されるようになる。その最初のPCHがIbexpeakのコードネームで開発されてきたP55だ。 マザーボードベンダには、この変化によっていくつかの問題がもたらされる。1つはCPUとノースブリッジが1チップになることで、従来のようにマザーボード側でFSBや倍率などをコントロールできなくなるので、オーバークロック機能を実装することが難しくなるのだ。特にハイエンドユーザー向けの製品では、オーバークロック機能が1つの売りになっており、他社製品との差別化のポイントになっていた。それが実装できないとなると、どこを差別化ポイントにすべきなのか、各社とも頭をひねっている段階だ。 もう1つの問題はノースブリッジがCPU側に入ってしまうことで、これまでのように1年に1回という新製品のサイクルが崩れることだ。というのも、これまでリテール向けマザーボードが1年に1回リフレッシュされてきたのは、ノースブリッジの機能が毎年進化してきたからだ。ユーザーもその機能のバージョンアップに注目してマザーボードを買い換えてきたのだが、サウスブリッジの方は地味なバージョンアップポイントだけで、特に注目されてこなかった。 このため、LGA1156マザーボードの利用期間は、これまでよりも長くなる可能性がある。従来であれば、ノースブリッジの機能が更新されればマザーボードをCPUとセットで買い換えようと考えていたユーザーも、LGA1156以降はCPUだけを買い換えて、マザーボードは買い換えないということが考えられるわけだ。 製品のライフサイクルが長くなるということは、マザーボードベンダにとっては市場のパイが小さくなることを意味している。この問題はかなり大きく、今後マザーボードベンダの統廃合が進んでいくとまで言われている。多くの関係者は、いわゆるティア1と呼ばれるIntelから特権的な地位を与えられている大手マザーボードベンダのみが生き残り、ティア2以降は、マザーボードビジネスを諦めるか、他社との合併などを考えざるを得ないだろうと指摘する。 現に、過去にリテール向けマザーボードビジネスに取り組んでいたベンダで、すでにマザーボードビジネスをやめてしまったところも少なくない。今後はASUS、GIGABYTE、MSI、ECS、Foxconnといった大手を中心にマザーボードビジネスの再編が進められていく可能性がある。 □関連記事 (2008年12月15日) [Reported by 笠原一輝]
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