NVIDIAは4月1日、ハイエンドビデオカード製品「GeForce 9800 GTX」を発表した。一足早く、3月17日に発売された「GeForce 9800 GX2」とは異なり、GPU 1基によるビデオカードで、2006年11月に発表されたGeForce 8800 GTXの正統な後継製品となる。このパフォーマンスを見ていきたい。 ●G92コアの採用で消費電力は156Wへ低下 GeForce 8シリーズの先駆けとなったGeForce 8800 GTXが発表されたのが2006年11月。2007年5月に、その上位モデルとなるGeForce 8800 Ultraが発表され、2007年11月には、65nmプロセスへシュリンクしたGeForce 8800 GTが登場。G92と呼ばれるコアを用いて、2~4万円のセミハイエンド層を埋めてきたものの、NVIDIAは長らくハイエンド製品の更新をしてこなかった。 その後、ハイエンド製品として登場したのが、3月18日に発表されたGeForce 9800 GX2だ。しかし、この製品は2GPUをワンボードに実装するという形態の製品であり、直球勝負のシングルGPUビデオカードのハイエンド製品ではなかった。 今回取り上げる「GeForce 9800 GTX」は、ようやく登場したシングルGPUの正統なハイエンド製品だ。“GTX”の名称が示す通り、GeForce 8800 GTXの後継製品となる。スペックは表1にまとめた通り。おおざっぱに言えば、G92コアのクロックを高め、より高速なメモリクロックで動作するのがGeForce 9800 GTXである。
【表1】GeForce 9800 GTXの仕様
従来のGeForce 8800 GTX/Ultraでは、ROP部のクラスタを6基とすることで、384bitのメモリインターフェイスを備えていた。これが、下位のGeForce 8800シリーズとの大きな差別化ポイントの1つになっていたが、本製品はG92を採用しているため、フルスペックでもROP部クラスタは4基。メモリインターフェイスは256bitとなってしまっている。 メモリクロックが引き上げられて多少カバーされているものの、GeForce 9800 GTXのメモリ帯域幅は70.4GB/sec。GeForce 8800 GTXは86.4GB/secとなるので、この部分ではダウングレードしている。 それでも、この仕様を採用したのは、ダイサイズやトランジスタ数など製造面の影響が大きいと思われる。G92はフルスペックのG80よりもシェーダユニットは同数ながらROP部のクラスタ数は少ない。しかし、第2世代PureVideo HDやディスプレイ出力周りの機能強化により、G92の方がトランジスタ数は多い。メモリインターフェイスを強化すれば、さらにトランジスタ数は増えてしまうことになる。 その方針を進めるとハイエンド層専用に別のダイを製造しなければならず、それほどの数が売れるセグメントでもないため、製造面での効率は悪くなる。そこで、すでに半年近くの実績を積み上げているG92コアとマルチGPU技術をフル活用し、エンスージアスト層に向けては、このG92を2基搭載したGeForce 9800 GX2、その下位にシングルGPUのGeForce 9800 GTXというラインナップを用意したのだろう。 GeForce 9800 GTXの価格は299~349ドル。ドル安状態ということもあり、日本でも4万円台で発売されることは確実だろう。GeForce 8800 GTXが7万円前後であることを考えれば、NVIDIAの最上位シングルGPUビデオカードは大幅に価格帯が引き下げられることになる。 また、GeForce 8800 GTXでは180W前後とも言われた消費電力に関しても、G92コアを使う恩恵が得られており、リファレンスボードの消費電力は156Wとアナウンスされている。ハイエンド製品とはいえ、コストや消費電力も重視した製品になっており、その意味では、AMDのRadeon HD 3870 X2とRadeon HD 3870に似た製品ラインナップをNVIDIAも用意したと言えるかも知れない。
さて、今回テストに用いるのは、XFXの「PV-T98F-YDF」である(写真1)。この製品はリファレンスデザインに準拠したもので、定格クロックで動作するモデルだ(画面1)。ボード全体を覆うような化粧カバーが特徴的であるが、機能的な部分ではGeForce 8800 GTXと類似性が高い。 まず、SLI端子を2個装備する点だ(写真2)。このことは、3-way SLIが構築可能であることを示しており、製品リリースと同時にWHQL認定を通した正規版ドライバとなる見込みのGeForce Release 174.74でもサポートされる。 電源端子は6ピンを2つ装備(写真3)。消費電力は抑制されているものの、6ピン×1基でまかなえる電力量ではなく、これは致し方ないだろう。500W強クラスでも6ピン×2を設けた電源ユニットが珍しくない昨今、この要求をに応じるのは難しくない。 GeForce 8800 GTXからの機能強化点として挙げられるのは、写真3の右側にも写っているS/PDIF入力の実装だ。本製品はTV出力端子のほか、DVI×2を備えているが、DVI→HDMI変換ドングルによるHDMI出力をサポートしているのだ(写真4)。GeForce 8800 GTXでは対応しなかった、DualLink出力時のHDCP利用も可能となった。 もちろん、第2世代PureVideo HDをサポート。GeForce Release 174以降のドライバで対応する本製品は、GeForce 9600 GT発表時に紹介した、3つの新機能も利用可能だ。G80コアであったがためにハイエンド製品が乗り遅れていた部分も解消された格好になっている。
●新旧ハイエンド製品を比較 それでは、ベンチマーク結果の紹介を行なっていきたい。テスト環境は表2に示した通りで、GeForce 9800 GTX以外のベンチマーク結果に関しては、過去の本連載からのデータ流用であるが、ハードウェア環境は統一している。なお、NVIDIA純正ドライバであるForceWareは、Release 170以降、GeForce Release 174といった名称に変更されているので、今回からその表記を用いていく。 今回は、旧ハイエンド製品となるGeForce 8800 GTXとの比較を中心に検証していきたい。また、ハイエンド製品のトレンドとなっているデュアルGPUビデオカードとの比較も行なうが、こちらはむしろGeForce 9800 GTXのSLI環境との比較において参考になるかと思う。比較に用いたビデオカードは写真5~7の通り。 GeForce 9800 GTXのドライバはGeForce Release 174.74を使用。このドライバは本製品発表前からベータ版が提供されているが、先述の通り、4月1日の発表時点でWHQL認定を受けた正規版がリリースされる見込みだ。 ちなみにこのドライバに関してだが、GeForce 9800 GX2で使用しているGeForce Release 174.51からパフォーマンス面の変化はほとんどない。以前の記事でも触れた通り、この後にリリースされたGeForce Release 174.53はGeForce 9800 GX2使用時にマルチGPUモードをデフォルト設定とした点と、「Clive Barker's Jericho」のプロファイルをアップデートしたのみの変更となる。そして、GeForce Release 174.74は、174.53から安定性を向上させただけのもの、つまりバグフィックス中心のアップデートとなっている。
【表2】テスト環境
では、順に結果を紹介していく。「3DMark06」(グラフ1~4)と「3DMark05」(グラフ5)は、特に3DMark06のHDR/SM3.0テストの結果でGeForce 9800 GTXの特性がよく分かるかと思う。フィルタを適用しない場合であればGeForce 9800 GTXが好結果を見せる一方、フィルタを適用すると途端にGeForce 8800 GTXに逆転を許す。このあたりはアンチエイリアシングの処理を行なうROPの減少や、それを出力するメモリ帯域幅の縮小が大きく影響している。一方、フィルタを適用しないときや、3DMark06のSM2.0テストや3DMark05のような負荷の軽いアプリケーションは、その影響は小さいわけだ。 Feature Testのテストに関しては、SXGA条件ということもあっても、全般にGeForce 9800 GTXがよい結果を見せている。Shader ParticlesではGeForce 8800 GTXが上回っているが、このテストは小さなプリミティブを多数表示するテストであり、やはりGPUの出力周りに大きなトラフィックが発生してボトルネックになってしまったのではないだろうか。 一方、SLIに関してはGeForce 9800 GTXの性能が奮わない。この点に関しては、GeForce 9800 GX2と似たような傾向が出ていることになる。ただ、過去に行なったGeForce 8800 GTS 512MB/GTは決して苦手としていたわけではないことから、この傾向が出る原因はハードウェアによるものではなく、GeForce Release 174が3DMarkシリーズへのチューニングを積極的に行なっていないためである可能性が高い。 パフォーマンスチューニングでは同レベルのドライバを使用しているGeForce 9800 GX2との比較では、GeForce 9800 GTXのSLI構成の方が良好な結果を見せる傾向にある。特に負荷が高まったときに強さを見せており、同じ2GPU構成とすれば動作クロックやメモリ帯域幅の優位性が表れている格好だ。
「F.E.A.R.」(グラフ6)の結果は、GeForce 9800 GTX単体時は今ひとつ性能が伸び悩む状況になってしまった。しかし、SLI構築時は、フィルタ適用をしない場面で良好な結果を見せており、GeForce 9800 GX2との差も非常に大きなものとなっている。単体ももう少し伸びてしかるべきである印象も受けるが、絶対的な数字の面では、この程度の負荷のアプリケーションであれば軽快な動作を実現できる値が出ている。
「Call of Duty 4:Modern Warfare」(グラフ7)における性能は良好だ。低負荷では単体でもSLI環境に迫ろうかというパフォーマンスを見せている。高負荷になるとGeForce 8800 GTXに迫られるシーンもあるが、SLIにおけるフレームレートの良さも含めて、このアプリケーションでは高いパフォーマンスを期待できるだろう。
「Crysis」(グラフ8)の結果は、今ひとつ伸び悩みを感じさせる結果となった。単体動作における性能はGeForce 8800 GTXと同等で、SLIではややバラつきもあるが、おおよそ似たような性能である。SLI時とGeForce 9800 GX2の比較では、低解像度は似たようなスコアとなるが、高負荷になるとやや優位性が出ている。 高い負荷がかかるこのアプリケーションにおいて、好意的に見ればメモリ帯域幅縮小のインパクトが最小限に抑えられていると言えなくもないが、ハイエンドビデオカード購入を促すキラーアプリケーションともいえるCrysisのパフォーマンスが伸び悩んだのは惜しい結果である。
「COMPANY of HEROES OPPOSING FRONTS」(グラフ9)の結果は非常に良好なものとなっている。低負荷から高負荷まで、GeForce 8800 GTXを安定して上回っており、SLI構築時にもパフォーマンスを大きく伸ばす。GeForce 9800 GX2とSLIとを比較すると、低負荷ではGeForce 9800 GX2が上回る部分もあるものの、非常に得意なアプリケーションと言って差し支えないと思う。
「World in Conflict」(グラフ10)の結果は、これまでに垣間見せたGeForce 9800 GTXとGeForce 8800 GTXの特性が明確に見て取れる。フィルタを適用しない状態であればGeForce 9800 GTXに優位性があるものの、フィルタを適用した途端に逆転する。SLIを構築したときも同様の傾向を見せており、この特性はいかんともしがたい印象を受ける。
「Call of Juarez DirectX 10 Benchmark」(グラフ11)はまずまずの結果といえるかも知れない。低解像度でもビデオカードにかかる負荷が高めのベンチマークソフトであるが、特にSLI時でGeForce 8800 GTXに対する優位性が大きく出ている。また、SLI構築時にはRadeon HD 3870 X2を上回るシーンがあることも大きなポイントだろう。 GeForce 9800 GTXにとって痛いのはROPの減少である可能性が高いように思う。ほかのアプリケーションでもそうだが、WUXGA解像度でもフィルタを適用していない状態であれば、まずまずのパフォーマンスを見せている。しかし、フィルタを適用したときはSXGAでも大きくパフォーマンスを落とす。ROPの性能がボトルネックになっているのではないだろうか。
「Unreal Tournament 3」(グラフ12)の結果は良好だ。低解像度ではCPUがボトルネックになったスコアのばらつきも大きいが、大局的にみてFlyThrough、Bot表示時ともに、GeForce 8800 GTXを安定して上回る結果を見せている。やはりフィルタを適用するとGeForce 8800 GTXに肉薄を許すものの、逆転を許すほどにはなっていない。このアプリケーションにおいては、単体、SLIとも高いパフォーマンスを期待していいだろう。
「LOST PLANET EXTREME CONDITION」(グラフ13)では、単体使用時はGeForce 8800 GTXと同等レベルの性能になっているが、SLI時には優位性を持つことができている。GeForce 9800 GX2との差も小さくない。このアプリケーションでは、SLI構築を前提とするなら良好なパフォーマンスが得られそうな結果である。
最後に消費電力測定の結果(グラフ14)だ。スペック上、GeForce 9800 GTXは、GeForce 8800 GTXと比較してリファレンスボードの消費電力が25Wほど下がったわけだが、単体使用時にそこまで大きな違いは得られていない。とはいえ、アイドル時、アプリケーション実行時とも確実に消費電力は低下している。SLIになるとこの差は大きく開き、GeForce 8800 GTXに比べるとパフォーマンスと消費電力のバランスは良好といえるだろう。 だが、GeForce 9800 GX2は、GeForce 9800 GTXのSLI構築時よりもかなり低い消費電力になっている。パフォーマンス面では確かにGeForce 9800 GTXのSLIの方が良好ではあるのだが、これまでに見てきた性能差からすると、GeForce 9800 GX2の方が好印象を受ける。
●ハイエンドの位置付けに大きな変化 以上の通りGeForce 9800 GTXのベンチマーク結果を見てみると、GeForce 8800 GTXの登場から1年以上を経て登場した後継製品ではあるものの、パフォーマンスが確実に上回るとは言い切れない結果となった。アプリケーションの得手不得手はあるが、これはドライバに依存した性能差がある可能性もある。むしろフィルタ適用時の性能低下が非常に辛い印象を受け、ハイエンド製品らしさが薄らいでいる印象だ。そのために、インパクトは弱い製品であることを否めない。 しかし、G80コアからG92コアへ変わったことで、消費電力やディスプレイ出力、ビデオ再生支援機能の面では充実した。GeForce 8800 GTXに近いパフォーマンスを持った、現行世代の製品が入手できるようになった、という見方もできるだろう。シングルGPUであるデメリットを感じるならGeForce 9800 GX2や、SLIを構築することだって可能だ。 これまでのGPUは、ハイエンド製品が登場するたびにトランジスタ数を増やし続けてきた。しかし、パフォーマンスだけでなく省電力性や機能面への要求も高まっている現在においては、全体にバランスよくレベルを高めていく方が望まれる。そうした視点においては、GeForce 9800 GTXは4万円台で入手できる価格であることも含めて、非常に高いレベルにある製品だと思う。 □関連記事 (2008年4月2日) [Text by 多和田新也]
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