笠原一輝のユビキタス情報局

ソニーのVAIO type R masterに搭載された
GeForce 8600 GTSのBD再生機能を試す




 ソニーのPCの中でもっともハイエンドな製品といえば、VAIO type R masterだ。夏モデルの発売に合わせてラインナップを一新し、ソニースタイルで販売されるBTOモデル(VCG-RM92シリーズ)では、新たにOSとしてWindows Vista Ultimateが選択可能になったり、NVIDIAの最新GPUであるGeForce 8600 GTSが選択可能になるなどの強化が図られている。

 中でも、GeForce 8600 GTSには、NVIDIAが「VP2」と呼ぶ第2世代のビデオプロセッサPureVideo HDが内蔵されており、H.264(MPEG-4 AVC)のハードウェアデコード機能により、従来製品に比べてMPEG-4 AVCをフォーマットに採用したBDのタイトルをより低いCPU負荷率で再生することが可能になっている。

●新たにVista UltimateとGeForce 8600 GTSが選択可能になったtype R master

 ソニーの「VAIO type R master」(VGC-RM92シリーズ、以下本製品)は、光学ドライブや前面ポートなどをまとめた“アクセスユニット”と、CPUなどの本体部分となる“メインユニット”を専用ケーブルで接続するというユニークな形状をしていることで知られるVAIOのフラッグシップ製品だ。

 本製品は、ソニーのVAIOデスクトップシリーズの中でも、ビデオコンテンツの編集機能にフォーカスした製品で、プリインストールされているPremiere Pro 2.0ないしはPremiere Elements 2.0を利用してHDビデオの編集が可能になっている。また、スペックがメーカー製PCとしてはほかに例がないほど高いものになっているのも特徴だ。たとえば、CPUはCore 2 Duoシリーズだけでなく、クアッドコアのCore 2 Quad Q6600(2.40GHz)、Core 2 Extreme QX6700(2.66GHz)が選択できるようになっているほか、メモリは最大で3GB、HDDも本体に最大で6台内蔵可能で3TBまでの容量を選択できる。

 このあたりの特徴は前モデルと大きな違いはないのだが、本製品ではOSとしてWindows Vistaの最上位SKUであるWindows Vista Ultimateが選択できるようになっている。構成によっては50万円を超える本製品に、最上位SKUのOSを搭載しようと考えるユーザーは当然少なくないだろう。そうした声に応えてのUltimate対応と考えることができる。

 そしてもう1つの特徴が購入時にGeForce 8600 GTSないしはGeForce 7600 GSの2製品から選択することができるようになっていることだ。GPUの処理能力を重視するならGeForce 8600 GTS、ファンレスにしてより低ノイズを希望するならGeForce 7600 GSという選択が可能になっている。

ソニーのVAIO type R master。ツインユニットと呼ばれる2つのユニットに分離したユニークな構造を持っている 本製品に採用されているGeForce 8600 GTSビデオカード

●新たにBSPとInverse Transformのハードウェアデコーダを追加したVP2

 今回レビューに使用している製品に搭載されていたビデオカードはGeForce 8600 GTSだ。コア675MHz、メモリ2GHzで動作しており、ビデオメモリは256MBが搭載されている。もちろんWindows Vistaの3Dユーザーインターフェイスの機能であるWindows Aero環境で利用するには十分すぎる3D描画性能を有しており、Windows VistaのWindowsエクスペリエンスインデックスの“Windows Aeroのデスクトップパフォーマンス”では、現時点で満点の5.9をたたき出している。

 ただし、8600 GTSは、チップ自体のピーク消費電力が71Wと、パッシブタイプのヒートシンクで放熱できるレベルを超えており、本製品に採用されているカードはファンで放熱されている。

 GeForce 6シリーズ以降には、PureVideoと呼ばれる動画再生を支援するビデオプロセッサが標準で内蔵されているが、8600/8500シリーズにはVP2(開発コードネーム)と呼ばれる第2世代のエンジンが内蔵されている。VP2の最大の特徴は、H.264ないしはMPEG-4 AVCを再生するハードウェアデコーダを内蔵していることだ。従来のGeForceシリーズにも、H.264/MPEG-4 AVCの再生を支援する機能は内蔵していたのだが、VP2ではすべてをGPU側でデコードするようにしているのだ。

 具体的に図を使って説明していきたい。一般的に、H.264/MPEG-4 AVC(そして、マイクロソフトの提唱するVC-1)では、以下の4つのフェーズで動画をデコードしディスプレイに出力している。

(1)復号演算(Bit Stream Processing)
(2)逆変換処理(Inverse Transform)
(3)動き補償処理(Motion Compensation)
(4)デブロッキング処理(Deblocking)

【図】PureVideo HDのH.264/MPEG-4 AVCの処理。VP2ではすべてGPU側での処理になり、CPU負荷が大幅に小さくなる

 GPU側でデコード機能を持っていない場合、図中の1-aのように(1)から(4)までをすべてCPU側で処理を行なうため、CPUの負荷率は非常に高くなる。なお、PowerDVDやWinDVDのような再生ソフトウェアで、GPUのアクセラレーション機能を利用しない設定にした場合も、これに該当する。

 次に、GeForce 8800およびGeForce 7シリーズなど、従来のPureVideoエンジン(つまりVP1)を搭載している場合には、(3)動き補償と(4)デブロッキングに関してはGPU側のビデオプロセッサを利用して行なわれる(図中の1-b)。この場合、図中の1-aに比べるとCPU負荷率は下がるが、それでもそれなりの負荷率になってしまう。特に、デジタル信号を復号する(1)の処理はCPUへの負荷率が非常に大きく、データのビットレートが高い場合、コマ落ちが発生してしまう可能性が高いのだ。実際、BDの仕様ではH.264/MPEG-4 AVCのビットレートは最大で40Mbpsまで許されているが、デュアルコアのCPUなどでは20Mbps台の後半が限界ではないかと言われている。今のところ、そもそもH.264/MPEG-4 AVCを利用したタイトルはそもそも少ないし、30Mbpsを超えるビットレートの動画は瞬間だったりするのであまり問題にはなっていなかったが、今後顕在化する可能性が指摘されている。

 そこで、VP2では、(1)から(4)までの処理をすべてGPU側で行なうようになっている(図中の1-c)。これにより、CPUはほかの処理(例えば再生ソフトウェアそのものの実行)などに集中できる。

 なお、余談になるがNVIDIAはこのVP2のことをPureVideo HDと呼んでいるが、実際には図中の1-bの機能を実現しているGeForce 8800やGeForce 7シリーズに搭載しているVP1のこともPureVideo HDと呼んでいるので非常にややこしい。ブランド名は同じでも、実際の機能は全く異なっているので、この点は注意したい。NVIDIAにももう少しわかりやすいブランド名を期待したいところだ。

●劇的なCPU負荷率の低下を実現するハードウェアデコード機能

 それでは、動作原理がわかったところで、実際の処理能力の違いについて確認していきたい。NVIDIAによれば、VP2のPureVideo HDを利用するには、以下のような条件を満たす必要がある。

(1)Windows Vista対応NVIDIAドライバ
(2)VP2を内蔵したGPU(8600/8500シリーズ)
(3)VP2に対応したソフト

 本製品の場合、購入時に8600 GTSとBDドライブを選択しておけば、(1)と(2)は満たしており、(3)に関しても最新リビジョン(b08.246)のWinDVD BD for VAIOがプレインストールされており、そのままでVP2の機能を利用できる。

 自作PCのユーザーなどでBDドライブを持っている場合にも、(1)~(3)の条件を満たすとVP2の機能を利用することができる。問題になるのは(3)だが、実はすでにPower DVD Ultraのパッチが米国CyberlinkのWebサイトにあがっており、これを当てることでVP2に対応させることができる。WinDVD 8 PlatinumもBD/HD DVD再生機能に対応しているが、日本のサイトにも、米国のサイトにもいまだパッチは公開されておらず、原稿執筆時点では有効なパッチなどは入手できなかった。しかし、OEM向けといえるWinDVD BD for VAIOがすでに対応していることからもわかるように、すでにWinDVD自体の対応はすんでいると考えられるので、今後に期待したい。

 グラフ1は本製品に標準で導入されている「WinDVD BD for VAIO」を利用して、MPEG-4 AVCを利用したBDタイトル(IDENTITY、ソニーピクチャーズエンターテインメント)のチャプター2を約1分間再生し、そのCPU負荷率を記録したものだ。標準のビデオドライバで、ビデオプロセッサの機能を無効にした場合(つまり図中の1-aの状態)と有効にした状態(図中の1-cの状態)、さらには有効状態でNVIDIAのグラフィックスドライバをソニー標準状態からNVIDIAサイトにあがっていた最新ドライバ(158.24)にバージョンアップした状態の3パターンで計測した。

【グラフ1】WinDVD BD for VAIOを利用したBD再生時のCPU負荷率

 グラフ1を見てわかるように、VP2が無効の場合、CPU負荷率は40~50%程度になっているのに対して、ソニー標準ドライバ+VP2有効の場合には15~25%程度になっており、平均すると20%ぐらいになっている。ドライバをNVIDIAの最新版にすると、さらにCPU負荷率が下がり、平均では20%を切る程度まで下がっている。ちなみに、本製品のCPUはIntelのCore 2 Quad Q6600で、CPU性能では現在主流のデュアルコアCPUなどよりも高いことを考えると、VP2がかなり効果があることがわかるだろう。

 では、図中の1-a、1-b、1-cの違いはどれだけあるのか、市販されているPowerDVD UltraにVP2対応パッチを当てて調べてみた。すでに述べたように、PowerDVD Ultraは、パッチを当てるとVP2対応になるが、パッチを当てていない市販バージョンはVP2には対応していないので、パッチを当てたバージョンと比較すれば1-bと1-cの状態を比較することができる。その結果がグラフ2だ。

【グラフ2】PowerDVDの各バージョンによるBD再生負荷率

 図中の1-a状態の赤(PureVideo無効)が最もCPU負荷が高く、1-b状態の青(一部アクセラレータ有効状態)が若干CPU負荷率がさがり、そして1-c状態の緑(ハードウェアデコーダ有効状態)は前述の2つに比べて圧倒的にCPU負荷率が下がっていることがわかる。

●次世代DVDに対応PCを買うならハードウェアデコーダ内蔵を選択したい

 以上のように、本製品で採用されているGeForce 8600 GTSのH.264/MPEG-4 AVCのハードウェアデコーダは、クアッドコアCPUのようなCPUの処理能力が高い環境でも十分な効果を発揮することがわかる。さらに、CPUの処理能力がクアッドコアに比べて劣るデュアルコア、シングルコアのCPUを利用している場合にはさらに大きな効果があることを期待できるだろう。

 今回再生に利用した“IDENTITY”は最高でも30Mbpsを超える程度とさほどビットレートが高くないが、今後は仕様上の限界である40Mbpsに近いビットレートを実現したコンテンツの登場も十分考えられる。そうした時には、ハードウェアデコーダの機能がさらに活きてくることになるだろう。また、あまりビットレートの高くないコンテンツであっても、ハードウェアデコーダの威力によりBDの再生をしながらほかの処理をPCにやらせることが可能になる。特に、本製品のような機器の場合、デジタルチューナ、デュアルアナログチューナなどが搭載されており、3つの番組を同時に録画しているなどの使い方も十分あり得る。そうした時に、BD再生を行なうと、CPUの負荷がかかり過ぎてシステムが不安定になる可能性もあるわけで、それを避けるという意味でも大きな意味があると思う。

 今後ユーザーがBDやHD DVDといった次世代DVDドライブを搭載したPCの購入を検討するのであれば、本製品のように8600/8500シリーズや、今後登場するであろうAMDのRadeon HD 2600/2400シリーズがGPUとして採用されているのかをぜひともチェックしたいところだ。

□ソニーのホームページ
http://www.sony.co.jp/
□type R masterの製品情報
http://www.vaio.sony.co.jp/RM/
□関連記事
【5月17日】ソニー、Core 2 Duo E6320搭載「type R master」夏モデル
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2007/0517/sony2.htm
【4月27日】NVIDIA、第2世代PureVideo HDの詳細を解説
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2007/0427/nvidia.htm
【4月18日】NVIDIA、ミッドレンジ向けの「GeForce 8600/8500」シリーズ
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2007/0418/nvidia.htm

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(2007年6月20日)

[Reported by 笠原一輝]


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