笠原一輝のユビキタス情報局

日本市場と乖離しているWindows Vistaのラインナップ



WinHECで公開されたWindows Vista β2の日本語版

 β2が公開されたことで、2007年1月のリリースに向けて徐々に準備が整ってきたWindows Vistaだが、マーケティング的にはまだいくつかの課題を抱えている。その代表例は、コンシューマ向けSKU(スキュー、製品ラインナップ)の、日本市場でのミスマッチという問題だ。

 MicrosoftはWindows Vistaにおいて、全機能搭載のUltimate(アルティメット)、企業向けの機能を省いたHome Premium(ホームプレミアム)、エントリーユーザー向けのHome Basicという3つのコンシューマ市場向けSKUを投入するが、これらのラインナップが日本のPCベンダの要求と微妙にずれているのだ。



●日本市場向けに5つのSKUが用意されるWindows Vista

 MicrosoftはすでにWindows Vistaの製品ラインナップを明らかにしている(2月27日の記事参照)。企業向けにはBusiness Edition、Enterprise Editionの2つが用意され、家庭向けにはHome Basic Edition、Home Premium Edition、Ultimate Editionの3つが用意される。それぞれの機能をまとめると、次のようになる。

【表】Windows Vistaの各SKUの機能
 Home Basic EditionHome Premium EditionUltimate EditionBusiness EditionEnterprise Edition
Aero Glass-
Tablet PC-
BitLocker---
Virtual PC Express---
リモートデスクトップ---
ドメインログオン--
Windows Meeting Space--
UNIX-based Applications---
DVD Movie Maker---
Windows Media Player 11
Media Center---
Internet Explorer 7

 位置付けとしては、最も下位のグレードとしてHome Basicがあり、それの上のグレードとしてHome Premium、さらに対象マーケットは異なるがその上にBusinessとEnterpriseがあり、最上位としてUltimateがあるという感じになる。現在のWindowsのSKUから言えば、現在のHome Editionの後継がHome Basic、Media Center Editionの後継がHome Premium、Professionalの後継がBusinessとEnterpriseの2つとなるだろう。

●Pentium系が2割、Celeron系が8割という日本市場

 すでに述べたように、コンシューマ向けPCに搭載されるSKUとしてはUltimate、Home Premium、Home Basicの3つになる。これらの位置付けは米国ではとてもわかりやすい位置付けとして受け入れられている。というのも、すでに他のパーツがそうした位置付けで成功しているからだ。

 その代表例がCPUだ。米国ではエンスージアスト向けのAthlon 64 FXとPentium Extreme Edition、メインストリームユーザー向けのAthlon 64 X2/Athlon 64とPentium D/Pentium 4、バリューユーザー向けのSempronとCeleronという市場が完全にできあがっている。米国では2,000ドルを超えるPCにはエンスージアスト向けのCPUが、1,000ドルを超えるPCにはメインストリーム向けのCPUが、999ドル以下のPCにはバリュー向けのCPUが、と綺麗に色分けされている。だがら、エンスージアスト向けのPCにUltimate Editionを、メインストリーム向けPCにはHome Premium Editionを、バリュー向けPCにはHome Basicをということが違和感なく受け入れられている。

 だが、日本はそうではない。あるPCベンダのマーケティング担当者は「日本市場は米国市場のように単純に割り切れるマーケットではない。例えばCPU 1つとっても、バリュー系のCeleronが8割を占めて、メインストリーム系のPentiumは2割にすぎないと、コンポーネントベンダの思惑通りにはなっていない」と指摘する。

 実際、筆者も以前Intel Developer Forumを取材している時に、当時IntelのDPG(デスクトッププラットフォーム事業部)の共同ジェネラルマネージャを務めていたビル・スー副社長に「日本は突出してCeleronの比率が高い」と指摘をされたこともある。スー副社長は、日本のプレスの仕事が足りないんじゃないの、という冗談の中でこの指摘をしたと記憶しているのだが、実はIntelの日本法人にとって、日本だけ突出してCeleronの割合が高いということは以前より問題になっていた。

 スー副社長にすれば、他の市場ではIntelにとってより利益率が高いPentiumがきちんと売れているのに、どうして日本だけはCeleronがあんなに売れるのか不思議で仕方ないから、前出のような際どい冗談につながったのだろう。

●Home Basicにメディアセンターを望む日本市場

 やや余談がすぎたようだが、Intelのエグゼクティブが冗談を交えながらとはいえ、なぜ日本だけと嘆くほど日本では突出してバリューCPUの比率が高い市場であることはわかっていただけただろうか。その原因はさまざま考えられるが、もっとも大きいのは日本市場がどちらかといえば「アプリケーションドリブン」、つまり、TV番組を録画したいとかDVDを作成したいとか、そうしたユーザーのニーズが先に来て、そこにコンポーネントを当てはめていくため、CPUに対するプライオリティが低くなっている、ということが業界では言われている。

 そうした日本市場にMicrosoftの思惑通りに、Home BasicをCeleron搭載PCに、Home PremiumをPentium搭載したPCにというように当てはめていくと、Home Premiumは2割にしかならないことになる。もちろん、上のSKUにいけばいくほどライセンス料は高くなるので、MicrosoftとしてはもっとHome Premiumを売りたいわけだが、これでは最大でも2割ということになってしまう。

Home Basic Editionには搭載されないメディアセンター

 こうなると、別の問題も発生してくる。具体的には、メディアセンターがHome Basicには用意されていないという問題点だ。上のSKUの表を見てわかるように、メディアセンターが入るのはHome PremiumとUltimateだけとなる。米国では、コンシューマ向けPCにはほとんどTVチューナが採用されておらず、搭載されていても現在Windows XP Media Center Editionを搭載するメインストリーム以上の製品となる。だから、バリュー向けのHome BasicにTVチューナを利用する機能であるメディアセンターが搭載されていなくとも問題ではない。

 だが、日本市場はそうではない。日本のコンシューマ向けPCには100%とは言わないが、かなりの割合のPCにTVチューナが搭載されている。となると、CeleronやSempronを搭載したPCにも、TVチューナを搭載した機能が必要になるのだ。だが、Home Basicにはメディアセンターの機能が搭載されていない。ここにもミスマッチが発生している。

●Vistaの次のバージョンでは日本向けのSKUを用意して欲しい

 以前、Microsoftの関係者に、メディアセンターと日本メーカーの独自の10フィートユーザーインターフェイスに関して議論したことがある。その時にその関係者が言っていたのは、「OEMベンダがそれぞれメディア系のソフトウェアの開発をすると、それだけコストがかかる。コストは開発費だけでなく、その後の維持にもコストがかかる。それをMicrosoftの側で担当することはOEMにもメリットがあるはず」ということだった。

 だが、OEMベンダ側の意見はそうではない。あるOEMベンダの関係者は、自社のソフトウェアがメディアセンターより高機能であることを指摘し、「問題はメディアセンターが我々の求める機能を実現できていないこと。それならローエンドにメディアセンターを利用して、ハイエンドに自社製のソフトウェアを搭載するかという選択肢を考えたことがあるが、Home EditionよりもMedia Center Editionが高い現状ではそれも難しい」と述べている。これをHome EditionをHome Basic、Media Center EditionをHome Premiumと置き換えてみれば、全く同じ状況がVistaでも続くことになる。

 この解決策は1つしかないと思う。それは、日本だけはHome Basicにもメディアセンターを含めることだ。Microsoftは成長市場向けにStarter Editionと呼ばれるより安価なパッケージを用意する。であれば、ぜひとも日本にもHome Basicの特別版を用意して欲しいと思うのだが、どうだろうか。もし、Vistaでは無理だというのなら、ぜひVistaの次のリリースでは、日本市場向けのSKUというのを真剣に検討して欲しいと思う。

 こうしたラインナップの日本市場とのミスマッチは別にMicrosoftだけの問題ではない。そもそも、IntelやAMDなどのCPUベンダも、もう一度日本市場向けにはSKU構成を見直してみる必要があるのではないかと筆者は思う。なぜ、Pentium系が2割で、Celeronが8割ということになってしまったのか、それは市場が歪んでいるのではなく、そもそもSKU自体が歪んでいるのだと思うのだが、いかがなものだろうか。

□関連記事
【5月24日】【笠原】MicrosoftがWindows Vista β2を公開
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2006/0524/ubiq156.htm
【4月14日】【笠原】VALUESTARのMCE搭載率が8割を越えた背景と影響
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2006/0414/ubiq153.htm
【2月27日】Microsoft、「Windows Vista」のラインナップを公開
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2006/0227/ms.htm

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(2006年5月30日)

[Reported by 笠原一輝]


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