第326回

Viivはチッチキチー



1月に変わったViivの新しいロゴ
 ある記者が「Viiv(ヴィーブ)とは、結局、何なんでしょうか」と質問すると、インテル日本法人のある本部長は「チッチキチーです」と応じたという。筆者は残念なことに、その質疑応答の場にはいなかったのだが、インテルの広報担当者はこの答えにかなり驚いたようだが、質問した記者も同じように驚いていた。その記者に同氏は「つまり、意味なんてありません」と続けた。

 しかし、この受け答え。実に本質を突いている。筆者もまた、Viivはチッチキチーだと思うからだ。しかし“全く意味がない”わけではない。大木こだま氏が生み出し、流行語の1つにもなっている本家“チッチキチー”と同程度の“効果”はあると思うからだ。

●PCで見る映像

 「本田さん、PCでTV番組って見ますか」と、この1週間で4回も訊かれた。比較的、PCではTVを見ない方だが、これは見たい映像の種類と関係がある。だから、いちがいに“PCでTV”と言われても、シンプルな答えは出しにくい。

 ひとことで“TV”と言っても、TVのコンテンツには実に多くの種類がある。ニュース、バラエティ、ドラマ、映画、ドキュメンタリー。自分が使える時間を、TVを通して見る各コンテンツにどのように割り振るかは、趣味嗜好やライフスタイルによって変化するものだろう。

 個人的にはニュースに代表されるような情報系の番組には、画質もリラックスした視聴環境も求めない。だからPCで見る方が便利な状況ならば、積極的にPCを使う。しかし、リラックスして余暇を映像を楽しむ時間としたい場合は、当然、リビングのリラックスした環境でゆっくりと楽しみたい。もっとも、これも人それぞれ。連続ドラマを電車の中で見たい人もいれば、ノートPCにドラマを溜め込んで、空いている時間に消化していきたいという人もいる。

32型の大型液晶を備えた富士通「DESKPOWER LX90R/D」
 とはいえ、PCと言っても、最近は32型のディスプレイに表示するような、ちょっと本格的なTVらしいPCもあるから、ハッキリとした線引きをするのは間違いだろう。目の前にTV番組を映せるディスプレイがあり、その時点で見たいのであれば、PCもTVも関係ない。

 こんな事が話題になるのは、“ブロードバンドインターネットを用いて、映像をオンデマンドで楽しむ”という、既存のTVとは異なる視聴環境の可能性が注目されているからだ。

 ところが、一昨年から不定期に訪問している米映画会社の人たちと話をしていると、だれもがハッキリと「PCで映画を見る人はわずかだし、PCで映画を見るためにお金を払ってくれる人も少ない」と断言する。映画のような長編の物語を楽しむために、PCを使うとは今のところ全く考えていないとまで言う人もいる。リラックスした空間の中でPCが使われているケースが少ないというのも一因だ。

 しかし、結局のところ、PCで見るか一般的なTV受像機で見るかといった議論はあまり本質的ではないと思う。コンテンツの種類ごとにふさわしい場所と環境があるということではないだろうか。

●Viivが目指すものとは

リビングルームを前提にしたデザインのオンキヨーのViiv試作機
 たとえばPCがリビングルームの中で、価格相応の価値を提示できるならば、リビングルーム専用PCというのが流行し、フラットパネルTVに接続して使うようになるかもしれない。逆に個人の部屋にあるPCが、もっともっとTV的付加価値を高めていくという方向もアリだろう。その境目はあいまいだ。

 ところが、世の中の大多数の認識は違う。高品質の映像もインターネット経由でストリーミング、あるいはダウンロードして楽しめますよ、といったところで「だって、それってPCで再生するんでしょ」と言われるのがオチだ。勢い、TVに接続するセットトップボックスのようなものが必要という話になる。

 ここでよく考えて欲しい。映像がデジタル化されると、それを電波に乗せようが、光ファイバーに乗せようが、はたまたPCディスプレイ(現時点では著作権保護が不十分だが)であっても、フラットパネルTVでも同じ事。通るパイプと表示デバイスが違うだけだ。

 “大きな壁”は製品の中ではなく、ユーザーの心の中にある。ブロードバンド配信の映像を再生するための専用端末を用意して使わせたりするのは、ユーザーの心の中にある壁を取り払ってTVライクに見せかけなければ、現時点では理解してもらうのが難しい(あるいは理解してもらうために何らかの努力が必要)からだ。

 さて、Viivは正式には「インテル Viiv テクノロジ」という。テクノロジと銘打っているが、技術的な要素は少ない。もちろん、Viivにはいくつかの決まり事があり、プロセッサの種類やチップセットなどが指定され、Windows XP Media Center EditionにIntel謹製のプラットフォームドライバというソフトをインストールするなどのシカケもあるが、特別に新しい事をしているわけじゃない。

 Viivはチッチキチーであって、深い意味はない。しかしIntelがViivを推進し、そこに投資を行なうことでコンテンツを増やしたり、参入企業を誘い込んだり、対応するPCを増やしたりといった努力を行なうことで、世間の目を“PCではTVも見えるし、インターネットを通じてオンデマンドのビデオも楽しめ、そのほかさまざまなメディアも扱えるんだ”という方向に向ける効果は(効果の多寡はあるだろうが)あるだろう。

 だからViivはチッチキチーであり、そこには何も恥じるところはないと思う。むしろ、チッチキチーである事が重要なのだ。

●もっともっとメリハリを

ワンセグチューナーを搭載したソニー「VAIO type T」
 今後、映像コンテンツの世界は、さらに細分化、多様化が進んでいくだろう。たとえば画質が悪いというワンセグ放送。狭い帯域を使っているのだから当然だが、あれはあれでいい。情報を取り込むだけならば十分な場合が多い上、出先でTVが見たい人に対して「高画質じゃないとダメでしょ」と言うのもナンセンス。言うまでもなく、適材適所で使い分ければいい。

 余暇を過ごす娯楽は多様化しており、現在は誰もが認めるメガメディアであるTV放送を、ごく僅かな数しかないキー局だけでカバーしていくのも難しくなっていくだろう。インターネットを通じてコンテンツを配信していこうというならば、多様化するニーズに対して細かく対応し、情報を得るためのコンテンツならそれに徹し(映像などなくとも、ニュースなら音声とティッカーだけでいい場合もある)、映像を楽しむコンテンツならもっと画質・音質や内容にこだわるべきだ。

 種類や想定する視聴環境などに合わせ、メリハリのあるコンテンツを提供できるなら、多様化するニーズにミートすることもできる。だから“インターネットを通じた放送”そのものに対しては肯定的な意見を持っている。

 一方、放送局も放送免許の既得権にいつまでも依存せず、もっとメリハリのあるコンテンツとサービスを提供しなければならない。悪名高いコピーワンスフラグに固執するならば、固執するのもいい。

 しかし、録画されて困るならば、画質が多少落ちてでもいい、有料でもいいから(NHKアーカイブズのような)放送済みコンテンツのビデオオンデマンドサービスを始めてはいかがだろう。放送済みの番組が、いつでもブロードバンドを通じて見ることができるなら、録画して手元に置こうというユーザーも徐々に減っていくはずだ。代替案も出さずにユーザーに妥協を強いるばかりでは、そのうち大きなしっぺ返しを食らうに違いない。

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【2005年8月26日】デジタルホーム向けの新ブランド「Viiv」を発表
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2005/0826/idf05.htm
【1月10日】インテル、Centrino Duo/Viivの国内セレモニーを開催
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2006/0110/intel.htm

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(2006年2月23日)

[Text by 本田雅一]


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