Intelは米国のサンフランシスコにて、9月18日~20日(現地時間)の3日間に渡り、同社の技術や戦略などを説明するIntel Developer Forum(IDF)を開催している。最終日となる20日は、同社のCTO(最高技術責任者)であるジャスティン・ラトナー氏によるR&D(開発中や将来の技術)に関する基調講演などが行なわれている。 ところで、今回IDFで行なわれた基調講演の中で、Intelのビジネスの中で抜け落ちている印象の分野がある。初日にはポール・オッテリーニ社長兼CEOによる総合的な講演とエンタープライズ、2日目はモバイル関連(ノートPCとウルトラモビリティ)、3日目はソフトウェアとR&Dとそれぞれ行なわれているのだが、「デジタルホーム」というIntelがこれまで重視してきた分野の基調講演がすっぽりなくなっているのだ。 果たして、Intelのコンシューマ向け製品を担当するデジタルホーム事業本部は、どのような戦略をとっていこうとしているのだろうか。 ●今回のIDFでデジタルホーム関連の基調講演がないのはCESに内容をとっておくためか 今回のIDFでデジタルホーム関連だけ何も新しい発表がなかったことに対して、キム氏は「我々のすべての新戦略は、International CESをターゲットにしている。ご存じの通り、家電業界ではすべての発表がInternational CESに合わせられており、我々もそこで新しい戦略を明らかにしていく予定だ」と述べ、来年(2008年)1月のInternational CESにおいて新しい戦略を発表する予定であるので、今回のIDFでは特に基調講演などを行なわなかったのだと説明した。 確かに、2008年1月に行なわれるInternational CESの基調講演のスケジュールを見ると、初日の午後にIntelのポール・オッテリーニ社長兼CEOの基調講演が予定されている。そこで、新しい戦略などを発表するため、今回のIDFでは特に何も発表しなかったというのは一応は筋が通っているのだが……。 そうした事情を反映してか、オッテリーニ社長も自身の基調講演の中で、「これはInternational CESで公開するんだけど……」と断りながら、新しい家電向けのCPUの計画を明らかにした。それが“Canmore”(ケーンモア)で、x86の命令セットを持ったSoCとなっている。 このCanmoreの計画自体は、現在のデジタルホーム事業本部 本部長のエリック・キム上級副社長の前任者であるドン・マクドナルド副社長が本部長だった時代にIDFで明らかにされていた(ただしコードネームに関してはその当時は公開されなかった)のだが、その時には“Viiv”について語るのが本筋で、このCanmoreについては、ほとんどおまけという扱いだった。ところが、オッテリーニ氏の講演では、Canmoreが話題の中心で、Viivに関してはそれこそ“V”の字も出てこないぐらいだったことを考えると、明らかに以前とは状況が様変わりしてしまっていることがわかる。
●家電の世界にx86のエコシステムをもたらす最初の製品となる“Canmore” そのCanmoreについてキム氏は詳細は今年(2007年)の末頃に明らかにすると述べ、いくつかのヒントをくれた。 Canmoreは、1チップ上にx86のCPU、メモリコントローラ、いわゆるサウスブリッジの機能(HDDやネットワークなど)、GPUなどを統合したSoC(System On a Chip)となる。今のところ、どのようなCPUコアが統合されるのか、あるいはGPUの機能がどうなるのか全く不明だが、キム氏によれば、「家電の世界ではPCとはかなり要求が異なる。ハイパフォーマンスなビデオやオーディオ、充実したI/O、さまざまな仕様に対応するセキュリティなどが必要になる。なおかつ低消費電力で低コストである必要がある」と、家電ベンダのニーズを満たしながら、低コストで提供できる製品になるという。 なお、家電の開発にx86を利用するメリットは、ソフトウェアの互換性であるという。「デジタル家電の開発は、シリコンだけではどうにもならない。ハードウェアとソフトウェアがそろって初めて意味を持つ。そうした中でIA(Intel Architecture)を選択する最大のメリットはソフトウェアの資産がたくさんあるということだ。我々も過去にIA-64のように新しいアーキテクチャを立ち上げたが、実に困難を極めた。すでにIAにはソフトウェアのエコシステムができあがっており、これをそのまま利用できることが最大のメリットだ」(キム氏)と述べ、家電でもx86を採用することが結局のところ開発コストを抑えることができるなど、OEMベンダにも大きなメリットがあると強調した。 なお、同じx86のSoCということで、すでにIntelが組み込み向けに開発を進めている“Tolapai”(トラパイ)との関係が気になるが、同じダイなのかという筆者の質問に対してキム氏は「CanmoreはTolapaiと同じチームが開発している、同じルーツを持つ製品であり、言ってみれば派生品と言ってよい。Tolapaiがネットワークなどの組み込みなどにフォーカスしているのに対して、Canmoreはビデオやオーディオなどを充実させている」と述べ、同じダイかどうかに対しての直接の答えはなかったものの、同じ開発チームで作られていること、多くの部分が共通であることなどを説明した。 ●Viivからデジタル家電向けのIAベースの半導体へと大きく変わるデジタルホーム事業本部の主流 では、デジタルホーム事業本部のもう1つの、いやデジタルホーム事業本部ができあがった時の主たるプロジェクトだったViiv Processor Technologyに関してはどうなのだろう。 すでにOEMベンダに対してIntelは、Viiv Technologyの戦略変更に関して明らかにしている。詳しいことは関連記事を参照していただきたいが、大まかに言えば来年の1月1日以降、Viivブランドは“Core 2 with Viiv Technology”とCore 2 の後ろにつく形になり、サブブランドに格下げされる。さらにViivの特徴だったViiv Softwareの開発は今年度で終了し、DLNAガイドラインに対応したメディアサーバーなどの提供を中止するというものだった。 キム氏は、Viiv Softwareの提供は中止するのではないのか、という筆者の質問に対して「Viiv Softwareの提供を中止するというわけではない。しかし、OEMベンダ、特に日本のOEMベンダからは自社でカスタマイズしたサードパーティのメディアサーバーソフトウェアを使いたいという要求を多数受けていた。つまり、自社のソフトウェアを使いながらViivロゴを取得したいという要求だ。我々はこの要求を真剣に検討し、Viivロゴの要件からこれを外すことにした、なぜならば我々が集中すべき事はメディアサーバーではなく、シリコンプラットフォームだからだ」と述べ、Viivの要件からViiv Softwareは外したことを明らかにした。また、今後のViiv Softwareの開発や投資に関しても行なわないことも併せて明らかにしている。 また、これまでのViivのPCを中心としたホームネットワークの戦略に変わりはないのかと聞いたところ、「ViivはPCが中心となる戦略だった。PCをサーバーにして、DMA(デジタルメディアアダプタ)などを利用してPCに保存されているコンテンツにアクセスするという環境はすでにできあがっている。しかし、我々にはこれよりも大きなマーケットが広がっている。それがPCに依存せずにTVに対して直接コンテンツを提供するという考え方だ。TV、セットトップボックス、メディアプレーヤーなどにインターネットに接続する機能を持たせることで、より大きな市場を獲得できると考えている」と語り、Intelとして今後はPCに依存しないデバイスに対して、x86のシリコンで直接入っていける市場を重視していきたいという意向を明らかにした。 ●名前だけが生き残るViiv、初期の戦略は事実上の終焉へ キム氏の言いたいことはこういうことだろう。Viivの初期の目標は達成した、これからはTVやセットトップボックスといったまだインターネットの機能が実装されていないようなデジタル家電こそ、大きなチャンスが広がる宝の山だと。つまり、デジタルホーム事業本部としては、もうそちらの方に大きく舵を切ったのだろう、だからViivの話が基調講演では全く出てこない、そういうことだと考えていいのだろう。 それでは、この戦略変更はViivに対する死亡宣告なのだろうか。キム氏は「我々はViivをあきらめてはいない、今後もコミットメントを続ける」と説明するが、ブランド名がサブブランドに格下げになることや、今後のViivの新戦略などが全く見えてこないことを考えると、Viivというブランド名はコンシューマPCのプラットフォームの名前としては残るものの、PCを中心としたホームネットワークという事業戦略の考え方はもう過去のモノになった、そう考えていいのではないだろうか。
□IDF Fall 2007のホームページ(英文) (2007年9月21日) [Reported by 笠原一輝]
【PC Watchホームページ】
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