多和田新也のニューアイテム診断室

NVIDIAの新ミドルレンジGPU
「GeForce 9600 GT」




 NVIDIAは21日(米国時間)、ミドルレンジGPUの新製品「GeForce 9600 GT」を発表した。デスクトップ向けでは初めてのGeForce 9シリーズとなり、ブランド上はメジャーアップデートが行なわれた格好となる。この製品のパフォーマンスを見てみたい。

●GeForce 8800 GTからはPureVideo周りが大きな変更点

 今回発表されたGeForce 9600 GTは、169~189ドルの価格帯で販売されるミドルレンジ向け製品となる。GeForce 8600 GTSの上位モデルで、GeForce 8800 GTの下位モデルというのが同社の公式見解だが、事実上、GeForce 8600 GTSの後継と考えるのが妥当な価格帯だ。

 主なスペックは表1にまとめた通りで、65nmプロセスで製造されるG92コアをベースとしたG94と呼ばれるチップだ。Streaming Processor数はGeForce 8800 GTの112基に対して、64基に減らされた。ただし、GeForce 8600 GTSからは倍増したことになる。

【表1】GeForce 9600 GTの仕様
  GeForce 9600 GT GeForce 8800 GS GeForce 8800 GTS GeForce 8800 GT GeForce 8600 GTS
プロセスルール 65nm 80nm
コアクロック 650MHz 550MHz 650MHz 600MHz 675MHz
SP数 64基 96基 128基 112基 32基
SPクロック 1,625MHz 1,375MHz 1,625MHz 1,500MHz 1,450MHz
テクスチャユニット数 32基 48基 64基 56基 16基
メモリ容量 512MB GDDR3 384MB GDDR3 512MB GDDR3 512/256MB GDDR3 256MB GDDR3
メモリクロック 1,800MHz(900MHz DDR) 1,600MHz(800MHz DDR) 1,940MHz(970MHz DDR) 1,800MHz(900MHz DDR) 2,000MHz(1,000MHz DDR)
メモリインターフェイス 256bit 192bit 256bit 256bit 128bit
ROPユニット数 16基 12基 16基 16基 8基

【画面1】メモリ圧縮転送技術により、同等スペックのG80世代より性能を向上

 G92コアでは最大128基のSPを持つ製品が登場しているが、G94コアでは64基が最大になる可能性もある。というのも、GeForce 8800 GTのトランジスタ数が7億5,400万個であったのに対して、GeForce 9600 GTのトランジスタ数が5億500万個となっているからだ。ミドルレンジ向けのダイは、歩留まりを向上させるためにダイサイズを小さくするのが一般的なアプローチであり、G94コアもG92コアをベースに機能を絞ってダイサイズを小さくしたものと想像される。

 ただし、SP数以外は上位モデルのGeForce 8800シリーズに対して大きく劣らないものといえる。コアクロックは650MHz、メモリクロックは1.8GHz(900MHz DDR)と、GeForce 8800 GTと同等以上。ROP部は4クラスタで、256bitのメモリインターフェイスを備える。メモリ容量も512MBが標準だ。

 また、GeForce 9600 GTは、統合型シェーダユニットを採用した最初の世代のコアであるG80コアに比べて、メモリの圧縮転送技術が追加されており、仮に同じSP数であればより高い性能を出せる点もアピールされている(画面1)。

 さて、実際の製品であるが、今回テストするのはGeForce 9600 GTを搭載するAlbatronの定格動作モデルと、オーバークロックモデルとなるXFXの「PV-T94P-YDD4」である(写真1、2、画面2、3)。外観上の違いはクーラーの化粧シール程度で、ほかは同一だ。

【写真1】GeForce 9600 GTを搭載するAlbatron製品 【写真2】GeForce 9600 GTを搭載するXFX製のOCモデル「PV-T94P-YDD4」
【画面2】Albatron製品の動作クロック。コア650MHz、メモリ900MHz(データレート1.8GHz)の定格で動作している 【画面3】XFX「PV-T94P-YDD4」の動作クロック。コア700MHz、メモリ1,000MHz(データレート2GHz)で動作している

 クーラーは、GeForce 8800 GTのクーラーに似た1スロットで収納可能なものとなっている。ただし、ファンのサイズはGeForce 8800 GTの初期に採用されたファンよりも口径が大きくなっている(写真3)。高回転時のノイズの印象は、GeForce 8800 GTとそれほど変わったようには感じられなかった。むしろ、冷却能力を重視した変更なのだろう。

 リファレンスボードの消費電力は95Wとされており、ボード末端部には電源端子も備えられている(写真4)。GeForce 8800 GTは105W、GeForce 8600 GTSは74Wだったので、ミドルレンジビデオカードという観点でいえば、その枠は引き上げられた格好といえる。

 ブラケット部の構成はDVI×2とビデオ出力という構成であり、2端子ともDualLinkに対応(写真5)。DualLink HDCPもサポートしている。また、DisplayPortにもネイティブ対応するほか、ボード上にS/PDIF入力を備え、DVI→HDMI変換ドングルを利用することによるHDMI出力も利用可能となった(写真6)。

【写真3】左がGeForce 8800 GT、右がGeForce 9600 GT。ファンのサイズが一回り大きくなった 【写真4】ボード末端部には電源端子を備える。リファレンスボードの消費電力は95Wとされている
【写真5】ブラケット部はDVI×2、TV出力の構成。DVIはDualLink、DualLink HDCPに対応する 【写真6】ボートにはS/PDIF入力端子も備えており、DVI→HDMI変換ドングルによる出力に対応する

 PureVideo HDもアップデートされ、主に3つの機能強化が行なわれた。1つは「Dual-Stream Decode」で、ピクチャー・イン・ピクチャーなどのように2つの動画を同時に再生しているような場面において、2つのビデオに対してPureVideo HDのデコードアクセラレーションが適用される。

 2つ目は「Dynamic Contrast Enhancement」で、その名を通りコントラストを高める機能となる(画面4)。最後が「Dynamic Color Enhacement」である。これは、空や水などの青、植物の緑、そして人の肌の彩度を高める機能だ(画面5、6)。これらは“Dynamic”という機能名が示す通り、全フレームに対して動的に施されることになる。

 もっとも、これらの機能はGeForce 9600 GTに限らず、G92コアの製品でもForceWare Release 174以降のドライバでサポートされる。GeForce 8600 GTSのPureVideo HDの機能は、リリース当時のハイエンド向けGPUであったG80コアに対してH.264のハードウェアでコード支援に関する優位点を持っていたが、GeForce 9600 GTではPureVideo HDの機能は差別化ポイントにはなっていない。

【画面4】Dynamic Contrast Enhancementの効果。左が無効状態の映像で、右が有効にしてコントラストを高めた映像の例だ 【画面5】Dynamic Color Enhacementの例。こちらは無効状態の映像例 【画面6】こちらがDynamic Color Enhacementを有効にした例。水着の青色、背景の緑、人の肌色の見栄えが向上する

●GeForce 8800の廉価モデルを中心に比較

 それでは、ベンチマーク結果をお伝えしていきたい。テスト環境は表2に示した通りで、比較対象は価格帯がそれほど離れていないGeForce 8800 GT/GS、GeForce 8600 GTS、Radeon HD 3850の4製品とした(写真7~10)。ドライバは、各製品が利用可能なドライバのうち最新のものを利用した。

 GeForce 8800 GSはXFXのオーバークロックモデルなので、ダウンクロックして標準のコア580MHz/1.4GHzの動作クロックでも検証した。

【表2】テスト環境
  GeForce 9600 GT(700MHz/2.0GHz)
GeForce 9600 GT(650MHz/1.8GHz)
GeForce 8800 GS(680MHz/1.6GHz)
GeForce 8800 GS(580MHz/1.4GHz)
GeForce 8800 GT
GeForce 8600 GTS
ATI Radeon HD 3850
VGA Driver ForceWare 174.12 ForceWare 169.32 ForceWare 169.28 CATALYST 8.1
(Driver Package Version. 8.451-071220a1-0577724C-ATI)
マザーボード ASUSTeK P5K PRO(Intel P35)
CPU Core 2 Extreme QX9650/E6550
メモリ PC2-6400 DDR SDRAM 1GB×2 (5-5-5-18)
HDD Seagete Barracuda 7200.10(ST3250310AS)
OS Windows Vista Ultimate

【写真7】GeForce 8800 GTのリファレンスカード 【写真8】GeForce 8800 GSを搭載する、XFXの「PV-T88S-FDD」
【写真9】GeForce 8600 GTSを搭載する、ASUSTeKの「EN8600GTS SILENT/HTDP/256M」 【写真10】Radeon HD 3850のリファレンスカード

 まずは、「3DMark06」(グラフ1~4)と「3DMark05」(グラフ5)の結果から見ていくことにする。Radeon HD 3850は、3DMark05の1,920×1,200ドット、4xAA/8x異方性フィルタ適用の条件が動作しない現象が発生しているので、この結果は省略している。

 結果はGeForce 8800 GSのオーバークロック版に近い結果となった。フィルタを適用しない条件ではSM2.0テストでGeForce 8800 GS(OC版)が優位に立つが、フィルタ適用時やHDR/SM3.0テストではGeForce 9600 GTに優位性が見られる。もちろんGeForce 8800 GSのノーマル版に対しては完勝で、GeForce 9600 GTのOC版は、GeForce 8800 GTに次ぐ優れた結果になっている。

 フィルタ類を適用したときのGeForce 9600 GTの結果の良さの一因は、ROP部の優位性によってアンチエイリアス適用時の性能低下が小さかったものと思われる。また、FeatureTestではPixel ShaderやVertex Shaderのテストで、GeForce 8800 GSが良い結果を出す傾向にある。これはSP数の差がもたらしたものと見て間違いない。とはいえ、GeForce 9600 GTはGeForce 8800 GS以上のメモリ帯域幅を持っており、こうした違いが結果に影響していると想像される。これらから見ると、GeForce 9600 GTはスペックのバランスの良さが感じられる結果といえる。

 さらに、3DMark05においても、GeForce 9600 GTの良さは目立つ。ノーマル版でもGeForce 8800 GSのオーバークロック版と同等以上の結果を出しており、オーバークロック版ではGeForce 8800 GTと同等といえるレベルに達する。ミドルレンジ製品ながら、ハイエンド並みの性能を出していることになる。

【グラフ1】3DMark06 Build 1.1.0
【グラフ2】3DMark06 Build 1.1.0(SM2.0)
【グラフ3】3DMark06 Build 1.1.0(HDR/SM3.0)
【グラフ4】3DMark06 Build 1.1.0(Feature Test)
【グラフ5】3DMark05 Build 1.3.0

 「F.E.A.R.」(グラフ6)の結果もオーバークロック版がGeForce 8800 GTに肉薄するシーンが見られ、その結果の良さは目立つ。ノーマル版も健闘しており、描画負荷が高まるシーンではGeForce 8800 GSのオーバークロック版に勝る結果もあるほどだ。

【グラフ6】F.E.A.R.(Patch v1.08)

 「Crysis」(グラフ7)の結果も極めて良好といえるものだ。特に解像度が高まるほどGeForce 8800 GSとの差は開き、GeForce 8800 GTに近づく。非常に高いクオリティで表現するこのアプリケーションは、それだけ転送するデータ量も多い。GeForce 8800 GSに対するSP数の少なさを補ってあまりあるほどに、メモリ帯域幅の優位性が活きた結果になっている。

 ただ、GeForce 9600 GTオーバークロック版であっても、GeForce 8800 GTを追い越すことはできておらず、Crysisはメモリ帯域幅、シェーダ処理能力ともに、高いレベルが求められるアプリケーションであることは間違いない。

【グラフ7】Crysis(Patch v1.1)

 「COMPANY of HEROES OPPOSING FRONTS」(グラフ8)は、フィルタ類を適用しない条件や、UXGAまでの解像度であればGeForce 8800 GSの方が良く、フィルタ適用時とWUXGAではGeForce 9600 GTの方が良い結果となる。ここまでに見た結果と似た傾向には違いないが、その善し悪しがより分かりやすく出た結果といえる。

【グラフ8】COMPANY of HEROES OPPOSING FRONTS(Patch v2.201)

 「World in Conflict」(グラフ9)は、GeForce 9600 GTとGeForce 8800 GTの2つが飛び抜けた印象だ。ほかのビデオカードでは、高解像度かつフィルタ適用によって、性能がまったく伸びない状況に陥る条件が見られる。先述の2つのGPUは、ここで実施しているテスト条件ではそうした結果を見せず、能力の違いを見せつけている。

 また、GeForce 9600 GTのオーバークロックモデルでは、GeForce 8800 GTを上回る結果を見せ、ここはメモリ帯域幅の優位性が活きた結果といえる。

【グラフ9】World in Conflict(Patch v1.004)

 「Call of Juarez DirectX 10 Benchmark」(グラフ10)も、高解像度でGeForce 8800 GTを上回る結果を見せた。GeForce 8800 GSでは安定して結果を上回っており、このアプリケーションに対する強さを見せている。

【グラフ10】Call of Juarez DirectX 10 Benchmark

 「Unreal Tournament 3 Demo」(グラフ11)は、低解像度ではGeForce 9600 GTのノーマル版と、GeForce 8800 GSのオーバークロック版が近い結果となる。しかし、このアプリケーションもほかと違わず、高解像度になればGeForce 9600 GTの良さが目立つ。また、1,920×1,200ドット、4xAA/8x異方性フィルタリングの条件では、オーバークロック版のGeForce 9600 GTが、GeForce 8800 GTを上回る結果となった。

【グラフ11】Unreal Tournament 3(Patch v1.1)

 「LOST PLANET EXTREME CONDITION」(グラフ12)は、GeForce 9600 GTが非常に優れた結果を見せた。特にオーバークロック版は、全条件においてGeForce 8800 GTと同等以上という結果であり、このアプリケーションにも向いたビデオカードといえるだろう。

【グラフ12】LOST PLANET EXTREME CONDITION

 続いては、HD DVDの再生テストを試しておきたい。このテストのみ、CPUはCore 2 Duo E6550(2.33GHz)へ変更している。テストソースは、MPEG-4 AVCで収録された「VirtualTrip 地球の大自然」のチャプター12と、VC-1で収録された「SPY GAME」のチャプター21で、これらを再生したときのCPU使用率を1秒ごとにトレースし、3分間の平均を結果として表している(グラフ13)。

 結果は、G92/G84コアと、G94コアで明確な差は見て取れない。PureVideo HDのアップデートは行なわれたものの、GeForce 8200チップセットで採用されたVC-1のデコードアクセラレーションは導入されていないことになる。

【グラフ13】HD DVD再生時のCPU使用率(Power DVD Ultra使用)

 最後に消費電力測定の結果である(グラフ14)。GeForce 8600 GTSはファンレス製品なので数Wはプラスすべきだが、それでも消費電力が増加していることは間違いない。しかし、GeForce 8800 GS/GTよりは低い電力で落ち着いている。ピーク時では、GeForce 9600 GTのオーバークロック版と、GeForce 8800 GSのノーマル版が同程度という当たりが、両者の傾向を示す分かりやすい結果だろう。

【グラフ14】各ビデオカード使用時の消費電力

●ハイエンド製品と呼称しても差し支えないレベルにあるGeForce 9600 GT

 以上の通り結果を見てくると、非常に高いレベルでバランスの取れたパフォーマンスを発揮している。GeForce 8600 GTSとの差は言及の必要がないほど明確な差が出ているうえ、位置付けが上位となるGeForce 8800 GSに勝る結果も多い。オーバークロックモデルであればGeForce 8800 GTに勝る部分すらあるほどだ。

 この結果をもたらしたものは、メモリ帯域幅によるところが大きいはずだ。これにより、高解像度条件のように、描画負荷が高まっても一気にパフォーマンスが落ちることがなく、ハイエンドに近い性能傾向を発揮できている。ミドルレンジに256bitメモリインターフェイスを採用したNVIDIAの判断は、ユーザーにとって意味が大きいといえるだろう。

 ただ、GeForce 9600 GTがヒット製品になるかという点には、不安はある。国内での価格帯は2万円台中盤が予想されており、GeForce 8800 GTよりやや安価ではある。しかし、GeForce 8800 GTの512MBモデルでも3万円を切る製品は多く、GeForce 9600 GTが際だって安価とはいえない。

 GeForce 9600 GTのパフォーマンスが優れていることは間違いないが、かといってGeForce 8800 GTを上回るとはいえないこと事実。つまり、GeForce 8800 GTを持っている人には、買い換えの対象とならない。ということは、このクラスの性能を求めるユーザーで、かつGeForce 8800 GTに手を出さなかった人が対象の製品といえるわけで、GeForce 8800 GTのヒットを考えると、少なくとも自作ユーザーにおいては、その対象となる人は少ないように思われる。

 とはいえ、これはGeForce 8800 GTが先発の製品であるから感じる印象であり、両者のコストパフォーマンスの印象に違いは感じられない。これからこのクラスの製品を求めるユーザーにとっては単純に投資できる金額で決めて良いだろう。現在、GeForce 8600シリーズなどのビデオカードを使っているユーザーにとって高い投資価値があり、ミドルレンジGPUの常識を一歩上に引き上げた製品といえる。

□関連記事
【1月21日】【多和田】GeForce 8800シリーズの最廉価モデル「GeForce 8800 GS」
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2008/0121/tawada127.htm
【1月8日】【CeBIT】NVIDIA、Hybrid SLI技術を正式発表
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2008/0108/ces03.htm

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(2008年2月22日)

[Text by 多和田新也]


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