●好調なAMDの株価
図はこの1年の同社の株価の値動きだが、2005年5月に底をつけた後、ほとんど一本調子に近い形で株価を上げ続けている。現時点におけるAMDの株価(32ドル台半ば)は、ライバルであり1株あたり利益でAMDを大きく上回るIntelの株価を7ドルほど上回る水準にまで達している。グラフをよく見ると、つい最近ちょっと下げているが、これはその前の週に5%ほど上がったことの反動とも言うべきものと考えられる。同社株が下げ局面に入ったと見る向きは少ないようだ。 こうした強気の基盤となっているのが、現在の同社製マイクロプロセッサ(Opteron、Athlon 64)の高い競争力であることは間違いない。それを背景に、さまざまなことが言われる。 中でもとびきりポピュラーなものが、世界最大のシェアを持つPCベンダであるDellはAMDのプロセッサを採用するのか、ということだ。実は、先週AMDの株が5%跳ね上がったのは、アメリカのある証券会社のアナリストが、Dellが近い将来AMDのプロセッサを採用するだろう、というレポートを出したからだと言われている。おそらく、CESでDellのマイケル・デル会長がAMD製プロセッサの採用を否定しなかったこと、現在市場で一部のAMDプロセッサが品薄になっていることが根拠ではないかと思われる。 しかしDellがAMDのプロセッサ採用を否定しないのは、今に始まったことではない。というか、AMD製のプロセッサを使わない、と言ったことはないのではないかと思う。また、一部にはDellはAMD製のプロセッサを採用したことがない、と言われているが、大昔、AMDがIntelのセカンドソースだった時代(80286の時代)には、採用していたことがあったハズだ(だからといって、別に何ということもないのだが)。早い話、証券会社(と一部の投資家)は常に株価を上げる材料を探しており、現在ちょっと行き過ぎたところが見られる、ということなのではないかと思う。 さて、ではDellはAMDのプロセッサを採用するのかしないのか。それはDell以外に知ることのできない話だ。が、それでは話が終わってしまうので、今年を占うという意味も込めて、筆者なりに少し考えてみた。 ●ハイエンドとローエンドがAMDの強み すでに述べたように、現時点におけるAMD製プロセッサの最大の強みは、ハイエンドプロセッサの高い性能、特に消費電力あたりの性能にある。次が、ローエンドプロセッサの低価格、というところではないだろうか。 まずハイエンドプロセッサの高い性能が生かせる市場はというと、それはエンスージャスト向け(コアゲーマー向け)のハイエンド市場と、サーバーだろう。ただ、Dellのブランド力が前者に対して特に有効とは思えない。米国にはAlienwareなどに代表される、この市場に特化したエキゾチックPCベンダが存在し、マニア心をくすぐっている。Dellもハイエンド向けにXPSシリーズを展開しているが、もう少し穏やかなユーザーが相手のような気がする(それがIntelのプロセッサを使っているからだ、ということであればニワトリと卵になってしまうが)。Dellがこの分野でAMD製のプロセッサを採用する可能性は全くないわけではないだろうが、それほど高いとは思えない。 Dellの強みがもっとも発揮されるのは、ボリュームの出るメインストリームのデスクトップPCだと思うが、ここでAMD製のプロセッサが採用される可能性は高くないだろう。このセグメントは、DellとIntelが最も親密な分野であり、Intel製のマザーボードを採用したモデルも少なくない。これは、動作検証や互換性検証などのコストのかかる作業に関して、Intelの力をアテにしている、ということの裏返しだ。もちろん、Dellがこうした作業において何もしていないハズはないが、Intelと負荷を分担する狙いがなければIntelのマザーボードを使うとは考えにくい。 昔のようにAMDのプロセッサがピン互換だった時代ならともかく、現状ではAMDのプラットフォームは、デスクトップPCにおけるDellのビジネスモデルには乗らないだろう。 古くからの読者なら、以前GatewayがK6-2プロセッサ搭載の液晶一体型PC「PROFILE」で頑なにIntel製チップセットにこだわり、66MHzのFSBに固執したことを覚えている人もいると思うが、要はそういうことである。AMDが、IntelがDellに提供しているのと同じようなサービスを提供すれば採用の可能性は増えるが、これは同時にAMDがリスクを負うことにもなる。中途半端にやると大やけどしかねない。 そもそも、メインストリームのデスクトップPCにおいては、プロセッサの占めるウエイトが決して高くないのが大きな問題だ。量販店の店頭に並ぶPCのプロセッサは、CeleronやSempronといったバリューセグメント向けのものがかなりの割合を占める。悪い言い方をすれば、プロセッサなんて何でも良い、という状態になりつつある。AMDのAthlon 64 X2がどんなに高性能であろうと、その強みは発揮されないのである。 ただし、これはAMDはもちろんIntelにとっても良いことではない。両社がどんなに熾烈なライバルであろうとも、高い性能の高価なプロセッサがたくさん売れて欲しい、という点で思いは共通しているからだ。ただ、これまで両社とも、プロセッサの比重低下の傾向に関して打つ手無しのお手上げ状態であった。プラットフォーム戦略というのは、この状況に関してIntelが打ってきた手だが、これが成功するかどうかは、もうしばらく時間が経たなければ分からない。 ローエンドのデスクトップPCになると、余計に性能よりコストが重視される。が、この分野でDellがSempronを採用するメリットがどれくらいあるかは疑問だ。もはやローエンドのPCでは、プロセッサのコストより、物流コストや管理費、サポートコストといったものが占める割合の方が高い。Dellはこの分野のチャンピオンであり、Sempronを採用する他社より高い利益を上げている。簡単に戦略を変えるとは考えにくい。 ●1~4Wayクラスのメインストリームサーバーが順当か もしDellがAMD製プロセッサを採用するとした場合、最も可能性が高いと筆者が思うのは1~4Wayクラスのメインストリームサーバーだ。2005年、東工大が選定したクラスタベースのスーパーコンピュータが、NECを主契約者としながら、ノードとしてサン・マイクロシステムズから供給を受けるOpteron搭載サーバーを採用することが象徴しているように、現在最もAMD製プロセッサ(Opteron)の強みが生きる分野である。 2005年秋に、以前のロードマップにはなかったデュアルコアのPaxville DPをXeonとして投入してきたのは、Intel自身が劣勢を認めているからだろう(同じことがYonahのサーバー転用であるSossamanにもいえる)。ただPaxville DPでも、性能でAMDに伍すれば消費電力で上回り、消費電力で伍すれば性能が届かない(低電圧版でクロックを落とすため)、というジレンマは解消していないように思える。AMDにとって最も有望な市場だろう。 また、デスクトップPCの分野ほどDellとIntelの仲が緊密でないのも、サーバー分野の特徴だ。Dellが一貫してIA-64に熱心でなかったのはよく知られたことだ(最大のライバルであるHPのアーキテクチャをかつげるか、ということも大きいだろう)。ブレードサーバーにおいても、以前のDellはレンガ状のちょっと変わったコンセプトのものを提唱していたことがあった。これらについては、Dellの意志、あるいはDellのエンジニアリング比重が高くなっており、デスクトップPCほどIntelのサポート力に依存していない。つまりDellの自由度が高い分野だ。 逆にIntelはブレードサーバーの開発パートナーにIBMを選んだり、IBM向けと思われるプロセッサ(Cranford)をわざわざ開発したりと、IA-32サーバーの分野ではIBMとの蜜月の方が目立つ。 CranfordはPotomacからL3キャッシュを省略したようなプロセッサで、おそらくIBMのX3アーキテクチャー(XA-64eチップセットは、メモリアクセスのレイテンシを大幅に削減、メインメモリの一部を仮想キャッシュに使う機能を備える)を意識したものだと思われる。デスクトップPCでトップがDellであるように、サーバー全体でのトップはIBMであり、トップと組むというのがIntelの基本的な戦略だ。
というわけで、DellがAMD製のプロセッサを採用するならまずサーバーからではないかと筆者は思う。ただ、急がないとIntelも自らの弱点を承知しており、新マイクロアーキテクチャ採用のプロセッサの準備を急いでいる。
DP対応でデュアルコアのWoodcrestは前倒ししそうな勢いだし、4Wayでクワッドコアのプロセッサについては、当初予定のWhitefieldをキャンセルしてTigertonの投入を表明するなど力が入っている。AMDとて手をこまねいてはいないだろうが、今の方が差をアピールしやすいハズだ。今年の半ばあたりまでにDellから発表がないと、また採用が遠のいてしまうかもしれない。
□関連記事 (2006年1月18日) [Reported by 元麻布春男]
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