初のIntelプロセッサ内蔵ノート型Macintosh、MacBook Proの出荷が開始され始めた。これまで試作機しか紹介されていなかったMacBook Proの実力はいかに? ということで、先週から取材で訪問しているオーランド、フリーモント、そしてサンフランシスコと、実際の仕事でMacBook Proを実践活用しながら10日ほど試用してみた。 Appleの日本法人では、小型/軽量機が好まれる日本市場の志向性を気遣ってか、評価機の貸し出し時に「常に携帯する1kg程度のモバイル機ではなく、フルパワーのハイパフォーマンスなMacを、そのまま外出先に持ち出せることをアピールしたい」と話していたが、実際にはモバイル用途を否定する要素はほとんどない。 確かに15型クラスというサイズと約2.5kgの重量は、決して小型/軽量とは言えない。都会での電車通勤/通学では、積極的に選ぼうというキモチにはならないかもしれない。しかし普段、14型クラスのモバイル機を使用しているユーザーなら、さほど苦はないはずだ。 Intelプロセッサの新しいiMacとほぼ同じパフォーマンスを持つMacBook Proが“デスクトップのMacを持ち出せる”製品であることは、説明する必要もなかろう。ということで、アップルの意図とは外れるかもしれないが、モバイル機として使ったMacBook Proの使用感を中心に話を進めたい。 ●意外に伸びるバッテリ持続時間 Intelプロセッサ化に伴うMac OS Xの変化やパフォーマンスについては、iMacがIntelプロセッサ化された時点でかなり情報が出ているので、まずはバッテリ持続時間や発熱に関するレポートから話を始めたい。 MacBook Proのバッテリ持続時間は、アップルから正式な数値が公開されていない。おそらくプロセッサ負荷や使用状況に大きく左右されるからだと思われる。しかし、実利用時のバッテリ持続時間は、おおむね同クラスのWindowsノートPCよりも若干良いようだ。 MacBookでは周囲の明るさに応じて液晶パネルの明るさを自動的に変化させる機能が組み込まれており、16段階+消灯の17レベルが選択可能なバックライト設定と連動する。たとえば1番暗い設定でも、周囲が明るければそれなりにバックライトが明るく、飛行機の中のように暗い場所ではより暗くなる。 出先でテキストベースの作業をするだけならば、一番暗いレベルあるいは2番目に暗いレベルでも十分な視認性があるため、バッテリ利用時は主に最も暗い3つのレベルを状況に応じながら切り替えて利用した。 この状態で特に省電力の設定をやり直すことなく、無線LAN ON時で4時間前後、OFFにすると4時間半~最大5時間程度は作業ができる。14型クラスの薄型モバイルノート程度に6セルバッテリの組み合わせと、おおむね同じような印象だ。 アップルはMacBook Pro向けに、新しく開口率の高い明るい液晶パネルを用意したとの事だが、これが省電力で利用する際にはバックライト電力のセーブにつながり、バッテリ持続時間に寄与しているものと見られるが、60Wと容量が大きなバッテリパックによるところも大きいだろう。 なお、MacBook Proのバッテリパックは、本体を薄型化するために丸形ではなく、角形のセルを採用している(角形は重量面では不利だが、バッテリパックの高さを低くすることが可能になる)。 ●アルミ外装の良いところ、悪いところはほぼそのまま 一方、懸念していた“熱さ”に関しては、やや不満が残る。 MacBook Proの設計では本体の左奥に発熱体が集中している。プロセッサやチップセット、GPUが集中し、これを冷却ファンで液晶パネルのヒンジ側に排気することで熱を逃がしているののだ。 排気口はヒンジ部全体に渡って開口されており、排気ファンの風量も十分ではあるが、この冷却ファンは、あまり積極的に回らない。このため負荷がかかると左スピーカーあたりがかなり熱くなり、その熱が(致命的なほどの熱さではないが)左パームレストにも伝わってくる。また、底面の温度は相当に熱く感じられた。 現在、手元に温度計がないが、絶対的な温度は通常のノートPCと同等で、さほど気にならないレベルと思われるが、アルミ製の熱伝導率が高い筐体が災いし、より熱く感じられるようだ。パームレストへと熱が広がってくるのも、アルミ製だからこそかもしれない。 バッテリ使用時ならばほんのりと暖かい程度で問題はなく、ACアダプタ利用時も通常はさほど気にならないが、負荷がかかってくると、左スピーカー部はハッキリと熱いと感じられるようになる。10日ほど毎日使っている中で、不快でしかたがないという状況には遭遇していないが、もう少し積極的に排熱する事や、アルミ外装の見直しを考える時期なのではなかろうか。 またバッテリ使用時には、ほとんど熱さを感じない事を考えると、省電力設定によっては発熱を低く抑える事もできるはずだ。ところがMacBook Proの省電力設定は、ユーザーが設定するオプションが少なく、ACアダプタ利用時の発熱具合を制御できるような項目はない(たとえばプロセッサの制御ポリシーなど)。このあたりも見直しを望みたい。 アルミ外装に関しては、アルマイト処理された美しい外観やスクラッチへの強さという面では良いのだが、より固いもので引っ掻き傷付くと目立ちやすく、ぶつけた際の“エクボ”が出来やすい。 このほか、サイズが大きい割に少ない外部入出力ポート(拡張カードはExpressCardのみ、USBポートは左右各1個、FireWire 400が右側に1ポート、Gigabit Ethernetの構成でモデムポートは無い)もやや不満が残る。PCカードの廃止は英断とも言えるが、USBポートは3~4個は欲しい。 一方、飛行機内など暗い場所で使用する際に便利な、自動点灯するキーボードバックライトや自動的にスッキリと格納されるダブルラッチの液晶パネルロック機構、スマートにディスクの出し入れが可能なスロットインの光ドライブなど、PowerBook時代から引き継いでいる上質な仕上がりはMacBook Proでも踏襲されている。 また、MacBook Proで追加された内蔵Webカメラや、MagSafeと名付けられた磁石式で固定するDCプラグも、細かい点かもしれないが、スマートに製品に統合されており、本機の品を高めている。 だが、これらの要素はMagSafeを除くとPowerBookの世代で確立しているものであり、Titanium世代の設計思想からは一歩も外には踏み出していない。また従来機にあった問題にも手がつけられていない。本機は確かにPowerBookを忠実にIntel版へと移植してある。しかしPowerBookの領域からは一歩も踏み出していない。ハードウェアデザイン面での不満はそうした部分に集約される。 ●PowerMacと併用しても十分に高く感じられるパフォーマンス 一方、パフォーマンスに関しては予想以上に良い。 試用機として届いたモデルはIntel Core Duo 2GHzと100GB HDD(Seagate製Momentus 5400.2)、1GBメモリの構成で、これに1GBの拡張メモリが付属していた。 筆者が普段、デスクトップで使っているMacは、PowerMac G5/2.5GHzデュアル、2GBメモリ、GPUはRadeon 9600であるが、むしろMacBook Proの方が高速と思われる。実際、自宅の環境をそのまま持ち出しても、なんら違和感を感じない。 少しでも処理時間を短くしたいグラフィックスや動画のレンダリング処理、あるいはエンコード作業などでは、厳密なベンチマークでの比較も必要となろうが、ノート型の筐体を持つ本機の場合は、そこまでシビアな比較は不要だろう。デスクトップ機と使い比べた時、ほとんど違和感を感じないだけの能力があるMacが、そのままバッテリ駆動で机の上から手軽に移動させることができるだけでも大きな利点だ。 Mac OS Xには“ユーザー移行ツール”という便利なユーティリティがあり、アプリケーションから各種設定、データに至るまで、FireWireケーブル1本で簡単に転送できる。このため、現在、この原稿を書いている瞬間も、PowerMac G5と同じ環境で使用しているが、全く不利は感じない。デスクトップとは明らかに異なる使用感だったPowerBook G4のパフォーマンスとは明らかな違いがある。 また、これはノート側に限った話ではないが、Mac OS XとWindowsの比較では、前者の方が“コンスタント”に動く。どこか引っ掛かりを感じたり、別の処理に引っ張られてフォアグラウンドの処理が滞ったりといった事が少ない。加えてデュアルプロセッサ時の処理効率も、現時点ではMac OS Xの方が優れている。 このようなことが重なり、全く同じプロセッサを搭載するWindows機よりもハイパフォーマンスに感じるのだろうが、もちろん、現時点においてMac OS X用ソフトは、そのほとんどがPowerPCコードのままだ。果たして、この状態でまともに使えるのか? という疑問も、当然湧いてくることだろう。 ●意外にストレス無く使えるPowerPCコードアプリケーション Intelプロセッサ向けMac OS Xには、Rossettaというエミュレーション環境が追加されている。Rossettaの細かな動作については明らかではないが、逐次命令を変換し、最適化しながらキャッシュ内のコードを高速化していく、TransmetaのCMSのような手法が採られていると見られる。 Mac OSは以前にもMC68x00からPowerPCへのアーキテクチャ変更を行ない、このときもエミュレーション環境が組み込まれていたが、当時としては高性能なエミュレータを搭載しつつも、いくつかの理由でかなりパフォーマンスに悪影響が出ていた。 1つは搭載メモリ容量が現在よりもずっと少なかった事。これにより翻訳したコードをキャッシュする量がわずかしか得られなかった。加えて当時のMac OSは互換性のため、完全にネイティブのPowerPC版Mac OSを作ることができず、68KコードとPowerPCコードがOS内部でも混在していた。 しかし、Mac OS Xの元になったNEXTSTEPは、もともとCPUアーキテクチャに依存しない作り方をしていた('90年代半ばにはIntel版NEXTSTEPも販売されていた)事もあり、パフォーマンスの足を引っ張る要素がない。加えてメモリ容量も多く、翻訳後の命令のキャッシュ容量や、エミュレーション技術そのものの向上なども考慮する必要がある。もちろん、デュアルコア化によりパフォーマンスを向上させやすいという背景もあろう。と、能書きはともかくとして、実際に使ってみても、さほど問題を感じることはなかった。 Microsoft Office 2004は、やや重ったるい振る舞いをするが、これはPowerPCマシン上で使っても似たような傾向がある。もともとパフォーマンスを必要とする製品でもないため、違和感は感じないはずだ。 Adobe Photoshop CS2は起動速度の遅さを感じるが、その後の作業にはさほど不満がない。EOS 5DのRAW現像処理14.5秒という数字は、確かに高速ではないが、現像後の処理については極端な遅さはないためだろう。 ちなみにIntelのコードも含んでいるLightroomβ2で同じファイルを現像すると11.4秒ほど。まだ最適化が進んでいないのだろうが、現時点での比較でネイティブコードに比べ40%ほど余分に時間がかかる計算。エンディアンも異なるプロセッサをエミュレートしている事を考えると、そう目くじらを立てる差ではないと思うがいかがだろう。 ただしAdobeのCS2は、現在、Macromedia製品との統合作業に追われ、Intelコードを含むユニバーサルバイナリ化の見通しが立っていない。同社によると、ユニバーサルバイナリになるのはCS3からとの事だ。これは動画編集などを行なっているプロフェッショナルには厳しいだろうが、そもそもノートPCである事を考えれば、こちらも現時点でどうこうと議論する話ではない。 このほか、普段原稿を書くために使っているJedit Xはユニバーサルバイナリ版が存在し、iLife '06はもちろんユニバーサルバイナリ。PDF表示はOS標準のプレビューならば高速だし、日本語入力プロセッサはATOKが動作しないもののEG-Bridge(食わず嫌いだったが、変換効率や機能がATOKに比べてさほど落ちる事はない)がユニバーサルバイナリ版を提供している。 長くなりすぎるので割愛するが、新しいiLifeと強化された「.Macサービス」を使いこなせば、大抵のやりたいことはカバーしてくれる。iLifeの中では、特にiPhotoのパフォーマンスアップが著しく、大量の高画素デジタルカメラ画像を管理してもストレスを感じない。これまではiPhotoではなく、別のツールを使っていたユーザーも、これだけパフォーマンスがよければもっと積極的にiPhotoを使ってもいいと思うはずだ。 iLifeは操作の道筋が一本道で、アップルが実装した概念の元に、iLifeそのものの振る舞いに慣れながら使う必要がある“幅”の狭いアプリケーションだが、アップルの思惑通りに使う限り、心地よく面倒な事を気にせずに利用できる。 OS標準のアプリケーション、ユーティリティを含め、日常的な作業の大部分はネイティブコードで動作し、プロセッサアーキテクチャの変化をユーザーに感じさせない。個人的には、これだけきちんと動作してくれれば(個人的にIntelプロセッサ搭載Macのオーナーになったとしても)不満はない。 WindowsかMacかといった議論は不毛なので、ここでは言及しない。現時点において、デスクトップ環境ではMac OS Xを使うメリットがあると思ったため、個人的にデスクトップ環境はMacでの作業が中心になっている。 しかしモバイル環境で、豊富なハードウェアの選択肢があるWindows機とMacBook Proで迷うかと言えばかなり微妙である。これは筆者が外出時、ほぼ毎回、かばんの中にPCを詰め込んで持ち歩いているからだ。もし、自宅やオフィスからさほど高頻度に持ち出さない使い方をしているのであれば、いくつかの欠点に目をつむってでも使いたくなっただろう。 今後のラインナップ展開に期待したい。 □関連記事 (2006年3月7日) [Text by 本田雅一]
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