マイクロソフトが、12月10日から新会員サービス「Club Microsoft」をスタートした。 マイクロソフトでは、同社製品を購入したユーザーに対して、今年(2007年)5月以降、プロダクトレジストレーションセンターにおいてユーザー登録を勧めていたが、この登録サービスを“Club Microsoft”に名称変更し、登録ユーザーに対して自分専用の「マイページ」を開設。最新ダウンロード情報や、最新サポート情報、使い方ガイド、テンプレートの提供などのほか、会員特典キャンペーンや賞品プレゼント、オリジナル壁紙などの会員限定デジタルコンテンツの配布、最新情報を掲載した会員向けニュースレターの提供などを行なう。
今年5月以降にプロダクトレジストレーションセンターに登録したユーザーは、自動的にClub Microsoftの会員に移行される。また、利用者は登録時にWindows Live IDの取得が必要になる。 マイクロソフトでは、「Club Microsoftは、マイクロソフト製品をご購入いただいたお客様に対して、快適なデジタルライフスタイルを応援するための会員サービス。購入していただいた製品を、より活用していただくためのヒントや製品関連情報といったサポート、サービスの提供のほか、ユーザーは、登録いただいた製品に関する情報を一元管理できる」とする。 一見すると、従来のユーザー登録を進化させたサービスに見えるが、Club Microsoftは、コンシューマ領域ではこれまでほぼ手つかずだったCRMを利用したリレーションシップマーケティングに、いよいよ同社が本腰を入れて踏み出した、といえるものだ。
「企業ユーザーに対しては、CRMを活用し、ユーザーの特性にあわせたセミナーや、技術情報や製品情報の提供、事例の提供などをきめ細かに行なってきた経緯がある。だが、コンシューマ領域におけるリレーションシップマーケティングに関しては、マイクロソフトはほとんど手つかずだった反省がある。Club Microsoftは、これまでの反省を踏まえて実施するもので、ユーザーごとの利用環境や特性などを捉え、よりPCを活用してもらうための仕掛けを、双方向型の仕組みを活用して展開する」と、マイクロソフトのセントラルマーケティング本部 統合マーケティンググループ部 コンシューマIMCマネージャの河野万邦氏は語る。 対象となるのは、同社が発売しているコンシューマユーザー向け製品約150種類。OSやオフィスソフトだけでなく、マウスやキーボードなどマイクロソフト製のハードウェアも含まれる。 来年(2008年)12月までに100万人の登録を見込んでおり、これらのユーザーを確実にサポートしていこうというものだ。 また、「マイクロソフトのトップページの月間ユニークユーザー数は1,600万人。このうちの10%の会員数を当面の目標として、早期に獲得したい」(河野氏)としている。 そして、同時に、この仕掛けは、マイクロソフトが打ち出しているWindows Vistaを核にしたデジタルライフスタイルの提案においても、戦略的な要素を持ったものになる。 ●「購入後」にフォーカスを当てたClub Microsoft マイクロソフトは、企業向けにはデジタルワークスタイルの提案を掲げる一方、個人向けにはデジタルライフスタイルの提案を打ち出している。 個人向けのデジタルライフスタイルの提案では、今年10月から、「チャレンジ! デジタルライフ2008」キャンペーンを実施。デジタルライフに関するシナリオを用意し、それぞれのシーンにおける利用提案を行なっていく方針を掲げた。 また、11月には、ウィンドウズデジタルライフスタイルコンソーシアム(WDLC)の設立を発表。マイクロソフトのほかに、NECや富士通、ソニー、東芝などの国内PCメーカーや、各種周辺機器メーカー、ソフトメーカー、さらには放送事業者、小売店など合計48社が参加し、「業界の枠を越えた連携による革新的なデジタルライフスタイルの創造と、利用者への提案を目指す」(同コンソーシアムの会長を務めるマイクロソフトの眞柄泰利専務)とし、同様に利用者への提案活動を、業界全体を巻き込んで行なっていく方針を示した。 だが、チャレンジ! デジタルライフ2008の活動は、購入前を対象とした訴求活動が中心となる。また、WDLCの活動も、当面の施策は、購入前までの提案活動に焦点が当たることになる。この2つの活動に共通しているのは、Vistaによって実現されるデジタルライフスタイルに興味を持ってもらい、それを購入意志へとつなげることを目的としている点なのだ。 これに対して、Club Microsoftの取り組みは購入後の活動が中心となる。 利用シーンを提案し、それにより満足度を高めるとともに、新たな利用方法を波及させるのが役割になる。 Club Microsoftの社内的なミッションの中には含まれていないが、この活動が、次の買い換えや買い増しへとつなげる動きとなるのは明らかだ。 マイクロソフトの試算によると、現在1,970万人の個人ユーザーがおり、年間500~600万台のコンシューマ向けPCが国内で出荷されている。そのうち7~8割が買い換え、買い増し需要となる。 「米国では年間6,000万台のPC出荷がある。日本の人口比率と比べても、米国の出荷台数は圧倒的に規模が大きい。それにはさまざまな理由があるだろうが、日本に比べて、欧米の方がPCの利用範囲が広いというのが要因の1つと見ている。日本のユーザーは、メールやWebといった利用に留まっているケースが多い。マイクロソフトとして、ソフトの便利な利用方法をもっと訴求していく必要があり、そのための適切な情報提供を行なっていく」(河野氏)とする。 ●Club Microsoftで提供される4つのサービス 具体的なサービスは、大きく4つに分類できる。 個人ごとに設定される会員専用のマイページには、登録した製品に関するHow ToのTipsを集約。製品に関するテンプレートやサポート情報を提供する。
「ダウンロード情報だけでなく、どんな使い方ができるのかといった情報や、便利なテンプレートの提供などを予定している。どんなことがやりたいか、というように目的別の情報提供も順次開始したい。Webの特性を活かして、ノウハウ本とお互いに補完するような形で情報を提供していく」(マイクロソフト セントラルマーケティング本部オンラインマーケティンググループグループマネージャ 浜野努氏)という。 ユーザー事例や複数のTipsを取りまとめた“Tips INDEX”の提供といったことも今後検討していくことになりそうだ。 2つめは、“Monthly Offer”として提供するリテンションを高めるための各種施策だ。 ここでは、マイクロソフトが提供している各種キャンペーンへの優先的な当選や、マイクロソフト製品に関する書籍のプレゼント、各種イベントへの会員向け招待枠の用意、eクーポンなどのプレゼントなどを予定。毎月、これを実施することになる。 「マイクロソフトやウィンドウズのロゴが入った製品は、日本では社員以外購入できないが、これを会員向けに限定販売していくということも考えたい」という。 そして、3つめがデジタルコンテンツの提供だ。会員専用のガジェットやスクリーンセーバーのほか、会員優先あるいは会員限定のプレミアムコンテンツの提供を予定している。 「12月10日の段階では、ガジェットやスクリーンセーバーの提供はできないが、早いうちに提供を開始したい。また、法人向けに提供している、マイクロソフト製品担当者によるライブミーティングセミナーを個人向けに提供することも検討材料の1つ」などとしており、さまざまな形での会員向け施策が計画されている。 そして、最後にニュースレターの配信だ。現時点では月1回の配信を予定しており、会員向けの情報提供手段として活用していく考えだ。キャンペーン情報のいち早い提供のほか、同社がすでに提供している情報誌「iNNO」との連動も視野に入れているという。 「当社の新年度となる来年7月には、次のフェーズへとサービスレベルを上げていく。PCを利用して不具合が発生した時に、原因を特定したり、回避方法を告知するような、現象と原因をマッチングした情報提供も考えたい」(浜野氏)という。 Club Microsoftは、ユーザー登録の仕組みを単に進化させただけでなく、顧客満足度を高め、デジタルライフスタイルをより豊かに実現することを目指したものといえる。 まだ現時点では、ユーザー登録の進化という範疇に留まっているが、今後、サービス内容の拡充にあわせて、その役割がクローズアップされてくることになるだろう。 Club Microsoft会員向けのサービスが、いつ、どんな形で拡充されるのかが注目される。
□マイクロソフトのホームページ (2007年12月10日) [Text by 大河原克行]
【PC Watchホームページ】
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