笠原一輝のユビキタス情報局

HD DVD-ROMとHDMIという2つの初に挑戦したQosmio



東芝のHD DVD-ROM搭載Qosmioのプロトタイプ。発表時期、価格などは今四半期中に発表される予定

 東芝が、HD DVD-ROMドライブを搭載したノートPCのQosmioのプロトタイプを公開したのは、会場レポートで伝えられたとおりだ。

 実は、このQosmioは、HD DVD-ROM搭載以外にも、ノートPCとしてはおそらく世界初のHDMI出力を採用するなど、いくつもの技術的なチャレンジが行なわれている。

 今回、東芝の青梅事業所でQosmioの開発に取り組んだエンジニアにお話を聞くことができたので、HD DVD-ROM搭載Qosmioについて詳しくお伝えする。

●3月のHD DVDプレーヤーにあまり遅れることなく出荷可能

 東芝の青梅事業所で、ノートPCの設計を担当している東芝 PC開発センターPC設計第一部 第二担当 主務の古田眞一氏は「すでにノートPCへのHD DVD-ROMの技術的な実装は済んでいる。これまではAACSの仕様が決定するのを待っていたが、東芝としてはそれもすでに解決済みだという認識を持っている。家電のHD DVDプレーヤーを米国では3月に投入することを明らかにしているが、PCの方もそれにあまり遅れることなく出荷することが可能だ」と述べた。

 しかし、HD DVD搭載ノートPCがプレーヤーと同じ、3月というタイミングで商品化されるかわけではない。PCと家電では商戦期が異なっているうえ、特に今年は“Windows Vista”という要因もある。

 MicrosoftはOEMベンダに対して4月から「Vista Ready PC Program」と呼ばれるVistaへの乗り換えキャンペーンを提供する予定だ。このため、各社の夏モデルは4月あたりをターゲットに設定されており、3月に新しい製品を発売することがよいかどうかは、マーケティングサイドの判断となるので微妙な情勢だ。なお、東芝は出荷時期に関して具体的な発表はしていないが、2006年の第1四半期に発売時期や価格を発表するとだけアナウンスされている。

 ただし、International CESに展示されていたHD DVD-ROMを搭載したQosmioは、いつでも出荷できそうな完成度だった。筆者が数えてみたところ、東芝ブースだけでもHD DVD-ROMを搭載したQosmioは4台あった、さらにHD DVD Promotion GroupやNVIDIAブースにも置かれており、順調に開発が進んでいる様子が伺える。

ドライブはTSSTのTS-LB02AというHD DVD-ROMドライブを採用している。HD DVD-ROMの読み取りは等速(DVD3倍速相当)であるという CPUはIntel Core Duo T2500(2GHz)が採用されている
本体の左側面にはUSB×2、カードスロット、SD/メモリスティック/XDのカードスロット、オーディオ入出力が用意されている 本体の右側面。マウスやモデムなどが用意されている パッドにはメールやプリントなどの絵が描かれている。パッドをさわるだけで、これらの機能を実行できるようだ

●AACSの規定により外部ディスプレイへの出力にはHDMIが必須に

 ノートPCにHD DVD-ROMを搭載するのが世界初なら(今のところHD DVD-ROMを搭載したデスクトップPCも市場にはないのだが)、実はもう1つノートPCとしては世界初の技術がQosmioには搭載されている。それがHDMI(High-Definition Mulitimedia Interface)だ。

 ノートPCにHDMIが必要となったのは、HD DVDビデオを再生可能にするためには避けて通れなかったからだ。

 「現時点でのAACSの取り決めでは、HDビデオはアナログ系の出力には出力することができない。コンテンツ保護のスキームが実装されているデジタル出力にのみ出力することができる。このため、HDMIをつける以外に選択肢がなかった」(古田氏)のだ。

 HD DVDやBlu-rayで採用されているコンテンツ保護技術のAACS(Advanced Access Content System)の仕様では、最終的にアナログ系の出力は一切許可されないことになったという。これにより、ミニD-Sub15ピン、D端子やコンポーネント端子、Sビデオやコンポジットといったこれまで一般的にテレビやディスプレイとの出力に利用されているアナログ出力は一切利用できないことになってしまった。これは、家電、PCを問わず適用されることになる。

 となると、選択肢は2つしかない。1つはHDCP(High-bandwidth Digital Content Protection)というコンテンツ保護技術に対応したDVI端子で、もう1つが同じくHDCPに対応しているHDMIだ。前者の場合、問題となるのは対応しているディスプレイが少ないということだ。後者の方は最近のHDTVには標準で用意されていることが多く、対応することは容易になる。このため、東芝はQosmioにHDMI端子を実装することを決断したという。

 それでも世の中のTVはHDMI端子が無いものの方が大多数だ。Qosmioのようにもともと液晶がついている製品はよいが、プレーヤーのようにTVにつなぐことが前提である場合には、問題となる可能性がある。「メーカーとしては、そのあたりを消費者に周知徹底していかなければならないだろう」(古田氏)といる。メーカー側も消費者にその制限を周知していくことになるが、ある程度の混乱は避けられないだろう。

東芝のQosmio試作品の背面パネル。アナログRGB、Sビデオ、HDMIの各出力が用意されているが、HD DVDビデオの出力ができるのはHDMIのみ HDMIを利用して外部ディスプレイに出力している様子

●GPU+外部チップの組み合わせによりHDCPの機能を実現

 実際のHDMI端子の実装方法だが、今回東芝はGPUにNVIDIAのGeForce Go 7600を採用している。このため、HDMIの実装を行なう上でNVIDIAと協力して実装したという。

 すでにGPUベンダは、最新世代のGPUにHDCPの仕組みを導入しており、PCにHDCPを実装することは可能になっている。実際、日本ではデジタル放送をDVIなどデジタル出力に出力する際にはHDCPの導入が必須となっており、ソニーのVAIO type X Livingや日立のPrius PシリーズなどでHDCPによるDVI出力が実装されている。

 ただし、HDCPの機能を有効にするには、Digital Content Protection,LLCから必要なキーを入手し、それをチップに封じ込める必要がある。現時点で、GPUベンダはそうしたキーが入ったGPUを提供していない。実際には、SiliconImageなどが提供しているキーを封じ込めた外部チップが必要となる。古田氏によれば今回のQosmioにもSiliconImageのチップが利用されているという。

●自社製の再生ソフトウェアでコンテンツ保護や機能には万全を尽くす

 PCにおいてHDMIをサポートする場合には、ソフトウェア側の対応も必要になる。1つには音声とビデオの同期をとることで、もう1つがデコーダアプリケーションからGPUまでの間をセキュアにすることだ。

 HDMIではビデオと音声を同じケーブルに乗せて送信する仕組みになっている。ところが、PCの場合、ビデオと音声はそれぞれ別のチップで処理されるので、最終的にHDMIに出力する前にそれらの同期をとる必要がある。これに関しては、現状ではアプリケーション側で対処する必要がある。

 日本でのARIB仕様のデジタル放送でもそうであったように、HDMIによりコンテンツ保護を実現するには、デコーダソフトウェアからGPUまでも、ユーザーがコンテンツにアクセス出来ないようにする必要がある。現在のWindows XPでは、COPP(Certified Output Protection Protocol、別記事参照)という仕組みが用意されており、GPUとデコーダソフトウェアがそれぞれ相互に認証することで、セキュアにコンテンツをGPUに送り込むことができるが、アプリケーションがCOPPに対応している必要がある。

再生ソフトウェアは東芝製。コンテンツ保護などにも細心の注意が払われている

 今回、東芝はHD DVDビデオのプレーヤーソフトウェアを自社で開発した。「HD DVD Promotion Groupとして、タイムツーマーケットで製品を出したいと考えていた。このため、今回はあえてサードパーティの再生ソフトウェアでなく、自前で開発した。すでに家電プレーヤーと同じ機能を実装しているほか、AACSの仕様などをすべて満たしている」(古田氏)という。

 HDMIのビデオと音声同期や、COPPなどに対応するためにも、自社での開発に踏み切ったのだ。ソフトウェアとGPU間のコンテンツ保護に関しては「COPPを採用しているのは事実だが、実際にはそれ以上の独自のコンテンツ保護を行なっている」とのことで詳細は明らかにされなかったものの、コンテンツの保護に細心の注意を払っていることを強調した。

 なお、東芝は今回のQosmioに、デジタル音声出力を用意している。このデジタル出力は、ドルビーがPC向けに展開している、ドルビーホームシアターに対応しており、2チャネルやマルチ音声をAC3の5.1チャネルにリアルタイムエンコードが可能なドルビーデジタルライブなどにも対応している。実際、International CESの会場では、Qosmioを利用してドルビーデジタル5.1チャネルで音声を再生するデモが行なわれていた。

●Managed Copyの実装が課題だが、ソフトウェアのバージョンアップで将来対応は可能

 以上のように、すでに高い完成度を誇るQosmioだが、今後に積み残した課題もある。第一に、現在のプレーヤーソフトウェアはManaged Copyの機能が実装されていない。Managed Copyは、著作権保護された状態で、コンテンツをHD DVDからHDDにコピーする機能で、Microsoftやインテルなどが実装を求めてきた機能だ。

 古田氏によれば「第1世代ではまずは再生機能の作り込みに焦点を当てた。もちろんPCアプリケーションである以上、将来的な機能拡張は可能で、Managed Copyに関してもその一環として考えていきたい」と述べ、将来的な拡張に含みを持たせている。今後の進展に期待したい。

□東芝のホームページ
http://www.toshiba.co.jp/
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(2006年1月9日)

[Reported by 笠原一輝]


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