レノボ・ジャパンの新社長に就任した天野総太郎氏は、就任会見の席上、「将来的には国内シェアNo.1(ナンバーワン)を目指す」と宣言した。目標達成のターゲットとなるのは2010年以降だが、その実現に向けて、まずは経営のスピード向上、組織体質のステップアップ、人材の育成などが必須だと語る。そして、天野社長が目指す1つのゴールが、「勝つ喜びを知る集団」への進化だ。急成長を遂げたデル日本法人で、約5年間に渡り、主要な役職を歴任した経験が、レノボでも生かされることになる。また、38歳という若さも、レノボ・ジャパンに新風を呼び込むことになるだろう。天野新社長体制によって、レノボ・ジャバンはどう変わるのか。新社長としての経営への取り組み、今後のレノボ・ジャパンの方向性などを聞いた。 --ご自身のPCは、デルからレノボに変わりましたか?(笑) 天野 9月からThinkPadになりました(笑)。使ってみると、なかなかいいんですよ。もう手放せませんね。ただ、トラックポイントじゃなくて、マウスを使っていますが(笑) --短期的には、Lenovo 3000を成長の軸に掲げていますね。持ち歩くPCも戦略的にLenovo 3000の方がいいんじゃないですか(笑) 天野 それも考えているんですよ。ですから、もうしばらくしたら、Lenovo 3000も使ってみようかと(笑)。
--外から見ていた時のレノボと、社長として中に入ってみたレノボとでは、違いを感じる部分はありますか。 天野 大きな意味では、想像していた通りですね。しかし、強く感じたのは、レノボには、本当に優秀な人材が多い。そして、すばらしい製品がある。また、強い信頼関係を持ったパートナーと、お客様がある。その点には感動しました。就任してからの約20日間は、優先的にパートナーの方々にご挨拶に回りました。首都圏を中心に約30社を訪問しましたが、レノボとの信頼関係の強さには驚きました。つまり、成長に必要となる「人」、「製品」、「パートナー」、「顧客」という要素が揃っている。この信頼関係をもとに、きっちりとした戦略と、実行力が加われば、成長は間違いないと確信しています。 --大和研究所にも足を運びましたか。 天野 2回行きました。施設の充実ぶりや、技術者の熱意の強さ、製品に対するプライドの高さを、直接、肌で感じてきました。私は、営業の経験が長いですから、これだけの強い製品や、エンジニアの熱意に触れて、最初に思ってしまったのが、ぜひ1円でも高く売りたい、ということでしたよ(笑)。このすばらしい施設と、優れたエンジニアたち、そして、製品のイノベーションの現場を目の当たりにしていただく機会を、お客様やパートナーの方々を対象に、もっと設けていきたいと感じました。 --一方で、今のレノボに足りないものはなんでしょうか。外から見ていると経営スピードにまだ改善の余地があるように感じられますが。 天野 レノボ・ジャパンは、大企業を対象にした日本IBMの営業体制がベースになっていますから、Face to Faceのリレーションを前提とした仕組みが残っているのは確かです。これはこれで大切であり、過去の流れを断ち切るつもりはありません。ただ、これから我々がターゲットとしていく中小企業や中堅企業向けにビジネスを展開していくのであれば、ビジネスのスピードはもっと速くする必要があることは感じています。中堅・中小企業に対するアプローチの仕方、販売の仕方などは改善しなくてはならない。 --会見ではマネジメントスタイルを一新したいとの発言がありました。これまでのレノボの手法を変えるつもりですか。 天野 向井前社長の役割は、レノボ・ジャパンの設立から、ビシネスの基盤を作り上げるということでした。これに関しては、完璧な成果が出ていると思っています。私もその基盤や手法を壊すつもりはありません。ただし、これからの経営を考えていく上で、ステップアップしていくこと、スピードアップしていくことが求められている。出来上がった骨組みに、筋肉をつけていくというのが私の役割です。ThinkPadのビジネスというのは1つのスタイルが出来ている。ThinkPadの価値を理解していただいた方々が、他社よりも高い価格でも、その価値に対価を支払っていただいている。このビジネスは大切にし、これからも継続していきます。しかし、それだけでは我々の成長はない。ThinkPadでリーチできなかったユーザー層を狙っていく製品がLenovo 3000というわけです。ただし、このLenovo 3000のビジネスを見ると、広告宣伝も中途半端であったし、メッセージも明確に伝わりきっていなかった。ブランディングも確固たるものができあがっていない。ここに新たなマネジメントスタイルを導入していきたい。
--つまり、中堅・中小企業向けの施策が新たなマネジメントスタイルの部分だと。 天野 中堅・中小企業は、数百万社という市場がターゲットとなる。限られたリソースで、いかに効率的に攻略していくかが求められている。業種1つとっても、どこにフォーカスして、どんなアプローチをしていくか、ということを徹底的に考えなくてはならない。そのためには、データベースを活用し、レポーティングツールも改善し、効果を最大限に発揮できる体制をつくる。こうした仕組みができれば、ビジネスのスピードは自然と加速してくる。私が「走れ」といっても、走るわけがない。私がマネジメントスタイルを変えるといっているのは、自然と走れる環境を作ろうということなんです。
--ThinkPadを中心に付加価値展開を行なうリレーションシップセールスと、Lenovo 3000を中心に中小企業、中堅企業などに展開するトランザクションセールスという、デュアル・ビジネス・モデルを確立していますが、これは体制が二重となり、投資も重複しませんか。 天野 同じリソースを使って、2つの異なるモデルをやろうとすれば、どうしても焦点がぼやけます。ユーザーターゲットに、きちっとレーザーフォーカスした体制が確立できるデュアルビジネスモデルの仕組みが、いまのレノボには必要です。この組織はスタートして4カ月を経過していますが、2つのモデルがあることで、社内のコミュニケーションに問題があるといった声はありません。ちょうど、いま、スムーズにオペレーションが動き出したといった方がいいかもしれません。 --天野社長自身は、これまでにパートナービジネスの経験がないですね。その点を不安視する声もあるのでは。 天野 確かにご指摘の通り、パートナービジネスの経験はありません。パートナーの方々からも、「レノボは、これから直販を重視するのでないか」と、本気半分、冗談半分で質問されましたよ(笑)。正直、パートナービジネスに関しては勉強中です。実際にパートナーの声を聞いたり、当社の営業担当者やパートナービジネスに長年の経験を持つ当社顧問などからも情報を得ています。これから大阪、東北、九州でそれぞれパートナー向けのセミナーも行ないますから、そこでも直接パートナーの方々をお話しをして、そのビジネスについて学んでいきたい。ただ、私は直販ビジネスの限界というのを感じていたことは事実なんです。 --直販ビジネスの限界とは。 天野 直販では、メーカーが直接施策を打つ。その施策に反応して、お客様が製品を購入していただく。このリーチの幅を広げていくための手の打ち方やノウハウがある。その手法に関しては、私自身、熟知しています。だが、これが買い換え需要になった時に、どうしても価格訴求という側面からは逃げられなくなる。一定の成長を遂げている時期ならばいいが、成長が鈍化したときに、利益ある成長が難しくなる。ここに限界があるのです。ところが、パートナービジネスでは、パートナーと一緒になって市場を拡大していくことができ、さらにソリューションといった仕掛けも深い部分でできるようになる。コンサルティング、アプリケーション、サービスという点で付加価値を提供できるようになる。価格訴求だけではないビジネスが成り立つのです。直販にはない、もっといいやり方があるだろう。それが、レノボでは実現できるのです。 --なぜ、レノボに入社したのですか。デルでの実績を見ていると、もしかしたら、数年後には社長ということも、視野に入っていたかもしれませんね。 天野 新しいことにチャレンジするという気持ちが、自分のなかでやや薄れていた部分があったという反省があります。これまでは常に全速力で走ってきましたが、そうではなくなってきた。直販は、どうしても、施策と実行の繰り返しとなりますが、ここに新たな挑戦の価値を見いだせなくなっていた。自分の成長のためには、これではいけない。では、自分をリセットするにはどうするか。その選択肢の1つが、別の会社ということでした。レノボには、十分なリソースがある。そこに私の経験が生かせると感じたのです。 --経営に関しては興味があったのですか。 天野 それはありました。ただ、30代のうちに経営者をやりたいというような、野心的な気持ちはありませんでしたよ(笑)。今回は、偶然にも、すばらしいチャンスをいただいた。私は、スペシャリストよりも、ゼネラリストを目指してきました。ゼネラリストの最たるものが経営者ということになる。ファイナンスも、営業も、人事も知らなくては経営者は務まらない。実は、私の父も経営者なんです。70歳を超えても、まだ現役でやっています。尊敬する父ですよ。父の基本的な考え方は、「体積のある人間になれ」ということ。つまり、人間に幅が必要だということなんです。これは私にとっても大変重要な言葉です。また義を重んじることも大切にしたい。ちょっと、これは外資系企業の社長らしくないかもしれませんが(笑) --天野社長は、人材教育を重視していますね。デル時代にインタビューさせていただいた時にも、人材教育ということに触れていたことを思い出します。
天野 組織は、結局は人なんです。それは私のこれまでの経験からも強く認識しています。成長している時には、ビジネスモデルによって支えられることもある。だが、それがいつまでも続くわけではない。成長が鈍化したときにどうするか。その時の差が、人材に出る。スキルを持った人材が、迅速に動くことができるか、それに対して、管理職が的確な判断をできるかにかかっている。レノボ・ジャパンでは、教育プログラムも新たなものを導入したいと考えていますし、教育投資も積極的に増やしていきたい。実は、私の頭のなかの約4割は、人材教育に割きたいと思っているくらいです。部下の育成にコミットしていく組織を作りたいんです。できれば、アジア・パシフィックのチームで活躍できる人材をレノボ・ジャパンから排出したい。私自身も、レノボ・ジャパンの社長に留まるのではなく、アジア・パシフィックでビジネスを任せてもらえるような立場へと成長していきたいですね。 --社員の採用も積極化するのですか。 天野 現在、大和を含めて日本には約700人の社員がいます。売上高成長率は年率2桁増を目指していますから、それに準じた増員は図っていきたいですね。 --会見では、国内シェアNo.1を掲げましたね。 天野 達成は、2010年よりも先になるでしょうね。まずは、ノートブックでNo.1を目指しますが、当然、デスクトップでのシェア向上に取り組んでいかなくてはならない。 --No.1を目指すのであれば、コンシューマ市場への展開も不可欠となりますが。
天野 将来的には考えていかなくてはならないことでしょうね。それは視野に入れています。ただ、いまはビジネス分野で確固たる地位を築くことに投資を優先したい。まずは2桁成長です。私がデルをやめた直後に、2006年第2四半期の国内PCシェアの数字が調査会社から発表され、デルがNo.1になった。数年後、これと同じ経験をレノボで達成したい。レノボは、それができる体質を持った企業です。私は、従業員とともに、勝つという喜びを共有したい。この1年は、新会社をスタートさせるという局面で、社員は大変な苦労をしたと思います。それが、いよいよこれからは成長戦略を推進することになる。そのなかで、勝つことにこだわりたい。 --「勝つ」というのは、シェアを高めるということですか。 天野 いや、シェアは1つの結果です。従業員が仕事をやりやすく、仕事にやりがいを感じ、満足感があるということ。また、自分がやっていることが、企業の成長に貢献し、その原動力になっていると感じること。1年経ってみたら、自分が成長を感じることができること。これが「勝つ」ということにつながると思います。私は、デルの時代に、大変タフな時期を過ごした。しかし、自分自身の成長もあったし、やりがいも感じた。こうした経験を従業員と分かち合いたい。 --将来のトップシェア、そして、勝つ組織への進化という大きな目標の一方で、直近に掲げる最初のゴールは何になりますか。 天野 いま、3カ年の中長期経営計画を策定しているところです。これが私の最初の仕事になるかもしれません。年内には、明確なプランを発表できると思います。そこで、最初のゴール設定も明らかにできると思いますよ。発表まではもう少しですから(笑)、まずは、その計画発表を楽しみにしていてください。 □レノボ・ジャパンのホームページ (2006年9月25日) [Text by 大河原克行]
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