笠原一輝のユビキタス情報局

リリース延期も開発は進むWindows Vista
~ビルド5340が開発者向けに公開



個人向けリリースは2007年1月に延期されたWindows Vista

 Windows Vistaのリリース延期のニュースは文字通り世界を駆けめぐった。Windows XPのリリースからすでに4年半が経過していることもあり、そろそろ新しい“波”を欲していたPCベンダにとっては、予想はしていたものの、実際現実になってみれば困ったなーというのが正直な実感であるようだ。

 その一方、Windows Vistaの開発は徐々に進んでいる。先週、Microsoftはその延期発表とほぼ同じタイミングで、Windows Vistaのβ版をバージョンアップし、ビルド5342という新しいβ版を公開した。以前本連載で紹介した2月版CTP(ビルド5308)から、大きな変更はないものの、メディアセンターが強化されているなどが特徴だ。

 Microsoftは2007年の1月と設定されたWindows Vistaのリリースへ向け、新たにβ版のリリーススケジュールを組み直し、さらに開発を進めていく計画だ。

●日本のPCベンダにとっては寝耳に水だった今回の延期発表

 Windows Vistaの今回の延期発表は海外のPCベンダには、ある程度織り込み済みだったようだ。

 というのも、いまだこの段階になってもβ2が出てない以上、元々のスケジュールと言われていた10月末の出荷は無理だろうと誰もが考えていたからだ。実際、10月末のPCベンダの出荷に間に合わせるには、8月中にはRTM(製品版)を完成させなければならないからだ。

 各PCベンダは、RTMを元にリカバリーディスクの作成など、さまざまな作業を行なう必要がある。それにかかる時間を逆算していけば、リリース予定の2カ月前、8月末のRTM完成というのはギリギリのタイミングだ。それなのに、もうすぐ4月になろうか、というこのタイミングでβ2が出ていない以上、8月末のRTMは無理だし、まして10月末に出荷開始というのも無理だろうという計算だ。

 したがって、どのPCベンダも状況を比較的冷静には受け止めているようだ。ただ、あるPC業界関係者は「日本のPCベンダが驚いたのは、延期のリリースにはHPとBestBuyのコメントが入っていたことだ」と指摘するように、どちらかと言えば、米国の事業者には事前に延期の話が告げられていたことに驚いた関係者が多かったようだ。

 こうした延期発表は、株価に大きな影響を及ぼすため、極秘裏に進められるというのは、別にMicrosoftに限ったことではないので、それ自体は致し方ないことだと筆者も思う。実際、OEMベンダに漏らしてしまえば、それがすぐ報道関係者に知られてしまうのも事実で、それを思えば限られた関係者にしか言えなかった、ということだと思う。米国から遠く離れた島国までその情報は伝わってこなかったということなのだが、予定変更を強いられることになった日本のPC業界関係者には割り切れないものが残ったようだ。

●新しいβ版となるビルド5342が配布開始

 とはいえ、もう延期が決まってしまった以上、すでにPC業界は新しいプランの策定に向けて動き始めている。また、Microsoft自身も、Windows Vistaのβ版のブラッシュアップを続けるなど、2007年1月と新しい設定がされたWindows Vistaのリリースに向けてβテストが続けられている。

 3月24日付けで、MSDNなどの開発者向けに公開された新しいWindows Vistaのβバージョンとなるビルド5342は、2月版CTP(Community Technology Preview)としてリリースされたビルド5302のブラッシュアップ版となっている。このため、2月版CTPのようにGadgetの機能が追加されたりといった新機能の追加はほとんどなく、バグフィックスや機能の改良といったところに主眼が置かれている。

 例えば、2月版CTPで実装されたWindowsキー+Tabで表示されるウインドウの3D表示は、従来はデスクトップに表示されているウインドウのみが3Dで回転する仕様になっていたのだが、このビルド5342では、デスクトップそのものも含めて回転する仕様に変更されている。これにより、Windowsキー+Tabを利用してウインドウだけでなくデスクトップを表示させることも可能になっている。

 また、こちらも細かい点だが、標準でプレインストールされているGadgetの数も増加している。2月版CTPでは4つのGadgetが用意されていたが、ビルド5342では電卓、タイマーなどが追加され、合計で10個のGadgetが標準で用意されている。

ビルド5342のデスクトップ。基本的には従来のβ(ビルド5308)と大きな違いはない 新しくGadgetに追加された機能 ビルド5342の3Dウインドウ機能。ウインドウの選択にデスクトップも追加されている

●改良されたメディアセンター、UIは徐々に改良されている

 ビルド5342では、メディアセンターも若干改良されている。メディアセンターでは、マウスを動かしたときに、上部にはウインドウを操作するための操作バーが、下部にはメディア再生をコントロールするボタンが表示される。これまでのメディアセンターでは、このバーは白で、メディアセンターの基本色である青とはかなり違和感のある表示になってしまっていたのだが、このビルド5342では、そのバーが青い透過表示になっており、違和感がないように変更されている。

 もう1つデザイン上の大きな変化として、iEPG表示で動画を再生している場合iEPGのプログラムが透過表示されることは、以前の記事でもお伝えした通りなのだが、iEPGの表示では透過部分が上下が突然切れてしまうデザインだったのだが、動画とiEPGの間がグラデーション表示され、こちらも違和感のない表示になっている。

iEPGの透過表示。従来のバージョンに比べてより自然なグラデーション表示となっている マウスを動かした時に上下に表示される操作バーも透過表示となっている メニューには新しく“Now Playing”という機能が追加されている

●メディアセンターはMPEG-2デコーダを標準搭載

Windows Vistaに最初から導入されているMPEG-2デコーダ。機能は必要最低限で、本誌の読者のようなハイエンドユーザーなら、サードパーティのデコーダは必須だろう

 また、前回お伝えしたように、MicrosoftのMPEG-2コーデックが標準で提供されている。2月版CTPでは、Windows Updateで提供されていたが、今回のビルド5342では標準でインストールされた。

 プレインストールされているのは“Microsoft MPEG-2 Video Decoder”というMPEG-2デコーダで、ドルビーデジタル(AC-3)の音声のデコード機能も含めて実装されている。ただし、どのようなドルビーデジタル音声がデコード可能なのか(S/PDIFへのパススルー出力は可能なのか、アナログ5.1ch出力は可能なのか)などは、現時点ではわからない。

 というのも、このデコーダのオーディオを設定する設定ツールなどが一切用意されておらず、どのような機能が利用可能なのか不明だからだ。とりあえず、筆者がインストールしたPCは2chのスピーカーが接続されているのだが、AC-3の2chの音声は鳴っていた。

 また、以前の記事でも指摘したように、このデコーダを使っていると、Power DVDやWinDVDなどのサードパーティのコーデックを利用している場合に比べてCPUの負荷率が高いのだ。Pentium 4 3.0 GHz(HTテクノロジ対応)でもDVD再生時のCPU負荷率が60%~70%近くなっていた。ちなみに、Windows XP環境でPentium 4 3.0 GHzを搭載したPCでDVDをPower DVD 6で再生した際のCPU負荷は10%以下だから、やはりハードウェアアクセラレーションは効いていないと考えるのが妥当だと思う。

 このほか、最近のMPEG-2デコーダでは当たり前となっているインタレース解除の機能などは全く用意されておらず、画質という意味ではサイバーリンクやインタービデオといったサードパーティのコーデックには全くかなわないと言っていいだろう。また、このビルド5342には、MPEG-4 AVC(H.264)のコーデックも搭載されておらず、MPEG-4 AVCのコンテンツを再生するには、引き続きサードパーティのコーデックが必要になる。

 こうした構成になっているのは、おそらくサードパーティのビジネスに配慮して、あるいはもっと身も蓋もない言い方をするのであれば独占禁止法に引っかからないようにするためと考えるのがいいのではないだろうか。あくまで必要最低限の機能を持つコーデックだけを搭載し、よりよいモノを求めるのであればサードパーティのコーデックを買ってもらうということだろう。

 ただし、必要最低限のMPEG-2コーデックが搭載されたことで、Windows XP Media Center Edition 2005のDSP版(いわゆるOEM版)で発生していた「TVチューナを取り付けても、MCEに対応したMPEG-2デコーダが入っていないのでTV機能を利用できない」というトラブルを避けることができる。特に、Vistaではパッケージ版にもメディアセンターが入っているので、最初からMPEG-2デコーダが入っていないと問題がややこしくなる可能性があると言え、そうした意味では必然とも言えるのだが……。

●5月に予定されているβ2の出来に注目が集まる

 リリースが2007年1月に設定し直されたことで、他のスケジュールも新しく変更されている。Microsoftに近い業界筋によれば、MicrosoftはOEMベンダなどに対して、次の大きなβ版のバージョンアップであるβ2のリリースは、当初予定の4月から1カ月程度ずれ込んで5月になる見通しであるとしている。このβ2は、実質的にはRC0(最初のリリース候補版)になると言われており、その出来はWindows Vistaそのものと言ってもよく、大きな注目を集めている。サードパーティのソフトウェアベンダやOEMベンダなどはこのβ2の完成を待っている段階だ。

 10月末リリースが無くなったことで、日本のPCベンダが計画する秋冬モデルは、2005年と同じように9月あたりから続々とリリースされることになるが、この製品はVistaへの有償ないしは無償のアップグレードクーポンを添付した製品になる可能性が高い。そして2007年1月に春モデルとしてWindows Vista搭載製品をリリースするというスケジュールになるだろう。今後PCを買おうというユーザーならば、こうしたスケジュールをある程度頭に入れた上で、製品購入計画を立てるといいのではないだろうか。

□関連記事
【3月29日】IDC、Vistaの遅れによるPC出荷への影響は限定的と予想
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2006/0329/idc.htm
【3月27日】【大河原】Vista発売延期で日程変更を余儀なくされるPC業界
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2006/0327/gyokai155.htm
【3月22日】Microsoft、個人向けWindows Vistaを2007年1月に延期
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2006/0322/ms.htm
【2月23日】【笠原】Microsoft、Windows Vista 2月版CTPレビュー
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2006/0228/ubiq147.htm

バックナンバー

(2006年3月31日)

[Reported by 笠原一輝]


【PC Watchホームページ】


PC Watch編集部 pc-watch-info@impress.co.jp ご質問に対して、個別にご回答はいたしません

Copyright (c) 2006 Impress Watch Corporation, an Impress Group company. All rights reserved.