●Microsoftが積極的に次世代機を公開へ
次世代ゲーム機ウィークが始まる。来週、ロサンゼルスで開催されるE3(Electronic Entertainment Expo)で、ゲーム機ベンダー3社が次世代機について何らかの発表をすると目されているからだ。もっとも、3社がきっちり揃えて、同じレベルの情報を公開するとは限らない。むしろ、3社の違いが出ることが予想されている。 Microsoftは、E3発表の前段階として、13日にMTVチャンネル(日本時間11時30分)で次世代Xbox(Xenon)のプレビューを公開することを、公式に明らかにしている。Microsoftは、明日のプレビュー、続く来週のE3の2段階で、Xenonとそのタイトルについて明らかにする見込みだ。明らかに、今回はMicrosoftが最も積極的だが、その最大の理由は、製品スケジュールにある。Microsoftは、すでに1年も前から開発キットをデベロッパに提供し、助走段階に入っている。MicrosoftとNDA(機密保持契約)を結んでいる業界関係者も多く、そのために、Xenonについては知られているけど情報が公式には出て来にくい状態になっているようだ。 対するソニー・コンピューターエンタテインメント(SCE)は、当初の予定より若干後退している。昨年9月に明かされたスケジュールでは、次世代PlayStation(PS3? )は今年3月末頃までにプレミアイベントを行ない、続けてPS3向け開発TOOL Version 1がデベロッパに提供され、E3で一般へのお披露目を行なうことになっていた。しかし、SCEはプレミアイベントを遅らせており、当初の見込みより後ろへずれた展開となりつつあるように見える。
任天堂は3月のGDC(Game Developers Conference)で、次世代機「Revolution」についての基本的なコンセプトを紹介した。任天堂がGDCでRevolutionについて語ったのは、意外だと語っているGDC参加者も多かった。任天堂が積極的に情報を明かして行く方向に転じた可能性もある。 ●ハードウェアの違い 今回の次世代据え置き型ゲーム機(ゲームコンソール)競争のポイントの1つは、各社が何を重要要素として打ち出してくるのか。3月のGDC(Game Developers Conference)では、それぞれが開発者向けのメッセージを出した。今回のE3では、今度はコンシューマと業界全体に向けたメッセージを出すことになる。 もちろん、ハードウェア自体は大きなポイントで、少なくともSCEとMicrosoftは、それぞれのハードの優位性を謳うだろう。 SCEのポイントのひとつは、CPUである「Cellプロセッサ」の高パフォーマンスだ。 Cellは合計で9個のCPUコア、対するXenonのCPUは3個のCPUコア。おそらく、SIMD演算性能なら、理論値のピークパフォーマンスでは、同クロックであってもCellが3倍になる。しかも、Cellは高クロック化のために回路設計技術も含めてさまざまなカスタムチューニングがなされている。同じIBM設計だからXenonのCPUも潜在的にはCellと同等クラスの動作周波数を達成できる可能性はあるが、現実的にはかなり難しい。Cell並のプロセッサの開発には、膨大な開発費がかかるからだ。また、チップの発熱の問題も、CPUの周波数向上の障壁になるはずだ(この点はCellも同様だが)。つまり、XenonはPS3に対して、コンピューティングパワーについては、演算の並列性でも周波数でも低くなる可能性がある。 しかし、XenonのCPUは、同じPowerアーキテクチャのシンメトリックなコアを3個載せている。そのため、命令セットアーキテクチャ(ISA)が異なるCPUコアが混在するCellと比べると、ソフトウェア開発者にとって馴染みやすい。Microsoftは、必然的に、デベロッパが利用しやすいリアルパフォーマンスという定義で打ち出すことになるだろう。 ちなみに、ゲーム機ハードウェアのスペックは、以前より予測が難しくなっている。前世代までは、ハード屋のセオリー通りにスペックが決まっていた。例えば、メモリ容量は、メモリ帯域のために必要な粒度に決まっていた。だから、次世代ゲーム機に必要な帯域がDRAMチップ4個分のインターフェイス幅と決まれば、メモリ容量も256MB(512Mbit DRAMチップの場合)になるセオリーだった。ところが、次世代機では、セオリーより多くメモリを積むなど、ハードウェアスペックからの予想通りには行かなくなっている。 こうした変化は、ゲームコンソールが進化して、よりプログラミングしやすい環境を指向し始めたこととリンクしている。ゲームコンソールが、よりコンピュータらしくなりつつあると言ってもいいだろう。 ●従来とは変わる? 次世代機のアプローチ 期待される3社のハードウェアスペック。しかしながら、今回の次世代ゲーム機で重要な要素は、ハードとそのパフォーマンスではないかもしれない。ある業界関係者は、「何を魅力として打ち出したらユーザーが飛びついてくれるのか、そこにも大きな課題がある」と指摘する。単純にゲーム機としてのパフォーマンスや機能だけでは、幅広いユーザーを惹きつけることができないのではと、クエスチョンをつけているわけだ。 ゲームコンソールの場合、PCと異なり初速が重要だ。出荷して一気に売れてプラットフォームが広がらないと、ゲームデベロッパが開発ラインをより多く割いてくれないからだ。「ゲームコンソールが売れる→ゲームデベロッパがタイトルを開発する→ユーザーがますますゲームコンソールを買うようになる」というポジティブスパイラルを産み出すためには、最初にユーザーが飛びついてくれないとならない。これに失敗すると、エコシステムが成立せず、そのプラットフォームは尻つぼみになってしまう。 ユーザーを熱狂させるためには、新ゲームコンソールがそれだけ魅力だと思わせなければならない。問題はここにある。現行世代がデビューした時は、タイトルの見た目の違いも大きく、新世代機の革新性がわかりやすかった。初代PlayStationとPlayStation 2(PS2)の違いなら、ローンチタイトルだけを見ても、すぐに理解できた。そのため、アーリーアダプターに続いて多くのユーザーが飛びついた。 しかし、今回は、前回ほどギャップがわかり易くはないかもしれないと不安がる業界関係者が少なからずいる。開発者にとっては違いが大きくても、一般ユーザーにはそれほど差が大きく見えないことを心配しているわけだ。もちろん、今週から来週にかけてのぶち上げがうまく行って、一気に次世代タイトルへの期待が高まり、ゲームコンソールへの待望が盛り上がる可能性がある。だが、前回ほど皆が確信を持てているわけでないのも、事実だろう。 そのためか、今回、コンソールベンダーは、純粋にゲームコンソールとして押すよりも、プラスアルファの部分を押す傾向が、より強まっているように見える。つまり、次世代機を「○○ができるゲームコンソール」として、前世代との違いを少しでも明らかにしようと試みる可能性が高い。SCEはPS2の時からその傾向が濃かったが、おそらく、今回は、Microsoftも、より付加価値の部分を打ち出して来ると予想される。 これは、MicrosoftがXboxをある程度軌道に乗せることに成功し(日本は違うが)、ゲーム市場での立場を強めたことも関連している。ゲームデベロッパがついてくるという見込みが立ったから、そうした展開も容易になったことも一因だ。SCEも初代ではゲーム機に徹して成功させてから、2世代目でプラスアルファの部分を強調し始めた。Microsoftも同じパターンだ。だが、今回は、従来以上に、この“プラスアルファ”の張り出し部分の重要度が大きいように見える。 しかし、ゲームコンソールの場合は、プラスアルファの付加価値に制約が多い。例えば、HDDを載せてビデオレコーダ機能も統合したPSX型のマシンは、少なくともラインナップのメインに持ってくることは難しい。それは、ゲームとビデオが、ユーザーの時間を食い合ってしまうからだ。 ゲームタイトルとぶつからない範囲で、ユーザーに魅力を感じさせる要素は何か、しばらくは模索が続くだろう。 □関連記事 (2005年5月12日) [Reported by 後藤 弘茂(Hiroshige Goto)]
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