山田祥平のRe:config.sys

消費者よ、未来を信じてもっと欲張れ




 昔から、自分が持っている書籍やCDの完全なリストを作ることができたらどんなにいいかと思っていた。PC用のデータベースソフトがそれなりに実用になり始めたころ、習作として作ったのは、その手のデータベースだった。でも、データの器は簡単にできてもその中身はついぞ完成できなかった。

●売る側のみの便宜をはかるバーコード

 書籍は、その裏表紙を見ると、ほぼ例外なくJANコードとISBNコードが印刷されている。検索サイトでISBNコードを検索すると、その書籍の情報に行き当たる。書籍ではJANコードよりもISBNコードの方がメタデータを探すために役に立つようだ。ただ、不思議なことに取り外しができてしまうカバーにはバーコードが印刷されているのに、書籍そのものにはバーコードが見あたらないことが多い。

 一方、CDはどうかというと、こちらはJANコードのみが目に入る。ただ、輸入盤ではJANコードとそのバーコードが、無造作にジャケットに印刷されているが、国内版では帯にだけ印刷されていることが多いようだ。CDの場合、輸入盤には帯がないが、国内版には帯がある。帯にバーコードをプリントしておくことで、ジャケットのデザインを犠牲にしないという配慮もあるにちがいない。日本人らしい細やかさだといえばそれも納得できる。

 でも、究極的には、書籍にしてもCDにしても、バーコードは商品として流通している間だけ明確であればいいというスタンスをとっていることがよくわかる。JANやISBNといったコード、そしてそのバーコードは、売る側のためのものであって、買う側の便宜を図るためのものではないわけだ。

 今、携帯電話の多くはデジカメ機能が搭載されるとともに、バーコードを読み取るための機能を持っている。つまり、日本の成人のほとんどがバーコードリーダーを持ち歩いているといえる。スーパーのレジで使われているバーコードリーダーのように、素早く読み取ることができるわけではないが、手で数字を記録するよりは、ずっと簡単で手っ取り早い。このくらいに簡単に読み取りができるのなら、なんとかそれを生かしたいと思う。たとえば、手持ちの書籍やCDのバーコードを読み取れれば、一気にリストが完成というのが理想なのだが、なかなかそうは問屋が卸さない。

 今、JANコードやISBNコードをたよりにすれば、書籍の目次やCDの曲目といったコンテンツ情報は比較的簡単に手に入る。でも、役に立つといえるデータは、ほとんどの場合ショッピングサイトが提供する情報だ。たとえば、レコード会社のサイトを参照すると、JANではなく、品番しか書かれていないことも多い。だから、検索エンジンでは、その製造元サイトからオフィシャルな情報が得られるリンクを、JANコードでたどることは難しいのだ。

●半分だけ夢をかなえたミュージックプレーヤーソフト

 iTunesなどのミュージックプレーヤーソフトは、PCを使い始めたころに夢だと思っていたことをいくつもかなえてくれた。その1つは、CDをセットするだけで、アルバムタイトル、アーティスト名、曲目などを表示することだ。ミュージックプレーヤーソフトはCDDBなどのデータベースのおかけでこの夢はかなったし、iPodのようなデジタルオーディオプレーヤーは、手持ちのCDをすべて持ち出すといった、昔は考えつきもしなかったことまで現実にしてくれた。

 ところが、誰でも経験したことがあると思うが、CDDBなどから得られる情報には、けっこう間違いが散見される。また、タイトルによっては、よく似ているけれども違うデータが登録されていて、選択に迷うこともある。しかも、これらの情報は、オフィシャルなものではなく、ユーザーの誰かが手で入力したものである。CDDBを提供するGracenoteによれば、日本国内のタイトル情報にも、チェックのための人手を用意し、重複や明らかな間違い、表記の揺れなどに手を加えているということだが、それにも限界がある。

 結局のところ、もし、ジャケット帯、ケースなどをなくしてしまい、コンパクトディスクが裸で残っている場合、その中に収録されている音楽の素性を把握するのはけっこう難しい。アルバムタイトルやアーティスト名、曲のタイトル程度はわかる場合も多いが、場合によっては、盤面を見ただけではいったい何のアルバムなのだか、さっぱりわからないようなデザインを施されたものもある。

 iTunesの場合、インポートした曲のプロパティとして記録できる各種の情報として、年号、曲名、アーティスト名、アルバム名、グループ名、作曲者名、そして歌詞などがある。ところが、これらの情報をすべて網羅したデータが得られるわけではない。そこまで完全なデータを入力してくれるような酔狂なユーザーはまず存在しないということなのだろう。かといって、オフィシャルな情報の提供を期待するiTMSではどうかというと、そこで購入したデータでも完全な情報は得られない。せめて歌詞情報くらいは欲しいとは思うのだが、それもかなわない。それどころか、iTunesの曲プロパティには作詞者の項目が用意されていない。個人的には、その曲のアーティストが男性なのか女性なのか、邦楽なのか洋楽なのか、グループなのか、ソロなのかとかいった情報も欲しいところだ。

●すべての商品は身分証明書を持つべきだ

 少なくとも日本においては、書籍やCDは、文化を担う商品として、再販制度によって守られてきた。もちろん、そのことが、消費者としてのわれわれの利益を守ることにもつながってきた。そんな特殊な商品だからこそ、これらを供給する出版社やレコード会社は、自分たちが供給する商品について、その内容をきちんと把握できるようなメタデータを提供すべきなのではないだろうか。自分の購入した商品について、バーコードさえ読めば、その詳しい素性がたちどころにわかるようになっていて欲しいというのがわがままだとは思えない。

 もちろん、これは、書籍やCDに限らない。世の中に流通しているすべての商品に対していえることだ。卑近な例では、今、身の回りを見渡すと、きわめてたくさんのACアダプタがあるのだが、整理下手なぼくの場合、そのACアダプタが、どの機器のためのものかがすぐにわからなくなってしまう。大手メーカーの製品であってもメーカー名が記載されていない場合があるなど、けっこうな悩みのタネとなっている。これも、ちょっとしたバーコードがついていて、それが何という機器のためのものなのかがたちどころにわかるようになっていれば、どんなに便利だろう。几帳面なユーザーなら、アダプタは機器とペアで保管するだろうし、几帳面な方ならアダプタに××用などと手書きのラベルを貼り付けるような識別術もある。でも、それがきちんとできる人は、そんなに多くはない。

 今後、ICタグが流通するすべての製品に取り付けられるような時代がやってくる。リーダーを使ってタグ情報を読み取り、それを元にデータベースを検索すれば、いろいろな情報がたちどころにわかる時代が目の前にある。きっと近い将来、携帯電話にはICタグリーダーが実装されるようになるのだろう。プライバシーなどのことを考えると、ちょっと怖い時代でもあるのだが、もし、その時代の到来が避けられないものであるとすれば、消費者の利益も併せて考慮された時代であってほしいと思う。

 本当なら、CDや書籍のような商品は、文化を担う先駆者として、こうした時代が到来することを見越し、あとから追いかける各種の工業製品の規範として、もっと積極的に消費者にメタデータを提供するような姿勢を示してほしいと思う。技術的には何も難しいことはないのだから。

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(2006年1月20日)

[Reported by 山田祥平]


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