山田祥平のRe:config.sys

ビーイング・ポータブル




 デバイスの処理能力と、ネットワークの伝送速度、そして、データの圧縮率は、それぞれが密接な関係を持っている。どれも高ければ高いほどいいのは理想だが、なかなかそうはいかない。それによって、デジタルな不便を強いられる。

●果てしなく時間がかかる再エンコード

 ここ数日間、手元で使っているCore 2 Duo搭載のメイン機は、プロセッサの使用率を90%程度に保ちながら稼働している。たまりにたまった録画済みTV番組約130時間分のMPEGデータを、WMVに変換させようと始めてみたらこんな状況になってしまった。優先度を低く設定しているので、他の作業に支障はないが、それでもこれだけの時間がかかると憂鬱だ。

 番組データのMPEGファイルは標準画質で1時間あたり約1.5GBだ。これを、品質70の可変ビットレート1パスのQVGA(320×240ドット)に再エンコードする。その結果、サイズは150MB程度になる。約1/10だ。他の作業でPCを使いながらだが、かかる時間は、だいたい実時間の半分くらいになる。つまり、130時間分を65時間かけて再エンコードしているのだ。

 これまでずっと、移動中のTV視聴には、NECの「VoToL」 を使ってきた。これはかなりのお気に入りで、特に、MPEGファイルを再エンコードすることなく転送できるのが便利で重宝している。

 WMVが必要になったのは、最近になって、ワンセグTVが視聴できる東芝の「gigabeat V30E」を入手したからだ。つまり、それを使って動画を見ようと画策しているわけだ。

 gigabeatは、3.5型4:3比率の液晶ディスプレイを持つ230gのプレーヤーだ。対応動画ファイル形式はWMVのみとなっている。VoToLのディスプレイは2.7型で重量が188gなので、gigabeatの画面はずいぶん大きく感じるし、バッテリ容量も多く、感覚的には倍近く持つのだが、結果としてかさばるのは仕方があるまい。

 ワンセグは、毎朝、7時から30分間、NHKニュースを録画するように設定してある。内蔵HDDは30GBで、最近買ったCDを数十枚、そして、数十本のTV番組を入れておき、移動中に楽しもうともくろんでいるわけだ。

 Vista環境におけるWindows Media Player 11と、gigabeatのようなポータブルメディアセンターデバイスの親和性は高い。特に、何のユーティリティを入れることもなく、PnPで汎用ドライバがインストールされ、WMP11から認識される。

 WMP11の同期タブを開くと、イラストつきでデバイスが表示され、同期ペインにファイルをドロップするだけでいい。WMP11は、接続されたパートナーデバイスの能力に関する情報を持っているので、同期しようとしたファイルを、デバイスで再生できる形式に変換して転送するようになっている。

 ところが、ここで困った問題が起こった。WMP11では普通に再生できる4:3比率のMPEGファイルを同期させると、転送先のgigabeatで、上下に黒帯を持つワイド画面で表示されるファイルがあるのに気がついた。録画済みデータは、ソニーの「Xビデオステーション」のもので、それをPCに転送したものだ。すべてのファイルがそうなるわけでもなく、原因が特定できない。ただ、同じファイルでも、XP環境におけるWMP10では、そのようなことは起こらない。4:3の映像を横に引き延ばして見るのは気分が悪い。

 こうした不具合の原因を、しつこく追いかけていても仕方がないので、別途、環境を用意して、手動で変換することにした。自動変換の場合、変換済みのファイルは一時ファイル扱いで、同じファイルを別のデバイスに転送するときには、変換のやり直しが発生する場合が多い。複数のデバイスがある場合は、手動変換しておく方がよさそうだ。

 そこで、XP時代に使っていたカノープスの「なんでも換太郎」を引っ張り出してきて、Vistaにインストールし変換を試みた。このパッケージは、Vistaでの動作は保証されているわけではないが、それなりに動いているのでよしとしよう。

 変換後のファイルは、そのフォルダのウィンドウからWMP11の同期ペインにドロップすれば転送ができる。できるはずなのだが、これまた、再変換が起こるファイルがたまにある。WMP11が変換を必要とすると判断した場合は、容赦なく変換が始まり、またまた長い時間がかかるので、コンピュータウィンドウからデバイスを直接開き、ファイルをドロップしてみたところ、警告は出るものの、そのまま転送すれば、うまく再生できることがわかった。VBRで、多少ピーク値が仕様を超えてしまっているようなファイルでこういうことが起こるようだが、特に問題なく再生できているようなので、しばらくは様子見としよう。再生ができないファイルが見つかれば、品質を下げるか、CBRに切り替えるつもりだ。

●VoToLとgigabeat

 gigabeatには、それなりに満足しているが、不満もたくさんある。まず、充電には必ずACアダプタが必要で、これがまた巨大で、今どき珍しく、AC側にもケーブルを装着するタイプだ。しかも、PCとUSBケーブルで接続している間は、仕様として充電が行なわれない。充電中は、そのステータスを表示するためだけに、液晶のバックライトがつきっぱなしになる点を気にするユーザーもいるだろう。

 また、本体にはスピーカーが内蔵されているが、その使用の可否を設定できないため、公共の場所で視聴中にヘッドフォンのプラグが抜けるようなことがあると、大きな音がその場で出てしまう。さらに、ポータブルメディアセンターの仕様として、音楽とビデオ、それぞれの最後の状態を保持できないため、歩行中には音楽を聴き、落ち着いたらビデオに切り替えるような使い方には不便だ。

 音楽の再生中にビデオに切り替えると、ミュージックアルバムは、それこそ、何曲目を聞いていたかもわからなくなってしまう。ビデオは、再開機能があって、前回の停止位置からの再生ができるが、ファイルは選び直しだ。この点は、コンテンツの種類ごとに、前回の状態をレジュームできるVoToLの方が圧倒的に使いやすい。VoToLは、専用の転送ユーティリティを使わなければならないことになっているが、gigabeatと同様、特別なタグを持たない動画ファイルに限っては、WMPやフォルダウィンドウで強引に転送しても支障がないようだ。

 ずっとVoToLを使っていて、1時間あたり、1.5GBものファイルを転送していたのが、こうしてファイルを圧縮してみると、画質的には多少劣るものの、それはほとんど気にならず、膨大な量の番組を転送しておけるのだから、30GBというのは、意外に広大な空間なのだなと改めて思った。

 ワンセグ番組は140時間を記録できるそうなので、場合によっては、録画もすべてgigabeatでやってもいいかなと思い始めている。昼間の移動中に見たいと思う番組がなかなかない以上、夜のプライムタイムに放送される番組をためておいて、あとで見るというタイムシフト視聴が現実的だからだ。録画もgigabeatにゆだねてしまえば、再エンコードや同期の手間もかからない。ぼくが仕事をしている部屋は、幸運にも、gigabeatのアンテナをたてない状態でもワンセグ放送がきちんと映るだけの電界強度があり、ACアダプタを装着して放置しておけば、どんどん番組がたまっていくはずだ。

 それに、同期したビデオデータは、PCに接続しなければ削除できないが、ワンセグデータは見たらその場で削除することができるという便利さもある。

 週にドラマを10本程度、毎朝のニュースを入れても、140時間分録画できれば、1クール分をカバーできる。放送時間にワンセグ圏外にいる場合は録画ができないが、その場合はPCで録画したものを見ればいい。

●コンテンツを持ち歩くために強いられる努力

 とはいうものの、30GBが広大だと喜んでいるわけにはいかない。デバイスごとにファイルを別に用意しなければならない状況はいつまで続くのかという問題を提起したい。今、ぼくの手元には、VoToL、gigabeat、セイコーエプソンのストレージャ「P-5000」、ウィルコムの「W-ZERO3 es」、パナソニックの「P902i」、iPod、XGA(1,024×768ドット)解像度のPC、UXGA(1,600×1,200ドット)解像度のPCなど、動画を再生できる複数のデバイスがあるが、QVGAのWMVでカバーできるのは一部だけだ。再生できるとはいえQVGA解像度の動画は、PCでは見るにたえない。気持ちとしては、その日に持ち出すデバイスに、その日見るであろうデータを転送して持ち出したいのだが、そのためには、少なくとも大と小2種類のデータを手元に置いておく必要がある。

 ハードウェアMPEG-2エンコードは強力で、TV番組のリアルタイムエンコード録画を可能にしたが、今のプロセッサの能力を持ってすれば、同時にQVGAのWMVエンコードくらいはできそうなものだ。Microsoftが本気でポータブルデバイスにおけるWMVの普及を考えているのなら、Windows Media Centerの録画機能に、そのくらいの設定オプションがあってもいいと思う。よりによって、dvr-msというのは理解に苦しむ。

 いや、本当なら、ポータブルデバイス側が、iPodやVoToL、P-5000のように、高ビットレートのファイルを平気で再生できればそれでいいわけだ。そうなれば、ファイルのポータビリティは一気に向上する。だが、高ビットレートのファイルは、再エンコードを回避できたとしても、転送に時間がかかるし、限られたポータブルデバイスのストレージには荷が重いかもしれない。ただ、8GBのSDメモリーカードが、1万円を切った価格で売られている時代である。これは、そのうちあまり気にしなくてもよくなるに違いない。ポータブルデバイスにHDDのような消費電力が高い上にデリケートなパーツを使わなくて済むようになれば一石二鳥だ。これによって、連続再生時間も向上するだろう。となれば、問題は、プロセッサの処理能力と、そのためのコストだけということになる。

 PC側のプロセッサの力仕事で異なる形式のファイルを複数用意するのがいいのか、すべてのデバイスが高い能力のプロセッサと大容量のストレージを持つのがいいのか。どっちだってかまわないのだが、いずれにしても、移動中に録画した番組を見たいというだけのために、これだけの努力と投資、そして時間が求められるのはたまったものではない。このままでは、今、電車の中で多くの人がメールを読み書きしたり、ウェブページを楽しんだり、音楽を聴いたりしているのと同じように、それぞれのポータブルデバイスで楽しめるコンテンツとして、ビデオが加わるのはずっと先の話になるだろう。

 Microsoftも、iPodの成功とH.264の浸透を指をくわえて見ているのではなく、もっと本気でWindows Mediaに取り組まなければ、Windowsは不便なままだ。Apple TVのサービス開始まで、あとわずか。もしかしたら、iPodよりも多少大きなディスプレイを持った“ポータブルApple TV”だって、用意されているかもしれないのだから。

□関連記事
【2006年9月22日】【山田】脱ビットレート
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2006/0922/config124.htm
【2006年8月25日】【山田】停電とコンピュータ
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2006/0825/config120.htm
【2006年5月5日】【山田】デファクトスタンダードとNEC VoToLの素晴らしき他力本願
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2006/0505/config104.htm
【2005年12月16日】【山田】携帯電話格闘週間
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2005/1216/config085.htm

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(2007年2月23日)

[Reported by 山田祥平]


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