昨年(2006年)の秋以来の米国開催となった今回のIDFだが、米国開催ということもあってか、事前の情報開示がほとんどなかった。春のIDFのように、直前になって45nmプロセスによるプロセッサの情報を急に公開するといったことはなく、基調講演でどのような情報が公開されるのか、期待されていた。
その期待を裏切ることなく、講演者として登壇したPaul Otellini社長は、いくつかの新しい情報を公開した。中でも注目度が高いものの1つは、まだ製品出荷が開始されてもいない45nmプロセスの、さらに次世代になる32nmプロセスに関する情報だろう。 Intelは間もなく出荷が始まるPenrynファミリから、業界の先頭を切って45nmプロセスへと移行する。この45nmプロセスは、これまた業界で初めてゲート絶縁膜にハフニウム系のHigh-k材料を用い、これと組み合わせることの可能な金属ゲート(メタルゲート)電極素材を用いたものでP1266と呼ばれる。ゲート電極に多結晶シリコンを用いた従来型のトランジスタから、素材面で大きな飛躍を遂げることになる。 今回公開された新しい32nmプロセスも、基本的にはこのHigh-k絶縁膜と金属ゲート素材を用いたHigh-kメタルゲートトランジスタ構造を継承する。2世代目となることで、細かな改善も図られていることだろうが、その詳細については公開されていない。 一方、若干変わることが明らかにされたのが露光方法だ。Intelは45nmプロセスにおいて波長193nmと248nmの露光装置を用いてマスクに描かれた回路パターンをシリコン上に露光/転写している。32nmプロセスではこれに加え、クリティカルな部分に、193nm immersion lithography技術を採用したと発表した。 immersion lithograhpyとは、液浸露光技術のことで、レンズとウェハの間に、空気より屈折率の高い純水を満たすことで、レンズの見かけ上の開口率を高め、より分解能の高い、言い換えればより微細な露光を可能にする技術だ。液浸技術を用いることで、従来から使われてきた波長193nmのArF(弗化アルゴン)レーザーによる露光技術を延命させることができる。液浸露光技術が純水を利用することから、この技術を用いない従来の露光技術をドライ露光とも呼ぶ。 当初Intelは、32nmプロセスでの実用化を目指し、大幅に波長の短い(13nm)EUVによる露光技術の開発を目指していた。しかし、EUVによる露光は、従来から使われてきた透過型マスクに代わり反射型マスクが必要になるなど、大きな変革を余儀なくされる。また十分な出力と連続運転性能を持つ光源の確保という難しい問題を抱えており、Intel 1社の努力だけでは実用化への障害を解消できない。EUVの開発は現在も継続しつつも、32nmプロセスからのEUV実用化はあきらめた経緯がある。 EUVの代わりに32nmプロセスで採用されたのが液浸露光技術だが、これまでIntelが液浸露光技術を採用すると明確に述べたことはなかった。特に32nmプロセスにおけるEUVの実用化に希望を持っていた時代は、液浸露光技術について「つなぎ」の技術であるとして、かなり否定的であったと記憶する。それがEUVが32nmプロセスの世代には間に合わないとなった時点で、液浸露光技術の採用を否定しなくなり、今回採用を公式に明らかにした、というわけだ(ちなみにプロセス技術においてライバルであるIBMやAMDは液浸露光技術の採用をすでに明らかにしている)。 今回のIDFでOtellini社長は、32nmプロセスによりすでにSRAMチップの試作に成功したことを明らかにした。このSRAMチップは19億個のトランジスタで構成される291Mbitのもので、ちゃんと動作することが確認されているという。加えて、プレス向けのブリーフィングで、このSRAMチップにダミーのロジックを作り込んだ試作チップ(DFMテストチップ)も公開している。 Intelはこれまでもだいたい2年ごとにSRAMをベースにした試作チップの開発成功を発表し、そのほぼ2年後に該当の製造プロセスを用いたメインストリームのプロセッサを発表してきた。今回の発表は、この流れを踏まえたものであり、2年後の2010年に登場すると言われているプロセッサ、Westmere(ウエストメア:コード名)がスケジュール通りに登場できる可能性を強化するものといえる。
□Intelのホームページ(英文) (2007年9月21日) [Reported by 元麻布春男]
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