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揺れる2009年のAMDデスクトッププラットフォーム




●2種類のAMDのプレゼンテーションの違い

 2009年のAMDのCPUは45nmプロセスなのか32nmなのか、ハイエンドデスクトップ向けCPUはクアッドコアなのかオクタルコア(Octal core=8コア)なのか、デスクトップCPUはFUSIONなのか単体CPUなのか。AMDのロードマップでは、こうしたキーのポイントで混乱が見られる。

 AMDのロードマップの揺れがよくわかるのは、AMDが先週行なったカンファレンス「Analyst Day」のプレゼンテーションだ。Analyst Dayで、AMDは、2種類のプレゼンテーションスライドを公開したが、その2つの間で、バックアップスライド部分のロードマップの内容が大きく異なっていた。その食い違いは、AMDのCPUプランが、まだまだ変動している最中であることを物語っている。

 AMDのPhil Hester(フィル・へスター)氏(Senior Vice President & Chief Technology Officer(CTO))は、Analyst Dayのプレゼンテーションでは、最後のロードアップ部分の説明を端折って終了した。しかし、そのプレゼンテーションスライド自体はホストサーバー上にあり、公式にアクセスした一般視聴者なら誰でも見ることができるようになっていた。

 その後、AMDは、プレゼンテーションスライドをPDFで公開した。つまり、Analyst Dayのプレゼンテーションは、WebcastのJEPGバージョンと、AMDサイト上に後からポストされたPDFバージョンの2種類がある。PDFの方が新しい。そして、この2つのバージョンで、AMDのCPUとGPU、チップセットのロードマップに大きな違いがある。

 もちろん、AMDが示したロードマップは、あくまでも計画上のものなので、スライドの上でいくら変更されようとも不思議はない。しかし、今回の変更の内容は、非常に示唆的で面白い。まず、AMDの計画がカギとなる部分でまだ揺れていることが伺える。変更のいくつかはAnalyst Dayの間際に行なわれたことも示唆している。全体に言えることは、AMDがよりアグレッシブに計画を変更しつつあることだ。

●パフォーマンスデスクトップは8コアに

 違いが明瞭なのはプラットフォームロードマップの部分だ。AMDは、パフォーマンスデスクトップ向けに、2009年に「Python(パイソン)」プラットフォームを提供する。まず、この内容が大きく異なる。

 下に示したWebcastのバックアップスライドはかなり解像度が低く見にくい。しかし、キータームは補完すれば簡単に読み取れる。Webcastでは、PythonのCPUはネイティブ“クアッドコア”で“32nm”プロセス、AM3パッケージで、“DirectX 10/11”グラフィックスと“第2世代UVD(Universal Video Decoder)”と示されていた。また、チップセットは“RD800系”とされていた。

Webcast版のパフォーマンスデスクトップのロードマップ

 それに対してPDF版のスライドでは、CPUはネイティブ“オクタルコア”で、プロセス技術は“45nm”、CPUの欄にグラフィックスの項目はなく、チップセットは“RD900系”となっている。

PDF版のパフォーマンスデスクトップのロードマップ
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 2つのスライドを比べると、まず、古いスライドではクアッドコアで32nmだったのが、新しいスライドでは45nmのままでオクタルコアに塗り替えられていることが目立つ。AMDのプロセス技術ロードマップでは、2009年末の前後に32nmプロセスのアウトプットを計画している。45nmから18カ月でぎりぎり2009年中となり、元々のスライドの32nm製品を2009年というスケジュールの方に無理がありそうだ。

 もっとも、45nm世代のオクタルコアは、かなりCPUのダイ(半導体本体)が大きくなることが予想される。65nmプロセスのクアッドコア「Barcelona(バルセロナ)」ファミリのダイサイズ(半導体本体の面積)は283平方mmと、いわゆるサーバーCPUクラス。45nmのオクタルコアは、Barcelona以上のダイサイズになると推定される。

●巨大コアであってもパフォーマンスデスクトップに投入

 このロードマップは、2つの事柄を示唆している。まず、これでAMDのオクタルコアCPU「Sandtiger(サンドタイガー)」ファミリが45nmプロセスであることがほぼ明確になった。また、Sandtigerに搭載される次世代CPUコア「Bulldozer(ブルドーザ)」コアが、それほど大きなCPUコアでないことも推測できる。少なくとも、現行のK8/K10系のCPUコアより、大きく肥大化させるつもりはなさそうだ。

サーバー向け上位のSandtigerファミリ
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 新スライドでは、パフォーマンスデスクトップのPythonでは、CPUはFUSIONではないことも明瞭になった。旧スライドではCPUの欄にグラフィックス機能が書き込まれており、FUSIONの可能性も示唆されていた。しかし、新スライドではCPUの欄にはCPUコア以外の記述がなく、ディスクリートCPUであることが明確化されている。

 このあたりの変化は、プロセス技術の記述の変化とも連動している可能性がある。旧スライドで32nmプロセスとなっていたのは、32nm世代ならパフォーマンスデスクトップにもFUSIONが浸透できると想定していたのかもしれない。そして、その場合のFUSIONはクアッドCPUコアで、DirectX 11世代GPUコアを計画していたと考えられる。

 こうしたスライドの変化からは、AMDの戦略の変化が見えてくる。現在、AMDは、パフォーマンスデスクトップには、どれだけ巨大なダイであっても、サーバーと同じCPUをもたらそうと考えている。一方、メインストリームデスクトップへは当面はもたらさない。つまり、パフォーマンスデスクトップが、本質的にメインストリームデスクトップとは異なる市場だとAMDは捉えている。しかし、そこに行き着くまでに、AMDには逡巡があったこともわかる。

モジュラーデザインアプローチを採用するAMD
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●FUSION化が強く示唆されたメインストリームデスクトップ

 パフォーマンスデスクトップとは対照的なのがメインストリームデスクトップ向けの「Copperhead(カッパーヘッド)」プラットフォームだ。Webcastのスライドでは、CPU欄はネイティブクアッドコア、“32nm”プロセス、“AM3”パッケージ、“DirectX 10/11”グラフィックスと“第2世代UVD”と示されていた。また、チップセットは“FUSION Southbridge”とされていた。

Webcast版のメインストリーム向けのロードマップ

 それに対してPDF版のCopperheadのスライドでは、CPUはクアッドコアだが、プロセス技術は“45nm”、“FUSION”パッケージとなっている。CPUの欄にグラフィックスの項目はないが、プラットフォームの欄に統合FUSIONグラフィックスと記されており、パッケージと合わせて、CPUがFUSIONタイプであることが強く示唆されている。チップセットの欄はSB800系サウスブリッジチップとなっている。

PDF版のメインストリーム向けのロードマップ
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 ここで重要なポイントは、パッケージがAM3からFUSIONに変わっている点。AM3はディスクリートCPUのためのソケットとして設定されたため、FUSIONではパッケージ変更が必要となると推測される。旧スライドではCopperheadはAM3であったため、FUSIONかどうかは今ひとつ明確ではなかった。しかし、新スライドでは、このセグメントがFUSIONに切り替わるロードマップになったことが、強く示されている。

 メインストリームデスクトップ向けCPUがFUSIONで45nmプロセスになるとすると、それは、モバイル向けFUSION「Falcon(ファルコン)」と同世代となる。最初のFUSIONであるFalconは、45nmプロセスであることがわかっているからだ。

●変化の少ないノートPCロードマップ

 大きく変わったデスクトップのロードマップに対して、モバイルのロードマップはほとんど変更がない。モバイルは、すでに2009年にFalconを投入することで、路線が固定されていたためと推測される。

Webcast版のノートPC向けのロードマップ
PDF版のノートPC向けのロードマップ
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 違いは2つ。1つは、Falconの下にクアッドコアと記されていたのが、デュアル&クアッドコアに変わったことだ。これが、Falconに、デュアルコアとクアッドコアがあることを明示しているのかどうかは、まだわからない。しかし、デスクトップからモバイルまでカバーすると考えれば、デュアルコアとクアッドコアの両方を揃える可能性は高い。しかし、45nmではクアッドコアのFUSIONは、かなりダイが大きくなる。

 もう1つの変化は、デスクトップと同様に、CPUの項目からDirectX 11グラフィックスと第2世代UVDの記述が消えたこと。これは、最初の世代のFalconのフェイズでは、DirectX 11と第2世代UVDは間に合わないことを示しているのかもしれない。

 Falconは、既存のGPUコアではなく、FUSIONのために別個に開発されたコアを統合するという。FUSIONの統合GPUコアのサポートするフィーチャは、ディスクリートGPUより半歩遅れる可能性が高い。CPUの方が開発サイクルが長いからだ。そのため、Falcon世代では、まだDirectX 11は間に合わないと推定される。新スライドは、それを反映している可能性がある。

Falconの構成
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●CPUの2分化が明瞭になってきたAMDのロードマップ

 ロードマップ全体を見てわかるのは、AMDの路線が固まりつつあることだ。そして、その方向は、サーバー&パフォーマンスデスクトップと、メインストリームデスクトップとノートPCの2つの方向で、AMDのCPUが分化しつつあることだ。上の市場は汎用CPUコアを倍々で増やして、マルチスレッド性能を高めること。下の市場は、汎用CPUコアにGPUコアを統合して、AMDの言うヘテロジニアス(Heterogeneous:異種混合)コンピューティングの実現を目指す。これまでもその傾向はあったが、今回のプレゼンテーションで、ますます方向性が明確となった。

 ただし、プレゼンテーションの変更によってブレも見える。プレゼンテーションが書き換わったのが、Webcastの準備時から後であることは、かなり最近に決定が下されたことを示唆しているかもしれない。

方向が分かれていくAMD CPU
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【7月27日】【海外】AMDが2009年のCPUコアと統合CPUの概要を発表
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2007/0727/kaigai376.htm
【6月28日】【海外】AMDの製品戦略全体の再構築となるFUSION
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【6月21日】【海外】AMDの省電力CPUコア「Bobcat」とFUSION構想
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2007/0621/kaigai367.htm

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(2007年8月1日)

[Reported by 後藤 弘茂(Hiroshige Goto)]


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