MicrosoftはWindows XPからWindows Logo Program(WLP)と呼ばれるマーケティングキャンペーンを行なっている。 多くの読者は、PCを購入したときにPCの前面などに張られている“Designed for Microsoft Windows XP”などのシールを、目にしたことがあるだろう。 MicrosoftはWindows Vista世代においても同様のプログラムを展開していく予定なのだが、そこで規定された要件が、OEMベンダの想定を超えるものが含まれており、頭を抱えているベンダもある。 ●Home Premium以上のSKUへ誘導するためのPremiumロゴ Windows XPの世代で始められたこのロゴプログラムは、Microsoftが規定する基準をクリアし、そしてテストをパスしたPCにのみロゴシールを貼ることが許され、ロゴシールを貼ったPCに関するマーケティング活動(たとえば広告宣伝など)を、Microsoftと共同して行なうことができる。OEMベンダにとっては、マーケティング費用の一部をMicrosoftが負担するなどのメリットがあるし、逆にMicrosoftの側にとってはWindows PCのクオリティを上げることができたり、OEMベンダのマーケティング活動の中にWindowsのロゴを露出させることができるというメリットがある。 現在のWindows XPの世代では、WLPに特にランクが無い。だが、Windows Vista世代において、MicrosoftはWLPに2つのランクを設ける。それが、“Premium”と“Basic”だ。Premiumは、より厳しいハードウェアの条件を満たした性能を持つという位置付けで、Basicよりもハードウェアの要件が厳しくなっている。 しかも、MicrosoftはPremiumロゴとBasicロゴの扱いに明確な差をつけている。このことは、MicrosoftのWebサイトで公開されているWLPに関する文章の中でも明記されている。 この中でMicrosoftはパートナー向けのPremiumロゴのメリットとして「Microsoftと共同でのマーケティング、小売店でのプロモーション、広報活動」としており、この点はBasicロゴのメリットには含まれていない。つまり、Microsoftと共同でマーケティング、プロモーション、広報活動などを行ないたいのであれば、Premiumロゴを取得しなさいというわけだ。OEMベンダが、Premiumロゴを取得しようとするのも無理はないだろう。 ここで問題となるのが、Windows Vistaの5つのSKUのうち、PremiumロゴはHome BasicをインストールしたPCにはつけられないルールになっている。
【表1】PremiumロゴとBasicロゴがつけられるVistaのSKU
つまり、MicrosoftによるPremiumロゴ導入の狙いは“Home Premium”以上のSKUにOEMを誘導することにあるのは明らかだろう。 なお、Microsoftは周辺機器向けにも、WLPを提供する。こちらは“Certified for Windows Vista”と“Works with Windows Vista”の2つが提供される。前者がシステムにおけるPremiumロゴ相当、後者がBasic相当だと考えればわかりやすいだろう。こちらは、2006年の年末商戦より適用が開始されることになる。 ●厳しいハードルを課すことでWindows Vista PCの品質を維持する狙い OEMベンダにとってPremiumロゴを取得するのは簡単なことではない。Microsoftは6月に入ってWLP取得条件の最終要件(Windows Vista Logo Program Version 3.0)を同社のWebサイトで公開した。WinHECでは、ロゴ要件は1年に1度、6月1日に最終要件が更新されると説明されており、今後1年は今回公開されたロゴ要件が継続されることになる。この公開されたロゴ要件にはそれなりに厳しいハードルがある。 たとえば、Windows VistaではACPIのS3ステート(OSがメモリサスペンドの状態)から2秒以内に復帰することを要件としている。そして、もう1つの要件として、DQR(Driver Quality Rating)というスキームの中で、より高い信頼性が実証されているドライバのみを利用することを求めている。 DQRは、ユーザーからのフィードバックを元に、Green、Yellow、Redの3つの格付けが用意されている。ユーザーからのクラッシュレポートが多いドライバは、Yellowに落とされ、さらに増えればRedへと落とされることになる。Premiumロゴの取得にはGreenレベルのドライバのみを利用することが要求されており、さらにロゴ取得後にYellowやRedになってしまった場合には90日以内に問題を修正することが求められる。 なぜこうしたハードルを課すのかと言えば、実はサスペンドモードへの移行に失敗したり、逆にレジュームに時間がかかってしまうのは、多くの場合デバイスドライバに起因するからだ。Windows Vistaではこうした問題をMicrosoftにレポートする機能が用意されており、サスペンドやレジュームで問題が発生した場合、その原因となるドライバを特定しそれをMicrosoftにレポートし、それを受けたMicrosoftがOEMベンダに連絡しそれを修正してもらうわけだ。そして、それをできるだけ早くOEMベンダに修正させることを担保させるのが、このPremiumロゴの要件というわけだ。 ●グラフィックスにはDirectX 9対応のほかにも厳しい要件が課せられる OEMベンダにとってさらに頭が痛いのは、一挙にハードルが高くなるグラフィックス周りの要件だ。Windows Vistaでは「Windows Aero」と呼ばれる新しい3D APIを利用した画面描画方法がサポートされており、そのためにPCのGPUが一定の3D描画性能を備えている必要があるのだ。 必要最低限の条件として満たす必要があるのが、DirectX 9のハードウェア(具体的にはピクセルシェーダ2.0に対応したエンジン)と32bitカラー(1,677万色)が表示できることだ。GPUがチップセットに統合されていようと、単体型であろうとそれは問われない。 これに加え、解像度に応じて必要なビデオメモリと帯域幅も実現している必要がある(むろん、システムメモリの一部をビデオメモリとして利用するUMA方式でもかまわない)。必要となるビデオメモリの容量は、解像度により異なっており、具体的には、以下の要件を満たす必要がある。
【表2】Premiumロゴの取得に必要とされるビデオメモリの容量
もう1つ重要なことは、メインメモリにも要件が設定されていることだ。Premiumロゴを取得するには、UMAなどに割く分を除き512MBのメインメモリが必要とされている。また、UMAのビデオへの割り当てはメインメモリから512MBを引いて、その半分までとされている。たとえば、1GBのメインメモリがある場合、 (1GB-512MB)÷2=256MB という計算になる。逆に言えば、128MBのメインメモリをUMAのビデオメモリに割り当てようとする場合には、最低でも768MBが必要になる計算になる。 ビデオメモリの帯域幅については、UMAか単体のGPUかに関わらず、SXGA/60Hzの解像度で、ビデオメモリの帯域幅が1,600MB/secを超えている必要がある。 ●帯域幅とビデオメモリがUMAの選択肢を狭める この要件を満たすのは、OEMベンダにとって実は大きなハードルだ。ハイエンドの製品においては、単体型のGPUを搭載したビデオカードを搭載すれば簡単にこのラインをクリアすることができる。ATI TechnologiesであればRadeon 9600以降、NVIDIAであればGeForce 6以降(NVIDIAによればGeForce FXシリーズはPremiumの対象とはならないそうだ)が条件となるので、PCI Expressのビデオカードであれば何の問題もなくクリアできるだろう。 問題は、UMAを利用しているメインストリームやバリュー向け製品だ。UMAでは、ATIで言えばRS4XX以降、IntelでいえばIntel 945G以降、NVIDIAでいえばGeForce 6100以降ということになる。メインメモリから内蔵GPUのビデオメモリに割り当てられる容量は、メインメモリの容量から512MBを引いて、さらにそれの半分になる。このため、64MBのビデオメモリを確保しようとするのであれば640MB((640-512)÷2=64)、128MBのビデオメモリを確保しようとすると768MB((768-512)÷2=128)という計算になる。 現在メモリモジュールの選択肢としてあり得るのは、128MB、256MB、512MB、1GBあたりとなるので、128MB+512MBで640MB、256MB+512MB=768MBという構成にすればいいのではないかということになるのだが、そこにはもう1つの要件であるビデオメモリの帯域幅という問題が関わってくる。 ビデオメモリの帯域幅には1,600MB/secを実現している必要があるのだが、「シングルチャネルでこの制限をクリアするのは事実上不可能。このため、UMAではデュアルチャネル構成をどうしてもとる必要がある」(VIA Technologies チップセットマーケティング担当副社長 ザー・ウェイ・リン氏)と言う。つまり、帯域幅をクリアするにはメモリをデュアルチャネル構成にする必要があり、512MBを超える構成にするには最低限512MB×2にするしかない。 すると、コストが大きく跳ね上がってしまう。「メモリを1GBにするよりは、512MBのシングルチャネル+PCI Expressのローエンドビデオカードの方が安価になる。このため、今後Premiumロゴを取得するOEMベンダの中には単体のビデオカードをチョイスするベンダが増えてくるだろう」(VIA リン氏)との通り、OEMベンダの中には単体型チップセットにビデオカードを組み合わせることを選択するベンダが増えてきている。ただし、それでも、従来のUMA+512MBデュアルチャネルという構成に比べるとビデオカード分コストが高くなってしまうことは事実で、頭を抱えているところも少なくないという。 だが、「実質的なリベートと言ってよい共同マーケティングなどの餌をぶら下げられている以上、OEMベンダにはPremiumロゴを取得する以外の選択肢はない」(ある業界関係者)との言葉の通り、OEMベンダの選択肢は少ない。 ●DirectX 10サポートの要件は2008年6月1日以降に Premiumロゴの要件にはDirectX 10に関する記述もある。Microsoftが公開している“Windows Logo Program Device Requirements Version 3.0 Final”という文章の中で、MicrosoftはDirectX 10の機能(たとえばジオメトリシェーダなど)が、2008年の6月以降に必須になると述べている。その要件はまだまだ曖昧で、性能に関しては、“十分な性能(sufficient performance)を満たす必要がある”とされているのみ。では、十分な性能は何かと言えば、「AeroAT.exe」という将来提供されるツールを利用して計測するのだという。 つまり、今のところは、2008年の6月1日以降に出荷する製品に関してはDirectX 10に対応していることが必須になるのは確かだが、その詳細は何も決まっていない。もっとも、GPUベンダの方も、DirectX 10への対応はどんどん後ろ倒しになっていっており、そうした状況に合わせたものだろう。 最後に余談になるが、WLPの要件には、CPUに関する記述がほとんどない。せいぜい、TVチューナを利用しているときに、CPUの利用率が一定以上に上がってはいけないとされているぐらいだ。それも、CPUというよりもTVチューナカードの要件というべきものだ。一応、MicrosoftのWebサイトには、Premium向けの“Windows Vista Premium Ready PC”要件の中に、CPUはx86ないしはx64の1GHz以上と規定しているが、これは現在の状況から考えるとクリアするのは何も難しくない要件だ。 したがって、Windows Vistaの世代では、焦点はCPUからGPUへと移り変わっていくと言える。少なくとも、「GPUベンダにとってVistaはおいしいマーケティングキャンペーンだ」(VIA リン氏)という指摘は正しい。
□関連記事 (2006年6月15日) [Reported by 笠原一輝]
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