【アナンド・チャンドラシーカ氏基調講演】
2009年投入のMoorestownで待機時消費電力が1/10へ
会期:9月18日~20日(現地時間) 会場:San Francisco「Moscone Center West」 サンフランシスコで開催中のIntel Developer Forumは、現地時間9月19日に2日目のスケジュールが行なわれた。2日目のメインテーマは“モバイル”で、基調講演にも同社の上席副社長兼モビリティー事業本部長のデイビッド・パルムッター氏、上席副社長兼ウルトラ・モビリティー事業部長のアナンド・チャンドラシーカ氏というモバイル製品を統括する2人のトップによる基調講演が行なわれた。本レポートでは、後半部分となるチャンドラシーカ氏の基調講演の模様をお伝えする。 その中でチャンドラシーカ氏は2009年以降にリリースを予定している“Moorestown”(ムーアズタウン)の詳細を、初めて公式に語った。それによれば、待機時消費電力が1/10にできるになるという。 ●携帯端末でのインターネット利用が進まないのは互換性問題が大きい 今回のチャンドラシーカ氏の講演のタイトルは“Unleashing The Internet Experience”(自由自在なインターネット体験をあなたに)というもので、インターネットをよりよくモバイル環境で使うことがテーマになっていた。 チャンドラシーカ氏は「インターネットのトラフィックのうち25%がSNSによるものになっている。また、SNSの購読者は世界中で10億人であり、1日のアクセスは1億5,400万人、1日の延べ接続時間は30億分、1日に接続されるページの総計は80億ページにも達する。これらは実に驚くべき数字と言える」と述べ、エンドユーザーがインターネットに接続し、そしてそこで過ごす時間などが増えてきていることを指摘した。「しかし、これらの数字の多くはPCにより実現されている。なぜかと言えば、携帯電話でのインターネット体験は決してすばらしいものではないからだ」と述べ、携帯電話でのインターネット体験がもっとよくなれば、人々はインターネットをいつでもどこでも使えるようになると指摘した。 「最近行なわれた調査によれば、携帯電話ユーザーのうち50~60%は携帯電話を利用してインターネットに接続して楽しみたいとは思わないという。その最大の理由は互換性だ」と、そうした自体の最大の理由はソフトウェアの互換性であると説明した。例えば、携帯電話で多く利用されているアプリケーションプロセッサはARMベースのものが多いが、ARMベースの携帯電話を利用してインターネットに接続した場合、Webブラウザやプラグインなどの互換性に問題が発生することがあるとチャンドラシーカ氏は指摘する。そして、実際にx86ベースのPCと、ARMベースのデバイスで互換性の問題を調べて見たところ、x86アーキテクチャではほとんど問題が発生せず、ARMベースでは多数の互換性問題が発生すると述べた。 「Flashの互換性を振り返ってみよう。AdobeはARMベースのデバイスにも「Flash Lite」などの形でFlash環境を提供しているが、PC向けに実装された機能がそちらに乗せられるまでには2年間のギャップがある。インターネット時代において2年間は非常に大きい」とのべ、YouTubeなどFlashを利用した新しい使い方に、携帯端末がすぐには対応できない現状を指摘し、だからこそ今後x86などのPCアーキテクチャを持った携帯端末が必要になってくるのだと指摘した。
●2008年の前半にリリースする予定のMenlowですでに消費電力1/10を実現 そこで、x86アーキテクチャを携帯端末に入れるための武器として、Intelが2008年の第1四半期に計画している、次世代プラットフォーム“Menlow”(メンロー)の詳細について、再び説明した。 Menlowは、4月に北京で行なわれた春のIDFで計画が公開された製品で、CPUのSilverthron、チップセットのPoulsboから構成されている。現行世代のMcCaslinのCPUであるA1x0シリーズが90nmプロセスルールで製造されているのに対して、Silverthronは最新の45nmプロセスルールで製造され、1Wを切る超低消費電力が実現されるという。 「弊社のCEOであるポール(オッテリーニ社長兼CEO)は2005年に我々にとんでもないチャレンジを命令した。それが2010年までに消費電力を1/10にするというものだ。では実際の機器を利用して、それがどれだけ実現できているのか確認してみよう」と述べ、実際に動作するSilverthronを利用して、実際に消費電力を計測した。比較に利用されたのは2006年のUMPCプラットフォームで、TDPが5.5Wのいわゆる超低電圧版のDothanコアのCPUが採用されているという。そして実際に、SilverthronのシステムをONにするとターゲットである0.55Wを切る様子などがデモされた。チャンドラシーカ氏は「見てわかるとおり、我々が2008年に計画している製品ですでに1/10の消費電力を実現した」と述べ、Menlowの開発が順調に進んでいることをアピールした。 また、Menlowでサポートされる無線技術についても言及があった。「低消費電力とともに重要なのは、無線の機能だ。我々のシリコンは無線LAN、Bluetooth、GPS、WiMAXをサポートするし、3G技術に関してもパートナーとなる“Option”から提供することが可能だ」と述べ、Menlowでは無線技術に関しても積極的にサポートしていくとアピールした。そして、同社が来年(2008年)導入を計画しているWiMAXのPCI Express Mini Cardを利用して、実際にWiMAXに接続するデモなどが行なわれた。 なお、その後にパートナーとなる企業のロゴなどが画面に表示されたが、日本のユーザーにとって気になるのは、4月のIDFで発表されたNTTドコモと富士通だけでなく、Panasonic、NEC、東芝、日立、そしてKDDIという新しい日本企業のロゴも含まれていたことだ。その情報以外にはIntelからは何も発表がないが、松下、東芝、NEC、日立やauからもMenlowを搭載したシステムがリリースされる可能性もでてきたわけだ。
●ハードウェアのみでなくソフトウェアの進化も必要に チャンドラシーカ氏は「ハードウェアの進化はもちろん重要だが、同時に優れたソフトウェアも必要だ」と述べ、同社がMobile Internet Device(MID)と呼ぶ機器に向けたソフトウェア開発についての、状況についても言及した。 Microsoftに関してはWindows Vista版Origamiの出荷が開始されたことに謝意を表したほか、MID向けにLinuxの開発が進んでいることなどを説明したが、これらの状況は4月のIDFにおいて発表された内容と同様であり、特にアップデートはなかった。 今回は、Adobeの担当者が壇上に呼ばれ、Adobeが“Apollo”(アポロ)の開発コードネームで開発を続けてきた「AIR」のデモが行なわれた。AIRはアプリケーションの実行環境で、FlashやJVSなどのいわゆる“インターネットアプリケーション”を、Webブラウザがなくても実行できるようにするためのものだ。AIRを利用することで、ネットワークにつながっていない時でさえ、FlashやJVSなどを実行することができるようになる。今回は、Adobe Media Player(AMP)と呼ばれるAIRの上で動作するアプリケーションも公開され、それがMID上で動く様子がデモされた。 Adobeのモバイル&デバイスソリューションビジネス事業部のアル・ラマダン上級副社長は「AIRの正式発表は第1四半期を予定している」と述べ、チャンドラシーカ氏は「それはMenlowの出荷時期と同じな完璧なタイミングだね」と受け、期待感を表明すると同時に、詰めかけた開発者にMID向けソフトウェアの開発を呼びかけた。
●待機電力を1/10にするMoorestownでスマートフォンを攻めるIntel 最後にチャンドラシーカ氏は2009年以降に投入を予定しているMenlowの次の製品となる“Moorestown”(ムーアズタウン)について言及した。Moorestwonに関しては、4月に行なわれたアナリストミーティングでコードネームこそ公開されていたものの、どのような製品になるのかは明らかになっていなかったため、今回がほぼ初公開と言っていいだろう。 チャンドラシーカ氏は「Moorestownでのターゲットは統合のレベルを上げていくことだ。我々の最新プロセス技術を利用し、グラフィックスや動画再生性能を向上させるほか、CPUの性能そのものも向上させるつもりだ。さらに、より多くの通信機能やI/O関連も統合していく。こうしたことにより、(Menlowに比べて)部品単位でのサイズは半分になり、消費電力も半分になる。そして何よりも重要なことは、待機時消費電力(Idle Power)が1/10になることだ」と、Moorestownの概要を説明した。 チャンドラシーカ氏はその後でMoorestownでどのようなことが可能になるかのビデオを見せ、そこにはまるで“iPhone”かと見間違うようなスマートなデバイスにより、音声もデータも可能になる様子がデモされた。以前の記事でも指摘したとおり、スマートフォンにx86のプロセッサが入っていく上で問題になるのは待機時消費電力であり、チャンドラシーカ氏としては、それがある程度まではMoorestownで克服できると考えているようだ。 チャンドラシーカ氏はビデオで登場したiPhoneライクなデバイスのモックアップを見せながら、「我々の前には非常に大きな可能性が広がっている、Menlowは2008年の第1四半期を目指してスケジュール通りに開発が進んでおり、Moorestownに関しても同様だ」とのべ、今後MIDやUMPCの市場が大きく広がり、それがOEMや開発者にとっても大きなチャンスになるだろうと呼びかけた。
□IDF Fall 2007のホームページ(英文) (2007年9月21日) [Reported by 笠原一輝]
【PC Watchホームページ】
|