2週続いて新型ThinkPadの話が続いたため、ややタイミングが遅れた感があるが、今回はソニーの「VAIO type S(SZ)」について触れておきたい。1月のInternational CES 2006に出展され、その後、国内での発表、発売と続いているため、すでにおなじみの機種になっているとは思うが、この製品は昨今のVAIOシリーズの中でデキが良いだけでなく、Intel Core Duoを搭載したモバイル機の中でも、実によく練られた製品だ。 歴代のThinkPadシリーズなどにも言える事だが、作り手自身がユーザーとして“こう使いたい”、“こうあるべきだ”と目標を定め、突き詰めているからこそなのかもしれない。加えて、予想以上にCore Duoの発熱や消費電力が低かった事で、歴代のVAIOノートの中でもトップクラスのバランスを持った製品に仕上がっていた。 ●“何もあきらめたくない”気持ちを具現化 以前、「バイオノートV505」の記者向け説明会が催された時の事だ。この製品は9.5mm厚の光学ドライブが登場し始めた頃に登場したモデルで、505シリーズとして初めて光学ドライブを搭載した。当時の製品企画担当者と話をした時「光学ドライブは絶対に必要。(Uシリーズのような特殊な例は除き)全機種に搭載していく」と話していた。 しかし、V505シリーズの重量はほぼ2kg。光学ドライブを搭載しているとはいえ、12.1型サイズとしては少々重い。これは、モバイルPentium 4を搭載する事を目標に設計されていたためである。開発側としては、光学ドライブと共に、デスクトップ機並のパワーを与えることで、1台のノートPCでデスクの上からモバイル環境まで、幅広くサポートしようとしたわけだ。 そして、その後のモデルはPentium Mが搭載され、よりモバイル機としての性格が強くなった。だが、見た目ほどには薄くないボディや重さ、バッテリ持続時間など、本格的に鞄の中に入れて持ち歩くパソコンとしてはやや不満があり、デスクの上で使うには液晶が小さい。やや中途半端な印象を受けていた。
そんな中、V505の血筋をもっとも濃く引き継いだのがVAIO type Sである。初代のtype Sは、モバイル機としてのスペックではさほど魅力的には見えなかったが、しかしグッとバランスは改善され、デザイン的にもこなれてきた。現行のtype S(SZ)よりも、むしろデザイン面では洗練されている印象もある。 てっきり、この製品ラインは“軽量化はほどほどに、1台のノートPCで何でもやりたい人向けのバランス重視”がコンセプトになってきたのかと思っていたら、ソニーは通常モデルに加えてプレミアムバージョンを用意することで、フルサイズノートPCに匹敵するパフォーマンスとモバイル機に求められる要素の両方を追い求めてきた。 パフォーマンス面での妥協をしないという方針に変化はないが、これまで不満のあったバッテリ持続時間や重量面を磨いたのである。それも通常の商品企画で通らないならば、ハイコストな専用モデルを「プレミアムバージョン」として用意してまで実現しているところに、“パフォーマンスもモバイル性もあきらめたくない”という気持ちが表れている。 以前のモデルにあった微妙な中途半端感が、type S(SZ)のプレミアムバージョンにはない。課題だった重量面も、これだけ底面積の大きなデザインを採用しながら、ギリギリとはいえ1.7kgを切っている。ハイパワープロセッサと光学ドライブを搭載し、6セルの大容量バッテリを背負わせたモバイル機としては及第点と言える重量ではないだろうか。 ●スッキリとしたスマートな筐体ながら発熱は些少
本機の特徴の1つに、使用するグラフィック回路をスイッチで選択できる点がある。Intel製チップセット内蔵グラフィック(GMA950)を用いるスタミナモードと、NVIDIAのGeForce Go 7400を使うスピードモードをユーザーが選択するためのスイッチである。スタミナモードにセットすると、NVIDIA製の独立グラフィック回路は完全に電源が断たれる。 【お詫びと訂正】初出時に、搭載GPUの型番を誤表記しておりました。お詫びして訂正させていただきます。 切り替えはオンデマンドでは行なえず、再起動が必要にはなるのは残念だが、スイッチのポジションごとに電源設定も切り替わるのはいい。それぞれのモードで、好みの設定をしておけば、自動的に設定が切り替わる。 もっとも、両グラフィックチップの差を、Webブラウザやメール、Officeソフトなど2Dグラフィックのアプリケーションで感じるかと言えば、(ベンチマーク結果はともかく)体感上の違いはない。 両チップの違いが出てくるのは、主に3Dグラフィック機能を利用する場合と、Pure Videoに対応した動画再生ソフトを利用する場合のみだ。加えて言うなら、Windows VistaのGUIはDirect3Dベースとなるため、将来、Windows Vistaをインストールした時、GMA950では性能面で不足するかもしれない。 一方、消費電力面での違いは大きい。スタミナモードでは、LEDバックライトの輝度をやや落とし、無線LANもOFFにしてやれば、スペック値の7時間はともかくとして、5時間半ぐらいは使える。 カタログ上ではスピードモードとすることで1.5時間ほどバッテリ駆動時の持続時間が短くなると書かれているが、実利用環境でもそれに近い差がある。特に3Dアプリケーションを動かしていない場合でも、おおむね1W程度は余分に電力を消費する印象だ。 このグラフィックチップに加え、最高2.16GHzのCore Duo T2600を選択可能(試用したのはT2500)と言うことで、当初は発熱あるいは冷却ファンの騒音などを心配したが全く問題ない。スピードモードに設定し、3Dmark 05を動作させながらマルチスレッド対応のMPEG圧縮ソフトを10分以上動作させてみたが、不快さを感じることはなかった。一般的な使い方をしている中では、ほとんど発熱を感じることはないだろう。 くさび形の筐体は底面に凹凸もなく、スッキリとスマートなデザインとなっているが、同時に放熱にも十分な余裕がある。 本機は光学ドライブや3Dグラフィックチップだけでなく、指紋認証、TPMチップ、Bluetooth、FeliCa、Webカメラなど、とにかくあらゆる要素を詰め込んだ“全部入り”のノートPCであり、ミニマム構成で軽量さとバッテリ持続時間を求める使い方とは正反対のコンセプトだ。ピュアにモバイル機を求めるユーザーとは相容れない部分があるだろう。しかし、一方でフル機能とモバイル性能の両立を求めるユーザーにとっては、唯一の選択肢とも言える仕上がりになっている。
●Core Duoの長所を引き出した1台 では、全く不満がないかというと、ひとつだけ読者に伝えておきたいポイントがある。
本機のキーボードは最近のVAIOシリーズに多い、キートップのスカートの部分が水平に伸びた形状で、キートップの高さもやや低め。type Tのキーボードともよく似た形状だ(タッチはこちらの方がやや軽い)。そして(ここがポイントなのだが)最近のモバイルPCとしては、かなり長めの3mmというキーストロークが採用されている。 キーストロークが長い事そのものは悪い事ではないが、キートップの高さは3mmよりも低い。加えて前述したようにスカート部分が水平に伸び、各キー間の隙間が小さいため、指や爪が引っかかりを感じる事が多かった。 デザイン性も重要ではあるが、ストロークやタッチだけでなく、基本的な部分も含めて快適性を追求していれば、キートップ形状もこうはならなかったのではないか。他には大きな文句はなかっただけにやや残念な点だ。 とはいえ、TDPこそ従来よりもやや高いが、トータルの消費電力やパフォーマンスは非常に優秀なNapaプラットフォームの長所をよく引き出した、バランス指向の製品であるとは言えるだろう。VAIO・OWNER・MADEを利用すれば、豊富な組み合わせを利用し、予算に応じて機能を柔軟に選べる点もポイントだ。 13.3型という比較的大型の液晶パネルにLEDバックライトを採用したり、プレミアムバージョンではカーボン素材をふんだんに使って軽量化を図ったりといった部分に注目が集まりがちだが、現行VAIOの中でもっともマジメにノートPC作りに取り組んだ製品が本機ではないだろうか。 □関連記事 (2006年2月15日) [Text by 本田雅一]
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