米Apple Computerのワールドワイドプロダクトマーケティング担当上席副社長のフィル・シラー氏が来日した。 10月からスタートした同社新年度にあわせ、米本社が掲げる基本方針を日本法人と共有することなどが、今回の来日の目的のようだ。「日本のチームに対して、さまざまな要求を出した。日本でも力強く事業を推進する」とシラー氏は語る。 フィル・シラー上席副社長に、2007年度の事業方針や、先頃、スティーブ・ジョブズ氏が発表した「iTV」をはじめとするリビング戦略への取り組みなどについて聞いた。 --9月に終了した2006年度を振り返ると、Appleにとってはどんな1年でしたか。 シラー 2006年度は、Appleにとって、大変、エキサイティングな1年になりました。まず第1点目に、Macの製品ラインアップのすべてをIntelベースのプロセッサに移行できたということ。これは、我々が想像していた以上に、移行がスムーズに進みました。2つめには、iPodシリーズを、まったく新しい次元へと引き上げることができたという点です。iPodの累計販売台数が6千万台を超え、さらに、iTunes Storeからのダウンロード数も15億曲に達した。こうした実績の上で、新たにTV番組や映画のダウンロードも開始しています。我々が、当初、想定していたiTunesの枠を越え、さらに、夢をも越えることができた。その点でも、大きな変革、大きな成功を遂げた1年であったといえます。
--去年の今頃描いていた1年後のゴールと、実際の現在との間にはギャップはありますか。 シラー 昨年の今頃は、いろいろなことを描いていましたからね(笑)。実は、Intelベースへの完全移行では、いくつかのシナリオを想定していました。だが、その中で、最善のシナリオを進めることができた。いや、ここまでスムーズに進んだというのは想像以上のものだと言っていいでしょう。社内では、もっと移行に時間がかかることも想定していましたし、顧客の説明やサポートなどについても、混乱を回避するためには、もっと複雑な取り組みが必要であろうということも考えていた。しかし、結果は、ご存知のように、短期間に、しかも顧客の間での混乱を招くこともなく、Intelベースへと完全移行できました。 振り返ってみると、私にとっては、とにかく「エキサイティング」な1年でしたね。Macのビジネスが、これだけエキサイティングなビジネスに育ったことに驚いています。初めてMacを購入するという人も増加していますし、Mac上で動作するエキサイティングなソフトも沢山登場している。写真関連ソフトの「Aperture」や、ブログの作成に適した「iWeb」、さらに、iPodの音楽関連サービスというように、これまでにないようなまったく新しいものが出てきた。こうしたものを作り出すことに成功した1年だといえます。 私は、今回の来日でも、飛行機の中では、iPodでムービーを見ながら来たんですよ。これも、わずか1年前には「夢」としか考えられなかったことですね。これが実現できたのが2006年。まさにエキサイティングな1年です。 --ホリデーシーズン向けの新製品も強力なものが出揃っていますね。これは合格点ですか(笑) シラー まるで、子供の採点をするような感じですね(笑)。実は、私は、これ以上のラインアップは考えられないほどすばらしいものが揃ったと考えています。テクノロジーの観点から見ても卓越し、品質の高いものを実現し、そして、それを手頃な価格で購入できる形で提供できた。とくに注目してほしいのがiPod nanoですね。これまでの製品も人気があったが、新製品に刷新したことで、さらにポジションを高めていくことができると思っています。ぜひ、楽しんでほしいですね。 --Microsoftの「Zune」を見て、欲しいと思いましたか(笑)
シラー まだ発売前の製品ですから、手に取ってじっくり見たわけではないので、具体的なコメントをするのはアンフェアだと思います。しかし、1つ言えることは、我々のライバルは、ソニーや東芝など、偉大な製品を開発している偉大な会社であり、そうした存在があるからこそ、我々もベストを尽くし、高い目標を目指した努力ができるということです。 --MicrosoftのZuneは怖くはないと。 シラー 私たちは、すべての競合他社に真っ向から挑んできた。同様に、Zuneも脅威だとは思っていません。iPodのこれまでの経験から見てもわかるように、さまざまな競合と戦うことで、それを成長の糧として、ポジションを高めてきた。iPodには、競合が強いほど、さらに成長したというという過去の歴史があるのです。たとえ、Zuneが登場したとしても、iPodは、それを糧にして、また大きな成長ができると信じている。ですから、私は、競争のチャンスが出てきたということをむしろ歓迎したい。そして、その競争の中で、Appleの方が遙かに良い製品を作れると確信しています。--Microsoftは、2007年1月にWindows Vistaの発売を予定しています。VistaはAppleのビジネスにどんな影響を与えますか。 シラー Windows Vistaは、Appleにとっては、まさに競合となる存在です。ただ、音楽の世界であれ、PCの世界であれ、Microsoftの戦略は、常にAppleをコピーすることにあった。ZuneはiPodをコピーしたものだし、VistaはMac OS Xのコピーです。私たちはそう捉えている。「Microsoftが採る、いつもの戦略だな」という程度で、決して驚くものではありませんよ。Appleは、常に速いペースで進化を遂げているので、彼らが追いついてきたと思っても、実は、その遙か先を行っている。今回も同じですよ。 --先頃、ジョブズCEOは、iTVを2007年第1四半期に投入し、リビングへの進出を図ると宣言しましたね。
シラー Appleが提供する製品の新たな場所として、リビングルームでの活用を提案しました。まさに、ここでもエキサイティングな取り組みが行なわれることになる。ただ、これは、Appleが無理矢理提案したものではなく、顧客のリクエストを形にしたものです。 iTunesやiPodに収録されている音楽や写真、ムービーといったコンテンツを、なんとかリビングルームでも見られないか、より幅広い生活シーンのなかで活用できないか、という強い要望に応えたものなのです。その結果が、TVに映し出すということでした。 iTVによって、PCで利用しているコンテンツを、TVでも楽しめるようになる。リビングにいながら、iTunesライブラリに入っている音楽を楽しんだり、iMovieのコンテンツをリビングの大きなTVで見ることができる。ただ、このようなPCとTVを接続する製品は、過去にもいくつか出てきていました。しかし、いずれも成功していない。 でも、Appleは違う。Appleが社内に蓄積しているハード、ソフトの専門知識や技術を結集させて、ワイヤレス環境でTVにつなげて、コンテンツをシームレスに楽しめるようになる。ハード、ソフト、サービスを提供しているAppleがやるからこそ、意味があり、そこに、Appleならば成功するという自信がある。 --これは、Appleが推し進めてきたデジタルハブ戦略がいよいよ現実のものになるということですね。 シラー 当社の戦略は、PCを中心として、新たなデジタルライフスタイルを作り出すことにある。PCが中心となって、いろいろな音楽、写真、TV番組、ムービーを保管し、そこに他のApple製品が接続され、サービスが利用できる。 --今後は、ITメーカーというよりも、家電メーカーといった方が適切なのでは。 シラー そうした意味では、いろんな呼び方ができるでしょうね。Macのビジネスをやっているという観点では、やはりITメーカーという位置付けは変わらない。そして、iPod、iTunesという点ではコンシューマエレクトロニクスビジネス、いわゆる家電ビジネスに進出したと捉えています。そのコンシューマエレクトロニクスの範囲も、最初は音楽だけだったのものから、TV番組や映画へと広がっている。確かに、これからAppleを呼ぶ場合には、コンシューマエレクトロニクスメーカー(家電メーカー)といった方がいいかもしれませんね。 --今後は、リビングの中に、Appleのロゴが入った製品が増えていくことになりますか。 シラー 将来の製品については話すことはできませんが、Appleが、これまで優れた製品を世の中に送り出すことができた秘訣は、自分たちが特別な仕事ができる、あるいは特別な能力があると思っている、ひと握りの分野に集中することにある。言い換えれば、我々の能力を希釈してしまうような分野、付加価値を提供できない分野、付加価値が少ない分野には、あえて参入することはしない。Appleが特別な価値が持てる分野に特化してやっていく。このスタンスは変えません。そうした観点で見た場合、リビングルームの中にApple製品が増えていくチャンスはありますよ。ただし、慎重に考え、うまくできると判断したものだけをやっていきます。 --10月から始まった2007年度のキーワードはなんですか。 シラー この答えは、極めて簡単です。「イノベーション」ですね。これは、Appleにとって、常に重要なキーワードです。私たちは、これまで体験できなかったようなもの顧客に体験してもらうための製品やサービスを開発することに力を注いでいる。まさに、イノベーションなのです。イノベーションを続け、新たな製品をこれからも次々と投入していくことになります。家庭やオフィスだけでなく、自動車の中や、移動中でもエンジョイしてもらえるというように、この1年に渡って、ありとあらゆる生活シーンの中に、Apple製品を広げることができた。そして、iTVによって、PCやiPodのコンテンツをリビングルームのTVでも見られるようになります。こうしたイノベーションによる進化を、さらに推進していきたいですね。 □米Appleのホームページ(英文) (2006年10月6日) [Text by 大河原克行]
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