大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

Vista発売延期で日程変更を余儀なくされるPC業界




 「これで、今年の年末商戦は、一昨年と同じ、例年通りのパターンで戦うだけ。大きな影響はない」-大手PCメーカーの幹部はこう切り出した。

 先週、Microsoftから、Windows Vistaの発売時期が、今年2006年の11月から2007年1月へと延期することが発表されたことで、PCメーカー各社は、コンシューマ向けPCの製品投入プランの見直しを余儀なくされた。

●影響の少なさを語る業界首脳

インテル 吉田和正代表取締役共同社長
 当初の2006年11月のVista発売を想定した主要PCメーカーの基本的な製品投入サイクルは、8月末から9月上旬にかけて秋冬モデルを投入、11月のWindows Vista発売にあわせて、Vista搭載の冬モデルを投入。そして、12月末から1月にかけてVista搭載第2弾となる春モデルを投入するというものだった。製品投入のタイミングとしては、2005年の投入パターンに近いものになるはずだったのだ。

 だが、11月のVista投入が1月にずれ込んだことで、各社のプランは、大きく変更することになる。

 複数のメーカーに、変更後の製品投入の基本的な考え方を聞くと、9月~10月に冬モデル、そして、1月にWindows Vistaを搭載した春モデルという2本立てで年末商戦から年度末商戦を乗り切るという計画になりそうだ。

 いわば、この製品サイクルは、2004年以前の新製品投入サイクルに戻ったともいえるわけだ。

 「2005年の年末商戦は、新旧製品が商戦期に重複して販売されていたこともあり、製品の選択肢が広がり、結果として前年実績を大きく上回った。だが、どちらかというと旧製品の方に人気が集まり、新製品が出ても、旧製品が売れ筋の上位にあるという、いびつな状態だった。当初のVistaの投入時期であると、これが繰り返される懸念があった」とある国産メーカーでは語る。

 発売時期が1月に移行したことで、年内はWindows XPをベースとしたCapable PC(これまでの次期Windows Readyと呼ばれていた製品)で乗り切り、年明けにWindows Vista搭載モデルを投入する。これにより、年を越えたタイミングで製品戦略の切り替えが明確になるというわけだ。

 メーカーからは、「余計な新製品を出すことなく、年末年始商戦を乗り越えられるという点では、歓迎すべき延期」という声も聞かれている。

 インテルの吉田和正共同社長も、「延期には驚いたが、長い目で見れば大きな影響はないだろう」と語る。

 インテルでは、コンシューマ向けプラットフォームとして、今年1月に、Media Center Editionを採用したViivプラットフォームを提唱。コンシューマ需要の最大の商戦となるクリスマスシーズンに向けたWindows Vistaの投入のタイミングこそが、Viivの浸透を一気に図るポイントになるだろうと見られていた。

 「確かに、年末商戦においてVistaをベースにしたViivの提案ができないのは残念だが、モバイルプラットフォームのCentrinoが、世の中に浸透するまでに3年かかったように、Viivも長期的な視点での戦略が必要だと考えている。Viiv全体の事業プランから見れば、2カ月というVistaの遅れは、まったく影響がない」と吉田共同社長は語る。

来日会見に望むデル会長
 一方、世界最大のPCメーカーである米Dellのマイケル・デル会長も、「当社の場合は、85%がビジネス向けであり、コンシューマ向けはわすが15%。コンシューマ向けVistaの投入延期によるインパクトはない。むしろ、11月の投入の方がタイミングが悪かったのではないか」と語る。

 さらに、あるメーカー幹部からは「Vistaが延期になったとしても、今年は、次世代ディスク、ワンセグ対応、DualCoreなど、材料はいくらでもある。業界への影響は少ないはず」という声も聞かれる。

 このようにVistaの発売延期は、意外にも、ビジネスへのインパクトが少ないであろうとの声が、主要企業の幹部から相次いでいるのだ。

●懸念材料の噴出

 だが、これらの反応をそのまま受け取るわけにはいかない。

 Vistaを、年末商戦の目玉と期待していた販売店やメーカー、その他の業界関係者も少なくないからだ。

 2006年に入ってから、国内のPC業界は、前年割れで推移しているようだ。しかも、下期にかけても厳しい状況になるのではないか、との見方もある。

 2005年には、年間4度に渡る新製品投入が行なわれ、例年以上にコンシューマ向けPCの売れ行きが好調だったことを考えると、Vistaが先送りとなった2006年は、最大の目玉を持たない1年間となり、新製品の投入回数も3回となる。このままでは前年実績を越えるのは難しいと見る業界関係者もいる。

 「日本の商慣習を考えれば、仮にビジネス向けは1月に延期されても、企業の年度末需要には間に合ったが、コンシューマ向けの延期は、Vistaを年末商戦の目玉と考えていただけに、売り上げに対する直接的な影響が大きすぎる」、「今年の年末商戦は、無理をしてPCを販売するよりも、薄型テレビなどのデジタル家電に力を注ぎ、年明けから一気にPCに力を注ぐという2段階での戦略が最適だろう」というように、すでに、年内のPC販売数量の拡大には、あきらめムードの販売店関係者もいるほどだ。

 また、メーカー側も、Microsoftの1月出荷という発言に対して、プロモーション計画を固められずにいるというのも実態だ。

 「1月上旬なのか、それとも1月の下旬なのか。それによってプロモーション戦略も大きく異なってくる。1月上旬であれば、年末の買い控えがあったとしても、それを年始で顕在化する手立てを打てるが、1月下旬の出荷となれば、一から手を打つ必要がある」と語る。

 Microsoftがいつからコンシューマ向けVistaのプロモーションを本格化するのか、といった時期の設定も、メーカーの製品プロモーション戦略に大きな影響を与えることになりそうだ。

 また、こんな見方もある。主要メーカーでは、まもなく各社から発表される夏モデルにおいて、Capable PC準拠を打ち出すことになるだろうが、その期間が年内一杯は続くということに対する懸念だ。

 「Capable PCは、いわばつなぎの製品。ただでさえ、Ready PCからCapable PCへと名称が変更するだけで混乱するというのに、このマーケティングに半年以上、しかも、最大の商戦期をまたぐということは決して前向きなものとはいえない」(ある国産メーカー)というのだ。

●思わぬところにも影響が及ぶ

 一方、Vista延期で、意外な影響を受けそうなのが、秋の大イベント「WPC TOKYO 2006」である。

 アジア最大規模のPC+デジタル関連イベントとして位置づけられるWPCだが、今年の10月18日~21日という会期は、Vistaの11月出荷を控え最高のタイミングだった。

 予定通りであれば、WPCでは、主要PCメーカー各社から、Vista搭載のコンシューマ向けPCが相次いで展示され、Vistaの盛り上がりを決定づけるものとされていたからだ。

 だが、Vistaが延期となると話が違ってくる。もちろん、企業向けのVista搭載PCの展示は行なわれるかもしれないが、これでは盛り上がりが半減するのは明らかだ。

 2005年のWPC EXPOは、「来場者数が少なく、盛り上がりに欠けた」との指摘が相次いでいただけに、Vistaでの盛り上がりを期待していた関係者にとっては、Vista延期は厳しい事態といえそうだ。

 一方、Vistaが2007年1月出荷となれば、同時期に米国で行なわれるCESは、MicrosoftをはじめとするPC関連メーカーブースが、Vista一色で盛り上がるのは明らかだ。だが、その盛り上がりが、日本の需要に直結するとは考えにくい。

 日本では、1月以降のVistaの需要拡大に向けて、Microsoftやメーカー、販売店が、独自のプロモーションを考えなくてはならない立場に置かれたともいえる。

●吉と出るか、凶と出るか

 このように、コンシューマ向けVistaの発売延期は、業界内にいつくかの波紋を起こしている。

 長期的視点で見れば、発売延期は大きな影響とはならないが、短期的視点で見ると、さまざまな問題が噴出することになるからだ。

 国内のPC業界関係者にとっては、発売延期が吉と出るか、凶と出るか。業界全体を俯瞰すると、ややマイナス要素の方が大きい気がしてならない。

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【3月22日】Microsoft、個人向けWindows Vistaを2007年1月に延期
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(2006年3月27日)

[Text by 大河原克行]


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