山田祥平のRe:config.sys

点のモバイル、線のモバイル




 モバイルコンピューティングに言及する場合、その多くは、点と線のどちらかに分類することができる。いうまでもなく移動先でのコンピューティングが点であり、移動中のモバイルが線である。

●移動時間を有効に使いたい

 個人的には、都心への移動には電車を使う。クルマを持っていることは持っているのだが、それで都心に入ることはまずない。クルマでの移動は時間が読めないので、結局、かなり余裕を持って出かけなければならないし、現地に着いたら着いたで駐車場を探すのに手間がかかる。ガソリン代や首都高速の通行料、それに駐車場代も馬鹿にならない。だったら、ほぼ正確に時間が読める電車を使った方が、出発をギリギリの時間にできるし、費用的にも安上がりだ。

 自宅のある私鉄沿線の駅からターミナル駅までは約20分を見込む。電車に乗っている時間は10分に満たないが、自宅から駅までの徒歩時間と電車の待ち時間を考えると、だいたいそんなものだ。

 ターミナル駅からは山手線や地下鉄を使って目的地のある駅に向かう。これもまあ、電車に乗っている時間は15分足らずだ。週のうち、4日くらいがそんな感じで、あとは、自室にこもって仕事をしている。先日書いたように、都心に出ない日は運動不足になりがちなので、雨が降っていない限りは40分間歩くと決めたのだが、とりあえず、三日坊主にならずにまだ続いている。

 さて、こうして見積もってみると、電車に乗っている時間の合計は往復で1時間弱。その時間を線のモバイルとしてどう過ごすかを考えてみる。職業柄、移動先は毎日異なるが、勤務先と自宅を往復する会社員であれば、もっと正確に時間が読めるだろうし、読めるからこそできることの範囲も明確に想定できるだろう。

 幸いなことに、ラッシュアワーに移動することはあまりないのだが、それでも、電車で座席を確保できることは、そんなに多くはない。必然的に立ったままできることでその時間を過ごす。それが線のモバイルの宿命だ。

 立ったままできることといえば、新聞を読む、雑誌を読むといったことが典型的ではないだろうか。これらは読み終わったら捨ててしまえるという点でもポイントが高い。さらに、文庫本や新書、新刊本を読む。文庫サイズはコンパクトで軽いのだが、最新作を読めないというのが不満だ。かといって、新刊本はかさばるし重い。もし、新刊本と文庫本が同じ値段で同時刊行されるとしたら、さて、どっちを買うだろうか。実用性だけを考えれば文庫サイズだが、装丁の感触や読みやすさを考えれば単行本だ。それに、最近は文庫本もけっこう高価で、新刊本と比べたときのコストメリットは希薄だ。

 ちなみに、今、手元にある文庫本「嫌われ松子の一生」(幻冬舎文庫)は上下巻に分冊され、上巻600円、下巻630円の計1,230円だ。調べてみると、2003年に出版された単行本の本体価格は1,680円なので、25%オフといったところだ。

 デジタルメディアプレーヤーのおかげで、最近は、活字コンテンツに加えて、音楽を聴く、録画済みの番組を視聴するという選択肢もある。「聴く」と「読む」は同時にできるが、「視聴」は「視る」と「聴く」を同期しなければならないので、コンテンツが想定した時間枠に束縛されてしまう。それに、速読はできても、番組の速視聴は難しい。せいぜいCMをスキップするのが関の山で、1時間番組を視聴するには必ず1時間かかる。移動中にTV番組を視るようになって、活字の摂取量はずいぶん減ってしまった。読まねばと思って本は買ってしまうのだが、読まないままの積読状態が続いている。これはなんとかしなくてはなるまい。

●都市生活者の立ったままノート

 現在のノートパソコンを、立ったまま使うというのはけっこうたいへんだ。普段使っているノートパソコンは、パワーオンパスワードとHDDの暗号化、Windowsログオン時のパスワードで内容を保護しているが、スタンバイとレジュームを繰り返して使っているので、カバンからノートパソコンを取り出し、ディスプレイを開くと数秒でレジュームし、Windowsログオンの画面になる。ここでAlt+Ctrl+Deleteを打鍵するのだが、立ったままではこれがたいへんだ。

 さらにパスワードを入力するときには、左手でパソコンを支え、右手だけで打鍵する。この操作を人に見られるのは、なんとなくいやなものだ。だから、指紋認証ができるパソコンはうらやましい。評価のため、しばらくVAIO type Uを持ち歩き、指紋認証の手軽さにはけっこう感動した。必然的に人前で使うことが多くなるモバイルパソコンには、ぜひ、必須の装備にしてほしいものだ。

 それはともかく、電車の中でまでパソコンを開いて、いったい何をするのだろうか。情報漏洩を考えれば機密書類を読むわけにもいかず、インターネットに常時接続されているわけでもないので、Webブラウズも難しい。ぼくの場合は、携帯電話にすべてのメールを転送しているので、素早い返事が求められるメールを携帯への着信で知ったら、パソコンを開き、駅の無線LANに接続してメールを受信、駅間で返事を書いて、次の駅で送信するようなこともある。ただ、これらの作業を立ったままこなすのは、かなり難しい。

 立った状態でノートパソコンを使うなら、PDFなどで配布された資料読み、過去のカンファレンスで配布されたPowerPointプレゼンテーションの読み直しといったところだろうか。プレゼンテーションは横長なのでノートパソコンのディスプレイにはちょうどいいが、PDFの多くは縦長ページを想定して作られている。大きなディスプレイならこれを見開き表示させて読めばいいが、12型や10型のディスプレイでは文字が小さくなりすぎて見開き表示は難しく、どうしてもスクロールが必要になってしまう。

 そこで、パソコンを縦にして使う。ディスプレイが左、キーボードが右側にくるようにして左手で本のようにパソコンを支える。Adobe Readerは、Shift+Ctrl+「+」でドキュメントが右回転し、Ctrl+Lで全画面表示になる。ノートパソコンにはテンキーがなく、右回転のためにはShif+Ctrl+Fn+「+」というやっかいなコンビネーションになり、キーボードショートカットは難しいのでメニューをたどった方が手っ取り早い。

 これで画面を縦位置全画面表示すれば、10型の画面でもけっこうまともにA4書類が読める。ページ送りは下方向キーを使えばいい。

 こういう使い方をしてみると、ノートパソコンを縦に使うというのが、意外に便利なことがわかってくる。それに、この体勢なら、つり革につかまって立ったまま読み続けることができる。録画済み番組を視聴するときだって、この体勢は悪くない。それに、通常のノートパソコンの開き方は周りの人に見てくださいといわんばかりだが、縦にノートパソコンを持つと、キーボード部分がかぶさるようになり、のぞき込みを心理的にも抑制できそうだ。

●横長ノートを縦に使う

 Adobe Readerを使っていないときでも、画面の方向を任意に切り替えることができれば便利そうだ。縦位置画面の便利さは自宅のマルチディスプレイのうち1台がポートレート使用なので、その便利さはわかっている。ところが、Intel 915チップセットの内蔵グラフィックスは、ディスプレイの回転をサポートしているにもかかわらず、手元のLet's note R4では、Intel純正ドライバに差し替えても回転が有効にならない。なんとかならないだろうかと思っていたところ、本誌連載でもおなじみの塩田紳二さんが、「iRotate」というフリーのユーティリティを教えてくれた。このユーティリティを常駐させておくと、Alt+Ctrl+方向キーで、画面を回転できるようになる。ぼくのような使い方にはピッタリだ。

 ただし、難点が1つあって、ディスプレイの方向は変わっても、ポインタを動かすスライドパッドはそのままなのだ。やってみるとわかるが、ポインタを思い通りに動かせずイライラどころの騒ぎではない。スライドパッドの方向がディスプレイの方向と連動してくれれば、左手でパソコンを支え、添えた右手の親指でパッドを操作できるので、かなり使いやすくなるんじゃないかと思う。そんなユーティリティをご存じなら、ぜひ、編集部までご一報いただきたい。

 こういう使い方をするようになって、単行本や文庫本もパソコンで読めれば便利ではないかと思うようになった。自前で作るPDFはすでに読んだ資料のアーカイブ程度にしか考えていなかったが、これから読むためのPDFの可能性も探ってみよう。10型のディスプレイは、横位置で文庫本のほぼ見開きサイズだし、一般的な単行本よりも一回り大きい。サイズ的にもピッタリだ。あるいは、旅行前に買い込むガイドブックも、PDFにして持って行ければ荷物にならない。だが、それをやるには、まず、書籍のPDF化という難題をクリアしなければならない。

 実用になるのかどうか、次回は、その顛末について紹介することにしよう。

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(2006年7月7日)

[Reported by 山田祥平]


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