笠原一輝のユビキタス情報局

2008年のIntelプラットフォームを支える
“4”シリーズチップセット




CeBITで展示されていたIntel G45 Expressチップセット

 IntelのOEMメーカーはCeBITにおいて、Intelが2008年第2四半期に投入を予定しているIntel 4シリーズチップセットを搭載したマザーボードを一斉に展示した。Intel 4シリーズチップセットは、これまで開発コードネームEaglelake(イーグルレイク)で呼ばれてきた製品で、2008年末にリリースを計画しているNehalemアーキテクチャの製品ではシステムバスが現行のP4バスからQPI(Quick Path Interface)に変更されるため、2000年以来7年の長きにわたり利用されてきたP4バス用CPUのチップセットとしては最後の製品となる。

 Intel 4シリーズチップセットでは、Intelチップセットの弱点となっていた内蔵GPUが強化されるほか、コンシューマユーザー向けのiAMT(Intel Active Management Technology)となる“Crown Springs”と呼ばれる新しい仕組みが用意される。

●P35との差別化が難しいP45への切替タイミングに悩むマザーボードベンダ

 OEMメーカー筋の情報によれば、Intelが第2四半期に投入を計画しているIntel 4シリーズチップセットには、以下のようなSKUが用意されている。

【表1】Intel 4シリーズチップセットのノースブリッジとスペック(筆者予想)
  P45 P43 G45 G43 G41 Q45 Q43
FSB バスアーキテクチャ P4バス P4バス P4バス P4バス P4バス P4バス P4バス
1,333MHz
1,066MHz
800MHz
メモリ デバイス DDR2/DDR3 DDR2/DDR3 DDR2/DDR3 DDR2/DDR3 DDR2/DDR3 DDR2/DDR3 DDR2/DDR3
チャネル/チャネルあたりのDIMM数 2/2 2/2 2/2 2/1 2/1 2/2 2/2
最大メモリ(DDR2/DDR3) 16GB/8GB 8GB/4GB 16GB/8GB 8GB/4GB 8GB/4GB 16GB/8GB 16GB/8GB
1,333/DDR3-1333 - - - - -
1,333/DDR3-1066
1,333/DDR3-800
1,066/DDR3-1066
1,066/DDR3-800
800/DDR3-800
1,333/DDR2-800
1,333/DDR2-667
1,066/DDR2-800
1,066/DDR2-667
800/DDR2-800
800/DDR2-667
GPU ブランド - - Intel GMA X4500 HD Intel GMA X4500 Intel GMA 4500 Intel GMA 4500 Intel GMA 4500
Direct3D 10 - -
動画高画質化機能 - - - -
H.264/MPEG2/VC-1ハードウェアデコード - - - - - -
ディスプレイ出力 - - 2 2 2 2 2
HDCPキー - -
HDMI - - - - -
DVI - -
DisplayPort - -
sDVO - -
VGA - -
PCI Express x16 1xGen2 1xGen2 1xGen2 1xGen2 1xGen1 1xGen2 1xGen2
サウスブリッジ ICH10/10R ICH10/10R ICH10/10R ICH10/10R ICH10/10R ICH10DO ICH10DO

 上からコンシューマ向けのP45、P43、G45、G43、G41と、企業向けのQ45、Q43という複数のSKUが用意されている。このほかに、X48という製品もあるが、X48に関してはすでに明らかになっているように、EaglelakeベースではくBearlake+というコードネーム呼ばれる、前世代と言ってよいIntel 3シリーズチップセットベースに機能を強化したものとなっている(Intel 955の改良版がIntel 975であったのと同じ理屈だ)。

Intel P45 Expressチップセット

 このスペックを見ていて、多くのユーザーが気づくと思われるが、単体型チップセットで比較した場合、P45とP35の違いは驚くほど小さい。どちらもFSB 1,333MHzをサポートし、DDR2とDDR3をサポートするなどの特徴はほぼ同じで、大きな違いといえばDDR2利用時には最大で16GBまで可能なこと、PCI Express x16スロットがGen1からGen2になったことぐらいだろう。現状ではDDR2の4GBのモジュールがあまり流通していないことや、PCI Express Gen2に対応したGPUがまだまだ多くないことや、対応していてもGen2が必要なのはハイエンドのビデオカードぐらいであることを考えると、差はないに等しいと言っていいだろう。

 実際あるマザーボードベンダーの関係者は「P45とP35の違いを顧客に説明するのはほぼ不可能だ。スペックだけを見れば、PCI Express Gen2や16GBというメリットは多くの顧客には無関係だ」と話しており、P45を搭載したマザーボードをどのように顧客に販売していくか悩んでいることを打ち明けた。この認識は多くの関係者に共有されていて、どのタイミングでP35からP45に切り替えるのかは、どのメーカーも悩んでいるようだ。

 ただ、1つのタイミングとなりそうなのが、DDR3のモジュールの供給量が増え、安価になってきたタイミングだ。それがいつになるのかはわからないが、2008年のどこかのタイミングでDDR3が安価になり、DDR2と入れ替わるタイミングがくると考えられており、その時にDDR2のデザインが主流のP35からDDR3のP45へ切り替えるというものだ。それであれば、エンドユーザーにも説明がしやすく、わかりやすい切り替え時期になるだろう。

Intel 4シリーズチップセットのブロック図(筆者予想)

●Direct3D 10やH.264/VC-1のハードウェアデコードなど従来製品に比べ強化される内蔵GPU

 なぜP45とP35の差があまりないのかといえば、Intel 4シリーズチップセットの大きな改良点が内蔵GPUにあるからだ。このため、G45/43と前世代になるG35/33はGPUで差別化できるのだが、GPUが内蔵されていないP45とP35ではあまり差がないように見えてしまうのだ。

 Intel 4シリーズチップセットに内蔵されているGPUは、Intel GMA(Graphics Media Acceralator)4500シリーズで、G45に内蔵されているGMA X4500 HD、G43に内蔵されているGMA X4500、G41/Q45/Q43に内蔵されているGMA 4500の3つのタイプが存在している。

 GMA 4500シリーズの特徴は、Direct3D 10に標準で対応していることだ。GMA 4500シリーズはG35/G965に内蔵されていたGMA X3000シリーズの流れを組むプログラマブルなエンジンを備えており、エンジンユニットの数がGMA X3000/3500の8個から10個に増やされている。

 さらに、GMA 4500シリーズでは、動画処理の固定ユニットも追加されており、それによりBDやHD DVDで採用されている動画フォーマットのH.264(MPEG4 AVC)とVC-1、MPEG-2のHD動画をCPUにあまり負荷をかけることなく再生することが可能になっている。従来のG35/G965の場合、動き補正やデブロッキングに関してはGPU側のエンジンを利用したのだが、H.264とVC-1の逆変換と複合演算に関してはCPUを利用して行なっていた。このため、CPUにかかる負荷が大きく、BDやHD DVDなどをG35やG965の内蔵GPUを利用して再生した場合にはCPUの利用率が上昇してしまっていた。

GMA 3000シリーズとGMA 4500シリーズの動画再生処理(筆者予想)

 そこで、GMA 4500シリーズではそうしたCPUで処理していた部分に関してもGPU側で処理するようになり、BDやHD DVDを再生したとしてもCPUにかかる負荷は最小限ですむようになるのだ。

 このほか、従来のGMA 3000シリーズでは内蔵されていなかったHDCPの暗号化鍵もGPUの内部に封じ込められている。このため、HDMIやHDCPに対応したDVIポートを実装するために別途HDCP鍵を内蔵したトランスミッタを利用しなくても、チップセットだけで実現することが可能になる。また、ディスプレイ周りでは次世代のPC用のディスプレイ接続端子であるDisplayPortにも対応している。なお、ディスプレイ出力に関しては従来通り2系統がサポートされる。

 なお、Direct3D 10のサポートに関してはすべてのSKUでサポートされるが、動画のハードウェアデコードに関してはG45に内蔵されるGMA X4500 HDのみのサポートとなる。他にもSKUによって違いはあり、具体的には次のような仕様になる。

【表2】GMA 4500シリーズの3つのSKU
  GMA X4500 HD GMA X4500 GMA 4500
Direct3D 10
MPEG-2/VC-1/H.264ハードウェアデコード - -
HDCP
DVI
HDMI -
DisplayPort

●Direct3D 10対応には疑問の声も、ただしリミットは否応なくやってくる

 このように、今回のGPUの強化の目玉はDirect3D(D3D) 10への対応とBD(もう次世代DVDといわないでいいだろう)のハードウェアデコードの2つと言ってよい。

 ただし、OEMメーカーの中には、Intelがこの2つの機能を本当に実現できるのか疑問を抱いているところも少なくない。というのも、Intelは内蔵GPUのドライバに関して公約を守れた試しがほとんどないからだ。例えば、Intelは2007年の9月にD3D 10に対応することが売りのG35をリリースしたが、実のところ、今の今までD3D 10に対応したデバイスドライバをリリースできていない。Intelに近い関係者によれば、このドライバ開発は未だに難航しており、第2四半期にリリースできるかもしれない、という段階であるという。ちなみに、G35の内蔵GPUであるGMA X3500とGMA 4500シリーズは内蔵エンジン数の違いこそあれ、基本的なアーキテクチャは近いと考えられているので、GMA X3500のD3D 10対応ドライバができないということはGMA 4500シリーズのDirect3D 10対応のドライバもできないと考えることができる。

 しかし、今回のGMA 4500シリーズに関してはなんとしてもD3D 10に対応しなければならない理由がある。それがVista Premiumロゴの問題だ。この件に関しては以前の記事で触れたことがあるので、詳しい事情はそちらを参照して欲しいが、2008年の6月1日以降はVista Premiumの要件を満たすためにはD3D 10に対応している必要があり、それを満たすためにIntelはなんとしてもGMA 4500をD3D 10対応にしなければならないだろう。仮にIntelがそれを実現できないのであれば、多くのメーカーはNVIDIAに乗り換える可能性が高い(もっともNVIDIAもIntel向けのD3D 10対応統合型チップセットはリリースできていないが…)。

 だから、さすがに今回はIntelもなんとかするだろうという見方をする関係者は少なくない。確かに、仮にこのリミット(6月1日)までにIntelがD3D 10に対応したドライバをリリースできないようなら、IntelのGPU統合型チップセットを採用している多くのメーカーはVista Premiumのロゴをあきらめないといけなくなる。PCメーカーにとってVista Premiumのロゴをつけるか、つけないかは収益にも影響を与えかねない重要な問題であるので、Intelに対するプレッシャーも大きいはずだ。

 なお、今回のCeBITの会場では、G45を利用してD3D 10のデモを利用しているところは一社も無かった(P45に関しては多数の実働デモが行われていた)。唯一、MSIにおいてBDの再生デモを行っていたのがあったぐらいだ。それも、ひたすらBDのビデオを再生しているだけのもので、現在のドライバがD3D 10に対応しているのかは確認できなかった。

 とにかくリミットは6月1日と、あと3カ月弱しか猶予はない。そこまでにIntelがD3D 10対応ドライバをリリースできるか、多くの業界関係者がやきもきしている状況だ。

MSIで行なわれていたG45の実働デモ。Direct3D 10のデモではなく、BD再生のデモだった こちらはECSで行なわれていたP45の実働デモ。GPUが入っていないP45のデモはそこかしこで確認できた

●ICH9から大きな機能強化が少ないICH10、目玉機能はHDDのハードウェアによる暗号化

 Intel 4シリーズチップセットでは、サウスブリッジはICH10に変更される。ICH9に対するICH10の強化ポイントは以下のようになっている。

  1. Danbury TechnologyというHDDのハードウェアを利用した暗号化に対応
  2. iAMTが5.0に強化された
  3. ポートマルチプライヤ機能の拡張
  4. IntelのiTPMに対応

 USBのポート数(12ポート)、SATAのポート数(6ポート)、PCI Expressのレーン数(6x1)などはICH9と変わっていない。というか、そもそもICH10はICH9とピン互換(正確には上位互換)になっており、ICH9のデザインをそのままICH10にも活用できるという。

 ICH10機能の目玉はDanbury Technologyと呼ばれるHDDの暗号化機能だろう。Danbury Technologyでは、ノースブリッジに内蔵されているManagement Engineから発行される暗号化鍵(256/128bit)を元に、ICH10に内蔵されているAES-LRWアルゴリズムの暗号化エンジンを利用し、データを暗号化してHDDに格納する。HDDの暗号化といえばソフトウェアベースのものはすでに存在しているが、暗号化の際にCPUを利用することになるので、どうしても性能の低下は免れなかった。しかし、Danbury Technologyを利用すると暗号化エンジンを利用して暗号化するので、性能低下はほとんどなく暗号化が実現できるのだ。

 また、厳密にいうとICH10に内蔵されている訳ではないがICH10とセットで提供されるファームウェアなどを格納したフラッシュメモリの内部にTCG 1.2仕様に準拠したTPM(いわゆるセキュリティチップ)の機能が提供される。これにより、OEMメーカーはvProなどで必要とされるTPMを追加なく実装することが可能になるのだ。

 なお、ICH10のSKUは以下のようになっている

【表3】ICH10のSKU(筆者予想)
  ICH10 ICH10R ICH10D ICH10D0
PCI Express 6x1 6x1 6x1 6x1
SATA 6ポート 6ポート 6ポート 6ポート
eSATA
RAID - 0/1/5/10 - 0/1/5/10
Intel Turbo Memory - - -
USBポート(EHCIコントローラ) 12(2) 12(2) 12(2) 12(2)
Audio HDオーディオ HDオーディオ HDオーディオ HDオーディオ
LAN MAC 1000BASE-TX 1000BASE-TX 1000BASE-TX 1000BASE-TX
遠隔地起動 CrownSprings CrownSprings - Wake On VoIP
プラットフォームブランド Viiv Viiv - vPro

 ICH10では、SKU構成が整理され、Viiv向けのICH10DHは無くなった。ICH10とRAIDをサポートしたICH10RがViiv対応になり、企業向けがICH10DとICH10DOになり、vProにはICH10DOが必要になる。

●Core2 with ViivのPCに新しい付加価値を与えるCrownSpringsの構想

 すでに以前の記事でお伝えしているように、IntelはViiv Technologyのブランドをサブブランドに格下げし、それと同時に、Viiv PCにプレミアムコンテンツをダウンロードして他のPCやDMAなどからアクセスして再生するという、Viiv PCをデジタルホームのハブにするという構想をあきらめている。

 Intelはそれに代わる新たな構想として、開発コードネーム“CrownSprings”(クラウンスプリングス)で知られる構想を持ち、OEMメーカーやISPなどに説明を続けている。CrownSpringsとは具体的には、これまでvProにしか利用されてこなかったME(Management Engine)の機能を利用して、外部から安全にPCにアクセスすることを可能にするための機能だ。

 CrownSpringsに対応したPCでは、ユーザーが署名済のCrownSprings対応アプリケーションをインストールする。すると、MEの機能を利用してPCがスタンバイ状態にある場合でもインターネット側からPCを起動させることができるようになる(WoLのマジックパケットはルーター越えができない)。また、ハードウェアであるMEの機能を利用してユーザーが認証したソフトウェアだけがこの機能にアクセスできるので、外部からアタックされる可能性は限りなく低い(むろん0ではないが)。これらの機能を利用すると、ユーザーは外出先から自宅のPCからコンテンツをストリーム再生したいという時でも、PCの電源をずっと入れっぱなしにしておく必要が無くなる。

 また、将来的には別の使い方も考えられる。例えば、PCを販売する時にリモートサポートサービスのオプションをメーカーや小売店が販売し、ユーザーのPCにCrownSpringsに対応したサポートソフトウェアをインストールしておくと、サービス提供の会社がユーザーのPCに直接アクセスしてメンテナンスしたりというサービスを提供するなども充分考えられる。vProと同じように、ハードウェアであるMEの機能を利用するため、OSが起動していない状態であってもメンテナンスが可能であり、例えばOSのイメージを壊してしまって起動しないという状態であっても、サービス会社からOSのイメージを繰り込んで復旧させるなどといったことまでも考えられる。もっとも、それにはインフラ(つまりサービスを誰が提供するのか)を構築する必要があるので、Intel 4シリーズチップセットに間に合うのかは微妙だが、今後の展開を考えると可能性を秘めた仕組みだと言える。

 なお、このCrownSpringsの仕組みを有効にすることは、Core 2 with Viivのロゴシールを貼るための要件になっており、2008年の後半には対応したPCが続々と登場することになりそうだ。

□関連記事
【2007年10月15日】【笠原】Intelが2008年第1四半期にFSB 1,600MHz対応製品を投入
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2007/1015/ubiq202.htm
【2007年9月21日】【笠原】ViivからCanmoreへと主力製品を切り替えるIntelのデジタルホーム事業
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2007/0921/ubiq197.htm
【2006年6月15日】【笠原】PCメーカーを悩ませる“Vista Premium”ロゴの内容
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2006/0615/ubiq161.htm

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(2008年3月7日)

[Reported by 笠原一輝]


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