AMDは1月10日、同社のハイエンドデスクトップ向けCPUの新製品「Athlon 64 FX-60」を発表した。Athlon 64 FXシリーズとしては初めてデュアルコア製品となるのが特徴の本製品を検証していきたい。 ●FX-60はX2 4800+のクロックアップ製品
今回発表された「Athlon 64 FX-60」(写真1)は、一般アプリケーションと比べマルチスレッド化が進んでいない3Dゲームのために、クロックの高いシングルコア製品として提供されてきたAthlon 64 FXシリーズで初めてのデュアルコア製品となる。主な仕様は表1にまとめたとおりだが、基本的には「Athlon 64 X2 4800+」のクロックを上げただけ、というイメージで差し支えない。 写真1に示したAthlon 64 FX-60にプリントされたOPNは「ADAFX60DAA6CD」となっているが、これはAthlon 64 X2 4800+のOPN「ADA4800DAA6CD」のモデルナンバー部分が異なるのみ。 正確な情報が得られていないため表1からは割愛したが、OPNのルールを考慮すれば、コア電圧は1.35~1.40V、Tcase maxは49~63度になると思われる。 また、末尾二桁の「CD」が変わりないことからも分かるとおり、ステッピングも変更されていない。これはCPU-Zの結果(画面1、2)からも確認でき、Athlon 64 X2 4800+と同様に「Toledo」コアが採用されていることになる。 Athlon 64 FXシリーズとしては大きな変化を感じさせる本製品だが、Athlon 64 X2シリーズの上位モデルという見方をすれば、これまでよりもスタンダードな形の位置付けを感じさせる。 【お詫びと訂正】初出時に、「これまでのAthlon 64 FXシリーズとは異なり、本製品ではCool'n'Quietに対応している」としておりましたが、従来製品も同技術に対応しております。お詫びして訂正させていただきます。
●新しくなったFXのパフォーマンス それでは、さっそくAthlon 64 FX-60のパフォーマンスを見ていきたい。環境は表2に示したとおり。先日紹介したPentium Extreme Edition 955(以下Pentium XE 955)のベンチマーク結果から、Pentium XE 840を省き、Athlon 64 FX2製品を追加する格好で結果をお届けする。 なお、Athlon 64 X2 4800+の環境のみメインメモリのレイテンシが少ないが、こちらの記事でも紹介した通り、構成が固定されている評価キットを使っているためで、これが影響したと思われる箇所については都度言及していきたい。
●CPU性能 まずは、CPU性能を見るために実施した「Sandra 2005 SR3」の「CPU Arithmetic Benchmark」、「CPU Multi-Media Benchmark」の結果だ(グラフ1)。Athlon 64 FX-60とAthlon 64 X2 4800+のクロック比は、2.4GHzと2.6GHzだからおよそ1:1.08ということになるが、このテストの結果もおよそ比率が1.08前後を推移しており、演算性能に関しては、ほぼ理論どおりの結果が出ているといっていい。 以前にも述べたとおり、SandraはデュアルCPUやデュアルコア環境でスコアが大幅にアップするテストになっているので、ここではAthlon 64 FX-57との比較は難しい。
続いて、「PCMark05」の「CPU Test」の結果である(グラフ2、3)。まずシングルタスクの結果だが、ここは基本的にはSandraのCPU Benchmarkのように理論値に近い値が出るものだが、Athlon 64 X2 4800+とAthlon 64 FX-60の結果の比率が1:1.07前後と、若干ながら前者が高速な結果だ。実アプリケーションを利用したCPUテストであるため、メモリアクセス速度などの影響もある。環境の違いもあるので、誤差の範囲と受け止めることは可能な結果である。 シングルタスクのテストでは実クロックで勝るAthlon 64 FX-57がやはり高速である一方、マルチタスクテストになると一気にAthlon 64 FX-60の優位性が表れる。デュアルコアの特性が良く表れた結果といえるだろう。
●メモリ性能 続いてはメモリ性能を見るために、Sandra 2005 SR3の「Cache & Memory Benchmark」の結果を見てみよう。グラフ4が全結果、グラフ5が一部結果の抜粋である。ここでは、少し不思議な結果が出ている。 キャッシュメモリの動作クロックはCPUの実クロックに同期するわけだから、Athlon 64 FX/X2のキャッシュ内をカバーできる1MBの転送までの結果は本来、Athlon 64 FX-57、Athlon 64 FX-60、Athlon 64 X2 4800+の順に等間隔に並ぶはずだ。しかしながら、L1キャッシュではAthlon 64 X2 4800+がAthlon 64 FX-60を上回り、L2キャッシュでもほぼ同等の値が出ているのだ。 これはAthlon 64 FX-60のキャッシュ速度が引き出されていないという見方もできるが、Athlon 64 FX-57とFX-60の比率を見ると、1:1.075前後で推移しており、こちらはおおよそ理論どおりの結果になっている。 つまり、この結果はAthlon 64 X2 4800+が速すぎる結果になっているのだ。先にも触れたとおり、これはレビュー者による構成の変更を禁止されている評価キットであるので、BIOSはAthlon 64 FX-57/60のものとは異なるVersion1011ベースのものが適用されている。このBIOSがかなりアグレッシブなチューニングを行なっていると見て良さそうだ。 ちなみにメインメモリへのアクセスが生じる256MBの転送においてもAthlon 64 X2 4800+環境における結果が抜きんでてるが、これは低レイテンシのメモリモジュールを使っているからという理由になる。
●アプリケーション性能 次に、実際のアプリケーションを使用したベンチマークを実施したい。テストは「SYSmark2004」(グラフ6)、「Winstone2004」(グラフ7)、「CineBench 2003」(グラフ8)、「TMPGEnc 3.0 XPress」(グラフ9)である。 まず、SYSmark2004の結果を見てみると、ここはAthlon 64 FX-60が安定した成績の良さを見せている。唯一DataAnalysisテストのみスコアが低くなっているが、このテストはIntel製CPUでもPentium 4 3.73GHzが強いように、キャッシュ性能とメモリ性能がとくに強く反映されるテストになっているため、こうした結果が出ているのだろう。 Winstone2004の結果も、妥当なものになっている。このテストはマルチスレッドアプリケーションは存在するが、マルチタスクのテストは実施されてないため、デュアルコアの効果はそれほど大きく表れず、実クロックが高いシングルコアCPUが優秀なスコアを出す傾向にある。今回もAthlon 64 FX-57がもっとも成績がよく、次いでAthlon 64 FX-60、X2 4800+と続いており、素直にクロック順に収まっている。 次のCineBench2003は、マルチスレッドのレンダリングテストで、相変わらず熾烈な争いを続けていて面白い。Athlon 64 X2 4800+がPentium XE 840を上回っていたが、年末のPentium XE 955では逆転。そして今回、Athlon 64 FX-60で再逆転という流れである。同時に処理しているスレッドの数の違いを考慮すると、Athlon 64 X2の1スレッドあたりの処理性能の高さの感じさせるテストともいえる。 続いては動画エンコードテストだが、ここはAthlon 64 X2 4800+が高速な結果を収めるテストが目立っている。これは、動画エンコードにおけるメモリ性能の必要性が強く表れたためで、特にMPEG-1のように、現在となってはCPUに対する負荷が低くなったといっても差し支えないテストでは、むしろメモリ性能のほうの重要性が高い。とくに今回の環境では、キャッシュメモリの性能差も劇的に影響しているため、こうした逆転現象が数多く見られているわけだ。 それでも、DivXやWMV9のように、相変わらずCPU負荷が高く、しかもマルチスレッドが進められているテストでは、やはりAthlon 64 FX-60が高速に処理を進めている。まだまだ動画エンコードの高速性を求めるならば、より高いクロックのCPUを購入することに価値はありそうである。
続いては、「Intel Multitasking Scenario Builder」の結果である(表3)。ここは前回、3タスクまでならAthlon 64 X2、4タスクになるとPentium XEが強いという結果になったが、今回も同様である。 ただ、Athlon 64 FX-60が4タスク同時実行テストにおいても、Pentium XE 955に肉薄し、このテストはAthlon 64 X2 4800+からのクロックアップに効果を感じさせる結果といえる。 【表3】Intel Multitasking Scenario Builder 1.0.1 Trialの結果
●3D性能 最後に3D性能を見てみたい。「Unreal Tournament 2003」(グラフ10)、「DOOM3」(グラフ11)、「3DMark05」(グラフ12)、「3DMark03」(グラフ13)、「AquaMark3」(グラフ14)の結果を示している。 ここもAthlon 64 X2 4800+の性能の良さが見えているが、やはり環境に依存する部分が多いと判断したい。一方、多くのテストでAthlon 64 FX-60がAthlon 64 FX-57に対して同等か、それ以上の性能を見せている。ビデオカードドライバのデュアルコア最適化が始まったように、3D処理の面でもマルチスレッドの流れが始まっている。今後はゲーマーであっても、シングルコアでクロックの高いCPUを選ぶことなく、素直にメインストリームのデュアルコアのクロックの速いモデル、ないしはキャッシュ容量の多いモデル、といった選択の仕方がトレンドになっていきそうだ。
●性能はもちろんセグメント分けも明瞭に 以上のとおり、Athlon 64 FX-60のテストを実施してきたが、Athlon 64 X2 4800+の環境におけるメモリ性能やキャッシュ性能の高さに、ややFX-60が霞んでしまった印象はある。 ただしこれは、前述の通り環境の違いによるところが大きく、まったく同じ環境で、かつBIOSレベルでのキャッシュチューンも同等であれば、間違いなく性能はAthlon 64 FX-60が上回る。今回の環境でAthlon 64 X2 4800+を上回るスコアを見せるテストがあるということは、逆にFX-60のポテンシャルの高さを示しているように感じられる。 また、これまでのAthlon 64 FXはハイエンド向け製品という位置付けでありながら、シングルコアであるという別の特徴があった。いうなればAthlon 64 FXがゲーマー向けハイエンド、Athlon 64 X2がマスユーザー向けハイエンド、Athlon 64がメインストリーム向けといった性格を持っていたわけだ。 しかしながら、今回のデュアルコア化によって、名実ともにハイエンドデスクトップ製品として生まれ変わった印象だ。もちろん、3DテストでAthlon 64 FX-57と同等以上の性能であり、ゲーム用途にも耐え得る性能を持っているといえる。この製品の登場は、ユーザーがAMDのCPU選択をやりやすくなるメリットももたしてくれそうだ。 □関連記事 (2006年1月10日) [Text by 多和田新也]
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