多数の製品/ブランドを発表したIntelについて、特に日本のユーザーにとって注目度が高いのは、モバイル向けデュアルコアプロセッサをサポートする、Centrino Duo Mobile Technology(以下Centrino Duo)だろう。 今回、International CESの会場において、Centrino Duoを統括するIntelモバイルプラットフォームグループジェネラルマネージャ兼上級副社長のムーリー・イーデン氏にお話を伺ってきた。 ●革新的な製品となったCentrino Duo
今回、Intelは2つの新しいブランドを導入している。1つはプラットフォームブランドの「Centrino Duo」であり、もう1つがプロセッサの「Core Duo/Solo」だ。なぜ、こうしたブランド名を導入したのか、という筆者の質問に対してイーデン氏は「今回のCentrino Duoが“革新的”な製品だからだ」と説明する。 「3年前、我々が初めてCentrinoモバイル・テクノロジを導入した時、従来のモバイル向け製品に比べて革命的な製品だった。これに対して、1年前に導入したSonomaプラットフォームは、グラフィックス周りの性能が向上するなどがメリットはあったが、革新的というよりは進化した製品というべきものだった。だが、今回のNapaプラットフォームこと、Centrino Duoは性能が大幅に向上しながら消費電力を下げると言うことを実現している。そうした意味で革新的な製品なのだ。だから新しいブランド名を導入した」と、変化の大きさを強調する。 イーデン氏がCentrino Duoを革新的というのもうなずける。Intelは、Centrino Duoの発表に合わせて各種のベンチマーク結果を公表したが、その結果は十分驚くに値するものだ。そのベンチマークデータを見ると、Pentium M 730(1.6GHz)をベースにしたCentrinoプラットフォームと、Core Duo T2600(2.13GHz)をベースにしたCentrino DuoプラットフォームではSYSmark 2004 SEで実に66%もの性能向上が図られているという。SYSmark 2004 SEというベンチマークは、プロセッサの違いで大きな差はでにくいので、これだけの性能向上は十分驚くに値するだろう。 「弊社は2003年に最初のCentrinoを導入した。それから3年が経ち、多くの企業やユーザーはノートPCをリプレースする時期に来ている。弊社としてはデュアルコアCPUを、メインストリーム向けの製品では上から下まで導入し、今年の終わりには70%をデュアルコアCPUにしたいと考えている」と、Intelとしては一挙にデュアルコアの普及を計りたいと考えているという。 実際、「すでに弊社ブースには多数のCentrino Duoマシンを展示しているし、今後日本でもNEC、富士通、ソニー、東芝といったOEMベンダから魅力的なマシンが登場するだろう」と語るとおり、Centrino Duoへの移行は急速に進みそうだ ●消費電力が下がったICH7M
だが、Centrino Duoの魅力は、高い処理能力だけではなく、プラットフォーム全体としての平均消費電力が下がっていることだ。 Intelに近い筋の情報によれば、従来のCentrinoプラットフォーム(Sonoma)の合計4.2W前後に比べて、Centrino Duoは2.8W前後と1.4W近くも平均消費電力が下がっているという。この平均消費電力は、システムが動作中に平均的に消費している電力のことを意味しており、この平均消費電力が下がれば下がるほどバッテリ駆動時間は長くなる。 Centrino Duoで平均消費電力が下がっている最大の理由はチップセットにある。CPUに関してはほとんど変わっていないのに対して、チップセット、特にサウスブリッジは大きな低減を実現している。 「Centrino Duoのチップセットに関しては大幅な平均消費電力の低減を実現している。ICH7MはICH6Mに比べてコア電圧が低く設定されている。また、必要のない部分へのクロック供給を停止するクロックゲーティングやI/Oバッファの必要ない時に動作を停止するI/Oバッファゲーティングなどの新しいテクニックも採用している。ノースブリッジに関しても、PLL周りの見直しなど特にアナログ回路を見直すことで、大幅な消費電力の低減を実現している」と、チップセットに関しても多くの省電力技術が盛り込まれていることを強調した。 イーデン氏は「マイクロプロセッサに関しても、実質的にはより省電力になったと考えている。Core Duoはデュアルコアであるのに、シングルコアのPentium Mとほぼ同じ平均消費電力を実現している。つまり、性能あたりの消費電力が大幅に改善されているということだ」と、CPUに関しても省電力であることを強調した。 ●シングルコアはデュアルコアの派生品 Coreプロセッサには、デュアルコアのCore Duoと、シングルコアのCore Soloという2つの製品が用意されている。デュアルコアでこれだけ低消費電力なのだから、シングルコアに関してはより低消費電力を期待したいところだが、実際のところデュアルコアとシングルコアの平均消費電力にほとんど違いはない。「デュアルコアとシングルコアは同じダイから作られている」(イーデン氏)ことがその1つの理由となっている。 一般的に、CPUのような半導体は、シリコンウェハと呼ばれる丸い板で製造され、ダイヤモンドカッターなどでそれを四角いダイ(CPUパッケージの中にあるチップそのもののこと)に切り分けられる。ダイの種類が増えると、多くの種類のウェハを作られないといけないため、製造効率が悪くなり、結果的にコスト増になってしまうことがある。 そこで、半導体業界では、同じウェハから1つのダイを作り、機能の一部を無効にするなどの手段で、複数の製品にする手法が一般的になっている。Pentium 4とCeleron Dが同じダイから製造されているのもその一例で、L2キャッシュ容量の一部をパッケージに封じ込める段階で無効にすることで、Pentium 4をCeleronに化けさせるわけだ。 Core Soloも同じ手法で製造されている。つまり、パッケージに封じ込める段階などで、2つあるコアのうち1つを使えなくすることで、シングルコアCPUとしているのだ。しかし、トランジスタとしては存在しているので、結果的に消費電力としてはシングルコアとあまり変わらないということになる。 そうした意味では、より低消費電力のCPUを作りたいのであれば、最初からシングルコアとなっているダイを設計し製造すれば、より低消費電力なCPUが作れる可能性がある。 現時点でIntelは発表していないが、OEMベンダ筋の情報によれば、第2四半期にもCore Soloの超低電圧版(ULV)を投入する計画であるという。そこで利用されるのも、デュアルコアの半分を無効にしたシングルコアになる。 だが、イーデン氏は「将来的にはULVよりもさらに低消費電力で、低リーケージなCPUを投入したいと考えている。その時には、異なるダイを作り特別版として投入する可能性はある」と述べ、将来的に日本市場をターゲットにしたような、より低消費電力なシングルコアの投入があり得ることを明らかにした。 ●超低電圧版は5Wのシングルコアと10Wのデュアルコア 日本のユーザーとして10型や12型といった小型液晶ディスプレイを採用し、かつ超小型という、日本独自のウルトラポータブルノートPCにおける、デュアルコアCPUの可能性はやはり気になるところだろう。OEMベンダ筋の情報に寄れば、Intelは今年の後半に熱設計消費電力が9Wの超低電圧版Core Duoを投入すると通知してきているという。 これについてイーデン氏は、Intelが超低電圧版のデュアルコアを検討していることを認めた上で、「現時点ではデュアルコアを5.5Wにするのは技術的な限界がある。Intelは超低電圧版に関しては5.5Wのシングルコアと10Wレンジのデュアルコアの2つのラインで製品を投入する予定だ」と説明した。 ちなみに、今年後半に投入されるCore Duoの超低電圧版の熱設計消費電力は9Wだが、イーデン氏が10Wと説明したことには理由がある。IntelはCentrino Duoの次世代製品として、2007年に投入を計画している開発コードネーム「Santa Rosa(サンタロサ)」で知られる製品で、10Wの超低電圧版デュアルコアCPUを投入する計画があるのだ。これを含めて、イーデン氏は10Wという数字を使ってたと思われる。
□関連記事 (2006年1月8日) [Reported by 笠原一輝]
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