今回のゲイツ会長の講演のメインテーマは「Windows Vista」だった。終盤のXbox 360を除けば、講演のほとんどの時間が費されていたことからも明らかだろう。 新しいユーザーインターフェイスなどにも触れられたが、中心はWindows Vistaに搭載される新しい「Media Center」の機能説明だった。なお、今回のデモに使われたのは、12月末に開発者向けに配布されたWindows Vista December Community Technology Preview(ビルド番号5270)である。
講演全体の概要はレポートに譲り、ここではMedia Centerとその関連製品について見ていこう。 ●Intelとのパートナーシップを強調 ゲイツ氏は今年のMedia Center Edition(MCE)の可能性について触れ、「今年はMCEにとって飛躍の年になるだろう。昨年の今頃は150万コピーの出荷ライセンス数だったものが、現時点では650万ライセンスへと増えている。今年はさらに大きく上回っていくだろう」述べ、MCEの普及が加速していくという見通しを明らかにした。 米国では、ほとんどのPCベンダがMCEへの対応を済ませており、日本とは全く状況が異なっている。CESを前にしたプレス向けのイベントでも、PCでのマルチメディア周りのデモにはほぼ例外なくMCEが利用されていた。 その理由の1つとしてゲイツ氏は、“Intel Viiv Technology(以下Viiv)”を挙げた。ゲイツ氏は「いやー、なかなかヴァイブとは発音できなくて、Intelの人がいるところでもファイブ(five)とかライブ(Live)とかいっちゃうんだけどね」とジョークを交えながらも、ViivがMCEを採用していることを強調し、MCEの成功にはViivが欠かせないものであると述べた。 ゲイツ氏がIntelに対してこうしたリップサービスを行なうのは、ある意味自然な成り行きだろう。Viivではコンテンツ配信のプラットフォームとしてMCEのAPIを利用しており、MCEの採用は必須条件となっている。もともとのViiv(当時はEast Forkの開発コードネームだった)の計画では、MCEは“奨励”であり、OSはWindows XPでありさえすればよかったのだ。MCEを必須条件に引き上げることに成功したことはMicrosoftにとって、大きな得点だったといえる。
●日本でもMCEへの移行がゆっくりと進む 日本でもWindows Vistaを見据えてMCEへの移行を始めたベンダはいる。 例えば、NECは昨年末に発表した春モデルの液晶一体型PC「VALUESTAR W」で、同社の10フィートUIであるMediaGarageをTV録画やビデオの再生などに利用しながら、コンテンツ配信のプラットフォームとしてMCEを採用している。要するに独自のUIとMedia Centerのハイブリッド構成になっているのだ。 これは明らかに、ViivとVistaを見据えた動きということができる。現在MCEを採用していないベンダも、Windows Vista世代では独自の10フィートUIからMedia Centerへの移行を検討しているところがほとんどだ。 Media Centerが日本のデジタル放送に対応するのは2007年になる見通しだが、その前にMedia Centerに移行できるように、デジタル放送だけ別アプリケーションにするなどの方法も検討されているようで、早ければVistaのリリース時期には「Media Center問題」は徐々に解消されていくと多くの業界関係者は考えている。 ただ、それはMedia Centerの評価が高いわけではなく、「Viivに対応するために仕方なく」というやや後ろ向きな理由からだ。本当のところは、2007年に投入されるカスタマイズ可能なバージョンを待ちたいというのがベンダ側の本音だ。 ●東芝も陣営に加わったPortable Media Center
今回の基調講演において、よい意味で期待を裏切られたのは、Portable Media Center(PMC)に対応した新しいポータブルプレーヤーの中に、東芝のGigabeatが含まれていたことだ。 Microsoftのベルフィオール副社長により紹介されたGigabeatは、S30とS60という2つのモデルがあり、それぞれ30GBと60GBのHDDを搭載している。価格は299ドルと399ドルで3月に米国で発売される予定だ。 ユニークなのは、これまでのPMCがいずれも液晶を横に利用していたのに対して、Gigabeatは縦に利用しており、見た目は従来のGigabeatに非常に似ていることだ。 このGigabeatに採用されているPMCは新しいバージョンで、「PMC v2.0」と呼ばれることが多い。PMC v2の特徴は、OEMの自由度が若干向上したことだ、UIを液晶の縦方向に表示できるようになったこともその1つだし、OEM側で自由にコーデックを追加することができるという。 なお、Microsoftの担当者によれば、PMC v2には標準でDivXコーデックも導入済みという。再生できる動画ファイルの形式が増えたことは歓迎できるだろう。なお、まだ最終決定ではないというが、WMVだと1.2Mbpsまでは再生できるようになっているようだ。このあたりは、ベンダ側の意向もあるので、実際に製品がでるまで待つ必要があるだろう。 また、PMC v2をXbox 360にUSB接続すると、Xbox 360でPMCデバイスの中にある音楽を再生できるという。Xbox 360とiPodで実現されている機能が、PMCでも実現されたわけだ。
東芝以外にも、LG電子やTatungなどがPMC v2を搭載したポータブルプレーヤーを発表している。いずれも今年後半の登場予定で、価格は未定。 特にLG電子のPM70は、16:9の液晶を備えており、Outlookなどと同期が可能なPIM機能も搭載されている。PIM機能もPMC v2の特徴の1つだが、ベンダの選択範囲であり、Gigabeatには搭載されていない。 正直言って、PMCの現状はビジネス的には成功したとは言い難い状況だ。日本は言うまでもなく、米国でもiPodの影に隠れてしまっている。ここで、新たに東芝というパートナーを得たのは、Microsoftにとって大きな進歩と言えるだろう。それが打倒iPodにまでつながるかと言えば、かなり難しいと思うが、新しい動きとして注目したいところだ。
●日本市場へ対応を加速して欲しいMCE 今回のゲイツ氏の講演では、MicrosoftがMCEの普及に自信を持ってきたことが感じられた。 MCEは、米国ではよい方向に転がり始めている。MCEの出荷数が増える、それにつれてメディアオンラインにサービスを提供するコンテンツプロバイダが増え、それがOSの売り上げを呼ぶという循環が起き始めている。そこに、Viivという力も加わるわけで、普及が加速されることになるだろう。 しかし、米国に次ぐ規模を持つ日本市場では、状況は異なっている。MCEの採用がViivの足かせになってしまっていることは、この連載で何度か指摘したとおりだ。 最終的な解決策になると思われるカスタマイズ可能なMedia Centerに関しては、Windows Vistaにも間に合わない可能性が高い。米国での普及にある程度のめどがついた今こそ、Microsoftが日本の状況に合わせたMedia Centerの開発に力を入れることを願いたい。
□Microsoftのホームページ(英文) (2006年1月6日) [Reported by 笠原一輝]
【PC Watchホームページ】
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