出張などで海外に赴いたときには、なんとか時間を作ってPCショップをのぞくようにしている。やっぱり、現在のパソコンシーンを、それなりに肌で感じるには、こうした場所に身をおいてみるのがいい。通販サイトをのぞくだけではわからないいろいろなことが見えてくる。 ●個人輸入は本当に簡単になったのか 海外でパソコンショップをのぞいても、決して積極的に買い物をするわけではない。なぜなら、今は、同じものが日本でも簡単に手に入るし、秋葉原などでは、むしろ、値段も安い。たとえば、米国での買い物では、1ドルを120円くらいに換算し、売価に9%近い消費税が課せられることを考えると、購入をためらってしまう。ほとんどの場合、圧倒的に秋葉原でバルクを入手したほうが安いのだ。 10年くらい前は違った。目に入るものすべてが米国の方が安かった。それに、日本では入手できないものもたくさんあった。だから、パソコンショップを後にするころには、両手いっぱいにパーツやソフトを抱えていた。 Windows 3.xの時代には、PC-9800シリーズのような純国産パソコンでも、海外製のWindows用アプリケーションが動くことに心ときめき、ずいぶん、たくさんパッケージソフトを輸入したものだ。グラフィックスソフトが多かったが、うまくすれば日本語の文字列もきちんと入力できた。 VisioやPowerPoint、Organizer、Schedule Plusといった製品も、雑誌の評価記事を読んだ上でパッケージを輸入した。定期購読していた米国のパソコン雑誌は、送料を安く上げるために、船便配送だったので、最新号が常に手元にあるというわけにはいかなかったが、時代のテンポを考えればそれで十分だった。記事で気になる製品を見つけたら、ペラペラと広告ページをめくり、めぼしい商品を見つけ、安い店をピックアップして、ファクシミリで注文すれば、1週間と待たずに商品が手元に届いた。日本のパッケージソフトよりも、ずいぶん安いという印象が残っている。もちろん、パソコン通信サービスでも、CompServeのようなところを使えば、電子ショッピングも簡単にできた。ずいぶんおおらかな時代だったと思う。 そして、世の中は、インターネットの時代に突入し、驚くほど簡単に個人輸入ができるようになった。日本にいながらにして、諸外国のショップで買い物ができるのだ。当然、価格も比較できる。だから、もっとも安いサイトの通信販売を利用すればいい。 本当なら、普段から利用しているamazon.co.jpのようなところで、ワンストップで購入できるのがありがたい。実際、洋書や輸入盤CDなどは、amazon.co.jpで購入することが多い。正規に扱っている商品であれば、送料なども日本の商品と同様なのはありがたい。 ただ、amazon.co.jpにはない商品に関しては、ちょっとやっかいだ。もちろん、amazon.comやamazon.co.ukなどを開けば、商品そのものはちゃんと売っている。特に、絶版になっている書籍などは古書を容易に探し出せるのがうれしい。一時は、古い写真集などをせっせと買い集めたものだ。 でも、一部の製品、たとえば、コンピュータ周辺機器やソフトウェアなどに関しては、配送制限があり、事実上、日本からの購入ができない。これは事実上の退化である。 大手の通販サイトはほとんどは日本への発送ができないし、検索サイトで商品を探して扱っているショップを見つけても、たいていはamazonや、その他大手のサイトのアフィリエイトで同様の配送制限にひっかかってしまう。 ●コンテンツ鎖国の時代は続く 多少高くても、日本で簡単に入手できるものならあきらめもつく。でも、旅行をするにあたって、地図ソフトが欲しいといった願いがかなわないのは切ない。先日も、訪英にあたってMicrosoft AutoRouteというヨーロッパの地図ソフトを購入したのだが、これは、前もってAmazon.comで注文した商品を、シアトル在住の知人宛に発送してもらい、WinHECでシアトルに行ったときに受け取って日本に持ち帰った。 Google Mapsや、map24などを使えば、日本にいても、簡単にサテライト写真をかぶせた諸外国の地図をリッチなGUIで参照できるのに、ノートパソコンに入れて持ち歩きたい地図ソフトが購入できないというのは、どうにも切ない。 世界中、どこにいても、常にブロードバンドインターネットに常時接続というわけにはいかない以上、ローカルのHDDにも、ある程度のコンテンツは入れておきたいのだ。 これから夏休みのシーズンに突入する。休みには家族での海外旅行を計画している方も少なくないと思う。旅というのは、準備をしたり、計画をたてている間が楽しい。インターネットのおかげで、書店でガイドブックを買いあさったり、旅行代理店を足繁く訪れなくても、かなりの情報が手に入るようになったし、異国語を厭わなければ現地の情報の入手も容易だ。 インターネットは、情報的な国境を極めて低いものにした。情報のみならず、現地でのサービス、たとえば、イチローの出るマリナーズの試合だって、観覧車ロンドンアイの搭乗券だって、ホテルや列車のチケットなど、何だって日本にいながらにして買えてしまう。 そんな時代だというのに映像コンテンツはリージョンコードでプロテクトされ、iTunes Music Storeは自国のサイトしか利用できない。パッケージの配送制限とは時限の異なる話ではあるが、これももどかしい。 映画などのコンテンツがリージョンコードで守られるのは百歩譲ってあきらめるとしても、紀行映像やミュージックビデオのDVDがリージョンフリーになっていないのは理解に苦しむ。アーティスト自身はこのことをいったいどう感じているのだろうか。個人的にも、以前、ヨセミテ国立公園内のショップで購入したアンセル・アダムスの伝記ビデオDVDがリージョン1だったのには驚いた。わかって購入したが、何とも空しい気持ちになったものだ。 先日、WinHECでシアトルに行ったとき、日本の銀行に勤務しているという米国人と隣り合わせになった。彼は、銀座で購入したという17型のMacBook Proを非常口席の前の座席で開き、iTunesを使い、搭乗中、ずっと、話題のテレビドラマシリーズ「Lost」を見続けていた。「Lost」は、すでに日本でもシーズン1のDVDのレンタルが開始されたりもしているのだが、iTMSでは、すでにシーズン2も販売中である。 彼が熱中していたのは、たぶん、シーズン2の映像だと思う。いろいろ裏技を使えば、諸外国のiTunesミュージックストアでの買い物もできるのだろうが、どうにも理不尽ではある。もちろん、日本のコンテンツを見たいと思っている海外在住のユーザーもたくさんいるだろう。でも、その夢はかなわない。コンテンツを入れない出さないという奇妙な鎖国状態は、まだ当分続きそうではある。放送と通信の融合を論議するなら、こちらのほうも何とかしてほしいものである。 □関連記事
(2006年6月30日)
[Reported by 山田祥平]
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