会場は、いわば生きる伝説であるMoore博士を見ようという来場者でいっぱいになった。会場では、満席が予想されるため詰め合わせて着席するようアナウンスが繰り返されたが、IDFでこのようなアナウンスが行われるのはかなり珍しいことだ。会場を埋め合わせた聴衆からも、Moore博士を壇上に招きあげる大役を担ったPat Gelsinger副社長からも、Moore博士に対する深い敬意が感じられた。
今回は、今年78歳になられたMoore博士の健康に対する配慮もあってか、非営利の公共放送であるNPR(National Public Radio)でホストをつとめるMoira Gunn博士を壇上に迎え、Gunn博士がMoore博士に質問をするという、一種のトークショーの形での進行となった。 話題は、化学の研究者であったMoore博士が、トランジスタの発明者(の1人)でありノーベル物理学賞を受賞したWilliam Shockley博士に招かれて半導体業界入りしたことからスタートした。Moore博士は、後に共にIntelを創立することになるRob Noice博士ら8人でShockley博士の元を飛び出して、Fairchild Semiconductorを設立することになる。が、この行為で「裏切りの8人」などというありがたくない呼び名で呼ばれることもあるのだが、その命名がおそらくShockley夫人であろうことが明らかにされた。Intelの創立に際しては、さまざまな社名の候補のなかからIntelを選び、その名前の権利を持っていた中西部のモーテルから買い取ったエピソードも明らかにされている。
Intelは、高速なバイポーラトランジスタ、MOSメモリ、シリコンゲートMOSなどの技術的アドバンテージで順調に成長していく。ただ、'80年代にメモリの分野で日本のメーカーから強烈な追い上げを受け、ついにはDRAM事業からの撤退を余儀なくされたのは大変だったようだ。
また、ムーアの法則の終焉についても、ムーアの法則とて物理的な限界からは逃れられるはずもなく、いつかかならず訪れるものであると述べている。ただ、限界と思ったところに技術的なブレークスルーが発見されるのが、エンジニアリングの面白いところであるとも付け加えている。 毎回、IDFでは必ずといっていいほど、ムーアの法則は継続する、といったメッセージが述べられる。が、とりあえず初日のキーノート(CEOのPaul Otellini社長、デジタルエンタープライズ事業部長のPat Gelsinger副社長とも)で、この話題には触れられていない。これもムーア博士に対する敬意の現れかもしれない。 さて、ムーア博士が最も驚いた発明は、300mmウェハ(12インチウェハ)の実用化だという。ムーア博士は、実用化されているウェハサイズが3インチであった'70年代に、単純な試算として2000年に57インチのウェハが使われるようになるとしたこともあるらしい。が、実際に300mmウェハを見たときは、たいそう感激したとのことであった。
ムーア博士がIntelのCEOを退任したのは'87年のこと。すでに20年前に経営の第一線から身を引いているわけだが、創業者(Co-Founder)という肩書きのもと、今もIntelのオフィスに一番大きなブースを持っているのだという。さすがに筆者が初めてスピーチを聞く機会を得た10年前に比べて、お歳を召されたという印象はあるものの、まだ言葉も足取りもしっかりとされている。これから5年後、IDFが15周年を迎える節目にも登壇していただけたらと願わずにはいられない。
□Intelのホームページ(英文) (2007年9月20日) [Reported by 元麻布春男]
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