今回は、ちょっと変則的である。というのは、今回分解するソニーの「mylo COM-2」(以後、COM-2)は、筆者が購入したものではなくて、ソニーからの借り物である。貸出機を分解しても良いというご提案をいただき、さらに、開発者のインタビューもできるという。 というのは、これまで、筆者は、いくつものマシンを分解し、その内部を解説してきたが、デバイスのいくつかについては、インターネットなどから情報を得られず、「推測」でしかなかったところがいくつかあった。しかし、今回は、「答え合わせ」ができるのである。そういうわけで、ソニーからの提案を受けることにした。 大半の質問にはお答えいただいたが、いろいろと事情があって、記事にはできない部分もあったし、分解と取材が同時期に重なったこともあって、時間的な問題から一部、筆者の推測として記述している部分もある。なので、すべてがソニーの公式発言でないことはご理解いただきたい。 myloは、米国で先行販売されるものの、設計はすべて日本で行なっている。取材に対応していただいたのは、PL(プロジェクトリーダ。製品開発の責任者)の雨宮氏、電気(回路)担当の塩浦氏、メカ(機構)担当の山田氏、ソフトウェア担当の小川氏、企画担当の田中氏の総勢5人。肩書きやお名前は、写真キャプションに記載し、記事中では、名前のみ表記させていただいた。
●国内家電メーカーらしい、きっちりとした作り さて、分解に入る前に、まずはお約束の文言から。なお、インタビューにはお答えいただいたが、やはり内部に関しては、ソニーも答えることはできないため、問い合わせなどはご遠慮いただきたい。
本体はネジ止めされているが、本体を止めてあるネジは、携帯電話などに使われる放射状に5本の溝がある少し特殊なものだ。また、ネジが見えないようにプラスチックのフタもしてある。バッテリケース内のものを含め4本のネジを外すと、裏側が外れる。構造的には、キーボード部分がフタのようになっていて、本体側に基板などが取り付けてある。液晶側とは、フレキシブル基板(ケーブル)での接続である。 ケーブルを外してケース部分を分離すると、基板の上に黒プラスチック部品が載せてある。下にあるのは無線LANモジュールで、最初は放熱用かと思ったが、これは、液晶側との接続に使う「フレキシブル基板が直接部品と擦り合わないように分離するため」(山田氏)の部品で、穴を空けてあるのは、下の無線LANモジュールの放熱のためだという。
前回の“mylo”「COM-1」(以下COM-1)も比較的作りは丁寧だったが、今回も同じような配慮が感じられる。たとえば、本体裏側にリセットホールがあるが、内部には、スピーカーなどを押さえる部品と一体になったプラスチックの板があり、これを介して、リセットボタンを押す構造になっている。これまでいくつかこの手の機種を見てきたが、たいがいは、穴の下にそのままボタンがある。機能的には同じだが、こうした部品があることで、ゴミも入りにくくなるし、リセットするために入れた棒でボタンを壊してしまうこともない。米国製の機器では、ときどき穴の位置とボタンの位置が微妙にずれていることもあり、片側に寄った位置を押さないとリセットがかからない、なんてこともある。こうした作りに比べたら、かなり丁寧に感じる。 液晶側は、本体側を外し、スライドさせた上で、ネジを外すという、この手のスライドキーボードでは普通の構造である。見ると、今回のものでは、スライド用のレールは、金属とプラスチックを貼り合わせたものになっている。これは、プラスチックで精度の高い部品を作ることで、「がたつきを押さえるため」(山田氏)だという。閉じた状態でも、液晶側が浮くこともないし、スライドもスムーズだ。 このCOM-2は、USB充電も可能である。バッテリが完全に無くなっている状態でも「充電できる」(塩浦氏)とのことだ。この手の機器の中には、わずかに電力が残っているときにはUSB充電が可能だが、完全にバッテリが無くなってしまうと、ACアダプタからしか充電できないものがある。以前紹介したAmazon.comの「kindle」がこれだった。無線や書籍購入のテストのため、CESの取材のときに持っていったのだが、USB充電ができるので、ACアダプタを置いていったのが大きな間違いだった。無線をONにすると消費電力が大きく、無線をサーチしている間にバッテリ電力が完全になくなってしまい、USB経由で充電できないことに気がついた。 しかし、このCOM-2のような機器なら安心してACアダプタを置いていける。海外旅行など、なるべく荷物を減らしたい場合は少なくない。このときにUSB充電ができるかどうかは大きな違いだ。 ●すべてをメインCPUで処理 コンピュータ的な意味でのスペックを表1に示す。メイン基板は、裏、表にシールドされた部分があり、主要なデバイスはその中にある。基板表(本体内で液晶側にある面)には、CPU、メインメモリなどが、裏側にあるシールドケース内には、フラッシュメモリがある。キーボードでいえば、カーソルキーの下あたりに主要な回路が配置されていることになる。
【表】COM-2 スペック
CPUは、フリースケールセミコンダクタの「i.MX31L」。かつては“DragonBall”と呼ばれていたシリーズだが、CPUがARM系に変わり、いまでは、i.MXシリーズとして主に携帯電話やポータブルメディアプレーヤー(東芝の「Gigabeat S」やMicrosoftの「Zune」)に採用されている。メインメモリは128MBだ。これには、Hynix製の512Mbit Mobile DDRを2つ使用している。これは、4Bank×4M×32bit構成のメモリだ。ファイル記憶用のフラッシュメモリはSamsungの「K9F8G08U0M」で、8Gbit(1G×8bit)NANDである。 簡単に言うと、今回のCOM-2はCPU、メインメモリ、外部記憶(フラッシュメモリ)の3つの主要デバイスで構成されている。今回のCOM-2の設計における1つの目的は、「シンプルな構成にすること」(塩浦氏)であったという。この構成を見るに、システムはフラッシュメモリにファイルの形で記録されていて、起動時にメインメモリに読み込まれて動き出すといった、PCのOSと同様の構成であると思われる。なお、i.MX31Lには、32KBのROMが搭載されており、ここに起動用のコードが組み込まれている。これを使うことで、フラッシュメモリからOSを立ち上げることができる。 COM-1では、音楽の再生時間が45時間とかなり長かった。これは、ソニー独自のデバイス「CXD5080GG」で「ハードウェアによる再生」(塩浦氏)を行ない、音楽の再生に関してメインCPUは関わっていなかったからである。しかし、そのためにデバイスが増えてしまっていた。今回のCOM-2では、メインCPUとソフトウェアで処理を行なっているため、音楽のみの再生時間は20時間と短くなってしまっているが、ハードウェア的にはコストダウンされている。もっとも、20時間も保てばポータブル音楽プレーヤーとしては十分ではある。 無線LANは、モジュール構成になっているSamsung Electro-Machanicsの「WSL-2480」だ。アンテナは本体裏側にあり、ケーブルで接続している。ここに配置した理由は、「両手で持ったときに覆われず、電波状態も変化しないため」(塩浦氏)とのことだ。確かにここだと、手がかぶさることがない。ただ、アンテナ自体は、単なる金属板で、こんなものでいいのかと思ってしまうが、「適切に設計されていれば大丈夫」(塩浦氏)なのだそうだ。 i.MX31Lには、多くの回路が集積されているため、大半の機能はこの中にある。シールドの外にあるのは、電源関連やオーディオCODEC、USBトランシーバ(i.MX31Lは、USBホスト機能は持つが、物理層は内蔵していないため)などである。
【表】部品表
●mylo WidgetはJavaScriptを利用 COM-2のシステムソフトウェアに関しては、直接は情報が公開されていないが、前バージョンのCOM-1がLinuxとQtopiaを使っており、今回のソフトウェアはその延長上にあることから、基本的な構成は変わってないと思われる。Qtopiaは、Linux上の携帯機器向けのアプリケーションフレームワークで、シャープの「Linux Zaurus」などにも採用されている。 ただし、GUIについては、使いやすいようにソニーで独自に開発しているという。今回のCOM-2では、タッチパネルが搭載され「大半の操作は指でも、あるいはナビゲーションキーでも行なえるようにした」(小川氏)という。 COM-1では、フロントパネルにナビゲーションキー以外にOptionボタンなどがあったが、今回は、これを液晶と一体にしたタッチパネル側に持っていった。これは、「フロントパネルをシンプルにするため」(雨宮氏)だという。個人的には、ジョグダイヤルのようなスクロール用のハードウェアがないことが気になったが、これを必要とするWebブラウザでは、ドラッグしてWebページをスクロールさせることが可能になっている。そうなるとAjax系のサービス、たとえば、Google Mapなどとの相性が気になるが、こうしたページをちゃんと認識して、ページではなく地図をスクロールできる。また、リンクのタップとドラッグのスクロールも、「時間や押されている点が動くかどうかなどの情報を使ってちゃんと区別している」(小川氏)ということだ。
このmyloのユーザーインターフェイスは、ホームページにあるメニューから、音楽再生やSkype、Webブラウザなどの機能を選んで実行という形になっている。こうしたメニュー階層とは別にトップページともいうべきページがあり、ここには、「mylo Widget」と呼ばれるパーツを配置できる。このmylo Widgetに関しては、ユーザーが開発できるようにSDKを公開する予定だという。ただし、資料は英語のみになる。おそらくは米国のmyloのサイトでの公開になるのだと思われる(現時点では未公開)。 このmylo Widgetは、JavaScriptで記述されているのだという。そういう意味では、Google GadgetsやVistaのサイドバーガジェットと同じように作ることができる。特にWebサイトから情報を取ってくるようなものなら比較的容易に作れるだろう。 myloは、バッテリ交換後など、最初に電源を入れたときには、ゼロからシステムが立ち上がるために少し時間がかかるが、その後は、電源をOFFにしても、メモリ内容は保持されるため、2回目以降は、バッテリを抜いたりしない限り瞬時に立ち上がる。ただし、バッテリを保たせるため、8日以上スタンバイの状態が続いたときには、完全に電源を切るのだという。8日というのは、土日だけ使うユーザーでも高速起動が利用できるようにとの配慮からだという。 中身がLinuxなので、ユーザーによるアプリケーション(Linux上のバイナリアプリケーション)の組み込みなどの可能性を尋ねてみたが、「現時点ではそういう予定はない」(企画 田中氏)とのこと。myloは、なるべく簡単にWebアクセスやコミュニケーションを楽しんでもらえることをコンセプトにしているため、複雑さはできるだけ排除しているとのことだ。ある意味、「家電的」なPDAということもできるだろう。なので、筆者のようなユーザーよりは、もっと一般的なユーザー向けの機器といえる。 ソニーのホームページ (2008年2月25日) [Reported By 塩田紳二 / Shinji Shioda]
【PC Watchホームページ】
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