秋に迫るWindows Vistaのリリースへ向け、MicrosoftはWindows Vistaの開発を続けているが、米国時間の2月22日(日本時間2月23日)、最新版のβとなるWindows Vista February CTP(Community Technology Preview)を公開した。 この2月版CTP(ビルド5308)には、これまでのβバージョンには入っていなかったSidebar機能が追加され、さらにメディアセンターの本格的なテストも開始されているなど、いくつかの点で12月版CTP(ビルド5270)から進化している。今回は、そうした2月版CTPの新しい機能などについて説明していきたい。 ●これまで実装されていなかったSidebarが実装される 2月版CTPでは、これまでのCTPでは入っていなかったいくつかの機能が追加されている。その代表的なものは、新しくデスクトップの右側に表示されるようになったSidebarと呼ばれる機能だろう。Sidebarの特徴は、Gadget(ガジェット)と呼ばれるモジュールを追加できることだ。標準ではアプリケーションランチャやゴミ箱、スライドショーなどのGadgetが登録されているが、ユーザーがWebサイトなどからGadgetをダウンロードして追加することも可能だ。 もう1つの追加機能として、起動時に“Windows Center”と呼ばれるアプリケーションが起動するようになっている。このWindows Centerはコントロールパネルのサブセットのようなもので、Windowsを初めて利用する場合などに追加のハードウェアのインストール、ユーザー登録、前のPCからのファイルや設定の移行などの機能が用意されている。初期状態ではWindows Centerは常時起動するようになっているが、次からは起動しないようにする設定も可能だ。 なお、3Dデスクトップの機能も若干の変更が加えられている。9月版CTPではWindowsキー+スペースキーに割り当てられていたデスクトップウインドウの3D表示機能は、Windowsキー+タブキーに変更されている。従来はAlt+タブキーでタスクマネージャが表示され、ウインドウの切り替えが可能になっていたが、この2月版CTPではWindowsキー+タブキーでもウインドウを3D表示して切り替えが可能だ。ちなみに、Alt+タブキーもこれまで通り2Dのウインドウ切り替えとして利用できる。
●Windows Media Connectの機能はWindows Media Player 11へと統合 12月版CTPでも搭載されていたWindows Media Player 11(WMP 11)だが、もちろん2月版CTPでも搭載されている。 WMP 11の機能そのものは、12月版CTPから大きな変化はない。12月版CTPの記事でも触れたように、音楽ファイルの表示でアルバムのジャケット写真を表示できるようになっていたり、画像をWMP 11にドラッグ&ドロップするだけでメタデータにジャケットデータを加えることが可能になっている。 Windows XP+Windows Media Player 10(WMP 10)ではWindows Media Connect(WMC)として別のソフトウェアになっていたUniversal Plug and Play(UPnP)を利用したコンテンツの共有機能は、WMP 11に統合されている。このため、WMP 11のオプション設定メニューの中のLibraryタブに「Library Sharing」というタブが用意されており、その中でコンテンツを公開するクライアントの認証や公開するコンテンツの種類などが追加されている。 現在のWMC 2.0からの強化点は、公開できるコンテンツの種類として従来のオーディオ、ビデオ、写真に加えて、メディアセンターで録画したテレビ録画(Recorded TV)が追加されていることだろう。とはいえ、現在のところ、メディアセンターの録画形式であるdvr-msに対応したクライアントは存在していないため、クライアント側となるDMA(Digital Media Adaptor)やPCのソフトウェア(デジオンのDiXiMなど)がdvr-msへ対応することを待つ必要がある。 なお、こうしたWMP 11に統合されたWMCの機能が、DLNAガイドラインに準拠しているのかは、現時点では不明だが、家電との接続性ということを考えると、ぜひともDLNAガイドラインに準拠していただきたいものだ。 ●開発コードネーム“ダイアモンド”バージョンのメディアセンターを搭載 すでに12月版CTPから搭載されていたのだが、2月版CTPでもMicrosoftが開発コードネーム“ダイアモンド”として開発してきた次期メディアセンターが搭載されている。Microsoft PDC 2005で公開された9月版CTPでは、現在のメディアセンターと同じ開発コードネーム“エメラルド”相当のバージョンが搭載されていたのだが、12月版CTP以降はダイアモンドのコードを利用したバージョンに置き換えられている。実際、Microsoftは2006 International CESにおいて、12月版CTPの改良版(ビルド5271)を利用したダイアモンドのデモを自社ブースで行なっていた。 ダイアモンドの最大の特徴は、ユーザーインターフェイスの改良だ。特にメニュー構造は大きく変えられている。エメラルドまでのメディアセンターは、メニューは上下方向のみにしか回転していなかったのに対して、ダイアモンドでは上下に加えて左右にも動くようになっている。一見すると、ソニーが「PSX」や「BRAVIA」などで採用しているクロスメディアバーを思わせるようなメニュー構造になっている。 また、動画を再生しながらその上に透過的にメニューが表示できるようになっている。現状のメディアセンターでは、リモコンの緑ボタンやiEPGのボタンを押すと、動画左下に小さく表示されるようになっているが、ダイアモンドでは動画を再生した状態のままその上に透過的にメニューやiEPGが表示されるようになっている。家電などではおなじみの機能と言えるが、メディアセンターもようやくそれに追いつくことになる。 ただし、こうした機能を実装しているためか、動作はやや重めに感じる。テストにはPentium 4 3.0GHz(HTテクノロジ対応)、1GBメモリ、ATI Radeon 9600(256MB)というスペックのマシンを利用したのだが、それでも動画を再生させてメニューを表示させるとやや時間がかかっていた。また、2月版CTPでは、Windows Updateを実行することでMPEG-2コーデックがインストールされた。Windows XP Media Center Edition 2005のようにあとからコーデックを追加する必要はなくなったが、インストールされたコーデックは本当に必要最低限の機能しかないようで、やたらと動作が重く、筆者の環境ではあまり使いものにならなかった。 そこで、NVIDIAのPureVideo Decoderをインストールしてみたところ、CPU負荷も下がり圧倒的に軽くなった。確証はないが、Microsoftから提供されたコーデックがCPU負荷率が高いところを見ると、GPUによるハードウェア支援機能が有効になっていないのかもしれない(設定項目を探してみたのだが、見つからなかった)。もっとも、このコーデックが製品でもバンドルされるのかを含めて、これからまだまだ流動的と言えるのではないだろうか。
●10月末と言われる現時点での出荷スケジュールに向けて作業が続く リリースされて以後、2月版CTPを3~4日使ってみたが、明らかに12月版CTPに比べて安定度は増しているという印象を持った。実際筆者は12月版CTPでメディアセンターを動かしてきたのだが、12月版CTPでは何度も止まることが多く、アプリケーションをインストールするたびに再起動をかけないといけないということが多々あったのだが、2月版CTPではそうしたトラブルもかなり減ってきて、それなりに安定して動くようになってきたというのが率直な感想だ(もっともまだまだβ1の段階なのだから、安定性を云々しても仕方ないのだが……)。 2月版CTPがリリースされたことで、βテスターやPCベンダなどはアプリケーションの動作確認などに早速取りかかっている。次の焦点は、4月にも公開される予定のRC0相当と言われるβ2に向けてどれだけMicrosoftがどの程度進化させてくるかだろう。 以前から指摘しているように、MicrosoftがWindows Vistaを予定通り出荷できるかどうかは、今年のPCベンダのビジネスに大きな影響を与える。というのも、すでにPCベンダのロードマップは、MicrosoftがOEMベンダに対して語っている“10月末”というVistaの出荷スケジュールに合わせたものとなっているからだ。 PCベンダの関係者によれば、まず4月に“Vista Ready PC Program”に対応したWindows Vista対応のPCを夏モデルとして発表し、Vista待ちの買い控えをできるだけ吸収していくことになる。そして10月末にWindows Vistaを搭載したPCを秋冬モデルとして出荷していくことになる。そもそも秋冬モデルが10月末というスケジュールは、日本のPCの商戦期からするとやや遅いぐらいだ。実際、2005年の秋冬モデルの多くは9月に発表され、出荷されていることを考えると、10月末というスケジュールは明らかにVistaのために遅らせていることになる。 だから、仮にVistaの出荷時期が遅れ、クリスマス商戦に合わせて、ということになると、日本のPCベンダにとっては悪夢と言えるだろう。この場合、9月に1度秋冬モデルをWindows XPのまま出荷し、そして12月に春モデルとしてVista搭載PCを出荷することになる。当然、秋冬モデルでユーザーの買い控えが起こることは容易に想像できるだけに、これだけはあって欲しくないストーリーだ。 果たしてMicrosoftはそうしたPCベンダの期待(あるいはプレッシャー)に応えることができるのだろうか、それがPC市場の浮沈に関わるだけに関係者は固唾を飲んでMicrosoftの動向を見守っているところだ。
□関連記事 (2006年2月28日) [Reported by 笠原一輝]
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