塩田紳二のPDAレポート

ソニー「mylo」ハードウェアレポート



ソニー「mylo」

 前回紹介したソニーの「mylo」ことCOM-1だが、今回は、お約束のハードウェアレポートをお届けする。



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●メイン基板に主要機能が搭載

 myloは、全体が、液晶部とキーボード部(本体)に分かれており、スライド部品で前後に分かれるようになっている。感じとしては、ウィルコムの「W-ZERO3」などと同じ構造である。

 本体の分解は、バッテリケース内の特殊なネジを外す。あとは、本体側がはめ込みになっているので上下に割ればいいのだが、手がかりがなく、注意しないと側面にある透明な部品を割ってしまいそうになる。

 こうして分解すると、液晶部分、キーボード側、メイン基板、本体下部(バッテリケースのある部分)に分解できる。また、キーボードの下には、無線LANのアンテナとシールドのためと思われる部品が基板の上に配置されている。

 電源や無線LAN ON/OFFのスイッチは、なんとバネで引っ張っている。スイッチ自体は基板上にあるが、表側の透明なスイッチ部分は、ピンで固定されバネで戻るようになっている。このあたり、メカ的にはちょっとおもしろい。安物だとプラスチック自体が持つ剛性を使うものがあって、しばらく使っていると折れてしまうことがあるのだが、こういう構造ならそういう事故はないだろう。また、スイッチ自体が動かすのに大きな力を必要してバネを兼ねているものもあるが、この構造だと、スイッチや基板に機械的なストレスが発生する。基板上のスイッチは軽く動作するマイクロスイッチで、この構造なら、大きな力がかかる可能性は少ない。

 メイン基板は、裏表に部品が配置されており、バッテリケースの裏側にあたる部分は、シールドや放熱を兼ねた金属光沢のある部品(メッキしたプラスチックのようなもの)でカバーされている。基板の反対側には、無線LANのアンテナを付けた金属光沢のある板があり、これも一種のシールドであると思われる。また、基板上も、ブロックを区切るように太いパターンが走っている。最近では、こうした機器もCPUのクロックが上がってきており、家庭内でちゃんと使おうとすれば、それなりのシールドは必要だろう。このあたり、やはり家電メーカーの製品らしいところ。

分解したところ。中央右側の部品は、基板の上に載っているシールド部品と無線LANアンテナが一緒になったもの。各パーツ間はフレキシブル基板で接続されている 本体下部。中央の金属光沢のある部分がバッテリケースの裏側になっている。写真で左側がメモリスティックPROデュオスロット。その上下にスイッチ可動部分とバネが見える メイン基板の上には、このようにシールド部品と無線LANアンテナが載っている

●中身は、ARM+AV専用プロセッサ

 メインCPUなどは、メイン基板のバッテリ側にある。基板は小さいが部品は多い。大きなパッケージがCPU側に6つ、裏側に3つあり、このほかにCPU側に無線LANモジュールもある。デバイスのほとんどは、SDRAMとフラッシュメモリである。

 メインCPUは、フリースケールセミコンダクタの「i.MX21」。ARM9コアを内蔵した周辺統合型のCPUである。このプロセッサは、「DragonBall」と呼ばれていたシリーズの1つ、PalmのPDAに採用されて有名になり、PalmシリーズがARMに移行するのに合わせてCPUコアを68000からARMに変更したものが登場した。最近では、i.MXシリーズと呼び、フリースケールのサイトなどでもDragonBallという名前は前面に出ていない。しかし、パッケージ上面の印刷には、ちゃんとDragonBallという表記がある。

 このi.MX21は、266MHzのARM926コア(Javaアクセラレータ付き)に、LCDコントローラ、カメラインターフェイス、USB、SDカードなどのインターフェイスを統合し、ビデオアクセラレーション機能などを持つeMMA(Enhanced Multimeida Accelerator)を内蔵している。

 その隣には、ソニー製のデバイスである「CXD5080GG」がある。これは、資料が公開されていないので、詳細は不明だが、外販されているデジタルオーディオ用デバイスに似たような型番のものがあるため、ATRACやマジックゲートに対応したデジタルオーディオ処理用のデバイスではないかと想像される。myloは、MP3以外にATRACとマジックゲート(OpenMG)、WMAとWindows Media DRMに対応している。特にマジックゲートの処理をこのデバイスで行なうとともに音楽再生機能も実現しているのではないかと思われる。

 ソニーの半導体製品には、型番がよく似た「CXD5070GG」(マジックゲート暗号化、復号化LSI)や「CXD5091GG」(オーディオデコーダLSI。マジックゲート対応)がある。これらは、内部にARM7コアを持つ専用コントローラである。CXD5080GGが同じような構成なら、このmyloは、ARMコアを2つも搭載していることになる。

 i.MX21は、それほど非力ではないので、MP3などの音楽データの再生も可能だし、MPEG-4の再生用にはアクセラレータさえある。なのに、別のデジタルオーディオ用チップを搭載しているのは、1つには、マジックゲートへの対応のためなのではないかと思われる。myloのOSにはLinuxが使われており、クラックされてマジックゲートの処理ルーチンを取り出されてしまう可能性がある。メモリースティックが対象となるので、暗号化、復号化の両方のルーチンがそこにあるはずだ。これに対して内部がARMコアとはいえ、ROMを集積するデバイスでは、外部からプログラムを読むことができないのが普通。おそらくは、こうした理由から専用デバイスを使っているのだと思われる。

 オーディオ再生を別デバイスで行なっているため、音楽を再生しながら、無線LANへの接続処理やWebブラウザなどのアプリケーションを使うことも可能だ。その点では、音楽を聴きながら、コミュニケーション(さすがにSkypeによる通話は無理だが)が可能なマシンになっている。

 myloのスペックを見ると、音楽再生だけなら45時間と、動画再生の8時間に比べるとかなり長い。処理の差もあるのだろうが、音楽再生中は、メインCPUをほとんど止めておけるのだろう。これに対して、Skypeの通話時には3.5時間と極端に短くなるのは、i.MX21側がフルに動作し、無線LANも使うからだと思われる。

メイン基板のCPU側。myloでは、こちら側が下側(バッテリ側)になっている メイン基板の裏側。mylo内では、こちらがキーボード側になる
基板裏側の主要なデバイス。フラッシュメモリとRAMがあり、ちょうどCPUの反対側になっている CPU周辺。CPUには、いまだにDragonBallの文字がある。無線LANモジュールもSamsung製で、RAM、フラッシュもほとんどSamsung製である

●RAMが3つにフラッシュが3つ

 さて、気になるのは、RAMやフラッシュメモリがいくつもあることである。myloには、表01のようなメモリデバイスが搭載されている。

 このうち役割がはっきりしているのは、2つのフラッシュメモリである。1つは、富士通(Spansion)のNORフラッシュである「MBM29DS163BE-12」で、これは、システムの起動用であろう。

 NOR型のフラッシュメモリは、NAND型に比べて高速で、BIOSなどに使われている。他のフラッシュメモリはすべてNAND型であり、これだけがNOR型となっている。となれば、これがシステムの起動時に実行されるコードを含むものでなければならない。

 もう1つは、ファイル格納用の1GBのNANDフラッシュメモリ「K9K8G08U0M」である。myloのファイルストレージは1GBとされているので、容量から判断してこれがユーザーファイル格納用であろう。

 フラッシュメモリは、あと1つ、64MBの「K9F1208R0B」だが、これは、OS(Linux)やGUI(Qtopia)、内蔵アプリケーションが入っているものと推測される。可能性としては、CXD5080のプログラムメモリとも考えられなくもないが、システム起動用のMBM29DS163BE-12が2MB(16Mbit)と小さく、ここに内蔵プログラムなどをすべて入れることは不可能なこと、また、カタログなどにユーザー領域として1GBという表記があり、一部をシステムで利用しているとは書かれていないこと、などから、プログラム格納用と判断した。同じアーキテクチャのCPUを使い、Linux+Qtopiaを採用したシャープのSLシリーズでも、プログラム格納用に30数MBを使っている。となると、myloもこの程度はシステム用に必要と思われる。なので、この64MBのフラッシュメモリをプログラム用と判断したわけだ。

 では、RAMの用途だが、3つのうち2つが32bit幅、残り1つが16bit幅となっている。これから考えると、64MB(4Mbit×32bit×4Bank)の容量を持つSamsungのMobile SDRAMである「K4S51323PF-EF75」と「K4M51323PC-0675」は、i.MX21につながるメインメモリではないかと推測される。この2つは、3文字目のアルファベットが違うのみで、容量やスペック(133MHz CL=3)が同じである。Samsungの資料によれば、3文字目は、メモリの種類などを表し、MがMobile SDRAMのDiscrete Device、Sは、Mobile SDRAMのReicle Option(マスクオプションのことか )とある。データシート上の唯一の違いは、K4M51323PC-0675のほうが消費電流が少ない点と、K4S51323PF-EF75のほうには、“2Chips DDP 90Balls FBGA”という表記があること。これからするとK4S51323PF-EF75のほうは、旧世代のチップで2つのダイを1つのパッケージに集積したものではないかと思われる。

 では、なぜ、同じものを2つ使わないのだろうか。単に安かったからとか、数を用意できなかったので、特定のロットだけ、こういう組み合わせという可能性が考えられる。スペック上、大きな違いはなく、筆者のものは、こういう組み合わせだったが、どちらか一方のみが載ったロットもあるかもしれない。こればっかりは、何台も分解してみないとわからない。

 もう1つの可能性は、2つのメインメモリの使い方が違い、片方は、キャッシュやテンポラリ用に使い、バックアップしない(だから消費電力が大きくても問題がない)という構造になっているということだ。ただ、Linuxのメモリ管理を考えると、面倒になりそうなので、可能性は高くないだろう。

 さて、残り1つ、16bitデータバス幅の「K4M64163PK」だが、これは、「CXD5080」に接続しているのではないかと推測される。容量が8MB(1M×16bit×4Bank)と少ないこと、データバス幅が16bitであること、このRAMだけがCXD5080のそばにあり、基板パターンがつながっているように見えるからである。CXD5080の仕様が公開されていないのでなんともいえないが、音楽再生用のバッファなどとして利用しているのではないかと思われる。

【表01】RAMとフラッシュデバイス
種類メーカー型番概要用途
RAMSamsungK4S51323PF-EF754M×32bit×4Bank Mobile SDRAMメインメモリ
RAMSamsungK4M51323PC-06754M×32Bit×4 Banks Mobile SDRAMメインメモリ
RAMSamsungK4M64163PK1M×16Bit×4 Banks Mobile SDRAMCXD5080用か
Flash富士通(Spansion)29DS163BE-1216Mb NOR Flash 1.8V Dual Operation Bottomシステム起動用
FlashSamsungK9K8G08U0M1G×8bit NAND Flash Memoryユーザーファイル用
FlashSamsungK9F1208R0B-JIB064M×8 Bit NAND Flash Memoryプログラムファイル

●DACとCODEC、電源デバイス

 このほかに目立つデバイスとしては、フリースケールの「SC901584」がある。このデバイスは、フリースケールのサイトでは検索できなかった。マークからすれば、同社のデバイスに違いはないと思われる。基板上の位置から見て、電源関係のデバイスではないかと想像される。というのは近くにコイルと思われる部品があるからだ。通常のデジタル回路ではコイルを使うことはないが、電源、特に、単一のDC電源から複数の電圧を作り出すDC-DCコンバータなどでは、外付け部品としてチョークコイルを必要とする。また、基板上では、このデバイスの反対側にコネクタがあり、そこには、本体下部、バッテリやスピーカーからの配線が接続されるようになっている。順当なら、その近くが電源関係の回路だろう。

 DC-DCコンバータが必要な理由は、CPUは、内部用、I/O用に複数電圧の供給が必要だからである。CPUと外部のデバイスの接続は、3.3V系で、内部は1.8V程度として消費電力を押さえることが多い。「MC9328MX21」も、内部用に1.4~1.65V、I/O用には、1.7~3.3Vの電源を必要とする。I/O用は、そこに接続されるデバイスに応じて決め、フラッシュメモリなとば3.3Vあたりで使うことが多いため、どうしても複数の電源電圧が必要になる。

 このほかに変わった点としては、オーディオ用のデバイスが2つある。PDAなどではよく使われているWolfsonのW「M8751LS」と「WM8974G」である。前者は、サウンド出力用のDAC(Digital-Analog Converter)で、ヘッドフォンやスピーカーを駆動できるデバイス。後者は、音声の入力と出力を行えるモノラルのCODECである。WM8751LSは、音楽の再生用で、WM8974Gは、Skypeの通話用なのだと思われる。音楽を出力するのがCXD5080GG、音声を扱うのがi.MX21なので、別系統になっているからだろう。

 myloのホームページには、AVプレーヤー的なスペックしか掲載されていない。コンピュータ的なスペックを表にしたのが表02である。

【表02】myloのスペック
CPUFreescale i.MX21
CPUクロック266MHz
RAM128MB SDRAM
ROM2MB System Boot ROM
プログラムROM64MB NAND Flash
ユーザーファイル領域1GB NAND Flash
無線LANIEEE 802.11b
USBUSB 1.1 Full Speed(12Mbps)
拡張スロットメモリースティックPROデュオスロット
ヘッドフォン/マイク入力W-CDMA平型端子互換
液晶QVGA(320×240ドット)

 こう見てくると、myloは贅沢な作りである。プログラム用フラッシュROMをユーザーファイル用と兼用することもできたろうし、マジックゲートを諦めてメインCPUで音楽再生ということもできたはずだ。価格が少し高めだが、こういう作りならあまりコストを下げられそうにもない。

 これで、Javaのプログラムでも動いたら筆者的にはPSPよりも魅力的。あえて不満を言わせていただけば、ワイヤレスのヘッドセットやステレオヘッドフォンをつなげるBluetoothがないことぐらいだ。

 ソニー的には、音楽用プレーヤーの本命は、ウォークマンブランドなのだろうが、こういう違う方向からのアプローチのほうが競争には有効な気がする。

【表03】myloのデバイス一覧
場所種類メーカー型番概要用途
表側
(バッテリ側)
CPUFreescaleMC9328MX21DVKN3i.MX21 32bit PorcessorメインCPU
RAMSamsungK4S51323PF-EF754M×32bit×4Bank Mobile SDRAMメインメモリ
RAMSamsungK4M64163PK1M×16Bit×4 Banks Mobile SDRAMCXD5080GGバッファ?
Flash富士通(Spansion)29DS163BE-1216Mb NOR Flash 1.8V Dual Operationシステム起動用
オーディオソニーCXD5080GG不明マジックゲート処理/音楽再生もか?
オーディオWolfsonWM8751LSStereo DAC with H/P and speaker driver音楽出力
電源FreescaleSC901584不明(DC-DCコンバータ?)電源管理
無線LANSamsung2455 65GA08IEEE 802.11b無線LAN
裏側
(キーボード側)
RAMSamsungK4M51323PC-06754M×32Bit×4 Banks Mobile SDRAMメインメモリ
FlashSamsungK9K8G08U0M1G×8bit NAND Flash Memoryユーザーファイル
FlashSamsungK9F1208R0B-JIB064M×8 Bit NAND Flash Memoryプログラムファイル
オーディオWolfsonWM8974GCODEC with speaker driverSkype等通話

□myloの製品情報(英文)
http://www.mylo.com/
□関連記事
【10月18日】ソニー、キーボード付き無線LAN端末「mylo」を国内販売
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2006/1018/sony.htm
【10月12日】【塩田】ソニー「mylo」ファーストインプレッション
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2006/1012/pda52.htm
【8月8日】米Sony、W-ZERO3ライクな無線LAN通信端末「mylo」
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2006/0808/sony.htm

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(2006年11月6日)

[Text by 塩田紳二]


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